「ご主人様、こちらお着替えになります」
「おう……ってソフィ、お前なんで俺の部屋にいるんだよ出てけ」
「私は常にご主人様と共にあります」
「嬉し恥ずかしい事を相変わらず無表情に言うねお前は、こらズボンに手を掛けるんじゃない。着替えくらい自分でする、折角だからコーヒーでも準備しててくれ」
「かしこまりました」
指示すればちゃんと遂行してくれるから普段の俺への舐め腐りっぷりを許してはいるけど流石に最近酷い気がするぞソフィ……口では言わんけどさ。………まぁ、甘えたい年頃か。そんな事を考えつつ俺はいつもの六課の制服に着替えて早朝の準備をする。
ジェイル・スカリエッティの捕縛を目標と定めてからまたしばらく経ったある日、今日は機動六課の総がかりでの任務だ。この間のアラートのような緊急任務ではなく上からの要請があっての任務となる。
そんな今回の任務は『ホテル・アグスタ』で行われる骨董美術品オークションの会場警備と人員警護となる。このオークションでは取引が許可されているレリックと同じロストロギアもいくつか出品されるらしくその反応をレリックと誤認してガジェットドローンが出てくる可能性が高いと危惧され機動六課に白羽の矢が立ったのだ。
まぁ、こう言うオークションなんか禁止品の密輸なんかの隠れ蓑なんかにされたりするからなガジェットを抜きにしても任務としては気を張らないといけない。
「ソフィ、お前は準備出来たか?」
「はい、滞りなく」
「いや、メイド服で行く気かお前」
「なるべく上品な物を選びました」
「無表情なりにムフーっとした雰囲気感じるぞお前……メイド服って言ってもなお前……いや、ある意味そっちの方がいいか?」
キャピキャピしたメイド服じゃないし、お手伝いさんと言うよりはお付きの人って言う印象を持てるかも。でもメイド服だしな……まぁいいか、目の保養になるし。今回の潜入警備にもあってるかもしれん。
「堅っ苦しいなタキシードは、よくこんなの着てられる人がいるもんだぜ」
ソフィが用意してくれた着替えを身につけた感想である。今回俺とソフィ、シグナムとヴィータちゃんは前線メンバーよりも1日早く現場入りだ。ヴィータちゃんとシグナムは六課の制服で堂々と巡回と警備を、俺はオークション参加者の金持ちとして、ソフィは俺の付き人として2人で内情の警備だ。前日入りする理由は予め俺がそのオークション品をチェックするからである。さっきも言った通りレリックを追う俺たちの本来の任務とは別に普通に犯罪抑止の為の任務でもあるからな。
てな訳で非戦闘員である俺とソフィが選ばれた。明日のオークション当日にははやてちゃんも含めた前線メンバーが合流してくれるがリインフォースとマックスは留守番というか今頃アークレインの任務の次元遠征に行ってるだろう。また調査と言う名の監査だろうな、最近また新しく次元世界発見しちゃったからなてへぺろ。
どちらにしろ戦力過多と思われないようにする為に2人は連れてけなかったが。
「よし、んじゃそろそろヘリポートにいくかソフィ。ヴァイスも待ってるだろう」
「かしこまりましたご主人様」
「………ホテル内では絶対そう呼ぶなよお前」
「なんならおぼっちゃまと?」
「ご主人様でいいよくそが」
結局潜入するならそのほうが違和感ないじゃないかちくしょうめ。
………………………………。
「うーす、お待ちしてましたよ慎司さん……中々似合ってるじゃないすか」
「そう思うなら笑いを堪える必要はねぇよなヴァイス?」
「お、怒らないでくださいよ……違和感はないっすから平気ですって」
「たくっ……ほら、さっさと行くぞ」
そう言いながらヘリに乗り込む。
「ヴァイス様、よろしくお願いいたします」
「あいよソフィアさん、なるべく快適な空の旅にしますんで」
人のいい笑顔でそう言うヴァイスにもソフィは相変わらず無表情で頭を下げるだけだった。ヴァイスもいい加減ソフィの愛想の無さとだからと言って心が冷たい訳ではない事は分かってくれてるようで機嫌を損ねた様子もなくヘリを出発させた。
ヘリはいつものゴリゴリの軍用ヘリではなくいかにも送迎用の高級感があるヘリだ。まぁ、ちゃんと魔力が編まれた装甲持ちのヘリではあるが。いつものヘリで行ってしまったら管理局の関係者ですっ……て堂々と宣言してるようなもんだしな。それが理由でヴィータちゃんとシグナムも別ルートでアグスタに向かっている事だろう。
「昨日もこっちは慎司さんの話ばかりでしたよ、ヘリの整備しながら皆んなで」
「へぇ、どんな?」
「先日沢山の六課スタッフ巻き込んでゲーム大会開いてたじゃないすか、あれの話とかその前の……」
「あぁ……ピコピコハンマーで隊長陣どれだけどつき回せるか大会か?」
「それっすそれっす、皆んな最初のシグナムさんで捕まってボコボコにされるだろうなって予想してたんですけど」
「その予想を裏切って1日掛けて隊長陣全員に10回は叩いたからな俺」
「いやぁ、皆んな流石慎司さんだって大笑いしてましたよ」
その後だいぶ皆んなから酷い目にあったけどね。まぁ楽しかったからいいけど。反省も後悔もしないのが荒瀬慎司クオリティである。ただのお子ちゃま?そんなぁ。
「マックスも慎司さんといる時はよく面白い事やらかしてくれますし、リインフォースさんは天然で笑わせてくれますし、ソフィアはいつもメイド服だからそれだけで面白いですし。いやぁ、アークレインのメンバーは皆んな笑わせてくれて毎日楽しいですよ」
「おいおい、ウチはお笑い芸人事務所じゃねぇんだよ」
まぁ俺らとの時間を楽しんでくれてるのなら何よりだけどよ。そんな感じでヴァイスの隣で談笑しながらアグスタに向かう。それにしても未だにタキシードを着ている違和感が拭えない。破っちゃおうかな
「そういえば前から気になってたんすけど」
そんな下らない事を本気で実践しようとしていた矢先にヴァイスが少し声を抑えて後ろにいるソフィをチラッと見ながらそう口を開く。ソフィは俺達が楽しそうに話していても表情を変えないままヘリから見える空の景色を眺めていた。
「ソフィアの事皆んな全然知らないんですよね」
「……まぁアイツは自分から色々話すタイプじゃないからな」
あの愛想の無さは出会った頃から変わってないしな。
「出身地も魔力値も、経歴全部知らないっスからね。本人が話したがらないなら別に分からなくてもいいんスけど」
ヴァイスなりの気遣いなんだろうな。わざわざ俺にこうやってその話をするのは。
「慎司さんは、どこでソフィアと?」
まぁ、気になるようなぁ。アークレインのメンバー以外は誰もしらないし。
「ソフィは……ちょっと訳ありなんだよ」
俺はそう言うだけでそれから特に言葉を追加しなかった。彼女がどうして俺とアークレインのメンバーとして働いてくれて、どうして俺の下について来てくれてるのか……そんなの理由や経緯なんてどうでもいいんだ。大切なのは理由じゃなくてそうしてくれてる事事態なんだから。
「なるほど、それじゃあしょうがないっすねぇ………」
ヴァイスが静かにそう呟き、俺はそれから会話を再開させる事なく目的地まで移動する。多分ヘリの中の騒音じゃ俺達の会話なんか全く聞こえなかっただろうけどソフィは最後まで表情を変えずに外の景色を眺めているだけだった。
………………………………。
ヴァイスにお礼を告げてアグスタに降り立つ。ヴァイスはこのまま六課に戻り明日にはなのはちゃん達をここまで連れてくる事だろう。さて、こっちは一足先にお仕事開始といたしますか。
「行くぞソフィ」
「はい、ご主人様」
結局ホテルでもご主人様呼びかよと内心思いつつ他の富豪達に混じってホテル内を散策する。オークションは明日だけど参加する富豪達も前日にホテルに訪れ出品予定の品々を見定めている、まぁメインの出品物は流石に当日まで表に出す事ないだろうがな。色々珍しい光景だからキョロキョロと落ち着かなく見渡したくなる衝動を抑えてあくまで景色に溶け込むように振る舞う。
「さて……と」
ソフィを少し離れた所に下がらせて周囲を見てるように指示する。既に潜入捜査は始まってるからな、俺が出品物を検閲してる間に怪しい者がいないか観察させる。流石に今ここであからさまに怪しい奴を見つけるのは難しいだろうがそれを釣り上げるのが俺たちの仕事だ。
どれ、餌でも撒いてみるか。とある出品物に手を伸ばして触ろうとするフリをする……が上手く違和感がないように動かして考え込むように手を顎の下に持っていく。こちらから視認できたので俺が手を動かした瞬間にピクッと反応していたのがホテル側が用意した管理局とは関係ない一般警備員数名。この人達の反応は問題ない。どれ、もう少し釣り糸を深く垂らしてみるか
「………」
ジッーとその出品物を凝視する、見た目は価値のありそうな壺陶器の骨董品。が、他のオークション品と見比べると少々見劣りを感じる代物だ。このオークションの一つの出品物としては少々荷が重い気がする。
一眼見たときから気にはなっていたのだ、こんな物に頼るのは良くないが言うなれば直感だ。色々頭の中で考えながらも俺はその骨董品を目を離さず眺め続けながら感嘆としたような声をあげるフリをする。まぁ、美術品を見る目を持ってないからこれが本当に骨董品として素晴らしい物なのかどうかなんて分かるわけないが。だが、その動作で俺がその骨董品に興味を持ったと勘違いする物がいたようで
「失礼、こちらに興味がおありで?」
「………ええ、何故だが惹かれるものを感じるんです」
まんまと餌に釣られたスーツを着た男性に声をかけられる。男性はにこやかな表情を浮かべて俺の言葉を聴くと一瞬ぴくりと瞼が動いた………よし。
「貴方はオークションの主催者側の関係者で?」
「はい、よく分かりましたね」
「いえ、わざわざ声を掛けるのは主催者側の方でしょうから」
ボロを出したな……悪いがオークション関係者の顔は既に全員頭の中に叩き込んでんだよ。念のためにな。タキシードのネクタイの皺を直すように結び目に触れて軽く調整する。合図だ、その合図を送った後さりげなくソフィを見るとソフィはハンカチを取り出してそれを額を拭うように動かす。
ややこしいが合図を確認したソフィからの合図だ。これで釣り糸の引き合いは十分だろう。あとは一気に釣り上げるだけだ。
ソフィが席を外した事を確認しつつ俺は自然に言葉を紡ぐ。
「この品を観察してる時にわざわざ声をかけたという事はこの品について何か?」
「ええ、貴方様が大変興味深そうにこちらをご覧になっていたのでお節介とは思ったのですがこれについて説明しなければならない事がありまして」
「ふむ、今回のオークションの出品物の情報は一応調べてはあるのですが」
「本当はオークション当日に発表される事なのですが、そちらを気に入った様子でしたので特別に……と」
「なるほど…………」
思案するようなポーズを取り考え込む素振りをする。………………これくらい時間が経てば充分だろう。
「分かりました、ここでは少々騒がしい……そうですね、静かな所でその話を聞かせてもらえませんか?」
「ええ、構いません。ご配慮痛み入ります」
そう頭を下げる男性だがいかんせん下げる直前に耐えきれないように口元が緩み好都合だと言わんばかりの表情を読み取れた。全く……そんなんで隠してるつもりかよ。
「話に適した場所に覚えがあります……こちらへ……」
そう言って少々不自然だが俺が先導して2人で歩き出す。まぁ、これくらいの相手ならこんな形で平気だろうな……。
……………………………………………。
「クソ!放せ!お前らこんな事してっ……」
「大人しくしてろって……あったあった、通信端末」
「くっ!」
その後男性を人気のないホテルの裏に誘導した後そこに待ち構えていたシグナムとヴィータちゃんによって男は取り押さえられ、ホテルの来賓室に人目を忍んで連行する。いやぁ、管理局と理解した瞬間のこの男の顔は傑作だった。
「おい慎司、お前が言うからこの男を取り押さえているが大丈夫なのか?もし潔白だったら大変な事になるぞ」
男の関節を極めて涼しげな顔して身動きを封じてるシグナムに大丈夫だよと返す。ていうかその動きの封じ方はもはや完全に信じてくれてるって事じゃないか。信用は嬉しいがもっと手心を加えてやれよちょっと可哀想だろ。
「ははあ、やっぱりな」
こういう色々甘い奴は念のためって行動を全然しないからな。やっぱりログが残ってる、密輸組織との個人的なやり取りのログが。自分が捕まるなんて全く考えなかったようだ、ってことはあの骨董品はガワだな。
「ヴィータちゃん、責任者に事情を説明してあの壺みたいな奴持ってきてくれねえかな。こいつ密輸に加担したアホ犯罪者だ」
「分かった、ちょっと待ってな」
小走り部屋を出て行くヴィータちゃん見送る。しばらく待っている間男の罵声が耳についたがソフィが入れてくれたコーヒーに舌鼓をしてるとヴィータちゃんはすぐに帰ってきた。
「ホレ、持ってきたぞ」
「サンキュー」
と、ヴィータちゃんから受け取った壺の骨董品、俺はそれを指先でトントンと軽く叩く。芸術の感性は乏しいからそんな事しても何か分かるわけではない、俺は仕方ないかと諦めてそれを地面に叩きつけた。陶器が粉々に割れる音が部屋に響き渡る。
「バッ……何やってんだよお前……」
呆れた様子のヴィータちゃんに平気平気と手をひらひらさせて陶器の中にあった円形のよく分からない物体を手に取る。これは………
「ロストロギア……やっぱり密輸だったか」
これをオークションを介してどうするつもりだったかは様々な予測がたてられるがそれはこいつを取り調べ官に引き渡して完全に投げればいいとしてだ………これを購入しようとした奴を見つけるのは……。
「ちっ、ログにはないか」
こいつの仕事はあくまで怪しまれないようにオークション品としてロストロギアを隠した骨董品を依頼者に売りつけること。端末に依頼主の情報はないしこいつも教えられてないだろう。トカゲの尻尾切りだ。
その依頼主がわざわざオークションを利用したのはまぁ色々と考えられる理由があるが。こいつはどこかのタイミングで俺が割った壺の中にロストロギアを隠し、明日のオークションで依頼主が落札するまでこれを見張ってたわけだ。
俺に声を掛けたのは壺を気に入ったと思っている俺という入札のライバルになり得る存在をどうにかして入札を諦めさせるか、あるいは実力行使で物理的に入札させないようにしたか………依頼主にはなるべく安く落札させる為の措置だろうな、密輸の報酬にも関わってるんだろう。それで捕まるんじゃ世話ないがな。
「この分だと探せばまだ証拠は見つかるだろうな………シグナム、さっきここに知り合いの本局の密輸対策班呼んだからそいつらにこのアホ突き出しといてくれよ。騒ぎにならないように裏口に一般人に扮して来るから間違えないようにな」
「む?分かった、随分手際がいいな慎司は」
「これくらいできなきゃ提督なんてやってられねぇよ」
と、気障ったらしく肩をすくめて見せる。
「俺はまた潜入警備に戻るから2人とも後は頼むな……ソフィ、行くぞ」
「はい、かしこまりました」
2人して部屋を後にし無言で人気のない廊下を歩いてしばし思案する。………それにしてもいくらなんでも雑過ぎないか?密輸を実行するには余りにも目立つ。それに大型オークションの品に紛れさせて禁止品を依頼主の元に輸送するっていうやり口はよく聞くがそれにしたって粗さが目立ちすぎる。
さっきの工作班は素人に毛が生えた程度のレベルだし自身に端末を持たせてさらにはログを残しておくなど特大な爆弾を抱えてるのと一緒だ、捕まえてくださいっていてるようなものだし新手の自白かとも思うほどだ。
「………考えすぎか?」
しかし……いや、考え過ぎなのが丁度いい。如何なる事態にも、陰謀にも備えなきゃいけないのだから。
「ソフィ、戻る前にいいか?話がある」
「っ?また、念の為ですか?」
立ち止まったソフィは無表情のままそんな事をいう。多分心の中ではため息混じりな表情を浮かべてそうだが。
「ああ、念の為だ。ちょっち耳貸せ」
「ひゃあん、息がくすぐったいです」
「そんな棒読みの『ひゃあん』初めて聞いたぞ」
真面目に聞け変態メイドが……いや、変態じゃなくてソフィなりのジョークだろうしそもそも本当のメイドじゃないし。それはいいんだ全く。俺はゴニョゴニョとソフィに伝える、途中また棒読みで喘ぎやがったので流石にデコピン3発くらいかましておいた。
……………………………。
「それではよろしくお願いします」
「はい、お疲れ様です」
慎司の知り合いだという密輸対策班の中年ほどの魔導師に件の男を引き渡して敬礼で見送る。その人が見えなくなった所「ふぅ…」とシグナムとヴィータは2人して気が抜けたような声を出す。
「あいつ、管理局にどれだけ知り合いいるんだよ」
「そうだな……まあ慎司らしいと言えるだろう」
「だとしても多すぎだろ」
と呆れた様子のヴィータにシグナムも同意するように呆れ顔を披露する。この間は……何だったか…。
「あいつ六課のスタッフの何人かが誕生日だって言って食堂占拠してやりたい放題やってただろ?」
「ああ、その後主はやてに叱られていたが」
「あのどんちゃん騒ぎにいたメンツ、慎司が場を盛り上げるために連れてきた本局の魔導師も混じってたんだよ」
「見覚えのない者がいるとは思っていたが……」
「ちなみに管理局の上層部の人間も混ざってたって言ってたぞ」
「何をやっとるんだアイツは……」
ちなみにその人物は地球のメイド服という文化にさぞ興味を示したらしい。慎司の知り合いとなったきっかけと大いに関係しているのは言うまでもないだろう。
「まぁ、アイツが何処でどんな交友関係を築こうが知ったこっちゃねぇけどさ」
「何だヴィータ、嫉妬か?」
「んなんじゃねぇよ!」
冗談めかしてシグナムはそう言うがヴィータは少々語気を荒くして答える。一呼吸おいて自身を落ち着かせてからヴィータは「ただよ……」と続ける。
「この4年間……いや、アイツが中学を卒業する前から6年くらいめっきり会う機会減ったじゃねぇか」
ヴィータの言う通りある時を境に慎司は自身の忙しさを理由に人と会う時間を減らしていた。共に学校に通うメンツは変わらずほぼ毎日顔を合わせていたがそれ以外の友人達は会う機会がめっきり減ったのだ。そしてそれは卒業後まで続いた。
「柔道を本気で頑張ってたからそれが理由なら分かる……けど、急に分かりやすいくらい遊びに誘っても乗らなくなったら戸惑うだろ?」
「まあ、確かに私も正直に言えば寂しいと感じたが…」
いつも周りを楽しませてくれる存在で自分達も共にあることを楽しんでいたのだから急に会わなくなれば寂しさも感じるだろう。しかし、柔道が原因であると思えばおそらく違うと言うことは察せられた。証拠に彼はあれだけ熱を入れていた柔道に……中学最後の大会で再び全国制覇を成し遂げたのにも関わらず彼は柔道界から姿を消し管理局の局員という道を歩み出した。
「いくら慎司でも、入隊して一年で提督なんて馬鹿げてる。アイツの両親の口添えがあったからって異常だ。多分、俺達とめっきり会わなくなった時からもう準備を始めてたんだろうな……」
その事は口にしないだけでヴィータだけでなく古い付き合いの皆は全員何となく察していた。それでもその短期間で提督になるのも十分異常だし、それをしながら全国制覇をしてしまうのも頭おかしいよなってヴィータは笑いながら言う。無茶苦茶な所はやっぱり変わらないと。
「それでアタシ達と会わない間、アイツはアイツで交友……めちゃくちゃ友達増やして楽しんでる。悪い事じゃないけどなんか……なんか気に入らなねえんだよ」
「なんだ、やはり嫉妬じゃないか」
「嫉妬じゃないー!」
そんな風に言うシグナムであったがなんとなくヴィータの気持ちは分かっていた。ヴィータのそのモヤモヤは嫉妬ではない。嫉妬などではなく心配してるのだ、慎司が何かを抱えて行動を起こしてる事は明らかだ。そして、それを私達にわざと打ち明けない事も理解している。
だからヴィータはモヤモヤしている、慎司が純粋に心配なのとどうして自分を頼ってくれないのかとちょっとの怒りを覚えて。シグナムも似たような気持ちを抱いているから分かる。そして恐らく、ヴィータも何となく自分の気持ちは理解してるはずだ。言葉にしないだけで。なら何故自分達はその感情を、想いを慎司にぶつけないのか。
自分とヴィータだけじゃない、昔馴染みの全員はそれを理解しつつ直接それを慎司ぶつける事をしないのは勿論理由がある。
「……だが、それでも信頼してるのだろう?」
ヴィータに向けて放った言葉が全てだった。今更自分達は慎司を疑う事などない、妄信してるわけではなく確信してるのだ。慎司が打ち明けないのはちゃんと理由がありそしてそれは身勝手な理由ではなく必要な事だという信頼。
そして何かを成し遂げようとしている慎司なら絶対に失敗などしないと言う信頼。皆それを慎司に抱いてるからこそ何も言わない。
言葉にしなければいけない事はある、きっと慎司もそれは理解してる。けど、それを分かってて慎司は言葉にしない。言葉にしちゃいけないのか、それとも分かってくれると期待してるのか。どちらにしろ慎司を信頼してる自分達は……
「慎司がちゃんと言葉にしてくれるのを待つ……慎司相手ならそう思える。だろ?」
「………たりめーだろ」
やっぱりヴィータはどこか拗ねたようにそう言うのだった。
………………………………………。
その後、俺は改めてオークション品やら施設を散策するようにして警備システムなんかを見て回ったが特に収穫なし。そこらへんは明日合流するなのはちゃん達も見て回る事だし簡単でいいだろう。それならば潜入警備として一応の役目を果たすために、目立たない程度にもう少し歩いて見て回るとしよう。
「ソフィ、もう少しだけ見て回るぞ。疲れてないか?」
「はい、問題ありません」
「よし、ならその調子で一歩下がって俺について来い。あくまで今日のお前は金持ちの男の従者なんだからな」
「普段から私はそのつもりですが」
「俺はそんなつもりねぇんだよ」
と、怪しまれないようにそんな会話をしつつもう少し歩き回る。しばらくして、人が多い所はもう全て観察し終わった所で俺は時間を確認して考え込む。うーん……明日もあるしそろそろ人がまばらになる時間だ。潜入警備を任されてるからにはこれ以上目立つのは避けなきゃな。ソフィに今日はここまでだと告げて一人でホテルであらかじめ取っておいた部屋に戻るように言う。
「ご主人様は?」
「ちょっと野暮用だ、男同士で積もる話もあるんだ」
そう言ってソフィを一人で部屋に帰す。さて……と。俺も行くとしよう。
……………………………。
ホテルの関係者室に赴く。ちなみに無断である、管理局の人間だと言えば許可は取れるだろうが今の俺はあくまで潜入中、一般人を装う。俺の事を怪しんでる奴はいなさそうだしここまで来ればとりあえずは気を抜けても平気だろうが。実はさっき知ってる顔の後ろ姿を見つけたのだ、オークションの資料の関係者一覧には載ってなかったからびっくりしたがなるほど……確かに今回のオークションには適任の人物だろう。てな訳で、そいつが入って行った部屋をノックもせず乱暴に蹴り開ける。
部屋にソファで休憩してるその人物は「うわっ!?」と素っ頓狂な声をあげてこちらを見てさらにびっくりする。
「し、慎司!?」
「よう!フェレット・スクライア!元気だったかー!!」
「ユーノだよ!わざとやってるよね!?」
「んな事聞くまでもないだろ淫獣」
「淫獣!?」
そう、ユーノ・スクライア。かれこれ彼と会うのは数年振りなってしまったがそれでもずっと変わらない友人だ。
……………………。
「まぁ、相変わらず元気そうで何よりだよ」
苦笑いを浮かべながらユーノは俺にコーヒーを差し出してくれる。俺はユーノの対面に座りコーヒーに舌鼓しつつ積もる話で盛り上がる。
「それで?どうしてここに?」
「聞いてないか?明日のオークション、警備に機動六課が入る。俺は前日入りして潜入警備だよ」
「そっか、だからタキシードなんだね」
「どうだ?意外と似合うだろ?」
「全然」
「投げ飛ばすぞこの野郎!」
ここで二人で笑い合う。いや、普通にユーノに会えたのは嬉しいな。ずっと会えなかったから。ちなみにユーノは今回のオークションの鑑定士として呼ばれてるらしい。
ユーノは管理局の無限書庫の責任者として、さらには考古学者としての実績を上げて日々頑張っている。ただでさえ俺も忙しくて会えなかったがさらにユーノもアホみたいに忙しい身だからそれがさらに加速して数年という期間が空いてしまったのだ。
「まぁ、明日はユーノも六課もお仕事本番だからな。ユーノがなのはちゃん達ともゆっくり話せるのはオークションが終わった後か」
「そうだね、まぁ楽しみにしてる」
「スケベな目で女性陣見んなよ?」
「見ないよ!僕を何だと思ってるんだ!」
「斉藤さんだぞ」
「誰っ!?」
頭の薄い面白い人だよ。
そんな感じでついつい話し込んでしまい時間も時間なので俺はユーノに一言礼を言ってから自分の部屋に戻ろうと退室しようとする。
「慎司」
直前、ユーノに呼ばれて振り返る。彼は何だか疲れた顔をしてる……いや俺のせいかごめん、からかいすぎた。
「……久しぶりに会えてよかった。色々聞きたい事も本当はあるけど……うん、僕が言えるのはこれだけだ」
…………………頑張ってね。
「……………ああ、お前もな」
そう言い残してユーノと別れる。
「たくっ、アイツは……」
そういえば、ジュエルシード事件の最後でもアイツの言葉に救われたっけなぁ……。全く……会えてよかったよ。
ああ、そうだな…お前に頑張れって言われたんだユーノ。俺は、まだまだ頑張れる。お前のおかげで………俺はこの先もきっと頑張れるし踏ん張れる。些細なその言葉でも十分俺の励みだ。
「………頑張るよ、ユーノ」
そう呟いてから緩んでいた顔を引き締める。さぁ、明日はいよいよオークション当日だ。気を引き締めてかかろう。
ポケモンレジェンズ今更予約した。楽しみやー