転生しても楽しむ心は忘れずに   作:オカケン

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奇跡は2つ

 

 

 

 

 

 

 

 親友である山宮太郎が逝ってしまってから2年後の春、未だその傷が癒えない太郎の2人の親友である優也と葉月は彼が眠る墓前へと来ていた。今日は別に命日でも何でもない日、2人は親友の死の現実を受け入れつつもこうやって何でもない日に墓へ足を運んでしまうくらいには引き摺っている。

 

「………………」

「………………」

 

 無言の時間が続くなか、2人の頭を駆け巡るのは3人一緒で幸せだったあの日々。彼の笑顔を思い出す、彼の優しさを思い出す。

 

「……ぐすっ、たろうぉ……」

 

 葉月はたまらず涙を流して膝を抱え込むようにしゃがむ、背中をさすってそれを慰める優也もまたその瞳は潤んでいた。

 

 

 

 

 

 しばらくそうしてからそろそろ帰ろうと2人して立ち上がるとふとこちらに向かってくる2つの人影が見えた。他のお墓ではない、明らかに山宮太郎の墓に向かってきている。太郎の両親だろうかと一瞬優也と葉月は思ったがすぐに違う事が分かる。

 男性と女性が1人ずつ、男性の方は年も自分達とそう変わらないくらいの年齢だと思われた。両手で丁寧に花を持ちながら2人で喪服を着ていた。

 

「こんにちは」

「ど、どうも……」

 

 男性の方に挨拶され、たじたじになりながら2人も返す。葉月も優也もこの2人の男女は誰だったかと必死に頭を捻るが思い出せない。

 

「失礼ですが……お二人は、山宮さんの?」

「ええ、親友です」

 

 何を聞かれているのか即座に理解し、優也がそう答える。

 

「それで、貴方は?」

「ああ、失礼しました。私は、過去に彼と柔道の試合で闘った者です」

 

 そう言われ優也も葉月もこの男性の事を思い出す。あの高校3年生の太郎の柔道人生を狂わせてしまったあの大会で決勝戦を闘った相手だ。そして隣の女性はその男性を必死に応援していた人であることも思い出す。

 優也と慎司大事な親友の大事な最後の夏の大会で応援に来ていたのだ。だから思い出せた。

 

 男性は2人の驚きの表情を受けながらも、頭を下げてから墓前に立ち花を供える。そして女性と2人で黙祷し手を合わせた。しばらくしてから目を開けて再び頭を下げてから優也と葉月に向かい合う。

 

「あの、失礼なんですが……どうして?ここに?」

 

 葉月がそう疑問を浮かべるのは最もだった。太郎と目の前の男性は同じ競技で闘っただけの相手だ。同じ学校の友人でもなければ仲のいい柔道仲間でもない。ハッキリ言うと繋がりは薄いはずなのだ。

 

「確かに、そう思いますよね」

 

 言いながら男性は山宮太郎の名が刻まれた墓を見る。

 

「………親友であるお二人なら彼がインターハイを棄権して柔道を辞めてしまった事は知っているでしょう。自分としては、それはとても残念な事でした。お互い真剣勝負をして、あんな結果になってしまったので、お互いに納得のできる終わり方が出来ませんでしたから、怪我を治して大学で頑張って今度こそ勝とうと決意した矢先に聞いたものですから」

 

 しかし、深い事情を知らないし交流があるわけでもない自分にはそれを止める権利なんかあるわけなく。心は納得出来ないつつも一度は山宮太郎の事を忘れて復帰できるようリハビリに専念していた。

 だが、病院を退院する直前。復帰の目処が立ってきた頃に彼は知ってしまった。姉が、もしかしたら山宮太郎が辞めてしまった原因の一旦を担ってしまったかもしれない事を。

 

 きっかけは見舞いに来てくれたチームメイトから前にも見舞いに来てくれた時にこの病院で決勝を闘った山宮太郎を見かけたと言われた事だった。詳しく日にちを聞くとその日は自分は怪我の手術で麻酔が効いて半日以上眠っていた日だった。

 そのチームメイトもそれで見舞いを諦めて帰ったらしい。その日は姉がつきっきりでいてくれたからそれとなく山宮太郎が来なかったかと問い詰めると姉は強い言葉を使って追い返した事を白状した。

 

 この時既に山宮太郎がインターハイを辞退し柔道を辞めた事は噂になり自分達の県の高校柔道界隈では有名な話になっていた。姉もそれを耳にしたそうで自分のせいで他人の柔道人生を狂わせてしまったかと思い罪悪感を感じていたらしい。

 

 姉は自分を大切に想ってくれてた分山宮太郎事を許せず、心配だった自分の手術後の時でもあったため普段より気が立っていたのだ。一瞬姉を責めそうになるがそれは抑える。

 姉が彼に言った事は間違っていたとはいえ自分を想っての事だと言うなら頭ごなしに姉を責めるのは解決にはならない。しかし、彼に謝りに行こうにも既にインターハイは終わり高校も卒業まで間近と言うシーズンだ。怪我が深刻だった為入院はここまで長くなってしまっていたのだ。

 進路も決まってるであろうこの段階では山宮太郎に今更謝らないって説得しようにも全てが遅い。それに、彼のその決断は姉の言動も一因にはなっただろうがそれが全部というわけではないだろう。

 

 1番の理由は恐らく………自分との試合そのものだ。張本人である自分がしゃしゃり出る事は出来なかった。

 

 それから男性は復帰して大学での推薦を受けた柔道部でマイナスからとはいえスタートを切った。必死だった、彼は自分で勝手に山宮太郎の分も頑張らないといけないとその無念を背負う事を選んだ。

 そうして必死にやり、選手として復活した彼に待ち受けていたのは山宮太郎の訃報だった。少なからずショックを受けたがそれでも柔道を頑張り続ける事を選び彼は大学2年にして日本チャンピオンにまで上り詰めた。

 

 今日ここに来たのはそれの報告と一つのケジメとしてだったと言う。

 

「自分は、これから世界の頂点に立つ為に今まで以上に柔道漬けの毎日を送ります。簡単にここに来れなくなる前に、ちゃんと自分の中で燻っているこの未練……山宮選手ともう一度雌雄を決する闘いがしたかったこの想いと決別しに来たんです」

 

 自分はもうただの柔道選手では無くなる。沢山の人の思いを背負って柔道をすることになる。だから、一度ここに足を運び……山宮太郎と決別しなければいけない。余計……とは思ってないがもういい加減この未練は捨てなければならないと思ったのだ。

 

「……………」

 

 彼の姉は弟が事情を話している中、時折太郎の墓に視線を送っていた。彼女は本来弟想いの優しい女性である。しかし、太郎には様々な不幸とタイミングの悪さで強く当たった事を彼女は未だ後悔しそれは一生とは言わずとも長い年月の間彼女の心に影を差すだろう。

 

 本当は優しい人だと知っているから、弟の男性は一緒に着いてこさせたのだ。少しでも罪悪感と向き合って自分と一緒に前に進んで欲しくて。

 

「……………」

 

 彼も事情を話し合えてから再び墓に視線を送る。彼は思う、もし山宮太郎に来世というものが訪れたのなら……再び柔道をやっているのなら、自分とは違う素晴らしいライバルに恵まれてほしいと。

 そんな突拍子のない事を考えていた。

 

 4人は再び黙祷し手を合わせて彼の冥福を祈った。4人が彼を慈しむ心に嘘はない、祈りを捧げる4人に春の暖かい風が吹き抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鳴り止まない歓声に後押しされながら何とか立ち上がる。ゆっくり、ゆっくりと開始線に戻り審判から勝利の宣言を貰って一度礼をする。いつもならここで畳の端まで下がり再び礼をするのだが足の痛みで倒れ込んでしまう。

 

「ぐううっ」

 

 痛みで悲鳴が上がるのを堪えつつ再び立ちあがろうとするが出来ない。シャレにならない、体はガタガタで足はもう完全に力が入らない。尋常じゃないくらい紫色に腫れ上がった左足を見て苦笑すらでなかった。

 

「く、そ……」

 

 最後までちゃんとカッコよく終わりたい。勝ったとしてもしっかりと礼をして柔道家らしく終わりたかった。だが、本当にもう自分の体は糸が切れたように上手く力が入らなかった。

 

「うん?」

 

 もがいて這いずるように体を動かしていると誰かに体を支えられながら立たせて貰う。そのまま左足に負担をかけさせないように俺の左側から肩を組んで松葉杖の代わりをしてくれる人が。

 

「神童……」

 

 息を切らせながらその人の名を呟く。神童は黙ったまま俺のペースに合わせて一緒に端まで移動し共に礼をする。会場はそのスポーツマンシップある行動に拍手が沸き起こっていた。 

 礼をしてからも畳の外まで運んでくれ会場備えの担架が来るまで俺を支えてくれていた。担架が俺の元まで来て医療スタッフに俺を受け渡すと同時に無言を貫いていた神童は俺にだけ聞こえる声で言った。

 

「………とてもいい試合だった、とても素晴らしい技と心意気だった。……次は負けない」

 

 そう振り返って俺から離れる神童の眼には悔しさから涙が滲んでいた。彼もまた全力勝つ為に努力を怠らなかった者なんだ。

 俺は言葉に出さずとも心の内で思う、最後まで俺に全力で試合をしてくれた事、怪我をした俺を侮らないでいてくれた事。素晴らしい最高のライバルで在ってくれた事に俺は深く感謝しながら担架に運ばれていった。

 

 

 

 

 それから先の事はよく覚えていない、担架で俺はすぐに意識を失ったからだ。限界の先の先までスタミナを使い切り、そもそもこの大会の準備期間で体も精神も酷使してきた事もあるだろう。さらに、試合を全部終えた事で張り詰めていた気力も切れた。

 次に俺が目覚めたのは病院のベッドの上、試合の為に固定したテーピングは外され代わりに固定具とぐるぐる巻にされた包帯。俺が事故した直後より厳重だった。更に固定具と包帯だけじゃなく俺が眠ってる間に手術でもしたのか太い針金のような物が足に何本か突き刺さってるし点滴も繋げられていた。

 針金は折れた骨が正規な位置からずれてしまってる時それを元に戻して固定する為の物だ。

 

 病院の病室というかこの空気にも見覚えがある。間取りは違うが恐らくなのはちゃんが入院していた管理局の病院だ。どういう経緯か地球の病院ではなく管理局の病院に運ばれたらしい。

 

 倦怠感を覚えながら上半身を起こすと体の節々に痛みが走る。情けないながらこれは酷い筋肉痛だ。まぁ、仕方ないか……数ヶ月ぶりにまともに柔道をしたからな。

 

「俺……やり遂げたんだよな」

 

 決勝戦を思い出す、意識は朦朧としていたけどあの時確かになのはちゃんは言ってくれた。もう諦めないと、頑張ると。そして俺は約束通り優勝を果たした。奇跡を起こした、沢山の人に心配をかけて中には泣かせてしまった人達もいたがそれでも俺はやり遂げたんだ。

 

「勝ったぜ、優也……葉月」

 

 この勝利は、2人の親友にも届けてあげたかった。ずっと俺に柔道を辞めることを反対して後押ししてくれようとしてくれていた親友に、俺の勇姿と2人への感謝の印として。だが、その思いは届かない。それでもいい、今の俺は胸を張ってこう言えるのだから。

 

「………俺は、胸張って生きてるぜ。これで少しは2人にも顔向け出来る俺になれたよ」

 

 山宮太郎としての人生悔いは消えないけどそれを取り戻せたと思えることを成し遂げた。それだけでも十分満足なのだ。

 

 

 感慨に耽っていると扉からノックが。俺はまだ眠っていると思われたのか返事をする間もなく開けられる。

 

「あら……」

「あっ…」

 

 訪問者は2人、車椅子を押す桃子さんとそれに座るなのはちゃんだ。

 

「よっ、なのはちゃん」

 

 感動的な対面と思うが俺はいつもの調子でそう軽げに口を開く。対するなのはちゃんは色々感情が溢れて面白い表情をしていたがそんな俺の態度を見て全く…と言った様子で息を吐いてから

 

「………おはよう、慎司君」

 

 そう、穏やかに言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

 桃子さんは俺の両親に連絡と医師の先生を呼んでくると言って一旦部屋を出た。しかしまぁ、あの表情を見るに積もる話もあるだろうからしばらく2人っきりにするわね♪って感じの雰囲気出してたからしばらくは戻って来なさそう。

 そう言うわけでなのはちゃんも2人っきりなわけだがいかんせん何から話していいか分からない。とりあえず現状を聞こう。

 

「ここは、なのはちゃんが入院してる病院だよな?」

「……うん、慎司君が眠っちゃってからは慎司君のご両親が直接ここに連れてきたみたい」

 

 魔法での治療は恐らく例の拒否反応とやらでもう少し時間が経ったら受けれると聞いたがまだそれは先の話だろう。まぁ、ここに連れてきた理由はおおよそ予想がつくが。

 

「慎司君、丸3日も眠ってたんだよ?」

「え、マジで?」

「マジだよ」

「でじま?」

「でじま」

 

 それは予想外、長くて一日くらいしか経ってないと思ってたが。更に話を聞くとやはり俺は足の手術を受けたらしい。なのはちゃんは詳しく聞かされてないのでどういう手術でどうなったかはよく分からないが少なくとも車に撥ねられた直後より酷い状態というのは間違い無いだろう。

 

「ははっ、まぁ……しばらく頑張りすぎてたし……いい休養にはなったか…」

 

 そう思う事にする。これから俺もこの怪我と向き合って色々しなくちゃいけないだろうがそれはともかくだ。3日も経ったのならもうなのはちゃんのリハビリが始まってる筈だ。

 

「リハビリ、もう始まってるんだよな?」

「うん……今日のリハビリは終わって戻ってきた所だったんだ」

 

 そう言うなのはちゃんはちょっと不器用に笑う。言うまでもなく辛いだろう。俺の骨折時のリハビリとはえらい違う筈だ。痛みも辛さも異次元だろう。それでも、不器用でも笑顔を浮かべるなのはちゃんを見ると全くそれに挫けてはいなかった。

 まだまだこれからだと言いたげな雰囲気でもあったのだ。安堵のため息が溢れる。まだ始まったばかりだけどきっとなのはちゃんは最後まで頑張れる、元々なのはちゃんは強い子だ。俺の余計な事をしなくても1人で勝手に立ち上がってたんじゃないかって思う。

 

「………」

「………」

 

 

 無言、しかし居心地が悪いわけでなく互いに何を言うべきか何を聞くべきか考えてる。俺の起こした行動についてまだ2人で突っ込んだ話を出来てない。互いに気恥ずかしいのだ。

 

「…………慎司君」

 

 そっと手を握られる。するとなのはちゃんは車椅子からベッドの俺に体を預けてきた。照れるわけでもなく、ただ穏やかにそうやって甘えるように。

 

「………私ね?慎司君が無理して試合をしてる所見てる時不思議だったんだ」

「何が?」

「どうしてそんな風に笑っていられるんだろうって、どうしてそんなに強がれるんだろうって」

 

 体を預けたまま優しい口調でなのはちゃんは言葉を紡ぐ。

 

「でもね、今なら分かるんだ。慎司君は強がってたんじゃなくて、強いからそういう風にいられたんだって」

「…………強いかどうかはともかく、いつも俺は強い人で在りたいとは思ってるよ」

「ふふっ、もう十分過ぎるくらい強いよ慎司君は」

 

 この口調はどこか誇らしげだった。

 

「………慎司君が目を覚ましたら言いたい事いっぱいあったの」

「言いたい事?」

「うん、どうしてそんなに無茶するのっ、とか……謝りたかったりと色々」

 

 でもね、となのはちゃんは続ける。

 

「どれも何か違う気がして、慎司君に私が伝えたい事は何だろうってちゃんと考えたらね。わかったんだ、だから聞いてくれる?」

 

 俺に何を伝えたいか。何を言うべきか。俺は断る理由は勿論なく笑みを浮かべて頷く。

 

「私はね……高町なのはは慎司君が思ってる私より強くないと思う、心も体も……でも……私は慎司君の想像以上に強くなってみせる」

 

 そう言うなのはちゃんの顔は決意に満ちていた。重傷を負い、体も心も傷を負っていたなのはちゃんとはえらい違いだった。

 

「ただがむしゃらに頑張るんじゃなくてね、普段の慎司君みたいにちゃんと考えて頑張るの、今回の事は反省して、この失敗を次に活かす……そうやって私は成長してみせる。それでね?夢もできたんだ……」

「夢?」

 

 以外な単語につい聞き返してしまう。

 

「私は魔導師としてこれからどんどん強くなって、どんどん成長して、沢山の人を助けて、沢山の事を経験する。そんな私の失敗や経験を、沢山の人に教えてあげたいの」

「教える……魔導師の学校の先生みたいな?」

「うんっ!私ね、教導官を目指そうと思うの」

「教導官……」

 

 地球の警察学校なんかでよく聞く言葉だ。新米魔導師……新米じゃなくても自身の経験を伝え、教え、学ばせて成長を促し、その魔導師のこれからの活躍の足掛かりを作ってあげる。

 

「……いい夢じゃないか」

「慎司君?」

 

 そう、呟く。自然と何故か涙が溢れた。何でだろう、何で……なのはちゃんのこれからの目標を聞いただけなのに……何で涙が……。ああ、そうか……未来の話を聞いたからだ、なのはちゃんが語った自分の夢……その過程も全部、その内容は自分の体をちゃんと治して元通りになった事が前提だった。

 つまりだ……わざわざ言葉にしなくてもなのはちゃんは今の現状を乗り越えるつもりというより、乗り越えるとそう言いたかった部分もあったんだ。

 

 今のこの苦しみや辛さは夢を追う自分阻む壁でそれを乗り越えて未来を歩むと言ったんだ。

 

「ああ、よかった……」

 

 会場でなのはちゃんの誓いは聞いた、だけど……そうやってもうなんでもないそんな風に強がってくれるなのはちゃんを見て俺は自分の行いが本当に報われたと実感したんだ。だから、それが嬉しくて涙が止まらない。努力の先に……掴むことが出来た結果がここにあるのだ。

 ………苦しい日々だった、けど頑張ってよかったっ。

 

「慎司君……」

 

 俺のそんな気持ちを汲めたのかなのはちゃんは俺が突然涙を流した事に驚きはせずに俺の頭を抱えるように抱きしめてくれる。慰めるべきはまだ俺の筈だが、俺は流れる涙を止められなかった。

 

「こうやって夢を持てたのも………今頑張ろって思えるのも……全部乗り越えて未来で私が元のように歩いて、魔導師として翔べることも……全部全部、慎司君のお陰だよ?慎司君が頑張ってくれたから、私に見せてくれたから、私にとって1番カッコいい人になってくれたから………ううん、今回だけの事じゃない」

 

 なのはちゃんの声は少し震えて涙声になる。

 

「あの時、初めて出会った時に私に声をかけてくれたから」

 

 あの出会いは、俺だって忘れないだろう。

 

「私に、いつも寄り添って支えてくれたから」

 

 どこか放っては置けなくて、お節介でもなのはちゃんを支えてあげたいって思ってたんだ。

 

「励ましてくれて、助けてくれて、側にいてくれて………救ってくれて、ありがとう……」

 

 俺もなのはちゃんも泣いていた。

 

「私が今こうやって笑っていられるのも、頑張ろうって思えるのも全部慎司君のおかげです……カッコいい慎司君が私を想ってくれたおかげです…」

 

 俺だってなのはちゃんのおかげで、頑張れてるんだ。君が俺に温かい言葉で励ましてくれるからいつも俺は頑張れるんだ。俺だって君にありがとうと伝えたいんだ。

 

「………いくら言っても伝え足りないくらい感謝してます……ありがとうっ……ありがとうっ……慎司君、ありがとう……………………大好きっ」

 

  俺達は、ただ涙を流して抱きしめ合う。そこには邪な考えなど一切なく、ただ互いを想い合う親友同士の触れ合いがあった。

 

 俺は確信していた、なのはちゃんはきっと大丈夫だ。奇跡の復活を遂げるだろうと。頑張った先にまた未来は決して自身が望んだ結果とは限らない。しかし、自身が望んだ結果を求めるならやっぱり頑張ることは必要なのだ。

 

 例え報われなくても努力は決して無駄にはならない。必ずその頑張りは何かの形で報われる。綺麗事だろう、しかし俺はそれを信じてるし信じられる。人は頑張る生き物だ、頑張り続けた先にしか望んだ未来がないから皆頑張って生きてる。

 一日一日を精一杯に生きてるのだ。それは確かな事で事実だ。だからなのはちゃんは、大丈夫だ。そう本心に思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………。

 

 

 

 それからしばらく経ってお医者さんと両親が駆けつけてくれた。医師は事故をした時に俺の怪我を診てくれた母さんの知り合いの先生だった。すぐに俺は色々な精密検査を受けて容体を聞く事になる。

 

「左足の骨は前回の事故の治りかけがまた綺麗に同じ箇所が折れたみたい。それだけなら良かったんだけど無理に左足を使ったせいで俺な骨は正しい位置からだいぶ外れてたわ。足に刺さってる針金はそれを固定した手術の結果ね。骨が固まるまではそのままよ」

 

 と、少し怒気を含んだ声で言われる。まぁ医者として俺が行った事は許し難い事だろうから仕方ない。両親もよく絞られたようで苦笑を浮かべていた。こうやって俺は自分勝手な行動をしたツケを今後は払わないといけない。

 怒られるのもそう、俺のせいで迷惑をかけた人達に謝るのも、悪化した怪我と向き合うのも。

 

「それと、折れた骨が周囲のあちこちの神経を傷つけていたわ。幸い靭帯とかには影響ないけど歩けるようになるまでかなり時間がかかるから覚悟してください」

 

 と、言われてしまう始末だった。重度なものはなくても最悪軽微な後遺症は残る可能性はあるらしい、と言ってもほんの少し間接が固くなるとか動かすのにそこまで気にならないほどの違和感を感じるとかその程度。

 といっても、なのはちゃんにああ言った手前俺も勿論完全治癒を目指して頑張るつもりだ。よく食って良く寝て、来るべきリハビリも頑張る。大人しくしなきゃいけない間はなのはちゃんのそばでなのはちゃんの頑張りを応援しよう。

 

 退屈な入院生活に逆戻りと思ったが、病院側の配慮でなのはちゃんの病室と真隣な為互いに車椅子に乗せてもらいながらしょっちゅう会っていた。見舞いに来てくれる皆んなも2人一緒に出来て一石二鳥というやつだろう。

 そうそう、俺が病院に担ぎ込まれてすぐの頃。見舞いに来てくれた皆、応援してくれた皆んなにはちゃんと詫びをいれた。特に怪我をよく理解してるシャマルに泣きつかれてしまったのは心が痛かった。

 彼女は最後の最後まで俺の体を気遣い本心では試合に出る事に否定的だったんだ。だから俺はシャマルに言った。

 

「約束するよシャマル、俺は絶対にこの怪我を後遺症も残さずに治す。必ず復帰して完全復活を果たしてまた来年の全国大会も優勝してみせる。絶対だっ」

 

 口先だけの言い分だけどそれでも俺にはこの約束を守らなきゃいけない理由がある。それを果たす事で本当の意味でハッピーエンドなんだ。俺だって犠牲になるような形にするのはごめんなんだ。絶対に治す、自分と皆んなに対して誓ってみせた。やっぱり皆んな仕方ない奴だと苦笑を浮かべている。

 

 諦めてくれ、俺はそう言う人間だ。だけど、必ず皆んなを曇らせた分の笑顔は取り戻す。荒瀬慎司の人生には俺と俺にとって大切な人達との笑顔が必要なんだから。

 

 

 

 

 

 

…………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月日は巡る。

 

 今日もなのはちゃんはリハビリを頑張っている。両手で手すりを支えにしながら脂汗を流して必死な脚を使って歩く。数メートル進むのに10分くらい掛かるがこれでもかなり速くなったのだ。1時間かけてもダメな時はあった。しかし彼女は歯を食いしばって毎日毎日頑張っている。諦めてたまるかと気迫を見せながら。そんな彼女の首には病院には似つかわしくない立派な金メダルを下げている。

 全国大会で俺が勝ち取った金メダルだ。俺がお守り代わりに体が治るまで預かっててくれと渡したものだ。病室にでも飾って励ましにでもなればいいと思っていたのだが彼女はリハビリの時にいつもその金メダル首に下げる。なのはちゃん曰くこれを身につければ喝を入られてる気分になるからと。

 

 なのはちゃんがそう思えるならそれでいい。俺は変わらずそばで応援するだけだ。

 

「頑張れなのはちゃん!なのはちゃんなら出来るぞ!!負けるな!自分に打ち勝て!ファイトォーーーっいっぱぁーーつ!!」

「荒瀬君、一応病院なんだから静かにしてください」

「うおおおおおおおおお!!!気合じゃあああああああああ!!!」

「慎司君っ、恥ずかしいよぉ……」

 

 叩き出されたのは言うまでもない。しかし俺は毎日のリハビリに顔を出して声援を送り続けた。医者も俺の声援を受けた方がなのはちゃんのリハビリの調子がいいらしく、仕方なく煩くなるまでは放置してくれてる。

 

 そんな風に毎日をなのはちゃんやお見舞いに来てくれた皆んなとと過ごし俺にもリハビリを解禁される日が来る。なのはちゃんに比べたら屁でもないと嘯いて俺も必死に努力した。

 

 互いに応援し合い、励まし合い、多くの人に支えられ、多くの人に助けられて俺たちは頑張り続けた。約束を守るため、自身の努力を信じてただただ前を見て。

 

 

 

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 長い月日が経ち俺たちはとうとう小学校を卒業する。クラスメイト達と卒業式の感傷に浸りながらも学校を後にし、俺達は帰路を歩く。すずかちゃん、アリサちゃん、フェイトちゃん、なのはちゃんと学校は違うけどわざわざこっちの卒業式にまで顔を出してくれたはやてちゃんと小学生としての思い出を語りながら。ふと、なのはちゃんが時計を見て慌て出した。

 

「あ!私もう行かないとっ!」

 

 なのはちゃんは卒業式の日まで管理局の任務があるようだ。慌てた様子で淀みなく走るなのはちゃん。まぁ、中学も今度ははやてちゃんも交えて一緒な訳だしクラスメイトも殆どが一緒だ。寂しさは感じない。

 

「気をつけて行ってこいよ」

「うんっ!慎司君も練習頑張ってね!」

 

 俺の言葉に笑顔でそう返すなのはちゃん。走って、きっと転移して任務先でまたいつものように空へと羽ばたくだろう。後遺症も残さず完全復活を果たした高町なのは今日も絶好調だ。

 

「慎司、気をつけてね。また事故に巻き込まれたらダメだよ?」

「おうフェイトちゃん、流石にあの時は脚を虐めすぎたからな。体はちゃんと大切にするさ」

 

 そう言って俺もなんとなく走り出して道場へと向かう。その足は真っ直ぐに淀みなく、なんの違和感も障害も感じず。

 

 

 

 奇跡は起こせる……いや、奇跡じゃない。頑張った分の報酬を俺たちは受けとっただけなんだ。頑張ったから今の俺たちがあるんじゃない。今の俺たちを取り戻すまで頑張る事を辞めなかった………ただそれだけなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 終わりっぽい雰囲気ですが空白期編はもうちょっとだけ続きます。数話くらいで済むかな?その後はいつもの幕間を挟んでからsts編に移行します。

 今話、最後の方駆け足になってしまったのは反省反省。

 なのはちゃんは原作と違い慎司君の応援パワーと励ましと気合で後遺症残らなかったって事で一つ。まぁ、気持ちって大事なんだぜって事でまた一つ。
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