転生しても楽しむ心は忘れずに   作:オカケン

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 あれ、思ったより筆が乗って柔道の描写がかなり増えたな。これリリカルなのは虹小説ですよ?あららおかしいぞー。まぁ、本当に次回からはしばらく柔道描写が皆無になるのでゆるしてくだせぇ


無印編
始まりの最中に


 

 

 

 

 

 

 あっという間に時は過ぎ去り俺は小学3年生。今世では9歳、実年齢29歳に。三十路の一歩手前、悲しきかな。経験している事が年齢相応な為20歳から全く成長してる気がしない今日この頃。いつものようになのはちゃんと待ち合わせをして送迎バスに乗り込んで学校に向かう……はずだったのだが。

 

「いやっほい!見事に寝坊だゼェ!!」

 

 よくある目覚まし時計の電池切れだ馬鹿やろう!帰ったら丁寧に新しいのに入れ替えるから覚悟しろコラァ!

 

「馬鹿な事言ってないでさっさと行きなさい」

 

 ママンに道中食べるようにと握り飯を渡されすぐに準備して出発。登校中に朝ご飯とかなにそれ少女漫画っぽい、普通は食パンとかな気がするけど。

 

「はしるー、はしるー!おれーたーちー!!」

 

 全力疾走……柔道を初めて基礎体力作りなどしているためか以前よりも断然に早く長く走れるようになったが流石に間に合いそうも無い。と、思いきやバス停にはまだバスが!そしてなのはちゃんが周りをキョロキョロとしながらゆっくりとバスに乗っている所だった。

 

「待てやコラァ!俺も乗りますので出発しないでええええええ!!!」

 

 届くと願って悲痛な叫びをあげる。と、なのはちゃんがびっくりした顔をしてこっちを見た。気づいてくれた模様。スタコラとバスに乗り込みどうやら運転手さんに少し待ってくれと懇願してくれてるっぽい。

 

「乗りまあああす!夢と希望を乗せて乗りマァァア!!」

 

 ダッシュで乗り込んで息を切らしながら運転手さんにお礼と謝罪を。運転手さん笑顔で次は遅れないようにねとやんわりと注意してくれた。息を整えてからなのはちゃんを探す。おっと発見、一番奥の席に鎮座していた。アリサちゃんとすずかちゃんも一緒だ。

 

「うぃーすおはようさん3人とも」

「うぃーすじゃないわよ、あんたなのはが運転手さんに待ってってお願いしてなかったら遅刻してた所よ」

 

 開幕アリサちゃんに責められる。まぁ、仕方ない。

 

「悪いなーなのはちゃん、ありがとよ」

「ううん、別にそれくらい」

 

 優しい子ですなぁ。俺だったら笑いながら置いてく。………いや性格悪すぎだなそれは。訂正訂正。

 

「でも珍しいね、慎司君が遅刻しかけるなんて」

「確かに、遅刻も欠席もした事ないわよね」

 

 すずかちゃんのいう通り確かに珍しい。俺こう見えても無遅刻無欠席である。根は真面目なのよ?割と。というのは建前で学校も年甲斐なく楽しく感じてるからね、毎日が楽しければ自然と足取りも軽くなるってもんよ。

 

「今日は目覚まし時計の反逆にあってな」

「どういう意味?なのはちゃん」

「電池切れって事だと思う」

 

 何故に俺じゃなくてなのはちゃんに聞くんだよ、すずかちゃん。

 

「だから朝からバタバタしたから既に疲れてるのであります」

「まだ1日が始まったばかりじゃない」

「アリサちゃんにとっては始まったばかりの1日でも俺にとっては幾星霜なんだ。クロックアップしてるから」

「意味分かんないわよ………なのは?」

「ごめん、私も分かんない」

 

 だから俺の翻訳をなのはちゃんにさせるなっての。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

 

「えー、今日3人とも塾か〜」

 

 放課後いつものように3人を遊びに誘ったが見事に今日は3人とも塾だ。というか今は3人とも同じ塾に通ってるから重なるのも当たり前か。ちなみに俺は塾通いはしていない。

 

「あんたも今日は柔道の練習があるんでしょ?」

「まあなぁ……まぁ仕方ないか」

 

 アリサちゃんに言われた通り柔道の練習もあるしな、今日は大人しく自主練でもして時間を潰そう。

 

「今週末大会があるんだよね?皆で応援に行くから頑張ってね」

「あんがとよすずかちゃん」

 

 と言ってもまぁ海鳴市内の小さな大会だけどな。その後に大きな大会を控えているから、大体の人にとってはその前の肩慣らしのような位置づけの大会だ。無論、軽い気持ちで参加するわけでもない。

 

「3人こそ勉強頑張ってな、特になのはちゃん」

「な、何で私?」

「授業中に先生に向かって消しゴムのカス投げないか心配でな」

「そんな事した事ないよ!」

「本当か〜?」

 

 ホッペぐにぐにと。今日もよく伸びるなー。俺が頻繁に引っ張ってるせいか以前より頬が伸びるようになった気がする。新記録目指そう、ギネス級の。なのはちゃんはいつも通り顔を真っ赤にしながらぽかぽか叩いてくる、相変わらず威力が皆無だから痛くも痒くもない。

 

「あんた達ねぇ……仲良いのは分かったからさっさと行くわよ」

「お?何だ羨ましいのか?」

「そんなわけないでしょ」

「アリサちゃんのほっぺもビヨンビヨンにしてやるゼェ!」

「ちょっ、こっちくんな馬鹿!」

 

 ギャーギャーと俺が満足するまで互いに騒いでジャレあった。今日遊べない分俺も調子に乗ってしまったと思う。アリサちゃんに何度も蹴られたのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

 

 

 帰宅したらすぐに柔道着に着替えて道場に向かう。家から自転車を使って30分ほど走らせれば俺が通っている柔道クラブに到着する。この自転車での移動も下半身のちょっとしたトレーニングにもなるので重宝しているのだ。

 到着したらすぐに道場の鍵を開けて一礼してから中に入る。練習の時間までまだ時間が数時間ほどあるから人はまだいない。クラブの監督……先生に事前に許可を貰い、好きな時に使っていいと鍵の保管場所も教えてもらってる。信頼してくれ俺の申し出に応えてくれた先生には頭が上がらない。

 

「よし、やるか」

 

 まずは柔軟で体を伸ばしてから準備体操をマメにやって少しずつ体を動かしていく。補強運動に基本の受身をこなしてから軽い筋トレ。小学生のうちは無理に筋肉をつける必要は無いので土台を作る程度に調整している。

 ちなみに前世で得た知識である。何を隠そう荒瀬慎司になる前………俺こと山宮太郎は20年という歳月まで生きていたがその半分を柔道に費やしていたと言っても過言ではない。7歳の頃に何となくやってみたいと思い、柔道を始めた。それから小学生の間はクラブの柔道の練習に自主練の日々だった。地元の中学に入学してすぐ柔道部に入部して毎日柔道の日々をこなした。

 中学でようやくある程度目を見張る成績を残す事が出来、名門とまでは行かないが強豪の私立高校から推薦が入りそこに入学して高校生の頃は更に濃密な柔道の毎日を過ごす。そこでも成績を残す事が出来、大学からの推薦も掛かった。しかし、色々事情があって俺は高校の引退を機に柔道を辞めた。それを後悔して今世で諦めきれずみっともなく始めてしまったのだ。

 

 最初は前世でかなり慣らしたし自信もあったから好スタートで始めれると思ったが考えが甘かった。小学生の体、それも今世ではスポーツ経験もなかった俺の体は俺の思うように動いてくれなかった。知識はある、高校生としてではなく今の自分に合ったスタイルをちゃんと考えて実践しようとするがうまく行かない。

 それはそうだ、頭では玄人でも体は初心者だ、基本が出来てない体が身の丈にあってない事を出来るわけがない。これは一から出直しだな。考えをリセットして俺は余計な事は考えず再出発をする形で取り組んだ。と言ってもとっさの判断能力や知識はやはり役に立つし、練習で何が大事か………どうすればいいのか……と効率をしっかり考えて2年が経った今日この頃。

 クラブの先生も面倒をよく見てくれたお陰もあり、ちょこちょこ成績を残せるようになった。今度の大きい大会でも期待されている、応えれるように頑張ろう。

 

「ん?慎司か、精が出るな」

「こんにちわ、お先に使わせてもらってます」

「あぁ、受けはいるか?」

「お願いします」

 

 道場に顔を出したのはクラブの責任者兼指導者でもある相島先生だ。柔道の基本的な技の練習や研究には相手がいてこそだ。相島先生はこうやって俺が自主練をしてる事を察知して忙しい中受けをしてくれる。本当に感謝だ、頭が上がらない。

 

「この後練習も控えているからな、程々にするんだぞ?」

「はい!」

 

 かなりくたびれたが今日も内容が濃い自主練と練習が出来たと思う。あぁ、本当に疲れた……帰って休もう。疲れた体に鞭を打って自転車を走らせて帰宅する。パパンとママンにお疲れ様との労いの言葉を貰い遅めの夕食を取る。風呂で汗を流して今日はもう何もする気が起きず自分の部屋のベッドに直行した。このまま眠っても良かったが何となしになのはちゃんにメールでもしてみる。

 

『なのはちゃん、イナゴ食べたい』

 

 ただのかまちょメールである。おっと、もう返信来た。

 

『急にどうしたの!?』

 

 律儀に全力で答えてくれる所がまた可愛いのお。だからこそからかいたくなるのだがね、ごめんね。

 

『寧ろなのはちゃんがイナゴを食べるべき』

『どうしてそうなるかな………』

『好きでしょ?イナゴ』

『別に好きじゃないよ!』

『イナゴはなのはちゃんの事好きかもしれないじゃん!』

『だからって私がイナゴ食べる理由にはならないでしょ!?』

 

 あーだこーだとくだらないやりとりを数十分程してもう寝ようかという雰囲気に。俺もくたびれてるしいつまでもなのはちゃんに付き合って貰うのも悪いしね。早よ寝ましょう。おやすみと一言メールを送ろうとした所先になのはちゃんからの返信が。

 

「フェレット?」

 

 文面にはなのはちゃん達が塾に向かう道中に怪我をしたフェレットを拾って動物病院に連れて行ったという出来事があったらしい。文面には詳しくはまた明日話すねと一言添えて終わっていた。

 

「フェレットってあれか………ペットとかでも人気のあのフェレットか」

 

 フェレットってそこらへんにいるもんなのか?いやいないか、怪我してたらしいしどっかの家から逃げ出したのだろうか?まぁ、俺が考えたってしょうがないか。さっさと寝よう。ベッドで丸くなる、思ったより体はくたびれていたようで意識を手放すのにそう時間は掛からなかった。その後、俺とのメールのやり取りの後。なのはちゃんが人知れず大変な目にあってたなんて勿論俺は知る由もない事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

 

 

 翌日、今日は目覚まし時計の反逆に遭うこともなくいつも通り登校。道中なのはちゃんがくたびれた様子を見せてたんだがどうしたんだろうか。まぁ、あまり深く気にせずにアリサちゃんとすずかちゃんも含めた3人にフェレットの件を聞く。

 と言っても昨日聞いた通りで怪我したフェレットを保護して病院まで運んだという経緯までは聞いているから新しい情報は高町家でそのフェレットを預かることになった事らしい。まぁ、なのはちゃんもしっかりしてるしさらに高町家全面協力なら特に心配もないだろう。

 

「でもすごい偶然だよね」

 

 とすずかちゃんは笑顔で言う。何のことかと言うと実は昨日フェレットを預けた動物病院で車の事故か何かあったらしく壁に穴が空いていたらしい。俺もその話は朝にママンから聞いていた。

 んで、その事故に乗じてたまたま逃げ出したフェレットがたまたま道を歩いていたなのはちゃんに遭遇してそのまま保護したそう。すずかちゃんの言う通りすごい偶然だ。違和感を感じるくらいな。

 

「昨日メールしたよな?その後に出かけてたの?」

「え?あ、うん……そうなんだよ」

 

 うーん?何か歯切れが悪いような。いや、へんに気にしすぎるのもよくないか。

 

「でもなのはが預かるなら名前付けてあげなきゃ………もう決めてる?」

 

 すずかちゃんとアリサちゃんは当事者であるからかフェレットの話を聞きたいみたいだ。俺もへんに詮索はやめてフェレットの話を聞こう。俺もちょっと気になるし。

 

「うん、ユーノ君て言うの」

「ユーノ君?」

「そ、ユーノ君」

「「へぇ〜」」

 

 フェレットの話をしてるだけでアリサちゃんとすずかちゃんは楽しげだ。それにしても名前はユーノか………。

 

「ユーノ………ユーノ……You No?貴方は違う?お前………何て名前つけてんだ、可哀想だろ」

「そんな意図はないよっ」

 

 You No君か……どんまい。否定されても強く生きるんだぞ。手を合わせて哀れなフェレットを想う。

 

「何に対して合掌してるの!?ねぇってば!もお〜!」

 

 ポカポカポカポカ。いつもの攻撃力ゼロのなのはちゃんの反撃。これで1日が始まった感じがする俺はすでに末期なのだろうか。

 

 

 

 

 

 

………………………。

 

 

 

 

 放課後が今日もやってくる。さてさて、授業中何となしになのはちゃんの様子を見てみたがちゃんと授業を聞いているようで上の空のような雰囲気も見て取れた。やっぱり昨日なんかあったのかね?でもわざわざ言わないってことは言えないか言いたくないかって事だしな。

 杞憂かもしれないしやっぱり変に詮索すんのはよそう。本日も3人とは予定合わず学校が終わったらすぐ解散。と言っても今回は俺の都合だったんだけどね。試合が近いからそろそろガッツリ調整する為に追い込み期間なのだ。試合前日は練習内容を調整して軽めにしたりするが今は追い込みなのでこれから2日はしばらくこんな感じだ。

 

「うし、やるぞ!」

 

 3人とお別れし走って家へ帰宅。すぐに着替えて自転車で道場まで。やるぞー!気合十分!わっはははははは!!

 

 

 

 

 何てテンションでいられたのも少しの間だけ。自主練の後の通常の練習で相島先生直々にしごきを受けてすぐに歯を食いしばって必死にやる結果に。前世の頃は小学生の間にこんな濃密な練習はしてこなかったが精神は大人のままの俺は練習の大切さを身をもって知っている。ゲームっぽく言えばレベル1に戻ってしまったけど効率的にレベルを上げる方法は分かっているのだ。

 まぁ、言葉にするのは簡単だが実際にこなすとなると大変キツい。

 

「はぁ…はぁ…はぁ……」

「よし、今日はここまでだ。全員ちゃんとストレッチをしてからあがるように」

 

 相島先生の言葉に全員はいと返事をしつつ。帰宅の準備をそこそこに始める。

 

「慎司、ちょっとこっちこい」

「はい」

 

 ストレッチをしっかりやりながら息を整え終わる頃に相島先生に別室に呼ばれる。もう一度しっかり深呼吸してから部屋に入った。

 

「調子は大丈夫か?」

 

 開口一番そんな事を聞かれた。

 

「はい、大丈夫です」

「最近少しオーバーワーク気味だ。追い込み期間のつもりなんだろうが程々にな」

「はい、気をつけます」

 

 確かに少し気合が空回りして張り切りすぎていた節はあったがまさか直接言われる程だとは。気をつけよう。

 

「ふん、本当にお前は小学3年には見えないな」

「………………」

「いや、それはいいんだ……しっかりしてる事は悪い事じゃない。ただ、病的なまでに何でそんなに練習に真剣なのか気になってな」

「真剣に練習をやるのは当然の事です」

「その通りだ。だが、お前は真剣何てものじゃない雰囲気で取り組んでいるみたいだがな」

「………………」

 

 確かに自主練を含めれば小学生がこなすメニュー量じゃない。他の子とは取り組む姿勢も何もかもが年齢相応じゃないことも自覚はある。

 

「それこそ悪い事じゃないんだがな。時々私も心配になるのさ。お前が何の為にそんな鬼気迫るように柔道に取り組むのかは知らないし興味もないが」

 

 相島先生は俺の肩にポンッとで俺を置いて言い放った。

 

「しっかり線引きはしろ。努力と無茶は違う物だぞ、慎司」

「…………」

「お前の事だ、それくらい理解しているだろう?」

「…………はい」

「ならいい」

 

 時間を取らして悪かったなとの一言で退室を促され俺は一礼して部屋を後にしようとする。

 

「慎司、最後にひとついいか?」

「っ?勿論です」

 

 ドアノブに手をかけた所でそう言われ振り返った。

 

「……勝つための努力もいい。強くなる為に真剣になるのもいい。ただ、柔道を楽しむ事だけは忘れるなよ」

「っ!………はい!失礼しました」

 

 その言葉に背中を押された気がして、そのまま部屋を出て道場を後にする。自転車で道中帰路につきながら相島先生から貰った言葉について考える。

 

「楽しんでなかったのかなぁ………」

 

 何てぼやく。先生には何で柔道を始めたか興味ないと言われたがあえて明言するならば、前世での無念からという気持ちが多い。

 前にも言ったが、俺にとっての今の人生は荒瀬慎司の人生というよりは山宮太郎の続きの人生という気持ちが大きい。だから前世で後悔したことを今度は後悔したくないと思って日々を生きてる。柔道は前に大学で推薦があったが色々事情があり、続ける選択肢を取らなかった。その時は良かったが後々俺は続ける事をしなかった事を後悔した。だから今、こうやって頑張っている。

 しかし、楽しんでいなかった訳ではないと思う。けど、薄れていたのかもしれない。前世の小学3年生の頃より今の俺の方が強いという自信は大いにある。だが、実は情けないながら現状結果らしい結果は出せてない。この一年半で大会は何度か出たが成績は下から数えた方が早い順位ばかりだ。いくら体や技術がリセットされたとは言え前世記憶がある俺には歯痒い結果だ。結果に拘るのは悪くないが根本的に楽しむ事も忘れないようにしないと。そうだよな、だって前世で10年も辛い練習を続けられたのは結局のところ振り返ってみると楽しかったて思えてたんだからって分かってたから。

 

 そこのところ直接ちゃんと言ってくれる相島先生には感謝しかない。よし、気を取り直して頑張ろう。楽しんでな。体はすごく疲れていたが、足取りはとても軽かった。

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

 

 それから追い込み練習を一日挟んで、またその次の日は調整練習。そして、とうとう大会当日となった。海鳴市内の規模は小さいがそれでもそれなりの道場から参加者が集まる大会だ。ここ数日も相変わらず疲れた様子のなのはちゃんが心配になったがまぁ、他人を心配している余裕はない。すでに開会式を終え試合は続々とはじまり俺も会場入りをしている。今日は俺の家族だけでなく、高町一家やアリサちゃんやすずかちゃんも応援しに来てくれている。気合も一層入るという物だ。

 

「頑張ってね慎司君!」

「いっぱい応援するからね!」

「ま、せいぜい頑張んなさいよ」

 

 なのはちゃん、すずかちゃん、アリサちゃんから三者三様の激励を貰う。

 

「おう………」

 

 そう一言だけ言って。俺は帯を締め直してからアップに入った。そんな様子を見て少し驚く様子を見せる3人。

 

「やっぱり柔道やってる時の慎司君は人が変わるね」

「普段がふざけすぎなだけじゃない?」

「それでも真剣な慎司君は新鮮だよね」

 

 全部聞こえてるよバカたれども。わざとかな?集中させなさいよ全く。あー、少し緊張してきた。手足を動かしたりジャンプしたりして落ち着かない気持ちを誤魔化す。すると、トントンと肩を叩かれた。

 

「なのはちゃん?」

 

 いつもとは違って遠慮した様子で俺を窺うなのはちゃん。どうしたの?正直もうすぐ試合だからあんまり構ってられないんだが。そう口に出す前になのはちゃんが俺の顔を両手で包んでジッと見つめてくる。

 

「頑張れ、慎司君!慎司君なら大丈夫だよ、練習いっぱい頑張ったもん。だから、絶対大丈夫!」

 

 そう言って慌てたようにばっと両手を離して、邪魔してごめんねと言い残してそそくさと観客席戻っていった。

 

「………なっさけねぇ」

 

 緊張してるのを見透かされて小学生に励まされる29歳とか情けなさすぎる。恥ずかしい、いやまって超恥ずかしい。情けなさすぎて恥ずかしいんだが!まぁでも……。

 

「ありがとう…………」

 

 そこまでしてくれたなのはちゃんに、見せてやりたくなった。俺がかっこよく優勝する瞬間を。会場スタッフに名前を呼ばれる。さて、もう俺の番か………。

 

「やるぞっ」

 

 気合い直しに両手で自身の頬をパチーンと叩く。ジンジンとする心地の良い痛みと共に俺は一礼をして畳の上に立った。開始線まで移動し相手と相対してまた一礼。両足を互いに順に踏み出す。あとは審判の開始の合図で試合が始まる。

 小学生の柔道の試合は基本的に学年で分けられる事が多い。団体戦なんかはその限りではないが基本的に個人戦である今大会でも学年ごとに分けられて試合をする。

 しかし、本来一般ルールの柔道で適用される体重別で分ける事は小学生の大会ではあまりない。この大会も体重でクラス分けをしない為どうしても体格差は出る。相対する相手は俺の倍はあるんじゃないかと錯覚するくらいの小学3年生にしては巨漢と言える相手だった。

 俺は恵まれてると言うべきか、平均的な身長と体重の体型だ。対する相手は巨漢、しかも今大会の3年生の部での優勝候補というか優勝を確実視されてる相手だった。一回戦目から当たるとは運がいいのか悪いのか。だが、相手なんて関係ない………俺は俺の柔道をぶつけるだけだ。

 

『始め!』

 

 間に立つ審判の合図に互いに気合いの声と共に動き出す。真っ直ぐ直線にこちらに突っ込んでくる相手、俺はそれをいなして自分の優位な組み手に持ち込んだ!

 

「よし!いいぞ慎司!」

 

 近くの監督席から相島先生の声が響いたが生憎集中している俺の耳には届かなかった。

 

「っ!?」

 

 優位になるのも束の間、俺の道着を中途半端に掴んできた相手。本来この状態では力を発揮できず断然俺の優勢は崩れない。そのはずだった。

 

「オラァ!」

「なっ!?」

 

 相手選手の吐き出した声と共に俺は振り回されて宙を舞った。そのまま畳にうつ伏せで叩きつけられる。

 

「がはっ!」

 

 肺から空気が漏れる。何だ、何だ今のは!?何つー力だ。小学3年かこいつ本当に?馬鹿力も大概にしとけよ………こんなん柔道じゃねぇ。通用するのは低学年の間だけだ、そんな柔道スタイルだった。しかし、今の俺にはだいぶ脅威だ。何故なら相手は無理な組み手でも俺を力でねじ伏せられるほどの馬鹿力を持ってる。そこまでの力となるともはや俺の今の技術を動員させてもその馬鹿力で捻じ伏せられる。それくらいの力を感じた。

 

「くそがっ」

 

 1人静かに呟く。ふざけた柔道しやがって、しかもこいつ俺を叩きつけた瞬間嫌な笑みを浮かべやがった。完全に下に見てるな俺のことを。言いだろう、ぶん投げてやるよ。挑発には乗るな、あくまで冷静にだ!審判の待てがかかり再び開始戦に戻る両者。そして再び開始を告げる声で動き出す。また直線に突っ込んでくる相手。俺はさらに組み手争いを厳しく展開、今度は何もさせねぇ!

 完全に相手の組み手を封じ。俺のやりやすい状況を作る、しかし。

 

「ふん!」

「くっ」

 

 力尽くで振り解かれる。さらにその余波でバランスを崩して隙が出来てしまった。相手はそれを突いてガッツリ組んでくる。そして力と体重に身を任せた払腰を俺に仕掛けてきた。

 

「まずい!」

 

 相島先生の声が会場に響く。いや、やらせねぇ!俺は体捌きで相手の技の威力を殺して何とか持ち堪える。しかし更に力尽くでまた体を引っ張られうつ伏せで叩きつけられてしまった。審判の待てがかかり再び開始線に、すぐ開始合図はなく散々相手に振り回され乱れた俺の道着を整えるよう指示が。呼吸を整えながら道着と帯を直しつつ考える。

 さてどうするか、あまりにも体格差とパワーの差があり過ぎる。何だこのクソゲー、やってられるかと言いたいところだがそれも柔道という物だ。そして、本当に強い奴はそういう相手にだって勝つもんだ。思考を止めるな、相手に応戦しつつ考えろ。

 

「慎司君!!」

 

 試合の途中だってのに応援席のなのはちゃんの声が妙に鮮明に届いた。チラッと様子を伺うと父さんが母さんが……士郎さんが桃子さんが…恭也さんが美由希さんが……アリサちゃんが、すずかちゃんが、そして……なのはちゃんが必死に大声で応援してくれていた。

 馬鹿野郎が、情けない姿しか見せてない俺をそんな必死に応援するなよ。もっと………勝ちたくなるじゃないか。

 

『始め!』

 

 服装を整え終わるのを確認した審判がすかさず開始の宣言。

 

「いけーーー!慎司君ーーーーー!!」

 

 あぁ、なのはちゃん。よく見てろよ、驚かしてやる。

 なのはちゃんに後押しされ今まで相手の様子を見て動いていた俺は相手よりも早く動き出した。無謀にも見える正面特攻。

 互いにガッツリと組み合い五分五分の組み手に。しかし、相手はこれはチャンスと力尽くで先ほどと同じ払腰。普段から力と体重で投げていたのだろう………練度を感じない払腰だった。俺はそれを見越して振り回されるよりも前に自分が振り回される方向に跳んだ。

 

「っ!?」

 

 力を空回りさせて何の警戒もしてなかった相手は自身の行動で勝手にバランスを崩す。俺を振り回そうとした力はぶつけどころを失い相手から見て前のめりの形でバランスを崩す。

 柔道には『柔よく剛を制す』という言葉がある。柔道の技というのは相手の力を利用する事で小さい人でも大きい人を豪快に投げ飛ばす事が出来るという今の状況にはうってつけの言葉だ。

 相手が勝手に力を空回りさせた今、その反動を利用する。重量級が自分より小さな相手と試合するとき足技を警戒するのが基本だ。自分よりも大きい選手を大技で投げ飛ばすのは至難だからだ。小手先足技で相手を崩して投げる。それも基本にのっとった自分より大きい選手を相手にする時の基本でもある。が、あえて俺は大技を仕掛ける。襟を掴んでいた右手を相手の背中に回して自分の腰に相手を乗せて浮かせ、体を捻って相手から見て前に倒す大技、大腰だ。

 投げる方向にバランスを崩しているとはいえこの巨漢を大技で投げるのは至難だ。だが確実に一本を取るために大技で仕掛けた。そして確信があった。俺は、やれると。自信があったのだ。何故なら………いやというほど頑張ってきた辛い練習は…それを精一杯こなした事は自分が一番よく知っているから………それがその頑張ってきた分が、それで勝ち取った俺の技術や技は俺にとっての確固たる自信だからだ!

 

「おおおおおおおおおおお!!!」

 

 相手の体が持ち上がる、腕も腰も体全部を使って相手を背中から叩きつける!

 

 

 ドォン!

 

 

 その巨体が畳に叩きつけられ会場は一瞬静寂が訪れた。そしてすぐにどよめきに変わる。あの巨体を投げ飛ばした、しかも大腰で!そんな顔を柔道をよく知っている人達はしていた。そして

 

『一本!それまで』

 

 審判のその宣言を皮切りに会場から大歓声が響き渡った。まるで優勝したかのような大歓声。

 

「はぁ………はぁ……」

 

 あー、くそ。普段の何倍も疲れた気分だ。けど試合はまだ続く。切り替えて頑張ろう。しっかり礼法をしてから気持ちを一旦リセットして一度畳から降りる。応援席をチラッと見れば大きな拍手で俺を祝福してくれているなのはちゃん達。

 全力で取り組んでいることにこうやって全力応援されるのはとても嬉しい物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、一回戦以降の相手はその優勝候補の巨漢には遠く及ばず、俺はオール一本勝ちで念願の初優勝を飾った。

 






 柔道描写中かなり基本のルールやら説明を端折ったので経験者じゃければ分かんない所や何で?だ所があるかも。そもそも、俺の文才で伝わってるか不安であるがまぁそれはこれからも精進して頑張ろう。次回からちゃんとなのはちゃんが魔法少女すると思うのでよろしくです。

 話の途中のトレーニングや柔道についての言及は別に専門家の意見とかと同じかどうかも知らないので鵜呑みにしないでください。と言っても僕の経験則でもあるので嘘っぱちてわけでもないと思うのでそこら辺はご理解お願いいたします。

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