「ダメだ」
頭を下げて懇願する俺に相島先生はピシャリと言い放つ。場所は病院、午後から前に話していた柔道協会の会合に発つまえに病室に来てもらったのだ。
「急に話があると呼ばれて来てみれば……全国大会に予定通り出させてくれだなんて……」
困ったように頭を掻く相島先生に申し訳ないと思いつつも俺は主張を変えずに言い放つ。
「お願いします先生、全国大会に出させてください」
「………それが無茶な事は慎司、お前が1番理解してるだろ?お前は聡い子だ、自分の体の状態だって分かってるはずだ」
ぐうの音も出ない正論に言い負かされてしまうがここで引くわけにはいかない。全国大会に出場するには所属する柔道クラブや道場の先生の許可ご必要なのだ。先生の意見を無視して大会には出れない、ここで先生を説得しなければこの後の会合で正式に俺の欠場が受理されてしまう。
「………お願いします、無茶を言ってるのは承知の上です。けど、俺は今その無茶を通さなきゃ行けないんです」
「一度はお前も今回の欠場に納得してたじゃないか、何故今になって?」
相島先生にお願いする以上、ちゃんと俺の思惑も話さなくては筋違いだ。魔法の事は伏せつつも俺は俺の想いを吐き出す。
「なのはちゃん………高町なのはの事は先生もご存知ですよね?」
「ん?ああ……一生懸命お前の事をいつも応援していたし練習も見学しに来たことがあるからな、ちゃんと覚えてるが」
「その子が……今大怪我を負って入院しています」
「そう……なのか。それは、大変だな」
急な告白に相島先生は戸惑う。仕方ない、相島先生はなのはちゃんと接点は殆どないからな、急にそんな事を聞かされても反応に困るだろう。
「まさかお前、その子を元気付けるために出場する……そう思ってるのか?」
「そうですが少しだけ違います」
そうだ、大会に出て優勝できれば多少なりとも元気付けれるかもしれない。しかしそうじゃない、ただ大会に出て優勝して元気付けれるなら完治した後の小さな大会だって構わないんだ。だけど、この全国大会で……怪我の完治が間に合わないし、優勝どころか出場すら出来ないと思われてるこの状況なのに意味があるんだ。
「彼女は今、今後歩けるかどうかも分からない……リハビリ次第でどうにかするしかないとそう宣告されています。辛い事に立ち向かって頑張らなきゃいけない時なんです。けど、なのはちゃんは今訳あって頑張る事を恐れています。……絶望しているんです、努力っていう行為に」
目を閉じて相島先生は真剣に聞いてくれている。だから俺も真っ直ぐに正面から伝える。
「なのはちゃんは頑張り屋の女の子です。そんな女の子が努力を恐れて何もしないで最悪な結末をもたらせるなんてそんな事させたくないんです。取り戻させてあげたいんです……彼女の頑張り屋の心を……そして教えてあげたいんです、努力は頑張りは………時に不可能と思われるもの成し遂げるって」
それで結果的になのはちゃんの背中を押せればそれでいい。そう思っていると告げる。相島先生はしばらく考え込んでから口を開く。
「それで、怪我をして出場すら危ぶまれてる状況でお前は優勝を目指すと?」
「その通りです」
「………一つ聞くが、その頑張りは高町さんに本当にさせるべきだと思うのか?」
「え?」
「努力を怖がってるという事はそれで何かあったという事だろう?事情は知らないから何とも言えないが恐らく怪我の原因でもあるのだろうな。そんな経緯があった彼女に慎司、お前は努力を強いるのか?頑張らないで辛い想いをしないようにする事は心を守ってる事であるんだ、もし頑張ってもまた最悪な結果を生めば彼女の心はどうなる?お前はそれを理解しているのか?」
相島先生の思慮深く聞こえる言葉を受け止める。しかし、俺は返答に詰まる事なく口を開く。
「理解しています、しかしそれでも俺はなのはちゃんは頑張るべきだと思っています」
「それは何故?」
「このまま目を背けても彼女は絶対に後悔すると、そう断言できるからです」
相島先生はなのはちゃんの事情を知らない、だから自分なりに考えてくれてああ言ってくれたのだろう。俺の為ではなくなのはちゃんの為に。しかし俺は知ってる、彼女はまだ跳びたいと願っている事を、そして自分が指し示した道を諦める事の絶望をよく知っている。
例え苦しくても、向き合わなければならない。例え望んだ結果を得られないかもしれなくても頑張らなければならない。人生ってのはそんな頑張りを続けても幸せになれるかどうかは分からない。
だが、頑張らなければ幸福な人生は歩めない。
互いに睨むように見合う。しかし相島先生はふうっと息を吐いてからもう一度俺を見つめ直して
「最後にこれだけは聞いておきたい、正直に答えろ」
生唾を飲み込みながら俺は頷く。
「………お前は決してヤケになってそう提案した訳じゃないんだな?自分の怪我に耐えられなくて言い出した事じゃないと、ちゃんと本当に真剣に試合に臨んで勝算があって言ってるんだな?」
その問いは、俺を試してるように聞こえた。この返答を間違えれば先生は認めてくれないと、そう感じるのだ。しかし、取り繕った答えなど意味はなく……結局の所本心を告げる事しか俺には出来ない。
「ヤケになったつもりはありません、大会までに出来る準備を最大限にして本気で優勝を目指すつもりです。ですが、勝算は正直薄いと自覚はしてます……」
柔道をやってるからこそ分かるし、どんなスポーツだって1ヶ月以上のブランクを背負って全国大会を勝ち進めるほど甘い世界じゃない。問われるのは自分の元々の地力と残り時間でどれだけ試合に繋げられる事が出来るかだ。
無茶なのは承知、完治も間に合わない以上不可能とも思えるのも承知、けど………俺はニヤリと不敵に笑ってみせる。
「けど………俺、負けるつもりはありません……勝ちますよ」
強がりでいい、今はそれでいい。最終的に口からの出まかせにならなければいい。
「……完治もしないで試合に出れば恐らく……いや、確実に怪我は再発する……下手をすればもっと深刻な怪我にもなりかねない。それでも覚悟の上なんだな?」
「はい、なのはちゃんの為にも……そして、自分の為にも出した俺の決意と覚悟です」
伝えたい事は伝えた。これ以上の問答は無駄か困ったようにため息を吐く相島先生。おもむろに立ち上がり俺に背中を向けて
「協会には予定通り参加の申請をしておく………言い出した以上手を抜く事は許さん………全力でやってみろ」
「あ、ありがとうございます!!」
頭を下げる。俺の礼の言葉に先生は雑に手を振って応えてから病室を後にした。恐らく最後まで反対だったのだろうが理解して折れてくれたのだろう。俺はもう一度相島先生が出て行った扉に向かって頭を下げる。……負けられない理由が、また一つ増えたのだった。
………………………。
これで大会には出られる、後は両親にも話を通さないとならない。2人に連絡して病室に来てもらって相島先生に話した事を同じように語った。2人は魔法の事もなのはちゃんの事情も知っているからより明瞭に。
なのはちゃんの心を、恐怖と絶望から救ってあげたいと。必死に頭を下げた。しかし2人はあっさりと俺にOKサインを出したのだった。そんなあっさりと……と思ったが2人は笑って言う。
「どうせ反対したって強引にお前は事を進めるだろ?」
「もう慣れたわ、好きにしなさい。けど……なるべく、自分の体はちゃんと労ってね」
約束は出来ないけど2人になるべく心配をかけないようにしたいと思った。この無茶をやり通そうとして時点で心配をかけているがそれでもだ。それなら……これからようやく行動に移せる。出来る事を全力で……そうだよな?葉月、優也……。
……………………………。
現状、俺がまずすべき事はなるべく大会までに怪我を回復させる事。完治は無理でも出来る限り自身のパフォーマンスを向上させる為にはやはり治せる分は治さないといけない。
基本中の基本だがまずは栄養バランスの取れた食事と睡眠。元々自堕落な生活をしてきた訳じゃないが更にそれを徹底する。特に骨を作る栄養素のカルシウム、タンパク質、コラーゲンを作るビタミンCの体に取り入れなければならない。入院して間は病院食と共にサプリメントの錠剤なんかで賄う。勿論そこも緻密に計算して取り入れる。
前世で柔道の為に素人ながら筋力向上や体づくりのために栄養の勉強もした。今それを生かす時だ。
一朝一夕ではなく毎日継続すれば怪我の治りも変わるはずだ。根性じゃ怪我は治らないからな。
しかしベッドでそのまま無為に過ごすのではダメだ、ただでさえマイナスのスタートで迎える全国大会で優勝出来るわけはない。親に頼んでまず用意して貰ったのはパソコン、これで大会出場者の全てのデータを頭に叩き込む。いわゆるビデオ研究だ。大会出場者は全員名のある選手達だ、ネットでいくらでも試合の映像は手に入る。
体を動かさない以上勝つためには何でもする。いつもなら強くなるのを優先で体を鍛えて試合前にしかビデオの研究は相手の技の確認くらいにしかしてなかったが今回は大会までの間は毎日ビデオ研究で相手を知り尽くす。パソコンの映像を何度も何度もチェック、一度で済まさず同じ映像を穴が開くほど見続ける。更に用意したノートに選手毎に分けてデータをまとめる。
事故からほぼ1週間、既に右肩のヒビはある程度動かす分には痛みをともわなくなり文字を書く分には問題ない。……そろそろ病院の先生と相談して肩のリハビリについて相談するか、なるべく早く筋力を取り戻せるように。
流石に一日中パソコンの前に張り付くのは集中力が持たない、集中が切れてる時に研究しても無駄だ。パソコンを閉じる。今度は簡易トレーニング器具をカバンから取り出す。これも両親に用意して貰った物だ。
現状、怪我に響かないトレーニングというのは存在しないが今はとにかく力が落ちるのが死活問題の為になるべく響かない部分のトレーニングに勤しむ。柔道で相手の襟や袖を掴み続ける為に必要な前腕と握力、これを右肩と左足響かせないように注意しながらハンドグリップでゆっくりとトレーニングを行う。
前腕がパンパンになっても続ける。握力を維持する為のトレーニングではなく更に向上させるつもりでやるのだ。完全に力が入らなくならまでこなしたら軽くマッサージをしつつプロテインで栄養補給。筋肉の超回復に骨を治す為の栄養を使われる訳には行かないのでトレーニングしたら必ず栄養補給だ。
トレーニングを兼ねた気晴らしも終えた所で再びパソコンを取り出して研究に勤しむ。消灯時間まで研究続けて、就寝に入る。ぐっすりと眠ったらまた今日の繰り返しだ。
翌日、寝ながら更に試合の為に準備できる事はないかと考えて一つ案を思いついたので実行に移す。朝早く母さんに連絡して目当てのものを持ってきて貰った。
持ってきた貰ったブツは低酸素マスク、その中でも1番キツイやつだ。これをつける………うわ、意識的に呼吸しても苦しく感じるな。今日からこれをずっとつけて昨日からのメニューや準備をこなす。
怪我でスポーツが出来ない間、ブランクが出来て困る事は多々ある、技術そのものも錆び尽くし何よりスタミナの低下も死活問題だ。低酸素マスクは本来筋トレの時につけて効能を上げる代物だが肺活量も鍛えれる効果がある。日常的につけた所でスタミナを高める効果はないがスタミナの低下を少しでも減らせる事が出来るかもしれないと思ったのだ。
これを眠る時、食事等以外の時は常につける。眠る時に外す理由は睡眠の質が下がってしまう為だ、怪我を少しでも治す為質の高い睡眠には安定した呼吸が必要だからだ。
常に考えて、考えて、考え続けてどうすれば効果的か、無駄がないか、効率的か計画を組み立てて実行していく。最初は低酸素マスクのせいで研究の集中にも支障が出たが半日もすれば多少は慣れていった。この調子で俺は大会までの準備に当たっていく。
準備を始めて数日、医師との相談の末昨日から肩のリハビリも始める。医師に嫌な顔をされるまで詳しくやり方や効果的な方法を聞き出して、治療に支障の出ないギリギリの範囲でメニューを組んでもらった。
低酸素マスクも忘れない、研究をして、可能な部位での筋トレをやり、肩が冷えてきた所で再びリハビリ。入院までの時間、ゆっくりしている時間を作る事を許さなかった。
長期的に見れば休みがないのは非効率的だがこんな特殊な状況で優勝を目指すのだ、そんな事は言ってられない。大会まであと1ヶ月と二週間を切った、休んでる時間なんてないんだ。こうしてる間にも、俺はどんどん弱くなってるのだから。
また今日も同じようにメニューをこなす。精神が摩耗しているのがよく分かる。柔道そのものをして準備ではなく、あくまで大会に勝つためだけの準備だ。ただでさえ体が動かせない中、不安が募る。本当にこれだけで大丈夫か?やはりこんな事では優勝どころか柔道をまともに出来るかすら怪しいんじゃないか?
しかし、俺は出来る事を淡々と真剣に取り組むしかない。俺は何の為にこんな事をしているのかを思い出す。そうだ、なのはちゃんに取り戻してもらうために、何より俺が自分の柔道を、誇りを取り戻す為でもある。俺が努力し、不可能を可能にして俺の前世の頑張りだって間違いじゃなかったと、回り道をしてしまったけど今こうやって柔道をし続けた事に後悔はなかったと思う為だ。
…………なのはちゃん、待ってろよ。当日は、度肝を抜かしてやる。
また何日か経った頃、フェイトちゃんが病院まで顔を出してくれた。今は邪魔されないように両親から俺の友人達に見舞いは控えてもらうよう連絡してもらった筈だが……。フェイトちゃんの表情はどこか真剣で俺は手を止めざるを得なかった。
「……何やってるの?」
「ここに来たって事は……俺の両親から事情を聞いたんだろう?」
「うん…」
頷くフェイトちゃんにやっぱりかと心の中でため息をつく。両親は責めれない、あの2人も俺の事を心配してる身だからな、とても隠し通してはいられなかったんだろう。負担をかけてるのは俺なんだ、文句なんか出よう筈はない。
「慎司、本気なの?そのまま試合に出るって……」
「本気じゃなきゃここまでやらないよ」
フェイトちゃんが俺の病室全体に視線を見やる。乱雑に置かれたノートの束、色々なサプリメントやプロテイン、簡易なトレーニング器具の数々など病室には似つかわしくないものばかりが溢れている。しまいには変なマスクをつけて一日中何かしてる俺だ、そんな顔にもなるか。
「慎司がなのはの為に決めた事なら応援したいよ?したいけど……それは自分の身を顧みなさすぎるよ……分かってるの?何か間違いでも起きたらまた慎司はっ」
「勘違いすんなよフェイトちゃん、確かになのはちゃんの為に始めた俺の独りよがりだ。けどな、これは俺の問題でもあるんだ……」
「慎司の……問題?」
「俺はよフェイトちゃん、もう後悔はしたくないんだよ」
ジュエルシード事件の折、フェイトちゃんを諭した時に俺は後悔しないように人生を歩みたいとそう告げた事があった。フェイトちゃんはそれを思い出し何も言えなくなるが、それでも言葉を紡ぐ。
「それでも……今は慎司はなのはの側に居るべきだよ。それがなのはにとっても慎司にとっても必要な事だよ」
確かに言い方は悪いが傷の舐め合いだって心を癒す事に必要な事だと俺は思う。けどそれじゃダメなんだ、それじゃなのはちゃんの本当の心も俺の誇りも取り戻せない。
「リスクなんか誰よりも理解してるし無事に済むとは思っちゃいない、とんだ無茶だって自分でも思う。でもその無茶を今通さなくちゃいけない時なんだよ」
無茶や無謀は本人に何も益をもたらさない唾棄すべき事だ。しかしそれでも意地を通さなくちゃいけない事が人生ではあるんだ。そして、俺にとってそれは今なのだ。
「ごめんよフェイトちゃん、けど俺はフェイトちゃんが何を言おうと意思を曲げるつもりはない………一緒にって約束破っちまってごめんな。俺の分までなのはちゃんの側に居てあげてくれ………あの子は今俺達が思ってる以上に追い詰められてるから」
「………………慎司が急に来なくなったらなのは寂しがるよ?どう説明する気なの?」
「電話で上手いこと俺が伝えておくよ。今はなのはちゃんのお見舞い行く時間すら惜しい、だけど連絡はちょこちょこ入れるようにするからさ」
冷徹に聞こえるようだが今はそうは言ってられない。限られた時間で俺は優勝する為の行動をし続けなければならない。正直言えばこうやってフェイトちゃんと問答してる時間でさえ惜しいのだ。
「………………分かった。慎司の事はなのはに私からも上手くフォローするから………だからっ」
言いかけてフェイトちゃんは俺を優しく抱きしめてくれる。フェイトちゃんからそんなスキンシップは珍しく少々驚いてしまうがフェイトちゃんは構わず震える声で告げる。
「………………ちゃんと、笑ってなのはの所に戻ってきてあげてね」
この言葉に、どれほどフェイトちゃんの想いが募っているだろう。怪我しないでねとは言えなかった、俺が大会に出る時点で怪我をする事はほぼ確定だ。そんな中で勝ち進なきゃいけないのだから。頑張れとも言えなかった、フェイトちゃんの本心は頑張ってほしくないから、その顔を見れば分かる。フェイトちゃんは俺の事だってずっと案じてくれてたのだから。
どれも言えなくて、必死に必死に何かを伝えたくて。口下手なフェイトちゃんはそれでもそう言ってくれる。せめて笑顔で大会を終えてほしいと、それで戻ってきて欲しいと。フェイトちゃんの優しさに心を癒される、早くも影が差し始めていた心が奮い立つ。………ごめんな、君にも心配をかける。いつもごめんな……いつも、ありがとうな。
「私は反対ですっ」
「まあまあシャマル、ここ病院やで?落ち着いてな?」
「落ち着いていられません!」
また数日ほど経つと、今度は八神家の皆んなが連れ立って姿を現す。恐らくフェイトちゃん辺りから聞いたのだろう。フェイトちゃん的には俺の友人として聞かせるべきだと判断したに違いない。
中でもシャマルは少し興奮気味だった。彼女は医療に心得がある、俺の容体を医学的に俺より理解してるし知識がある。
「慎司君のカルテ、ここのお医者さんにお願いして見させて貰いました……確かに左足の骨は綺麗に折れて幸い後遺症を残すこともないでしょう……けど貴方が完治もしないうちに試合に出れば今度こそ後遺症を残す怪我に繋がるかもしれないんですよ?歩けなくなる……なんて事はないですけど……動きが鈍くなったり動かしづらくなったり、なのはちゃんの為とはいえそんなリスクがあるのにどうして……」
「シャマル、フェイトちゃんから聞いてると思うけど何を言おうと俺は大会に出る、そんで優勝して全部取り戻す」
「慎司君が優勝したって……なのはちゃんの容体には直接影響しないですっ。それでもっ」
「それでも、やるんだよ。賛成して欲しいとも応援して欲しいとも思ってない、ごめん。心配してくれてるのは嬉しい、けど俺は今覚悟を決めて事に当たってる……その邪魔はしないでくれ……」
「優勝なんて……無理です。不可能ですよ……」
「それを実現させるのに意味があるんだ」
シャマルさんの立場から言えばそりゃ賛成なんて出来ない。俺も病院の先生には大会に出る事なんか勿論隠してる。絶対に反対されるからだ。
「シャマル、な?落ち着いて、な?」
はやてちゃんがシャマルを宥める。シャマルは軽く深呼吸をしてから落ち着くと、ゆっくりと口を開く。
「はやてちゃんは……慎司君が大会に出る事には賛成なんですか?」
「そんなん勿論反対や、絶対あかんって思ってる」
「それなら………」
何故止めないのかとシャマルはそこまでは口にしなかったが皆んな言いたい事は分かっていた。はやてちゃんは困った顔を浮かべつつも笑って答える。
「せやけどシャマルも分かるやろ?今の慎司君の顔、見覚えあるやんか」
「それは………」
「ウチらを必死になって助けてくれた時と同じ顔しとる……そんな慎司君を止められる訳ないって」
諦めたようにはやてちゃんはそう告げた。止めたいとは思っている、反対もしている。けど、自分たちがいくら何を言っても止める事は出来ないとはやてちゃんは理解している。
「……………」
「シャマルの意見には賛成しとるよ?けど、あんな顔して必死にやってる慎司君見せられたら……また奇跡を起こしてくれるって信じたくもなるんよ。なのはちゃんを勇気づけてあげられるって……」
はやてちゃんも分かっている。なのはちゃんは表面上元気にしているが内心は不安だらけで苦しんでる事を。そして、今の自分では真の意味で背中を押してあげる事が出来ないことも。唇を噛むシャマルを見ていられずシグナムも口を開く。
「シャマル……私も主人はやてと同じ意見だ。友人として心配なのに変わりない、慎司には安静にしていて欲しい……が、私達では止める事は出来ない。だからせめて、大事ないように見守っていたい。それがせめて私達に出来る事だと思う」
シグナムの言葉をシャマルは受け止めるように目をつぶって思案する。納得はしてない、医者としての目線で見たら何をどうしても止めなければと思っている事だろう。しかし、それをグッと飲み込んで
「……分かり…ました。もう、止めませんから……」
そう言ってシャマルはゆっくりと出て行ってしまう。俺は内心でごめんなさいと一度だけ謝ってから手が止まっていた研究に再び着手する。その様子を見てはやてちゃん達も病室からぞろぞろと退出し始める。
「…………ああは言ったけどやっぱりウチは心配してまうよ。だから……絶対に聞き入れてくれないと思うけど言わせてや、あんまり無茶せんといて……」
「ああ、皆んなもありがとうな………」
出て行く皆んなを見送る。リィンフォースは何か言いたげにしていたがやはり何も言わずに出て行く。
「ヴィータちゃん」
出て行く直前、病室に来てから一度も口を開かなかったヴィータちゃんの背中に声をかける。ヴィータちゃんは振り返らないで足を止めるだけだったがそれでも構わず俺は続けた。
「俺は前を向いて進むぞ、なのはちゃんもそうしたいと足掻いてると思う。だからヴィータちゃんも……いい加減一緒に前を向こうぜ」
そうだけ言って俺は作業に戻る。ヴィータちゃん表情は伺えなかったが握った拳に力が入っていたのはわかった。
自業自得とはいえ、心配してくれて人達を拒絶するような態度を取る事に胸は痛んだ。しかしそれを飲み込んで俺はやるべき事に没頭する。
退院の日が決まった、3日後だ。ちょうど大会まで1ヶ月とちょっととなる日。焦りは募る。相変わらずまだ両足で立つ事もままならない。現状本当にそんな状態で試合が出来るか不安になるが。
とにかく今は早く治す為にすべき事、大会までに勝つ為にできる事を全力で取り組むしかない。
その日、シャマルさんが1人で再び顔を出してきた。あんな態度を取ってしまって怒らせてしまったかと思っていたがそんな気配は無かった。
病室に入ってきて早々シャマルは俺に一冊のノートを渡してくる。
「これは……」
言いつつノートを開く。中身は綺麗に俺の怪我の具合についてと、その回復状況による適切なリハビリや筋肉の動かし方、回復状況の確認方法など病院の先生からは得られなかった情報やリハビリのやり方など事細やかに分かりやすく記されていた。驚いてシャマルの顔を覗くとその目の下には若干疲労の色が見えた。
「シャマル……どうして……」
感謝の言葉よりも先に疑問の声をあげてしまった事に咄嗟に恥じる。しかし、そうしてしまうほど驚いた。あんなにも俺の行動に反対の意を示していたのにこれでは俺に協力してくれたのと同じだ。
「私なりに考えたんです、どうすれば慎司君が怪我をしないようにさせられるか。本当は止めるのが1番なんですけど……それが出来ないならせめて少しでも怪我の治療のサポートを出来ればって思ったんです。といってもそこまで変化をもたらせられるから分かりませんけど…」
少し照れ臭そうに笑うシャマルに俺は頭を下げる。
「……ありがとう」
ノートの中身わ一目見ただけで分かる。書き直した後も何箇所もありシャマルが考えに考えを重ねて俺の怪我と体に合わせて作ってくれた物だとすぐに分かるほど分かりやすく作られている。何度も言うようだが本当は俺を止めたいと思ってるのに、それでも俺が少しでも試合で動けるようにと作ってくれたのだ。
「………今でも正直に言えば試合に出ようとするのは反対です。ですが……慎司君が優勝できるよう願ってもいますから」
そう言ってシャマルは足早に出て行ってしまう。俺は再び頭を下げてそのノートを穴が開くほど読み上げる。今まで手が出せなかった治療途中の左足のリハビリ、シャマルさんのおかげで着手する事が出来るようになったのだった。
病院を退院して学校に久方ぶりに登校をする。それでも俺がすべき事は変わらず出来ること全てに時間を費やす。登校は左足の事もあるため車を推奨されたが俺はそれを断りいつもより家から2時間以上早く出て松葉杖で登校する。既に右肩は8割ほど回復して徐々に失われた筋肉を取り戻すためにトレーニングにも取り入れている。
ただ松葉杖で移動する訳ではなく怪我した左足にも怪我に影響が出ないように負担させながら移動する。多少の痛みもあるがシャマルのノートのお陰でどれくらいの負荷までなら痛みを伴っても骨の治癒に影響を起こさせないで少しでも筋力の低下を防ぐ運動ができる。痛みと闘いながら2時間以上かけて学校に到着する。
既に体は汗にまみれている。一応カバンに着替えを持ってきてよかった。
教室につけばクラスメイト達が俺の復帰を祝ってくれる。俺はそれを笑顔で受け止めながらその裏で学校内ではどうするかと思案する。色々考えていると俺の机までアリサちゃんとすずかちゃんとフェイトちゃんが来てくれる。
3人とも退院おめでとうと祝福の言葉をくれるがそれだけだった。フェイトちゃんとすずかちゃんはまた後でと笑顔で別れるがアリサちゃんは少しご機嫌斜めだった。
実は入院中、俺が行動を始めてから3人でまた見舞いに来てくれたのだ。その時に事前に事情をフェイトちゃんから聞かされたであろうシャマル同様アリサちゃんは自分の体を労われと俺の為に怒ってくれたのだ。そこで俺が折れなかった為喧嘩してるわけじゃないが少し硬い空気になってしまっている。関係修復に力を入れたい所だが俺はアリサちゃんに普通に接するだけでそれ以上の事はしなかった。
今は、自分のことで手一杯なんだ。
授業は殆ど聞く耳持たず携帯で先生にバレないようにしながら柔道の映像を見る。そして授業のノートを取るフリをして研究した内容をノートにまとめる。既に何十回も同じ映像を見てるがそれでも選手一人一人の癖や技の傾向や対応の仕方など全て見落とさないようチェックする。
体育の時間は完全に俺のトレーニングとリハビリに先生の許可を貰って費やす。昼休みはご飯を食べながら研究しつつ軽いリハビリを交える。いつもなら皆んなと楽しげに話す時間だがそれすらする時間も惜しかった。
入院してる時とやってる事は殆ど同じだ。
そんな日々を送ってると少しずつ変化が、まず朝の登校にアリサちゃんとすずかちゃんが何も言わずに俺を見守るように一緒についてくるようになった。時間はだいぶ早いはずなのに毎朝とある場所で俺を待ってそれから一緒に登校する。2人は多くは語らなかったが道中汗を拭いてくれたり水分を手渡してくれたりと至れり尽くせりだった。
「ありがとう………」
「いいのよ……」
「うん、私達も応援するから」
この会話だけで全て伝え伝わる。ありがとう親友たち、ありがとう。
学校ではフェイトちゃんが授業中携帯を見てる俺が先生にバレないようにサポートしてくれるようになった。先生が近づけばトントンと軽く叩いて教えくれる、さされればバレないようにどの問題か素早く教えてくれる。
フェイトちゃんだけでなくクラスメイトのみんなが何かと気にかけてくれるのだ。
そうだ、簡単な事を忘れていた。頑張りや努力ってのは確かに1人で続けなきゃいけないものだ。だけど、多くの人に支えられてそれらは継続できる場合もある。
試合に勝てるか不安に押し潰されそうになれば誰かが俺と一緒に笑ってくれた。精神的にどんどん疲れて心が摩耗してきても誰かが励まして背中を押してくれた。そうやって支えられて人は頑張れるのだ。努力できるのだ。
それで、人は不可能と思われた事を成し遂げるのだ。俺は今、その為に頑張ってるし頑張れるのだ。クラスメイト達も、アリサちゃんやすずかちゃんも、フェイトちゃんや八神家の皆んなも、家族も、皆んなが俺を支えてくれた。
1ヶ月、他にも様々な事に取り組んでついにその日を迎える。柔道着に袖を通す。試合の映像は今頃フェイトちゃんのデバイスからなのはちゃん所に送られてるだろう。
無様な姿は見せられない。さぁ、始めよう。
「勝つぞ……なのはちゃんっ」
人知れずそう呟いた。
ウルトラマントリガーかっけえ。月姫おもしれぇ。ウマ娘あたらねぇ。
近々fgo水着イベントが……石(意思)が飛ぶ