転生しても楽しむ心は忘れずに   作:オカケン

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 メッセで誰それをヒロインにしてほしいとの要望が過去にありましたがそう言ったストーリー展開の意見は自分が書きたい物を書くので申し訳ありませんが答えられませんのであしからず。
 


言葉は無くとも

 

 

 

 

 

 

「「「かんぱーい!」」」

 

 ガチンと弱くない力でグラスをぶつけ合う音が響き渡る。ジョッキを持った大人達とジュースの入ったコップで優しく打ち合うのとの二つに分かれての乾杯だ。何の会かと言われれば俺の優勝祝いである。何とか今世で初めての小さい大会とはいえ初優勝を飾ることが出来た俺。あまりに表に出さないようにしていたがやはり前世との実力とのギャップでずっと思い悩んでいたのだ。今世で柔道始めて一年半、前世と合わせて十数年。ようやく結果らしい結果が出せて俺も安堵している。

 場所は高町家が翠屋を貸切にしてくれて今日応援に来てくていた俺の両親に、高町一家に加えてアリサちゃんとすずかちゃんが参加している。

 大会のあと所属する道場の先生である相島先生に挨拶に向かった。

 

「よくやったな。その調子で頑張れよ、楽しむ事を忘れずにな」

 

 あんまり褒める事をしない相島先生からのぶっきらぼうな祝辞に胸を熱くしつつ頭下げて礼をした。残念ながら、邪魔しちゃ悪いとこの会の参加は断っていたとパパンから聞いてる。

 

「あっははー!士郎さーん!うちの息子が……息子がついにやってやりましたよーー!」

 

 パパンもう酔ってる。士郎さんにめっちゃからみ酒。肩組んで振り回すな、こっちも恥ずかしいし士郎さんに迷惑でしょうに。と思いきや士郎さんも同じようにガッツリとうちのパパンと肩を組み。空いた手でジョッキグラスを掲げて

 

「はい!はいっ!おめでとうございます!!慎司君ならやってくれると私も信じていましたとも!おめでとおおお!慎司君ーーー!」

 

 あ、この人もめっちゃ酔ってる。すげぇ、乾杯してから10分くらいしか経ってないのにもう2人でビール瓶5本くらい開けてる。ていうかラッパ飲みしてるよ。飛び火が来る前に離れておこう。でもまぁ、あんなに自分を真っ直ぐにそして嬉しそうに祝福してくれていると思うと俺も嬉しいような照れ臭いような複雑な気分だった。

 

「あら、慎司君。改めて優勝おめでとう」

「ありがとうございます、桃子さん」

 

 すっかり仲良しママ友である俺のママンと2人でパーティを楽しんでる桃子さん。あ、2人ともお酒飲んでる。

 

「ママン普段あんまりお酒飲まないのに珍しいね」

「たまにはいいじゃないのよ………」

 

 いや、文句あるわけじゃ無いけどさ。パパンみたいに悪酔いしないか心配なのよ。

 

「うふふ、慎司君が柔道で大活躍したから嬉しいのよ」

「も、桃子さん……」

 

 と困ったように笑うママン。はぁ〜、ここでもまたこの照れ臭さを味わう羽目に。

 

「デザートに慎司君が楽しみにしてた新作ケーキの完成品があるから、期待しててね」

 

 マジで!?桃子さん新作ケーキとかめっちゃ食いたい。いつも新作出るたびに食わせてもらってたけど今回はだいぶ時間がかかっていたみたいで心配していたのだが。

 

「はい!めっちゃ楽しみにしてます!」

 

 俺の言葉に桃子さんは嬉しそうに微笑んでくれていた。さてさて、次はあの2人だ。

 

「美由希さん、恭也さん、今日は応援ありがとうございました」

「やぁ、慎司君。慎司君こそ優勝おめでとう」

「大活躍だったね〜、カッコ良かったよ」

 

 実は2人には頭が上がらない事情がある。柔道始めてすぐの頃。前世の柔道に対する知識量と現実の自分の体力のギャップで自分の思い描く練習メニューをこなせず思い悩んでいた時に2人に相談した事があった。

 詳しくは知らないが2人は父親の士郎さんの家系から続く剣術の訓練を日夜行なっているらしい。その知識をお借りして基礎体力作りに協力して貰ったりしてたのだ。

 

「優勝出来たのも2人のお陰です。マジで感謝感激雨あられです」

「何言ってるんだ、頑張ったのは慎司君だろ?」

「そうだよ〜、練習だけじゃなくて自主練だって凄く頑張ってたじゃん!慎司君の努力の成果だよ」

 

 ありがとうございますともう一度頭を下げる。でもやっぱり2人の協力はとても心強かった。本当に感謝しているのだ。

 

「たまには道場に顔を出してくれよ、慎司君用のトレーニングメニュー考えておくから」

「ははは、お手柔らかにお願いしますよ」

 

 近いうちに絶対行こう。

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

 さてと、とりあえずは全部まわったかな。俺のお祝いで開いてくれているパーティなのだ。主役は全部の席に挨拶に伺うのが礼儀かなと思って各々話しかけに行っていたのだが。まぁ、パパンと士郎さんは危険を感じた故様子見で済ましたが。

 

「ふははははは料理がうめえええええ!!」

「静かに食べなさいよ」

 

 自分の席に戻って料理に舌鼓。子供組用に用意された席なのでアリサちゃんにすずかちゃん。そしてなのはちゃんも同席だ。アリサちゃんのツッコミ通り品が無いのはよろしく無いのですぐやめた。

 

「慎司君、改めて優勝おめでとう!すっごくカッコ良かったよ。ね?アリサちゃん」

「ふん、まぁ確かに……普段のあんたからじゃ想像できないくらいカッコよかったわね。まぁ、その………優勝おめでとう」

 

 すずかちゃんとアリサちゃんからの祝福に胸が熱くなるのを感じつつ、照れ隠しに

 

「お?ツンデレか?ツンデレアリサちゃんが爆誕か?」

「くっ、今日はあんたのお祝いだから殺すのは明日までに取っといてあげるわ」

 

 あれま、遠慮しなくていいのに。律儀なのねアリサちゃん。

 

「すずかちゃんも、俺の事カッコいいって?全くもう惚れ直しちゃったか?照れるなーもう」

「お料理おいしいね慎司君」

「わーお、相変わらずのスルースキル!」

 

 今日くらい乗ってくれよー、ブーブー!

 

「慎司君!優勝おめでとう!」

 

 とふざけたやり取りをしてたら後ろからなのはちゃんが興奮気味に抱きついてきた。おおお、どうした?そんな甘えたがりキャラだったか?

 

「本当にすごい!すごいよ慎司君!!」

「なのはちゃん試合終わってからずっとその調子じゃん」

 

 まだそんなテンション高かったのかよ。

 

「だってだって!あんな大きな人をカッコよくバーンって!バーンって投げちゃったんだよ!凄いよ!!」

 

 何かなのはちゃんらしからぬテンションの高さに少し困惑する。

 

「ずっと練習頑張ってたもんね!慎司君」

「うんまぁ、頑張るのは当たり前なんだけど」

 

 そんな褒めようとするな。照れ臭すぎて死ぬ。恥ずか死ぬ。

 

「とにかく、なのはも凄く嬉しいの!カッコ良かったよ慎司君」

「……………」

「柔道やってる慎司君はやっぱり普段と全然違うもんね、凄いよ〜」

「……………」

「凄かったよ一回戦の相手投げた時!大腰?だっけ?慎司君あのかっこいい技、惚れ惚れしちゃったもん!」

「………………クソがっ」

「なんで!?」

 

 いい加減落ち着けよと意味を込めてなのはちゃんのほっぺぐーにぐーにと過去史上1番に引っ張る。なのはちゃんは痛い痛いとポカポカしてくるが俺もだいぶ恥ずかしかったので今回は長めに引っ張り続ける。

 

「恥ずかしいのは分かるけど許してあげて慎司君、それくらいなのはちゃんも感動しちゃったんだよ」

 

 すずかちゃんそう言われパッと頬を離してあげる。なのはちゃんはいた〜いと言いながら俺をじろ〜と見ながら頬をさすっていた。

 

「まぁ……3人もありがとうな。わざわざ試合応援に来てくれてよ」

 

 前世の時はわざわざ俺の柔道の試合に学校の友達が遥々応援に来てくれた事なんて無かった。まぁそれが普通だ、俺もわざわざ学校の友達がやってる習い事の応援になんか行った事無かったし。だが、こいつらは純粋な気持ちで俺の試合に駆けつけて全力で応援してくれた。

 アリサちゃんが人目を気にせず大声を上げて応援してくれていた。すずかちゃんが大きな声を出す事は慣れていないのに必死に応援してくれていた。なのはちゃんが俺の緊張を緩めて、あまつさえ声援で俺の背中を押してくれた。綺麗事なんかじゃ無い、この3人の応援おかげで俺は優勝出来たんだなって本心で思える。

 

「何言ってんのよ、友達なんだから当然でしょ」

「そうだよ、応援したくて来ただけだから」

 

 アリサちゃんは肩を竦めて、すずかちゃんは笑顔でそう言ってくれた。

 

「うん!次の大会も絶対応援しにいくからね!」

 

 なのはちゃんの眩しいくらいの屈託ない笑顔に俺も頬が緩む。あぁ、全く……恵まれてるな俺は。大切にしたい。この関係を、この友情を……俺はずっと大切にしていきたい。

 

「あぁ、楽しみにしておいてくれよ」

 

 今度はもっとかっこいい所、見せてやるからさ。もっと練習頑張って、もっと強くなって皆んなが誇ってくれるような柔道家になるよ。今度こそな………。

 

 

 

 

 

 

 

 パーティもそろそろお開き、おかげさまでとても楽しい1日になった。桃子さんの新作ケーキは美味かったし、酔っぱらったパパ組に捕まってもみくちゃにされたりはしたがまぁそれはいい。もう流石に帰らないといけない時間になったアリサちゃんとすずかちゃんは車の迎えが来てお別れの流れだ。全員で外で見送ってる最中、突然帰ろうとしていたアリサちゃんとすずかちゃん、そして俺の隣にいたなのはちゃん3人が俺に対面する形で両手を後ろに組んでもじもじとしはじめた。

 

「えっとね、これ!」

「私達から慎司君に優勝祝いだよ」

「ありがたく受けとりなさい」

 

 なのはちゃん、すずかちゃん、アリサちゃんの順に何かを手渡される。

 

「これ……メダルか」

 

 折り紙で作られたメダル。ちゃんと首にかけられるよう紐も付いていた。3人分のメダルだった。なのはちゃんは桃色の折り紙、すずかちゃんは紫色の折り紙、アリサちゃんは金色の折り紙でそれぞれメダル作ってくれたみたいだ。

 

「これ、いつの間に」

「えへへ、3人で準備したんだ………慎司君優勝するって信じてたから」

 

 なのはのその言葉に照れ臭そうにするすずかちゃんとアリサちゃん。不格好に折り跡が付いていて他人から見れば安っぽく見えるそれは俺にはとても輝いて見えた。

 

「慎司君はちゃんとした金メダル貰ったからこれじゃちょっと物足りないかも知れないけど」

「そんな事ねぇ………」

 

 なのはの言葉を遮る。

 

「このメダルは………3人がくれたこのメダルは大会で貰ったメダルよりずっとずっと嬉しい」

 

 胸が熱くなる、俺の優勝を信じてこんなものを用意してくれたなんて…嬉しいに決まってるじゃんか。

 

「ありがとう、アリサちゃん……すずかちゃん……なのはちゃん」

 

 俺の飾らない言葉に3人を含めたその場の全員が笑顔を浮かべてくれていた。大切にしよう、このメダルもこれをくれた3人も……皆んな……ずっと大切に。

 

 

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

 

 

 慎司君が優勝してからしばらく経って。私、高町なのははユーノ君のお手伝いとしてジュエルシード集めに精を出していました。これまでに集めたジュエルシードは5つ。順調なのかどうかは分からないけど私も魔法少女として様になって来た今日この頃、連日ジュエルシード集めで私は疲れ切っていた。

 ユーノ君からの提案もあり今日は英気を養うためお休みに。前からの約束で今日は近くのグラウンドで行われる私のお父さんが監督とオーナーを務めるサッカーチーム………翠屋JFCの試合をアリサちゃんとすずかちゃん3人で応援しに行こうという。もう少しで試合開始の時刻、私を含めた3人も応援ベンチに座って準備完了。

 

「本当に大丈夫かな?」

 

 ふとすずかちゃんがそう呟く。

 

「まぁ………大丈夫でしょ……多分」

 

 続けてアリサちゃんもそんな事をつぶやく。私も2人と同じような心境だ。ただのサッカーの試合の応援なんだけど………私達を不安にさせているとある元凶。

 

「よっしゃああああ!!しまって行くぞゴラァ!」

「「「おおおおおおおおお!!」」」

 

 コートの真ん中で叫んでいるあの友人が私達に無駄な心配をさせています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しまって行くぞゴラァ!」

「「「おおおおおおおおお!!」」」

 

 俺の雄叫びに呼応するチームメイト達。今日は士郎さんがコーチをやってるサッカーチームの試合の日。俺もなのはちゃん達と応援しに行く約束をしていたのだが。急きょ士郎さんのチームに流行病で何人か欠員が出てしまったそうな。1人、人数が足りなくなったらしく、士郎さんに良ければと助っ人を頼まれて今日参戦した次第である。

 あ、なのはちゃん達が不安そうにこっち見てる。そりゃそうだ俺初心者だし。前世でも学校の授業でしかサッカーやってなかったし。

 でも何故か皆んな俺を中心にしてくるし。さっきの雄叫びもチームメイトが気合を入れさせてくれなんて言うから叫んだんだが。

 

「慎司!今日は頼むぜ!」

「来てくれてありがとうな!」

 

 チーム内に何人か顔見知りもいる。幼稚園一緒だった奴とか学校で顔合わせた事ある奴とか。地元のチームだしおかしな事じゃないか。そんなわけでプレイには期待出来ないがチームワークくらいは維持させたい。おっとそろそろ試合開始だ。ポジションにつきホイッスルで試合が始まる。

 

「いくぞテメェらああああああああああああ!!!」

 

 さっきのように呼応するチームメイト達。いくぜ、初心者だけども!せっかく助っ人として参加したんだ、活躍したらぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

 

「なーんて上手くいくわけねぇよなぁ」

 

 試合が終わってお疲れ様として翠屋に移動して席につく。チームの皆んなと応援してくれた3人も一緒だ。試合自体は2ー0で俺が助っ人した士郎さんのチームの勝利で終わった。終わったのだが、俺はというと前半も後半もほとんどボールに触れる事すら出来ず。何も貢献できずに終わる始末である。

 

「不思議だよね、あんなにチーム盛り上げてたのに試合で殆ど何もできてなかったもんね」

「ぐはっ」

 

 すずかちゃんの悪意なき言葉が刺さる。俺の反応を見てごめん、そんなつもりじゃと慌ててるすずかちゃん。俺だって不思議だよ。初心者同士でやるならともかく、本格的にやってる奴らとプレイするとこうも手も足も出ないとは。

 

「ま、あんた男子からは何故か人気みたいだし。勢いだけはつけれたから助っ人した甲斐もあったんじゃない?」

 

 珍しくアリサちゃんが励ましてくれる。でも今は逆に辛かった。でも俺男子に人気なんだ。なんだろう、嬉しくねぇ。

 

「ちなみに女子達の俺への評価は?」

「「「うるさくて鬱陶しい奴」」」

「そこ3人でハモっちゃうんだ」

 

 まぁ、分かってるよ。あんまり関わりのない女子だと俺への評価なんてそんなもんだろう。君たち3人はそれだけじゃないだろうけど。そうだよね?ね?

 

「でもお父さん喜んでたよ?慎司君が助っ人に来てくれて」

「それでもあそこまでコテンパンだと少しは萎えるさ」

「慎司君運動神経は悪くないのにね」

「だとしても流石に本職連中と渡り合うのは無理な話だったみたいだなぁ」

 

 まぁそりゃそうだよな。柔道やってる俺としても逆の立場だったらぽっと出の助っ人が活躍しようだなんておこがましい話だしな。なんて俺が落ち込んでいるのをよそに食事会は終わりチームメイトが変わる変わる俺に一言声をかけて解散して行く。

 

「じゃあな慎司!また来いよ」

「今度は練習にも来いよ」

「次はボール、触れるといいな」

 

 好き放題言いやがって。といっても本心で馬鹿にして言ってくる奴は1人もいなかった。皆んないい奴だな。次助っ人あるか知らんけど少しくらい勉強はしておこうかな。

 

「…………………」

 

 ふとなのはちゃんを見ると怪訝な顔をして一点を見つめていた。視線の先を見るとそこにいたのは今日の試合で俺が助っ人したチームのキーパーを務めていた子だった。確かに、今日の試合では大活躍だったなあの子。もしや………

 

「惚れちゃったか?」

「ひゃっ!」

 

 耳に吐息をかけるような言い方で伝えてみる。

 

「な、何が?」

「あのキーパーの子を見てたからさ、なのはちゃん今日の試合見て惚れちまったのかと」

 

 このちょろインめ。

 

「ち、違うよっ。そうじゃなくて………」

 

 でしょうね、そんな恋する乙女とかそんな表情じゃなかったしね。なのはちゃんは誰か好きな人とかいねーのかな?いるんならめっちゃからかってはずかしめてから応援するのに。

 いっぱい照れるなのはちゃんを見たい。

 

「気のせい………だよね」

 

 なのはちゃんのそんな呟きを俺は馬鹿な考え事で聞き逃していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………。

 

 

 

 

 その後士郎さんに挨拶をしてから解散。午後からはアリサちゃんとすずかちゃんはそれぞれ予定があり、俺も相島先生と自主練をする予定があり皆んな解散だ。なのはちゃんも家でゆっくりすると言う。まぁ、相変わらず疲れた様子を見せてるなのはちゃんだしいい加減心配だ。少しでも休んでくれれば嬉しい。

 まぁ、俺も他人の心配ばかりしてる場合じゃないけどな。少し先とは言え柔道の試合も控えている、今度は先日の大会よりも規模が大きい大会だ。この間の大会が市内の大会で今度は県大会と言ったところだ。そのために休日返上の自主練だ。

 

「慎司ー、相島先生から電話」

 

 家に帰ってすぐ道着に着替えようとしたところママンにそう声をかけられる。子機を渡され応答すると。

 

「あ、はい。大丈夫です、分かりました。またよろしくお願いします」

 

 電話を切ってママンに渡す。

 

「先生何だって?」

「用事が出来ちゃって練習付き合えないってさ」

 

 まぁ、仕方ないな。普段から暇を見て俺の練習に付き添いしてくれているしそう言う時もあろう。けど、相手がいないのに道場に行っても仕方ない。なら、今日はランニングでもしようか。着替えようとした道着をしまい今度は運動着に着替えて外に出る。

 

「車に気をつけなよー」

「うぃーす」

 

 ママン、それは前世での俺の死因だから。あんまり言わないで、トラウマなの。

 

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

 

 車に十分に注意して当てもなく走り続ける。ていうかここどこだろう。海鳴出ちゃったよ、隣町まで走ってしまったよ。まぁ、道は覚えてるから迷子という訳ではないけど。そろそろ戻ろう、何て呑気に海鳴に向かってまた走る。その道中だった、信じられないものを見た。

 

「なんじゃこりゃ……………」

 

 木。でっかい木がある。いや、普通に土から生えた木とかじゃなくて道路や街を破壊して生えてる大木というのも生易しい木が遠くから見えた。いや、さっきまで絶対なかったろ?どいう事だよ。野次馬根性で近づいてみるか?けど危険かも知れないしな…………。街も大騒ぎだろこれ。

 

「特殊な化学実験でもしたのか?」

 

 映画かよ。なんて言ってる場合じゃなく。そういえば街の方に誰か俺の知り合いとかいないだろうな。アリサちゃんやすずかちゃんがどこに出かけているか聞いてないし。急に不安になる。携帯は…………くそ、走るのに邪魔で家に置いてきちまった。

 

「てっ、うわ!」

 

 足下が揺れたかと思うと俺の目と鼻の先で急に木が生え始め、成長期なんか目じゃないと言わんばかりにドンドン成長して馬鹿みたいに大きくなる。おい、現在進行形で侵食中かよ。

 

「この!」

 

 ムカついたので蹴ってみた。特に反応もなく俺の足が痛くなっただけだった。どうしよう、そこらへんにチェーンソー落ちてないかな。

 

「まいったな………」

 

 皆んな大丈夫かな………巻き込まれてないと良いけど。とりあえず木からは離れて家に向かって動く。うわ、あんなとこからも生えてやがる。木を避けながらある程度進んだ頃。

 

「今度はなんだ?うわっ」

 

 急に辺りに強い光が差し込む。とっさに目を閉じて腕で隠す。その光はここだけでなく広範囲で街を包むように発せられた。何なんだ一体、今日はびっくりなことばっかだ。

 光がおさまったのを感じ目を開けると。

 

「………………何なんだ一体」

 

 さっきまであちこちに生えて街を破壊していた大木達が綺麗さっぱり無くなっていた。どういう事だ?幻か?いや、幻じゃねぇ。木によって破壊された建物や道路はそのままだった。

 

「………帰るか」

 

 途方にくれつつも、もう走る気も起きず歩いて家に向かった。

 

 

 

 

 

 

 すっかり陽は傾き夕日が海鳴をオレンジ色に染め上げる頃。破壊された瓦礫なんかをゆっくりとした足取りで避けながなら帰ってる道中だった。思わぬ人物を見かける。

 

「なのはちゃん?」

 

 俯いていて表情は窺えないがなのはちゃんがとぼとぼと歩きていた。方向的に帰ってる途中なのだろうか、家でゆっくりすると聞いていたが用事でも出来たのか?肩にはなのはちゃんがお世話しているフェレットのユーノの姿も。

 

「よっ!なのはちゃん」

 

 何はともあれ無事なようで何よりだ。それを嬉しく思って明るく声をかけたのだが

 

「あ、し……慎司君」

「………………」

 

 下を向いていたなのはちゃんがこちらを向く。その表情はとても暗かった。あの日、5歳の頃俺と出会った時の表情と重なって見えるくらいの暗い顔をしていた。

 

「ど、どうしたんだよ?怪我でもしたのか?」

 

 あの謎の大木の暴走に巻き込まれたのか?

まさか、家族が巻き込まれた?どれも違うと首を振るなのはちゃん。

 

「な、何でもないの。大丈夫だから」

 

 この感じは………ここ最近のなのはちゃんの様子は気になってはいたがそれに関する事だと思われた。時折思い悩むような素振りをしていた。いつも元気だったのによく疲れたような顔をしていた。ずっと心配で、つい目で追って気になっていた。

 なのはちゃんと知り合って4年ほどか、その間に確かな強い絆が出来たと俺は自負している。しかし、なのはちゃんは何も言わない。言えないのか、言わないのか……分からないけど。そんな短くない付き合いの俺にも言えない事。だから、俺はそれについて自分から聞こうだなんて思わなかったし、そっとしておくのも友達の役目だと思っていた。

 それは今も変わらない、だってそんな顔をして明らかな悲しんでいてどん底にいても、俺には何でもないと言ってくるなのはちゃんが少し遠くに感じたから。不用意に俺が関わっていけないような気がして、悩みがあるなら聞くなんて口が裂けても言えなかった。あの時とは状況が違うから。

 

「そっか………」

 

 だからそういう風に答えた。何でもないなんて嘘だけど、俺は待つと決めた。それは曲げないし……なのはちゃんが自分で解決したいと思っている事でもあるかもしれないから。余計な事は言わない。

 

「…………………」

「…………………」

 

 何の言葉も発せず2人並んで帰路につく。明らかな街の異常な状況に言及する事はいくらでもあるのだがお互いそれについてすら無言だった。

 なのはちゃんの悩みに今回の騒動は関係あるのだろうか?それは考えすぎか、まるで魔法のような珍事件だしな。

 

「っ」

 

 なのはちゃんの手を取った。なのはちゃんは少しピクッと反応していたけど何も言ってこなかった。確かに、俺は何も知らないし余計な事を言う気もする気もない。だけど、伝えたかった。言葉ではなく手を繋いで伝えたかった。

 俺は何も知らないし……きっと力になれない。そんな気がする。ただの9歳の少年で精神が少し大人だけのちっぽけなバカだ。出来る事なんてたかが知れてる。だけど、繋いだ手をギュッとして俺は心で想う。

 一緒にいる。分からないし、どうすればなのはちゃんが喜ぶか知らないけど………せめて一緒にいると。支えると、今も4年前も変わらず支えてあげたいと手を繋ぐ事で伝える。

 

「………………」

 

 なのはちゃんは何も言ってこない。けど、俺が必死に想いを伝ようとしている握った手をギュっと握り返してくれた。ただ歩く、夕陽に照らされ歩く。

 

「なのはちゃん………」

「………ん?」

「……………俺ん家でゲームでもやっか」

「…………うん」

 

 何も言わない、聞かない……でも支えてあげたい。元気のない時はいっぱい遊ぶのに限る。きっとそんな思いは伝わってると信じてる。心なしか、なのはちゃんの肩に乗ってるユーノも嬉しそうな顔をしていた。

 

「……………ありがとう」

 

 あぁ、気にすんな。

 

 

 

…………荒瀬慎司の預かり知らぬ所で高町なのはは何かしら大事な決意をした。自分の意思で、自分なりの精一杯ではなく本当の全力でと。いつも本当の全力で柔道に立ち向かっている荒瀬慎司の横顔を見ながらそう思っていた。

 

 

 

 

 

 






 感想や評価が良く届いて正直に言うとすごい嬉しいです。これもこの作品を読んでくれている読者がいてこそであります。前書きではあぁいましたがそう言ったものでなければ、文の書き方や展開の違和感など指摘や意見は大歓迎です。作者の励みとなりますのでこれからもよろしかお願いいたします

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