…………あ、僕はアイアンマンが好きです
夏の日差しが辺りを照らし、騒がしい蝉の鳴き声が響き渡る。中学2年の夏、高町なのははうだるような暑さの中でも爽やかな気持ちで歩みを進めていた。学生の夏といえば夏休み、なのはは管理局員としてより一層任務に励みつつも折角の夏休みだから思い出作りにも積極的だ。
いつものメンバーだったりそれに加えて普段あんまり来れない人達も交えたりと様々だ。海に行った、プールにも行った、キャンプもした、旅行もした。あれ?凄く遊んでる。よく考えたら全部発案者は慎司君だった、彼ならそんな過密スケジュールもうまく運んで楽しませてくれたのは流石の一言だ。
そんな彼も珍しく柔道の練習から一旦離れて休みを謳歌している。夏休み前に中学生全国大会に臨んだが決勝でライバルである神童に敗れてしまった。凄く悔しがっていたけどとても清々しい顔をしていたのを覚えてる。今は全国大会の為に追い込みに追い込みをかけた体を休めて再出発するための休みと言っていた。
夏休みも中盤に入り管理局から1週間の休みを命じられたのが昨日の事。労働基準とかそういうので有給が溜まっていた私はそれを消化させる為に強制的に休みを言い渡された。ならばみんなと時間を合わせて遊びたいなとまだまだ13歳のなのはは思う。
ちょうどよく今日は夏休み期間中にある一度だけの登校日だ。通学路でフェイトちゃん達と合流して談笑しながら登校する。慎司君はちょっと野暮用で遅れるから先に行ってくれと連絡があった。なんだか既視感を覚えたけど気にせず言う通りにする。
「今日も暑いねー」
「ねー」
他愛もない話をしつつもなのはは思う。ああ、充実してるなと。充実した夏休みを過ごせているとなのはは自負があった、それはそうだろう昨日までは一生懸命に任務に励みながらも皆んなと沢山遊んだ。今日からはしばらく管理局の任務もお休みで皆んなとの思い出作りが待っている。
慎司君の事だ、きっとまた何か楽しい事を提案してくれるに違いない。それだけは謎の信頼感があった。
学校に近づいてくると見知ったか顔をチラホラと見かける。クラスメイトの子だったり知ってる同級生や後輩や先輩だったり、男子は日に焼けてる肌がよく目立っていた。私も大丈夫かな?と、今更ながら腕やらを確認する。そんな事をしていればあっという間に学校に到着、教室についてもみんなと談笑して時間を待つ。
「慎司君はどないしたんやろな?」
「用事って言ってたけどどうせ登校日の事忘れてたんじゃないの?」
呆れた様子でそう言うアリサちゃんに私もそうかもなんて思っていた。時間は迫るが慎司君はまだ来ない。
「連絡……もまだ来てないね、遅刻しちゃうのかな?」
「珍しいね、慎司は遅刻しそうで基本的には絶対しないし」
あんなにちゃらんぽらんに見えても実はしっかりしてる慎司君。そのギャップにいつも振り回されてるけど珍しい事に遅刻しそうなのだとすると大丈夫かな?と、少し勘ぐってしまう。
結局先生が教室に入ってくる頃にも慎司君は来なかった。
登校日はホームルームで終わりだからすぐに解散となるだろう。元々学生達がハメを外し過ぎてないかチェックする為のものだ。だから慎司君は遅刻どころか欠席になっちゃうかなと思っていたその時だった。
ガラガラガラと乱暴に開け放たれる教室の扉。そこに立っているのは紛れもなく慎司君だった。よかった、欠席にはならずに済んだと胸を撫で下ろす。しかし慎司君の様子がおかしかった。
「………………いだっ!」
「え?」
よく見たら慎司君の後ろ……廊下に何か沢山人がいる。それはここの生徒だったり先生だったり……なんでスーツを着た知らない人がいっぱいいるの?絶対この学校の関係者じゃない人も混ざってるよね?
あれ?嫌な予感。
「メイド革命だああああああああああああああああ!!!!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』
「うにやぁああああああああああああああああ!!!」
なのはは奇声をあげて卒倒した。
…………………………………。
高町なのはは激怒した。必ずかの………かの……何だっけ?と、とにかく!
「もういつもみたいな事にはさせないんだから!」
高町なのはは燃えていた。いつもかのメイド騒動の際に1番の被害に遭っていると過言ではないと思っている。主に精神的に色々っ!
「なのは、もうああなった慎司は放っておいた方が……」
「ダメだよフェイトちゃん!慎司君が変な事しないようにさせるのも幼馴染の役目な気がするから!」
「え?なにその使命感」
ちょっとびっくりするフェイト。場所は保健室からグラウンドへ向かっていく所。メイド教祖慎司の出現でホームルームは即刻終了し、ショックで気絶したなのはをフェイトは保健室に運んだ。ちなみにアリサちゃん達は慎司の監視をする為今は別行動中。程なくしてなのはは目覚めて事態を理解するともういつもの二の舞にはならないぞと燃えていたのだ。
「慎司君から借りた漫画にそんな感じの事書いてあったの!『ざまぁ』系作品って言ってた。幼馴染の女の子が主人公の男の子をこっ酷く振るところから始まるの!」
なんてもの読ませてるんだあのバカはとフェイトは思う。ちなみになのははまだ序盤しか読んでないがその後その幼馴染は転落人生を歩む事になり酷い目に遭う。慎司はその時どんなリアクションするのか気になって貸したのだ。
それはともかく
「で、でもなのはいつもこういう時酷い目に遭ってるしほとぼりが冷めるまで……」
「ううん、今回の私は一味違うから、あれから私だって成長したんだもん。もう慎司君に色々言われたってへっちゃらだもんね!」
この間の体育祭で私に泣きついてきたのはどこの誰だったか、フェイトはでかかった言葉を何とか飲み込んだ。というか何でなのはこんなにも積極的なんだろう?ついていきながらなのはの顔を覗き見る。
あ、目がすごく濁ってる。見なかったことにした。
「いつもは後手に回って酷くなってるからね!先手必勝、規模が大きくなる前に叩くよ!」
今は管理局の任務中じゃないよなのは。
……………………………………。
「いいかぁ!!これ以上奴らの侵攻を許してはならない!俺達メイド教団に地球の未来がかかってるんだ!!」
『うおおおおおおおおおおおお!!!』
学校のグラウンド、今回も規模が大きく慎司は謎の演説に勤しんでいる。
「俺達に求められてるのは団結力だ!!誰一人気持ちが揺らぐような事があってはならない!そこのお前!名を名乗れ!」
「はっ!自分、山下達郎!27歳独身!」
「達郎!何か元気がないじゃないか?どうした?」
「先日……恋人と別れたばかりなんです」
「そうか、それは大変だったな。どうしてそんな事に?」
「彼女と交際して数年が経ち……自分は打ち明けたのです……メイド服を着て御奉仕してほしいと!!」
「よく言った!それで?」
「ですが……彼女は私の気持ちを理解してくれずそれどころか……ううっ!」
サラリーマン風の格好をした達郎は泣き崩れるように膝をつく。ちなみにこの男、今日は会社を無断欠勤である。
「そうか……辛かったな。しかし俺達はお前の勇気を称える!皆んな!達郎にはエールを!」
「よくやったぞ達郎ー!」
「そうだよ!お前みたいな奴が同士でよかった!」
「きっとお前のメイド好きを理解してくれる女だって見つかるって!」
「み、皆んな……おおおおおおお!!ありがとう皆んな!ありがとう教祖慎司!」
おおおおおおおおおおおおおおっ!
「なぁにこぇれ?」
「アリサちゃん?」
「はっ!目の前の光景が謎すぎて一瞬頭がバグってたみたい」
「うん、気持ちは分かるから私も否定できひん」
何だこれはとアリサとはやては思う。隣のすずかはもはやツッコムのを諦めて何も言わない。いや、言いたくないのだ。少しでも関わったら自分がおかしくなってしまうと恐怖を感じていた。
「今回も長くなりそうね……」
「せやなぁ……流石にあそこに飛び込むのは嫌やなぁ…」
ちなみに前回の解決策となったメイド服姿のリィンフォースは既にはやてが連絡をしてこさせて試している。結果は見ての通り効果はなかった。何か今回はそういう事じゃないんだ!っと慎司が叫んだ事を思い出す。
どうしたものかと考え込んでいると
「コラーーーーー!!慎司君ーーー!!」
さっき一瞬でログアウトしたはずのなのはが勇足で慎司達に近付きながら叫ぶ。
「あれ?なのはちゃん、起きたんや」
「でも何か様子が変よ?」
「何かフェイトちゃんが必死に止めようとしてるけど……全然止まる気配ないなぁ」
「あ、フェイト諦めてこっち来たわよ」
困り顔のフェイトを出迎えてどうしたのと事情を説明してもらう。ただ説明と言ってもただなのはが目覚めたら何故か慎司を止めるという使命感に燃えていたとしか言えない。
「ははーん、メイド騒ぎについてはなのはちゃんも相当ご立腹のようやね」
「後なんか慎司から借りた漫画に影響されてるみたい」
「漫画?」
「うん、女の子の幼馴染が出てくるざまぁ系って聞いたらしいけど」
「あー………」
はやては心当たりがあるようでちょっと苦い顔をした。幼馴染の女の子が主人公の告白をこっ酷く振っておいて今までのように付き纏おうとする奴だったか。こっ酷く振った割には主人公には自分がいなきゃダメって謎の使命感を覚えてる奴。
あの感じだとなのはちゃんは最後まで読んでないなとはやては睨んだ。なぜなら最後は幼馴染は主人公の大切さに気づいて告白をし返すのだけど既に主人公には自身を慰めてくれた別の女の子と交際しておりショックを隠しきれない幼馴染に「もう遅い」と言い渡し、その後の幼馴染の人生は悲惨なもので終わる。
何で悲惨になったかはよく分からなかった。とりあえず作者からはこいつは絶対に不幸にしなければならないと怨念めいた者を感じたのは確かだが。昨今はそんな感じの作品が流行ってるって慎司君言ってたけど本当だろうか?とはやては思う。家でシャマルが楽しげに読んでたのは見なかった事にしておこう。
「って、漫画の事はええねん。なのはちゃん大丈夫か?」
と、勇足で慎司達の集会の輪に入っていくなのはを一同は見守る。
「慎司君!ダメだよこんな所でまた騒いで!中学生になったんだからいい加減お馬鹿な行動は控えないとだよ?」
おお、真っ当な事言ってちゃんと注意してるなと感心する。一方慎司達メイド教団は目を閉じて考え込むように難しい顔をしていた。
「慎司君、別にメイド好きな事を怒ってるんじゃないんだよ?慎司君の趣味だもん、私がどうこう言う権利ないしそういうのは人それぞれだってちゃんと理解はあるつもりだよ?………ね?だからこんな事やめて解散しよ?偶にだったら私も頑張って慎司君のメイド談義聞いてあげるから」
「………………」
「そ、そんなに難しく考えなくていいんだよ?何もメイド趣味やめてって言ってる訳じゃないから。どうしても…どうしても我慢出来なくなったら誕生日とかお祝い事の時とかに私が……着てもいいよ?」
結構勇気ある事を言ったなとフェイト達は思った、しかしこの流れは不味い。基本的になのはがメイド服云々の話になると大抵泣かされてるのだ。
「………あ」
慎司は突然目を見開いてポツリと声を漏らす。なのははグッと体に力を込めて警戒した。
「(くるっ……でも大丈夫だもん。いつもの慎司君達ならちんちくりんとかそんな事ばっか言ってくるけどもうそんな言葉じゃ動じない、高町なのはは成長したんだ。皆んなに支えられて、そして目の前の慎司君にも支えられて、そのおかげで今の私があるんだ!だから、何を言われたって今の私には不屈の心が……)」
「あれ?なのはちゃんいたの?」
「うわあああああああああああああああああああん!!!」
成長とは何だったのか。脱兎の如く駆け出してフェイトの胸に飛び込んで泣き叫ぶ高町なのは。あ、ちょっと胸が大きくなってる羨ましい……と変な思考に一瞬引っ張られるがやはり泣き叫ぶ。
「私勇気出したのにいいいい!!本当はすごい嫌なのにメイド服着てあげるとか言ってあげたのにいいいいいい!!」
「あ、やっぱり嫌だったんだね」
「嫌だよぉ!慎司君にはああ言ったけどメイド好きの趣味とか本当はちょっとやめてほしいもん!」
なのはの本音にフェイトは苦笑しながらよしよしと頭を撫でる。不屈の心とはなんだったのかさっきの威勢はどうしたのか色々問いたい事が沢山あったが親友であるフェイトは聞かないであげる事もその人にとって大切な事だと理解していたり。
「うわあああああんっ!!慎司君のおたこなすーーーー!!おばかー!!ばかぁーー!!」
「悪口の語彙力の無さはなのはちゃんらしいなぁ」
皆で、うんうんと頷いて同意したのであった。
……………………………。
結局集会は止められる事なく続いてる。しかし妙だと一連の流れを見てきたアリサは思った。いつもなら街へ繰り出し人数を増やしてくるのだが現状は学校のグラウンドに留まり演説をしている、かと思えば時折考え込むように黙ったりも。
アリサだけじゃなく遠巻きで慎司を見張ってる全員が思っていた。すると学校の外から慌てて慎司の元へ走ってくる見知らぬ人の姿が見えた。
「大変だ大変だ!!教祖慎司!大変だぁ!」
「なんだ!?どうしたんだ!」
「奴らが……奴らがここまで来たぁー!!」
「なんだと!?」
「奴ら?」
「誰の事だろう?」
「何か……嫌な予感がしてきたわ……」
アリサ達も何だか異様な空気を感じ取る。
程なくしてグラウンドに向かって軍隊の行進のように大人数で向かってくる謎の集団が見えて来る。全員白を基調としたスーツのような物を身に纏い規模に関しては慎司率いるメイド教団よりも大きい。
しかしメイド教団と同じで集まる人々の年齢層はバラバラであった。その異様な集団を率いるのは神輿のようなものに担がれた同じく白いスーツを着たサングラスでスキンヘッドの男性。
歳はおおよそ20台真ん中くらいと言ったところから。見た目は完全にヤクザであった。
集団はメイド教団と相対する形で立ち止まりサングラススキンヘッドは神輿から降りると叫ぶ。
「俺達は『バニーガール推進組』!俺は組長の
見た目に反して名前の響きは可愛かった。
「俺はメイド教団教祖、荒瀬慎司だ」
対して慎司も前に出て宇佐田と相対する。
「お前が荒瀬慎司か、噂は聞いている。生意気なガキが勢力を広げてるって噂をな」
「お前こそ、俺達の領土にそんな大人数で土足で踏み込むとはいい度胸じゃねぇか。宣戦布告と捉えられても言い訳できねぇぞ」
「え?何?バニーガール?」
「今度はバニーガールかぁ……」
「あかん、日本の未来が心配になってきたわ」
バニーガール推進組と名乗り、そのリーダーである宇佐田耳雄は慎司の言葉を鼻で笑う。
「それに最近のお前達の噂だって聞いてんだぜ?不可侵条約を破ってあちこちで強引に活動してるってな。『ナース服の女の子に治療されたい団』と『女性警察官に取り調べされたい団』が泣きついて来てたぜ?」
「どんなグループやねん」
「類は友を呼ぶ……」
はやて達のドン引き具合は天元突破しそうである。というか不可侵条約とか言ってたけど何?そんな感じの団体がまだ日本中のあちこちに存在するのか?そう考えたら身の毛がよだつ思いだ。
「はっ!不可侵条約だと?甘い事を抜かすな、貴様らが仲良しごっこしてる間に俺達は日本の半分をもう支配した………残る大きな勢力メイド教団だけ……貴様らも飲み込めば日本は『バニーガール推進組』が支配するのだ!!」
「半分はもう支配されてるらしいよ」
「海外逃亡……いや、もうミッドに引っ越そうかな……」
「なのは、まだ早いよ。中学卒業までは地球にいないと……」
もうなのは達は話についていけなかった。というか聞きたくもなかった。
「そんな事はさせない、人は自由だ……お前らにように個人の好みを捻じ曲げて同一化させるような布教のやり方に待ってるのは地獄だよ。洗脳と変わらない」
「ふん、そんな悠長な事を言っているから……お前は自身の仲間もやられるのさ」
「何?」
「おい!アイツ連れてこい」
耳雄が下っ端にそう指示すると数人係で誰かが連れてこられ乱暴に地面に投げ捨てられる。
「うぅ…」
「ど、土太郎っ!?」
慎司はすぐに土太郎に駆け寄った。土太郎は外傷はないものの憔悴しきった表情をし何より見てくれは完全に違和感があった。なぜなら………
「土太郎……何で……何で、生粋のメイド好きのお前が……バニーガールを着てるんだああああ!!」
「うわぁ………」
もう勘弁してくれと言いたげにすずかは本気で嫌そうな声をあげた。
「すいません……教祖慎司…僕は……僕は…、耐えたんです。奴らの拷問に、誘惑に耐えたんです……僕は教祖慎司の同志……同じメイド好きだから……」
「土太郎……」
「ですが奴らは……そんな僕に業を煮やして…無理矢理……バニーガールをっ…」
「土太郎……っ!くそっ!貴様らああああああ!!!」
咆哮、仲間を気付けられた、仲間の誇りを尊厳を踏み躙った奴らへの怒りの咆哮。
「バニーガールは……衣装はあくまで着ている姿を見るが趣味なのに……お前らはメイド好きの土太郎にバニーガールを着せたのかっ!そうまでして……そうまでして自分達の支配下におきたいのか!」
「そうさ、我々バニーガール推進組は日本を支配する。そして全ての飲食店、キャバクラ、ガールズバー、そんな他関連店を全てバニーガール専門店に変えるのだ!」
「させねぇ……メイド好きのみんなの為に……他の趣味趣向で生きている奴らの為にも!お前の好きにはさせねぇ!」
慎司の言葉に呼応してメイド教団は雄叫びをあげる。しかし人数だけで言えばメイド教団は圧倒的にバニーガール推進組に負けていた。その事実で余裕の態度を崩さない耳雄は馬鹿にするかのように口を開く。
「ふはははっ!負け犬の遠吠えにしか聞こえんなぁ!今俺達がお前と争った所で勝敗は見えてる………このまま潰すのもいいが俺もそこまで鬼ではない」
「何?」
「明日、指定した場所に来い……そこでお前の答えを聞こう荒瀬慎司。大人しく隷属するか……メイド教団の尊厳をズタボロにされて殲滅されるかをな」
「くっ!」
「せいぜい賢明な判断をするがいい………おい!引き上げるぞ」
それを合図にバニーガール推進組はグラウンドから出て行く。残されたのは絶望に染まったメイド教団と拳を力強く握る荒瀬慎司とバニーガールを着せられた土太郎と………もうどこから突っ込めばいいのか分からず現実逃避している5人娘達。
「きょ……教祖慎司…、僕達はどうすれば……」
「……今はとにかく土太郎を介抱してやってくれ……」
団員の不安げな声を遮りそう指示する慎司。慎司も、どうするべきか悩んでいた。望みが薄い反抗か隷属か……。
「くそっ………俺にもっと力があればっ」
「いやいやいやいやいや、なんかめっちゃシリアスやけどおかしいって……絶対おかしいって……」
「はやてちゃん……笑い事じゃないんだぞ!」
「笑ってるつもりはないけどくだらないやんか!」
「どこがだ!このままあいつらの好きにさせたら……日本中どのお店でも格好がバニーガールになるかもしれないだぞ!」
「そんなわけ……」
「下手をすると飲食店に限らず、葬式や結婚式……学校の制服だって全部正装がバニーガールに塗り替えられるかもしれないだぞ!」
「それは大事やな!ぜっったい嫌や!」
まさか自分達にまで直接的な被害が来るとは思ってもいなかったはやて達は戦慄する。いやだ、バニーガール何て絶対着たくない。
「嫌だなぁ……バニーガール嫌だなぁ」
「そうだろフェイトちゃん。メイド服の方が断然いいだろ?」
「どっちもどっちかなぁ……」
露出度的な意味ではメイド服の方がマシだがメイド服も種類によっては露出度エグいのでやはりどっちも嫌だった。
「やっぱり闘うしかないか……」
「しかし教祖慎司それは……」
「隷属を選んだ所で俺達のメイド好きの尊厳が踏み躙られるのは変わらない。反対の者は逃げても構わない。俺は1人でも行く……」
団員の言葉を受け止めつつ慎司は覚悟を決めた顔をする。そう、慎司がその顔をする時彼はどんな困難にも立ち向かうのだ。ちなみになのははその覚悟を決めた時の表情が自分の為に全国大会を闘ってくれた時とほぼ変わらない事に複雑な気持ちだった。それでいいのか荒瀬慎司。
「いいえ!俺も行きます!俺達メイド教団はいつだって教祖慎司と心は1つだ!」
「そうだそうだ!!」
「教祖慎司のある所に我らあり!!」
「メイドの風が吹く時……我々のメイド神も応えてくれる!」
「お前達っ……無理しやがって…。分かった!お前らの覚悟、受け取った!バニーガール推進組、ぶっ飛ばしてやろうぜ!!」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
「ねぇフェイトちゃん、全員病院連れてこうよ。絶対それで収まるよ」
「なのは、なのは、魔法はダメだよ。あと黒いオーラださないの」
「アリサちゃん、すずかちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃん、なのはちゃん、お前達も協力してくれ……日本をバニーガールの魔の手から救う為に」
「「「「「いやだっ!!」」」」」
「お前達の助けがいるんだ!頼むっ!アイツらを止められなかったら本当にさっき言ったみたいな事が起こりかねないんだ!それくらい影響力のある奴らなんだよ!団員には警察の上層部や国会議員も紛れ込んでるんだ!奴らの野望を阻止しないといけない!」
「日本ピンチだっ!?」
そんなわけで、5人の協力も得られ。慎司達は明日を待ち、指定された場所へ向かうのだった。
………………………………。
「来たか………」
教団となのはちゃん達を引き連れてやってきた俺を見て、耳雄はそう呟く。俺は歩みを耳雄と相対する形まで止めずに進む。
「答えを聞こう……」
その言葉に俺は不敵に笑って答える。
「聖戦だ………ここはいわば関ヶ原…この戦いで日本の運命が決まる」
そんなわけないと言いたそうななのはちゃんの視線は気にしないようにする。
「つまりだ……大人しく尻尾巻いて帰るのはテメェらの方だバニーガールバカどもがっ!!」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
俺の宣戦布告に教団員は大盛り上がりを見せる。そうさ、なのはちゃん達のドン引きの視線が何だ!メイドに生きるんだ俺達は!
「ばかめ……自ら破滅の道を望むか!我々のと闘って勝てるわけがなかろう!」
「やってみなくちゃ……わかんねぇだろうが!!」
それが決戦の合図だった。
いや、殴り合いとかそういうのじゃないよ?そんな物騒な事はしませんよ。ええ、俺達はあくまで自分達の趣味を布教するだけの健全な軍団。バニーガール推進組だって別に雰囲気ヤクザだけどモノホンのヤクザじゃないし。
不可侵条約とか強引な手段は使うけど暴力とかそういうのはやってないよ。じゃあ俺達のこういう場合の闘いってなんなんかって?それはな………
「見ろぉ!!これが網タイツバニーガールだっ!足の肌色が眩しいだろぉ!」
「ぐうううっ!何て綺麗な足なんだ!……だがこっちだって!……これは袴メイド服!和と洋の見事な融合を果たしたメイド服だ!どうだぁ?健全故にお淑やかで眩しいものを感じるだろぉ!!」
布教合戦ですよそりゃあ。互いに横断幕のような感じのものでそのメイド服を着た美人な女の子の写真を見せ合い布教する。そして相手の趣味に堕ちた方が負けなのだ。
え?人数関係ない?こまけぇこたぁいいんだよ!
「ナニコレ」
「シラナイ」
「シリタクモナイ」
片言で話すアリサちゃんとすずかちゃんとなのはちゃんの視線も気にしないようにする。
「ぐおおおっ!大和撫子!?」
「追加でこれだ!フレンチメイド服!肩出し、更にはこっちも網タイツっ!どおおだぁ!健全の次に見せられるエロスは最高だろぉ!」
「ぬおおおおおっ!」
「ハレンチメイド服の間違いやないか?」
「あ、ちょっと上手いねはやて」
「そんなん褒められても嬉しくないねんフェイトちゃん」
俺の攻勢に耳雄は自分の体を抱き耐えるようにのたうち回る。ふはは、布教合戦で俺に勝とうなんざ100年早い!
「ぐっ、やるな荒瀬慎司………しかしこれならどうだぁ!」
「な、なにぃ!お前……それは…」
「フハハハハっ!そうさっ!いわゆる際どい奴さぁ!」
まさかの禁じ手である。奴が用意した特性画像巨大横断幕確かにバニーの格好をした女性が映し出されているがそれは大事な所や見えちゃいけない所、つまりは露出がとんでも無いことになってるギリギリR18にはならないと言ったくらいの際ど過ぎる写真だった。
バニーガールよりそっちの方に男は目がいってしまう。
「お前!それはバニーの布教じゃないだろ!自分の誇りまで失ったか!」
「フハハハハっ!勝てばいいのさ勝てばぁ!そうは言ってもお前もお前の仲間も目はそっちの方に向いてるようだがなぁ」
「ふざけるな!俺はそんな物に屈しない!」
「慎司君、慎司君……どこ見てるの?」
「思いっきりアレを見てるわね」
「ていうかセクハラで訴えれば勝てるよね私達」
うるさい!屈しないったら屈しないんだい!
「お前らがそう来るなら!こっちも切り札を出すしかないようだな!」
「何?」
「土太郎!準備しろぉ!」
「お任せあれ!」
復活した土太郎に例のものを準備させる。
「さぁ、5人分のサイズのメイド服がここにあります。後は頼みます」
「え?私達に着ろって事?」
なのはの問いに首を縦に振る土太郎。
「ふざけんじゃないわよ!何で私達がそんな事……」
「バニングスさん!今は教祖慎司の言う通りにしてください、平和を取り戻す為にっ!」
「ぐぬぬ……」
気が強いアリサもいい加減この状況に巻き込まれるのは嫌だった。というか土太郎のメイド服の気持ちの圧に気圧され全員しぶしぶ首を縦に振った。
「あちらに簡易着替え所あるのでよろしくお願いします」
「準備いいわね、慎司もアンタも覚えておきなさいよ」
………………………………。
「宇佐田耳雄っ!これを見ろ!!」
「な、何だとぉ!?」
「こっちは写真じゃなく実物のメイド服を着た可愛い女の子を召喚するぜ!まず1人目!気は強いが気遣いが出来るツンデレメイド!オーソドックスなヴィクトリアンメイド服のアリサちゃんだっ!!」
「アイツ絶対ぶっ殺す」
「うわああああああ!?滲み出る強気な女の子のオーラに意外にもメイド服がマッチしてるだとおおおおお!?」
耳雄だけでなくバニーガール推進組全員が悶絶する。
「続けて2人目っ!お淑やかなお嬢様がメイド服に身を包めた、主人としても召使いとしても上品な雰囲気を持つクール系に見せかけた腹黒メイドっ!シスター服と奇跡の融合を果たしたシスターメイド服のすずかちゃんだっ!」
「……………慎司君後で屠るからね」
「ぬわあああああああっ!お嬢様なのに!メイド服っ!更にシスターっ!?駄目だ……懺悔してしまううううううう!!」
「まだまだこれからだぜ、3人目はこの子っ!隠しきれないなんでやねんオーラを持ちつつも意外と似合ってる関西ボケ子、巫女メイド服のはやてちゃんだぁ!」
「ああん?誰が関西ボケ子やねんハゲ」
「巫女服とも…調和が取れてるだとおおおお!?」
「4人目!最近ではこっちの方がメジャーかな!?お店でよく見かける?人気である証拠なんだよ!彼女の綺麗な金色の髪にもよく似合う!ミニスカメイド服、フェイトちゃん!!」
「す、スカート短いよ慎司……は、恥ずかしい」
「ぬおおおおおおおおっ!照れてる姿がまたいいっ!心が浄化されるうううう!?」
「最後を飾るのはこの子でこのメイド服っ!……モデルの子はともかくメイド服は最高だ!バニーガールとメイド服の超融合!バニーメイド服と、今後の成長に期待したいなのはちゃんっ!」
「どういう意味かな!ねぇ!どういう意味かなぁ!!私だって成長してるんだからねっ!」
「こ、これは……バニーとメイド服の奇跡の融合……」
感動に打ち震える耳雄に俺は肩にポンっと手をやる。
「な?バニー以外にもコラボメイド服、中々良かったろ?趣味は人それぞれ、仲間を増やすために布教するのはいい。だけど違う趣味の奴らを否定したり捻じ曲げたりしちゃいけない。手を取り合えばこんな奇跡だって生まれるんだよ」
「おおおおおっ……俺は……俺は間違っていたのか……」
「ああ、だがやり直せる。また1からやり直せ、そして本当に胸を晴れる日が来た時にまた俺のとこに来い。存分に互いの好きな事で語り合おうじゃないか」
俺の言葉を受け入れ、耳雄はバニーガール推進組を組織として解散を宣言。その場にいた団員は誰一人反対する事はなくメイドウォーはこれにて終幕したのだった。
平穏を取り戻した聖中のグラウンドには2名の男子生徒が数日間ボロボロの姿で磔にされていたのはメイド服を着た5人組の仕業という噂が流れていたが真実を知る者は少ない。
ちなみに作者は数年前にバニーガールのお店に行った事があります。その日は10月の末日、いわゆるハロウィンで仮装で誰一人バニーガールの格好をしていませんでした。解せぬ。