転生しても楽しむ心は忘れずに   作:オカケン

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想い、覚悟

「あ……………」

 

 映像を見てつい声を発する。何で分かったんだろう、今慎司がとてもピンチで足ももう限界を迎えてるような様子で、正直目を覆いたくなるようなそんな状況下で、でもやっぱり目を逸らす事は出来なくて。

 

 そんな中で慎司が相手の袖を持った瞬間高町なのはは理解した、彼が起こそうとしてる行動を、繰り出そうとしてる技を。

 

「一本背負いだ……」

 

 呟くと同時に慎司は流れるような動きで綺麗な一本背負いを繰り出した。柔道は素人ながらも慎司の影響で柔道競技の試合をテレビでよく見るようになったなのはでも今の一本背負いは見惚れるような洗練されたものに感じた。

 彼の一本背負いを見たのはなのはがフェイトとの対決で大会には駆け付けられるずその時も後から映像で確認した時だ。

 

 生ではなく録画としての映像越しとは言えいたく感動した事をよく覚えている。あまりに凄いと思った、言葉に出来ないくらい凄い技なんだって感じた。興奮したなのはは以前、また別の大会で慎司が優勝した時に流れで聞いた事があった、どうして一本背負いを使わないのかと。その時慎司はどこか苦しそうに、そして寂しそうにしながらあの時たまたま使っただけだと言っていた。

 

 それが嘘なのは素人のなのはでも分かった。けれど、どこか触れちゃいけない事なのかとなのはは感じてずっと疑問は持ちつつも気にしない事にしていた。そして、慎司はまた一本背負いを見せてくれた………前回はなのは共に誓い合った必ず勝つという約束を守る為に、今回は……きっとなのはを勇気づける為に……。

 

「慎司君、決勝まで勝ち上がっちゃったわね」

「うん………」

 

 そう言う自身の母親の言葉はどこか重い。試合後の慎司の様子をみれば仕方ないだろう、もう左足を殆ど使えてないと言っても差し支えないほどの様子だった。決勝どころか柔道をする事すらままならない。本来、最初から慎司はそんな状態だったのだが今度という今度は本当に無理だ。

 

「……………」

 

 だが、なのはは知っている。荒瀬慎司と言う人間をよく知っている。彼は出るだろう、その足を引き摺りながらでも棄権はしないだろう。そう考えただけでもういてもたってもいられない。そして、なのはももう限界だった。見守り続ける事なんてもう出来なかった。

 ここまで慎司が勝ち上がってもなのはが考えるのは慎司がこれ以上苦しい思いをしないで欲しい事だった。たとえ自分……なのはの為でも慎司自身の為でもその想いを踏みにじってでも止めるべきだと。

 

 だって……自分のようになって欲しいわけがなかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………。

 

 

 

 

 

「だぁ!痛ってぇ!」

 

 控え室、地面に座り込んで決勝向けてテーピングやらサポーターなどをやり直しているのだがその作業でさえ足に響いて痛みが走る。もうこの際大袈裟に叫んでやろうかってくらい痛がりながら足の関節があんまり動かせなくなるくらいガチガチに固める。

 ここまでやってもやはり立ってるだけで痛いがそれでもマシな方だった。こっちの足を刈られる技を掛けられたらと思うとゾクッとする。しかし、試合に出る以上はそれを覚悟せねばならない。

 

 決勝までは空き時間がありあと30分ほど体を休めてから始まる予定だった。既にアドレナリンが切れて左足だけでなく体のあちこちにガタが来ている。まともに柔道をやってこれなかったのに死力を尽くした試合を4度もさせられれば仕方ない。怪我でのガタは左足だが体への疲労感も半端ない、両腕の前腕はパンパンになって力を入れるのも一苦労だし何よりスタミナだ、正直このまま数時間ほど座り込みたいくらいだ。

 

 なんて泣き言を言ってもしょうがないので体の必要な部位にアイシングをして少しでも試合で動けるような残り時間ギリギリまで休む。少しジッとしていると控え室の扉が開き入ってきたのは相島先生だった、俺の状況を見て一度ため息を吐きながらも口を開く。

 

「大丈夫……ではなかったな。ここまで勝ち上がった事を褒めてやりたい所だが……それよりもだ。このまま本当に決勝に出るのか?」

 

 相島先生との病院での話し合いからの再度の問いだった。言いたい事は分かる、少し悪い言い方するなら最後通告だ。その状態で試合をすればどちらにしろ足の再骨折は免れない、もしかしたら既に折れている可能性もある。折れた骨を酷使すればその先は更なる大怪我、神経、靭帯を傷つけ最悪柔道も出来なくなるしよくても長期に柔道が出来なくなり復帰は厳しいものとなる。

 この相島先生からの問いは最後の逃げ道を作ってくれてる優しさだった。だが、俺は言うまでもないと言わんばかりに言葉でなく相島先生の目を見つめて強がって笑ってみせた。

 

 今日は強がってばかりだ……そうでもしないととっくに心は折れてるだろう。

 

「そうか、まぁ分かってた事だ。……なら、俺から言える事は一つだけだ」

 

 くるりと背中を向けて控え室の出口に向かいながら一度振り返って

 

「……勝って見せろ、慎司」

 

 そう笑って告げてくれる。一瞬だけ呆けながらも俺は今日1番の声で

 

「はいっ!!」

 

 と返した。相島先生かは満足そうに控え室を後にする。そして入れ替わるように今度は応援に来てくれた皆んなが顔を出して来た。両親、八神家、なのはちゃんと桃子さんを除いた高町家、アリサちゃんとすずかちゃん、フェイトちゃんの聖小組、エイミィさんにクロノ、ユーノ、アルフ。割と大きい控え室だがここまで人数が集まると狭く感じるな。

 

 皆んな忙しい合間を縫って駆けつけてくれた。応援というよりは俺の心配をしてが大半だろうけど。それでも、声を上げて応援してくれた。それを力にして何とか勝ち上がってこれた。皆んな何か言いたげだった。最初に口を開いたのは両親だった。

 

「俺と母さんからはもう何も言わない、最後まで決めた事をやり通すんだぞ」

「慎司……っ、……しっかりね」

 

 2人の声は震えている、俺の惨状を見て止めたい衝動に駆られただろう。親として正しい行いをしようとしただろう。しかし、それをグッと堪えて俺の言葉を待たずに控え室を後にする。2人の言葉を胸に刻んでせめてその背中を最後まで見送った。  

 

「………最後まで君の覚悟を見届ける。だから……勝つならちゃんと勝つんだぞ」

「ここまで皆んなを心配させたんだから優勝しなきゃ承知しないからね」

「本当は……いや、もう慎司を止める言葉は聞き飽きただろうから……それは言わないでおくよ。頑張って」

「………ま、しっかりやんなよ。どうせ慎司は勝つだろうけど」

 

 クロノ、エイミィさん、ユーノ、アルフ。魔法の事で大変だろうに俺の事で心労をかけさせてしまった事を心の中で詫びる。2人の応援の言葉を聞き、俺は強く頷く。3人は言いたい事は終わりと言って両親に続いて部屋を後にした。

 

「足……見せてください」

 

 問答無用にシャマルに左足を処置される。せっかくやったテーピングとサポートを全て外されて少し触ったり動かしたりして俺の反応を見る。

 

「っ……折れかかってます」

 

 そう悲しそうに告げるシャマル。その先は言わなかったが言葉にしなくても分かる。次で確実に折れると。

 

「強く固めればいいって物じゃないですから……私がやりますね」

 

 再び俺を止める言葉を口にすると思ったがシャマルはサポーターとテーピングを丁寧に適切に左足にあてがってくれる。シャマルの処置を受けてる間に続くように今度はシグナムが口を開いた。

 

「慎司……私は未だ柔道というのをよく分かってはない。しかし、それでも言わせて欲しい……ここまでの試合、見事だった。私だけでなく皆胸を熱くさせていた。最後の決勝……大番狂わせを見せてくれ」

「……へへっ、任せろ」

 

 そう言って拳を打ちつけ合う。今度はザフィーラ、会場で獣形態はまずいから珍しく変装した人間形態だ。

 

「友よ……健闘を」

「おうっ」

 

 言葉は少ないがそれよりも俺を励まそうとしてくれてる想いは感じ取れた。俺がそう返事をするとどこか満足げに頷き返してくれる。

 

「慎司………」

 

 次にヴィータちゃん。なのはちゃんの大怪我を負った事件の当事者でもある為かずっと塞ぎ気味でちゃんと言葉を交わせていなかった。しかし、今はどこか晴れ晴れとしている。

 

「あたしも……うじうじするのは辞めた。慎司、お前と一緒であたしも前に進みたい。もっと強くなって目の前でもう2度となのはみたいな事にはさせない。そう決めた……慎司のおかげだ」

「決めて前を向いたのヴィータちゃんだろうが。まぁ、そういう風に思えるようになったならよかったよ」

「うん、だから慎司も……あたしを立ち直らせたようになのはの事も……頼む」

 

 ヴィータちゃんの切実な想いを聞く。ずっと罪悪感を感じていたんだろう。彼女は優しいから、ずっと自分を責めていたんだと思う。それでもヴィータちゃん再び立ち上がった。その決意を受け取る、その想いを受け取る、その優しい願いを……引き継いだ。次に前に出たのリィンフォース、

 

「………私は口下手だから、今何を言えばいいか分からない。これ以上怪我をしないでくれとも思ってる、慎司の夢を……願いを叶えて欲しいとも思う。私は何を伝えれば正しいのか分からない」

 

 不器用にリィンフォースはそう言葉を紡ぐ。

 

「しかし……私が1番伝えたい言葉は一つだ…………もう『後悔しない』ように頑張ってほしい。私は慎司がしたい事をいつでも応援している」

 

 俺の前世を知ってるリィンフォースのその言葉は強く突き刺さる。悪い意味ではなく、覚悟をさらに深めてくれるものとして。ありがとうリィンフォース、俺の前世を知るせいで余計に心配をかけただろう。けど、ずっと見守ってくれてありがとう。

 言葉には出来ないけどせめて手を握って感謝を示した。

 

「じゃあ私かな……まあ、正直皆んなが殆ど伝えたい事全部言ってくれたし……」

 

 少し困ったように笑いながらはやてちゃんは頬をかく。うーんっと、ちょっと悩みつつも上手い言葉は見つからなかったようで

 

「まぁ、頑張ってな。私は慎司君の優勝パーティーで今まで1番豪勢で美味しい料理用意するつもりやから、楽しみにしててな」

「ああ……、はやてちゃん料理上手だから楽しみだよ」

「ありがとう……それと、そやな………うん。どうか『負けないで』」

 

 自分にも、相手にも……挫けないでくれと。そういう意味ではやてちゃんは俺にこの言葉を送ってくれる。負けないで……か、そうだな。それが1番大切かもしれない。俺はその言葉に笑顔で頷くとはやてちゃんも満足したように頷き返す。

 

「……これで、ちょっと歩くくらいなら少し痛みを抑えられると思います」

 

 ちょうどシャマルがテーピングを終えたようでそう告げてくる。シャマルに手を貸してもらいながら立ち上がって数歩ほど歩く。……驚いた、まだ軽く痛みはするがそれでもさっきとは雲泥の差だ。テーピングの上手さでここまで変わるのか。

 

「分かってるとは思うけど……そのテーピングくらいじゃ激しく動かしたり力を入れたりする事に対しては殆ど意味がないわ……」

「うん、ありがとう。それでも俺の為に……ありがとう」

 

 シャマルは真面目な話をする時俺に対してはいつも敬語だ。それが崩れるくらいシャマルは俺の事で心配をかけてしまってる。シャマルが俺に足の事を気にかけてくれなかったら今頃俺は決勝の舞台には立ててないだろう。

 

 彼女が用意してくれた俺用のリハビリや怪我の治癒を少しでも高めてくれる食べ物と適切な量。それらで支えてくれてなかったら今の俺はない。だから、その事も含めての俺の最大限のありがとうという言葉だ。

 

「っ……………」

「…………」

「……………………応援……しますから」

 

 そう言い残して八神家全員共にシャマルも部屋を後にする。今の間にどれだけの本心を、言葉を飲み込んでくれたのだろう。絞り出した応援すると言ってくれたあの言葉にどれだけの想いと重みが詰まってただろう。俺にはきっと計り知れないしするのも烏滸がましい。

 ………ごめん、でもありがとう。シャマル、君が俺の為にしてくれた事……その想いも背負って俺は決勝に臨まなくてはならない。

 

 控え室に残ってるのは俺とアリサちゃんとすずかちゃん、そしてフェイトちゃんだ。俺が一息落ち着いた所ですずかちゃんが俺に歩み寄る。

 

「慎司君、これ見て……」

 

 そう言って見せてきたのは携帯の画面。そこに映し出されているのは携帯の写真の機能を使って撮った物。それには見覚えのある教室に見覚えのある面々が集合写真のように撮った写真。

 

 クラスメイト達だ、そしてクラスメイト達が用意してくれたであろう黒板に書かれた俺へと向けた数々のメッセージ共に皆んなが写っていた。

 

『がんばれ!』

『ケガしないでね!』

『皆んなおうえんしてる!』

 

 それ以外にも俺の胸を熱くさせてくれるメッセージが黒板にぎっしりと沢山並んでいた。

 

「あいつら………」

「みんな、流石にこの遠い試合の会場までは応援に来れなかったけどせめてって昨日私にこれを送って慎司君に見せてほしいってメールが来てたんだ」

 

 この会場は海鳴から県を何回か跨いでようやく辿り着く場所だからな。皆んながここまでついて来てくれてるのがありがたいし凄いんだ。学校でも授業や皆んなとの時間をそっちのけで試合の為の準備に明け暮れていた。

 だから皆んなも何となく俺がしようとしている事を察していた。邪魔しないようにしてくれてたと今冷静に思い出せばそう思う。

 

「クラスの皆も慎司君を応援してる……勿論私も同じ気持ちだよ?正直心配だけどそれでも……慎司君が頑張るなら、私も精一杯応援するからね」

 

 あんまり普段のすずかちゃんからは見れない強さのこもった言葉だった。すずかちゃんも色々と俺の為に色々としてくれていた。アリサちゃんと一緒に登校する時だって足が不自由な俺を後ろから見守ってくれた。

 集中している俺に車の接近や足元の注意なんかも何度か受けた覚えがある。そんな細かい事を引き受けてくれて俺を支えてくれた。

 

「………すずかちゃん、大会終わったらまたあの立派な家に招待してくれよ。あの美味しい紅茶……また飲ましてくれ」

「うん、勿論だよっ」

 

 いつもよく行っていたすずかちゃんの家もしばらく行ってない。入院やらなんやらでずっとご無沙汰だ。取り戻すんだ、なのはちゃんがを交えたそんないつもの日常を。

 

「………次は私ね」

 

 いつもとは違う少し静かな雰囲気で俺の前に立つアリサちゃん。表には出さないけど人一倍他者の感情に敏感で気遣いの彼女もさぞ俺の事で悩ませてしまったと思う。

 

「…………慎司、勝ちなさい」

 

 余計な言葉は交えずただハッキリとアリサちゃんは告げた。

 

「負ける事は許さないわよ……ここまで色んな人に迷惑かけて、心配かけてきたんだから慎司には勝つ義務があるわ」

「………ああ」

「何が何でも勝ちなさい……何よりも慎司、アンタ自身の為に勝って、私が慎司を止めなかったのは慎司がちゃんと自分を理由にしてたから……だからっ……皆んなに心配をかけた分ちゃんと自分と皆んなを笑顔にさせなさいよっ」

「………ありがとうアリサちゃん。ずっと心配してくれてたもんな、その気持ちはずっと伝わってきた。それでも俺の事を想って我慢してくれてありがとうな、どんなに言っても言い足りないくらいだ」

「っ……」

 

 いつもなら、俺の頭の一つでも叩いて照れながらツンツンしてくるであろうアリサちゃんも今日ばかりはそんな風な返しは来ない。

 少し、泣きそうに笑うだけだった。

 

 

 

 アリサちゃんはあまり今の顔を見られたくなかったようですぐに控室を出る、それに付き添う形のすずかちゃんと一緒に。部屋に最後に残ったのはフェイトちゃん。彼女も俺に言葉を送ろうとしてくれる。

 

「慎司は覚えてる?私と出会ったジュエルシード事件の事」

「忘れる訳ないだろ」

 

 奇跡を起こせず、悲劇に終わってしまった悲しい事件。一生俺の心に突き刺さる傷。

 

「慎司はね、あの時私を救ってくれた……本物だって言ってくれた、最初から友達だったって言ってくれた」

 

 まだ数年程しか経ってない出来事だが遠い過去のように懐かしむフェイトちゃん。彼女はあれからまっすぐ前に進み続けている。過去を振り返る事もあるだろう、大切な母親を思い出し悲しい思いをする時もあったろう、それでもフェイトちゃんは最初に出会った頃とは見違えるくらい強くなったと思う。

 

 友達を得て、成長して、魔導師として活躍して、目標を持って頑張っている。

 

「慎司の事だから大した事じゃないって言いそうだけど私はそうは思ってない。慎司はすごく立派で、頑張り屋で、誰よりも強い人だって私は思ってる。そんな慎司だから私の事を救えて、はやて達の事も助けられたんだって思う」

 

 本当に……本当に魔法と出会ってから俺の第二の人生は本当に濃い出来事ばかり起こる。辛い思いを何度もした、挫けそうに何度もなった。それでも今皆んなと共に在れるのは俺のちっぽけな誇りでもある。そして、そんな俺の誇りをフェイトちゃんも同じように誇らしげに語ってくれる。

 

「だから……そんな慎司だから、奇跡だって起こせる。優勝だってできるしなのは事だって……慎司なら救えるよ」

 

 迷いなくフェイトちゃんはそう言った。いつかの日のなのはちゃんのように。本当に……彼女は強くなった。

 

「………ああ、その信頼に応えてみせるさ」

「うんっ」

 

 背中を押された。そう、最初から迷いは無かったけど……それでもフェイトちゃんの頼りになる言葉で俺は淀みなく決勝に臨める。フェイトちゃんだけじゃない、皆んなの言葉のおかげで。

 

「あと1人、最後に……慎司と話したがってる人がいるの」

「えっ?」

 

 ポッケからフェイトちゃんは自身の携帯電話を取り出した。最初から画面は開かれていてずっと起動してた事が伺える。

 

「………話してあげて、きっと慎司にも必要な事だと思うから」

 

 差し出された携帯電話を受け取り画面を見る、通話画面の名前には『高町なのは』の文字。なるほど……一呼吸相手から耳を当てた。

 

「もしもし?」

 

 

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

 

 真っ先に電話をかけたのは親友のフェイトちゃんへだった。慎司君は大会中は携帯の電源を切ってるから出る事はできないと知っているからだった、フェイトちゃんは数コールほどですぐに出てくれる。

 

『もしもし?なのは?』

 

 会場のざわざわとした雑音混じりながらもフェイトちゃんの声はしっかりと聞こえる。咄嗟に電話をかけてしまったので何て言えばいいか分からず少し間をあけながらも言葉を絞り出す。

 

「………うん、私……。フェイトちゃん、ごめんね?慎司君とお話ししたいの……変われるかな?」

 

 私がしようとしている事を理解しつつも一緒の病室にいるお母さんとリンディさんは見守るように私を見つめているだけだった。

 

『…………うん、分かったよ。また掛け直……ううん、このまま切らないで待っててくれる?』

「分かったよ、ありがとうフェイトちゃん」

 

 それを最後に通話中の携帯からはざわざわとした雑音と擦れるような音が響くだけだった。少しすると観客席から出たのだろうかざわざわとした周りの雑音は聞こえてこなくなり布が擦れる音だけが響く。

 

 またしばらくすると今度は話し声が聞こえてくる。目の前のモニターを覗いてみるとまだ映像を送ってるようで会場から控え室のような場所にいる事が確認できた。映像は見覚えのある友人達の背中と遠巻きに座り込んで肩で息をしている慎司君の姿が。

 

 携帯の方に耳を向けると一人一人慎司君に向けて激励の言葉を送っているようだった。少し途切れ途切れで全ては聞き取れないがそれでもニュアンスだけは伝わってくる。

 頑張れ……、負けるな……など決勝に赴く慎司君の背中を押す言葉ばかり。それが普段の慎司君なら間違いじゃない。だけど今の慎司君は大怪我を負っている。今も立つのが辛いから座り込んで足を休めているではないか、どうしてそんな慎司君を止める言葉じゃなくてそんな応援の言葉ばかり皆んな口にするのか自分では分からなかった。

 

 やがて皆んなが皆んな慎司君に言葉を残し終えてようやくフェイトちゃんが私を電話口で慎司君に取りなしてくれた。

 

『もしもし?』

 

 携帯から聞こえる慎司君の声に耳を傾けながらモニターに映る慎司君を見る。テレビ電話をしているみたい、といっても向こうからは私の姿は見えていないけど。

 

「……………もしもし、慎司君……」

『おうなのはちゃん、わざわざ電話してくれてありがとな。次でようやく決勝だ、頑張るからさ……応援してくれよ』

 

 陽気な声でそう言う慎司君。モニターに映る慎司君も笑みを浮かべている。どうして……そんな顔できるの?怪我してるんだよ?痛いんでしょ?辛いでしょ?なんでそんな風に笑っていられるの?

 

 頭に様々な疑問が浮かぶがまずは本題に入らないといけない。私は少し詰まりそうになりながらもハッキリと告げた。

 

「出来ないよ、応援……できない。慎司君……お願い、今すぐ辞めて…棄権してっ」

 

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

『出来ないよ、応援……できない。慎司君……お願い、今すぐ辞めて…棄権してっ』

 

 電話口から聞こえるその声は震えていたかもしれない。それを告げる事はどれだけ残酷な事か、想いを踏みにじることだと理解してる故だろう。それをしてでも俺を止めるためになのはちゃんはちゃんと言葉にして俺に伝える。

 

「そっか……ごめんな?心配かけてる事は分かってる、けど俺は棄権をする気はないよ」

 

 自然と穏やかな気持ちと口調になる。そういえば、なのはちゃんの声を聞くのも電話がかかって来た以来か。毎日のように聞いていた声だったからかなのはちゃんの声を聞くと少し落ち着けるようなそんな気さえした。

 

『駄目だよ慎司君……私なんかの為に慎司君の未来を棒に振らないでっ。まだ左足は治ってないんでしょ?右肩だって治ってから間もないのに………これ以上は本当に取り返しがつかない事になっちゃうよ……』

「そうだとしても………俺はここで止まるわけにはいかない。こればっかりは譲れないよ」

 

 なのはちゃんの悲痛な訴えを前にしても俺は頑なにそう答える。最初からなのはちゃんは止めようとするだろうなと予想してた。だからこそギリギリまで隠していたし、試合の映像を見たらすぐに止めに来るかもと覚悟はしていた。

 

 決勝までは我慢してくれたようだがやはりなのはちゃんは止める事を選択した。

 

『どうしてっ!もしかしたら後遺症だって残るかもしれないんだよ!?ちゃんと違和感なく歩けなくなるかもしれないんだよっ!……私みたいにっ』

 

 そして悲痛な訴えは涙の叫びへと変わる。少しだけ本心が見えた、やはり……自身の怪我で少しメンタルが不安定なっている事が伺える。まだ小学生の子供だ、当たり前だ。不屈の魔導師なんて言われていてもやっぱりまだ子供なんだなのはちゃんは。

 

 同時になのはちゃんが頑張る事を恐れて諦めてる事もよく分かった。そうじゃなきゃまだリハビリも始まってないのに自分みたいにと歩けなくなるかもとマイナス寄りの考えになってる。前のなのはちゃんからじゃ考えられない言い方だった。

 

『私みたいに……なって欲しくないの!慎司君には……努力に裏切られて欲しくないのっ……お願い慎司君、私の為ならすぐに試合を棄権して……私こんな事されても、喜べない……心配ばかりで喜べないよっ』

 

 深くなのはちゃんの言葉を胸に染み込ませる。君は優しい、優しいから俺の為にそんな気持ちを乱されてくれる、悩んでくれる。そして君は強い子だ……強いからこそずっとずっと頑張って来れてその頑張りが報われなかった時のショックも計り知れないほど大きかったんだろう。

 

 君のその挫折も絶望もなのはちゃんだけのものだ……分かってあげる事はできない。けど、同じような経験をした俺は分かってあげられなくても答えを見つけてあげる事はできる、示す事は出来る。

 

「うん……心配をかけて本当にごめん。だけどなのはちゃんがいくらそう言っても俺はやめない。例えなのはちゃんの言う最悪な結末が待っていたとしても俺は……無茶してでもやらなきゃいけないんだ」

『………無茶だよ…』

「ああ、無茶だし無謀だ。こんな状態であの神童に勝つなんざ不可能かもな……無茶ってのはよくない。基本的に無茶した先には碌な事が待ってないからな」

 

 今回で言うなのはちゃんの怪我の原因でもあるオーバーワークはプラスどころかマイナスになるし、スポーツの普段の練習でも休みなく無茶して練習したって逆に効率が下がるし怪我のリスクが上がるものだ。

 故に無茶なんざしないのが正解だ。だが、

 

「けどよ……人生っていう限られた時間の中ではどんなに無茶でも譲れない事や大切なものがある。その無茶を通さなきゃいけない時があるんだ。そしてそれが俺にとって今なんだよ。誰がなんと言おうと、どれだけ無謀で無茶でも意地でもそれを通さなきゃいけない時なんだよ」

『どうして………』

 

 疑問しか浮かんでなそうななのはちゃんの声を聞いてつい苦笑する。

 

「……その様子だと、俺からの手紙読んでないだろ?」

『………うん、ごめん。私には読む資格がないから……』

 

 なるほど、大方俺が頑張ってるのにそれを応援できない自分は自分のために用意してくれた手紙なんか読む資格ないって思ったあたりか。

 

「それ、資格とかどうでもいいから読んでくれよ。俺がなんでここに立ってるか、何をしたいのか……全部そこに想いを詰め込んだ。読みたくなかったら別にいい。だけど……読んでくれたら嬉しいかな」

『…………』

「試合、最後まで見ててくれ。頑張るからさ……絶対、負けないから」

 

 じゃあ、とそれを最後に電話を切る。今はこれ以上なのはちゃんと言葉は交わさない。多分、今の状態じゃ読まないだろう。それなら……俺からの手紙を読みたくなるようなそんな試合にしてやる。

 

 フェイトちゃんに携帯を返す。無言で頷いてからフェイトちゃんも観客席にへと戻っていった。控え室には俺1人、決勝の開始までもう10分を切った……あともう少しだけ体を落ち着かせたら会場に向かおう。

 

 精神統一する時間は無くなってしまったがそれよりも大切な事を俺はなのはちゃんを含めた皆んなから受け取ったんだから。精神統一してもそれは手に入らないもの。『勇気』という覚悟。それを受け取ったのだ、負けられない。

 バチンッと両手で頬を叩く。ヒリヒリとした痛みが今は心地いい。

 

「しゃあっ!!」

 

 最後に一声気合を入れてから俺は会場へと赴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 誤字報告ありがとうございます。いつも、感謝しながら修正させていただいております。また、感想や評価、メッセも作者の気持ちを昂らせてくれる着火剤になってます。

 空白期編も佳境に迫っております、頑張って書くぞ!
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