転生しても楽しむ心は忘れずに   作:オカケン

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 相変わらず話の構成が下手だと自己嫌悪。もっと書いて考えて成長したいものですな。頑張るぞ!


知らない間に物語は進む

 

 

 

 

 

 

 

 

「すっげぇ!!豪邸!?」

 

 初めてみたよこんな豪邸!?どこぞのお嬢様とは聞いていたけども!まさかここまでとは思わなんだ。初っ端からテンションが高い俺だが理由がある、今日はすずかちゃんからのお誘いで月村邸にお邪魔している。なのはちゃんと付き添いで一緒に来る事になっている恭也さんとバスで合流して一緒に向かった月村邸。

 それがまぁ軽く想像を超える豪邸だった。目ん玉飛び出るかと思ったぜ全く。いや、ほんとにヤバイぞ。慣れた感じで恭也さんが呼び鈴を鳴らす。すげぇよ、俺なら恐れ多くて押せないよ。しかも俺たちを出迎えたのは

 

「本物のメイドさんだ!!すげぇー!」

 

 メイド服に身を包んだメイドさん。恭也さんとなのはちゃんとは顔見知りらしい。すげぇ、テンション高まる。ある意味憧れでもあるよなメイドさんって。ちなみに目の前にいるこの人がメイド長でもあるらしい、名前はノエルさんとの事。メイド長と名乗るにしては若いなこの人。勝手なイメージだけど。

 

「なのはお嬢様、恭也様、慎司様……ようこそいらっしゃいました。どうぞ、中へ」

「なのはちゃん聞いた?慎司様だって、様付けだぞ……やばくね?」

「し、慎司君……恥ずかしいからあんまり騒がないでよ……」

「なのはお嬢様、タイが曲がっていてよ」

「つけてないよ。どういう話の流れなの?」

 

 俺もわからねぇ。年甲斐もなくテンション上っちゃってるから。そんなやり取りを見てノエルさんも微笑んでいた。そのままノエルさんに案内されすずかちゃんが待つ部屋へ向かう。

 

「ほー!すげー!ひろーい!でかーい!」

「慎司君、静かにしてよ…」

「なのはちゃんー!がでかいー!ひろーい!」

「どういう意味かな!?」

 

 ポカポカしてくるなのはちゃんを華麗に交わしてトコトコと前を歩くノエルさんの隣に。

 

「メイドさんメイドさん」

「はい?何でしょう慎司様」

「なのはちゃん用のメイド服ないですかね?無理やり着せて写真撮って海鳴中にばら撒きたいんですけど」

「慎司君!!」

 

 ごめん、年甲斐なくはしゃいじゃいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのままノエルさんに案内されて部屋に通される。席が用意され優雅にカップで飲み物を飲んでいるすずかちゃんとアリサちゃん。さらに初めて見る綺麗な女性の姿ととなりに佇むもう1人のメイドさんの姿も。綺麗な女性の方はすずかさんそっくりな所を見るとお姉さんの方かな?ははーん、恭也さんが何で付き添いに来たか分かったぞ。

 

「あ、恭也さん……なのはちゃん、慎司君」

 

 俺達にいち早く気付くすずかちゃん。それにおっすと手を上げ返答。

 

「なのはちゃんは何で疲れた顔をしてるの?」

「どうせ慎司に振り回されたんでしょ」

「ご名答」

「胸張って言うなっ!」

 

 そんなやり取りをしつつすずかちゃんのお姉さん……名は忍さんと言うらしい。忍さんと恭也さんは別室に。なぁに、邪魔はしませんよ。

 

「恭也さん、ファイトです」

 

 そんな俺の言葉に恭也さんは困ったように笑った。まぁ、頑張る必要ないくらい仲良しなんだろうけど。腕まで組んじゃって。すでに恋仲か、結婚式には呼んでね。

 

「お茶をご用意いたしましょう、なのはお嬢様、慎司様…何がよろしいですか?」

「私はおまかせで」

 

 手馴れた回答するなのはちゃん。俺は……

 

「マテ茶で」

「かしこまりました」

 

 あるんかい!まぁ、何でもいいけど。こう言う時は紅茶でしょとかそんなツッコミ待ってたのに。

 

ノエルさんともう1人、すずかちゃんの隣に佇んでいたメイドさんがお辞儀をしてから退室する。ちなみにそのメイドさんはファリンさんと言ってすずかちゃんの専属だとか。いいなぁ、専属メイドさん。俺もほしい。

 

「俺のメイドさんになってください。なのはちゃん」

「わたし!?羨ましそうにファリンさん見てるなと思ったら!」

「寧ろ俺がメイドになるしかねぇのかな。すずかちゃん」

「あ、ごめんね。今紅茶飲んでてよく聞き取れなかったから」

「都合のいい耳だな!」

「来て早々うるさいわね!冥土の土産に一発くらわすわよ!?」

「メイドと言ったか?」

「字が違うと思うよ慎司君」

 

 なのはちゃんのツッコミで終了。俺がいる事で場がカオスになる事にはもう手馴れた3人。ふふふ、その調子で俺に毒されるがいい。………なんかエロいな、この表現はやめておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて言葉を交わしつつまったりとした雰囲気でお茶を待ちながらおしゃべり。そんな中アリサちゃんが

 

「今日は……元気そうね」

 

 となのはちゃんに向けて言い放つ。えっ、と少し動揺するような反応をするなのはちゃん。

 

「最近なのはちゃん………元気なかったから…」

 

 すずかちゃんが続けて口を開く。まぁ、あんなあからさまにため息ついたり疲れた顔されちゃこの2人も心配になるってもんだろ。

 

「もし何か心配事があるなら……話してくれないかなって……アリサちゃんと2人で話してたんだけど……」

 

 そんなすずかちゃんとアリサちゃんの優しい気遣いに感極まったような表情をするなのはちゃん。ホント、いい友達を持ったよ……なのはちゃんも俺も。

 

「なぁなぁ、その話に何で俺は入ってないんじゃ」

「あんたはあんたで勝手に色々すると思ったのよ」

「慎司君、そう言う所察しが良いから」

 

 信頼されてるんだかされてないんだか。色々するって語弊があるよ。そんな………先日の大木暴走事件の時の事が頭をよぎる。あれは……確かにちょっと臭かったな。何が支えてやるだよ、中二病かよ、柄にもねぇ。思い出して少し恥ずかしくなってくる。

 この後、お茶菓子を持ってきてくれたファリンさんが猫とユーノの追いかけっこで目を回して食器を落としかける等一悶着あった事を追記しておく。

 気分転換に場所を変えて再度お茶会、今度は庭…………庭?森?家の私有地?庭でいいか、庭の真ん中にあるテーブル席に移動してまたお喋り。にしても猫が多いなこの屋敷。里親が決まるまで預かっている猫達だとか。アリサちゃんが猫天国と表現するのも頷ける。猫と戯ながらお茶とお菓子をつまみ、世間話に花を咲かせる。

 本当にどこかのお金持ちのような気分だ。なんて感想を抱いていると突然なのはちゃんの膝の上に佇んでいたユーノが森の方へ駆け出していった。

 

「どうした?」

 

 俺の言葉になのはちゃんがハッとしつつも答える。

 

「ユーノ君が……何か見つけたみたい……ちょっと探してくるね」

「俺も一緒に行こうか?」

「ううん、大丈夫。すぐ戻るから」

 

 そう言ってユーノを追って駆け出すなのはちゃん。それを見送る俺達に3人。少々心配だが、まぁ平気か。なのはちゃんもまさか迷子とかにはならんだろ。

 

「………慎司」

「うん?」

 

 なのはちゃんが席を離れてすぐにアリサちゃんに呼ばれる。表情から察するに恐らくなのはちゃん関連の事だろう。

 

「実際の所………どうなのよ?」

「何のこと?」

「分かってるでしょ………なのはの事よ」

「……………………」

 

 言いたい事は分かる。すずかちゃんも言葉には出さないがじっと俺を見つめてくる所をみるとアリサちゃんと同じ事を思っているんだろう。

 

「………悪いけど、俺もなのはちゃんが何の事情を抱えてるか詳しくは知らない。詳しくどころか全く知らないし見当もついてないよ」

「慎司も知らないのね」

「ああ、お前達と同じだよ」

 

 俺に何か期待してたようだが、残念だが答えられない。知らないのだから。

 

「気にはならないの?なのはちゃんの事」

 

 すずかちゃんの言葉に俺は迷わずうなずいた。気になるに決まってるだろう。知りたいに決まってるだろうと。けど、俺はもう決めたのだ。

 

「俺は待つ事にした。なのはちゃんが自分で話してくれるか……話さないままだったらそれでいいって決めたんだ」

 

 勿論、それが正解だなんて思っちゃいない。寧ろ不正解なのかもしれない。だけど決めた事を曲げる事はしたくない。俺なりに沢山考えて出した結論なんだから。

 

「大人だね、慎司君」

「違うよ、臆病なだけさ」

 

 俺は2人みたいに……さっきの2人みたいに踏み込んで聞けなかったから。それを出来る2人の方がよっぽど大人だと思うぜ俺は。

 

「だから、俺はいつも通りでいるさ………いつも通りでいる事も大切だと思うからさ」

「あんたらしいわね」

「かもな」

 

 そんな風に共通の友人を心配してあげれる友人ができた事を心から感謝した。そうやって俺の胸の内を明かして2人は納得したように頷いてから元の世間話に戻る。

 

「そういえばあんた最近どうなの?」

「俺がメイドをどうすれば雇えるか画策してる事についてか?」

「働きなさい」

「すずかちゃん、雇って。皿全部壊すから」

「どうしてそれで雇ってもらえると思ったの?」

 

 アリサちゃんがそうじゃなくて!と話を遮る。

 

「柔道よ!柔道!今度また大会があるんでしょ?」

「あぁ、もう少し先だけどな。無論、試合に向けて努力してる所だよ」

「そ、また応援しに行ってあげるから絶対勝ちなさいよね」

「そのつもりだよ」

 

 ちゃんと色々考えて、効率よく……そして泥臭く根性で頑張ってるさ。成長や手応えを感じるくらいにやってるし、誰よりも努力してやるって気持ちでな。才能ない俺には練習しかねぇんだから。

 

「私も楽しみにしてるね、慎司君がカッコよく相手を投げるところ」

「おうとも、任せとけよ。ファイナルアタックライド!!で一発よ」

「今通訳がいないからあんまり意味わかんない事言わないでね」

 

 通訳ってなのはちゃんの事かよ。その通訳不完全だろ、俺のネタほとんど理解してねぇぞ。ていうか、なのはちゃんはまだかね。そろそろ帰ってきてもよかろうに。なんて密かに思っていると、キュルキュルと鳴き声をあげながら森の奥からユーノが走ってきた。

 

「な、なんだなんだ?」

 

 俺の足元でくるくると回って何かを伝えようとしてくる。何だ?ユーノを追いかけたなのはちゃんの姿が見えない。俺の周りを走ってたと思ったら今度また森の奥に向かって走る。

 

「…………ついて来いって事か?」

 

 アリサちゃんとすずかちゃんが状況が飲み込めず困惑している。何か嫌な予感がして俺は2人に声をかける事なくユーノを追いかける。あぁくそ、フェレットってあんな早いのか?見失っちまうぞ。と思ったら時折止まって俺がついてきてるか確認するように振り返っている。お前、知能結構すげぇんじゃねえか?

 程なくしてユーノは足を止める。息を切らしながら追いついた先に、意識を失って寝転んでいるなのはちゃんの姿を見つけた。

 

「なのはちゃんっ!」

 

 慌てて駆け寄る。なんだ、なにがあった?呼吸は安定してる、目立った外傷も無さそうだ。とりあえず一安心しつつも急いでなのはちゃんを運ばないとと思い至り横抱きでなのはちゃんを持ち上げる。相変わらず軽いな、よくじゃれてきた時におんぶとかしてたから知ってたけども。

 戻る途中に慌てて俺を追いかけてきた2人とも合流して事情を説明してすずかちゃんにベッドのある部屋に案内させた。

 

 

 

 

 結局なのはちゃんが目覚めるのは夕方ごろになるまでかかった。少しボッーとしながらも何があったのか説明してくれたなのはちゃん。

 なんて事はない、ユーノを追いかけてる途中で転んで気絶してしまったらしい。体に問題はなさそうだったが明日念のため病院に検査しにいくそうだ。とりあえず、こんな事も起きてしまったので今日はもう解散だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰宅してベッドに横になる。なのはちゃんもドジだなぁ……転んで気絶なんて。あまり心配させないで欲しいものだ。けど、本当に転んだだけなのだろうか。気絶するくらいの勢いで転んだんなら擦り傷の一つくらいあってもいいと思うんだけどな。外傷なかったよな、いい事だけど。

 

「まぁ、んな事考えても仕方ないか」

 

 そう結論づけて今日はゆっくりと寝る事にした。相変わらず俺はなのはちゃんの事情なんか知る由もなく、また明日という今日はやってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 月村邸での出来事から少し経ち、俺にとってはいつも通りの日常を過ごしていた。学校で授業を受け、少しだけなのはちゃん達と遊んだりなんやりして……鬼のように柔道に打ち込む毎日。ちゃんと休日もとったりして高町家に行ったり皆んなと遊んだり。いつも通りの日常を過ごす。試合もまだ先とはいえ1日ずつ着実に近づいてはいるので気合も一層入る俺。そんな中、世間的にとある連休の日。俺は高町一家の温泉旅行に連れて行ってもらう事になった。

 と言ってもこれが初めてではなく何度かそんなイベントもあったのだが、いつもなら俺の両親も招かれて一緒なのだが今回はパパンは仕事が忙しいらしく、ママンはすでに退職しているがパパンの仕事の手伝いに行ってるらしい。ていうかママンが辞めるまでは2人とも同じ職場だったのね初めて知ったよ。

 そしていつもと違うのは他にも、今回はアリサちゃんとすずかちゃん……それにこの間の月村邸で知り合ったメイドさんとすずかちゃんの姉の忍さんもご一緒だ。かなりの大所帯での今回の温泉旅行、さてさて俺も一旦柔道から離れてしっかり体を休めよう。ちゃんと休息を取るのも強くなるための道だ。

 

「あっ!そこでだいばくはつはずるいよ慎司君!」

「いや、立派な戦略だろうに」

「すずかもちゃっかりまもる使ってるわね」

「あはは、慎司君そろそろ使うかなーって思って」

「俺的には味方のすずかちゃんも巻き込みたかったんだけどなぁ」

「何が目的なの……」

 

 行きの車の中で暇を潰すべく4人でポケモンのダブルバトルをしていたがまぁこれが楽しい楽しい。俺の影響かなのはちゃんだけでなくアリサちゃんやすずかちゃんもゲームを始めてくれたし。ここのところ4人でずっとポケモンばかりな気がする。

 そんなこんなで時間を潰していると目的の温泉旅館に到着。緑に囲まれた自然豊かな場所に風情良く立つ老舗の旅館らしい。早速温泉に浸かる事に。女性陣とは一旦別れて男湯へ、士郎さんと恭也さんは少し旅館内でゆっくりしてから入るとの事。俺は長湯も平気なので2人を待つ形で先に入らせてもらおう。どうせあがった後なのはちゃん達と旅館でうろうろするだろうし女の子のお風呂は長いからな、待たなきゃいけないだろうからそれくらいが丁度いいだろう。

 のぼせないよう少し肩まで浸かってから足だけを浸からせて2人を待つ。程なくして揃って士郎さんと恭也さんも温泉に浸かりに来た。

 

「うわ、2人ともムキムキですね」

 

 士郎さんも恭也さんも常人とはかけ離れた肉体をしていた。服の上からじゃ全然わからなかったけどかなり鍛え抜かれたような引き締まった体付きをしている。士郎さんの体が古傷だらけなのも気になったがそれはまぁ、口には出さないでおこう。

 

「ははは、慎司君だってなのはと同い年とは思えないくらい体が引き締まってるじゃないか」

 

 そんな士郎さんの指摘に自分の体を見やる。確かにかなりトレーニングに時間は費やしてはいるが体が小さいうちに大きな筋肉を付けたくはなかった。成長の阻害と動きの柔軟性を損なってしまうからだ。俺なりに程よくなるよう調整している。

 3人で並んで肩まで浸かる。芯から温まる快感に思わず3人ともじじくさい声を上げる。あぁ〜、温泉最高。

 

「慎司君、どうだ?柔道の方の調子は?」

 

 恭也さんからそんな言葉が。ていうか多いなそんな質問、皆んな気にかけてくれてるんだな。そんな気遣いに感謝しつつ

 

「試合に向けて鋭意努力中です。恭也さんが組んでくれた基礎体力メニューのおかげで最近はもっとハードなメニューもこなせるようになりました」

 

 ホント、助かります。どのスポーツもスタミナは重要だから。恭也さんはそれは良かったと満足げに呟いた。

 

「なのはもこの間の慎司君の試合を応援してからすっかり柔道に興味を持ったみたいだからなぁ………最近はよくテレビで柔道の試合中継を見てるよ」

「そうなんですか?」

 

 士郎さんからそんな情報が。それは初耳だった。

 

「うん、慎司君の試合によっぽど興奮したみたいでな。みんなで食事してる時なんかよく慎司君の話をしているよ」

 

 それは……なんだか照れくさいな。まぁ、流石に柔道始めたくなったとかそういう物じゃないんだろうけど。

 

「なのはも楽しみにしてくれているからとは言わないけど……頑張ってな慎司君」

「おっす」

 

 2人からのエールと温泉で身も心も熱くしつつ俺はもっと努力するぞと誓う。そうだ、みんなに優勝する姿を見せる事……それが応援してくれている皆んなに送ることができる最高の恩返しだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のぼせないうちに2人より一足先に温泉に出て脱衣所へ。旅館が用意している浴衣に着替えてから脱衣所の外へ。ちょうど女湯から着替えを済ましたいつもの3人が同じタイミングで出てくる。ちょうど良い、待つ手間が省けた。

 

「よっしゃ野郎ども!湯冷めしないうちに旅館の中探検しまくろうぜ」

「野郎じゃないよ……」

「あと、うるさいわよ」

 

 そんななのはちゃんとアリサちゃんの言葉を受けつつトボトボと4人でお喋りしながら旅館内を歩く。

 

「おみやげ見てこうよ」

「お、アリサちゃん気が合うな。木刀だな?」

「そんなもん買わないないわよ。ていうか売ってないでしょ」

「いいや、あるかもしれんぞ………木刀が必要なんだ」

「何に使うのよ」

「物干し竿と扉のつっかえ棒」

「それちゃんとしたやつ買った方がいいんじゃ?」

「いや、すずかちゃん他にもあるんだよ………なのはちゃんのお尻叩き用に」

「私のお尻!?なんでよ!」

 

 さっと自分のお尻を手で隠すなのはちゃん。

 

「寧ろそれがメインだ」

「何か恨みがあるのかな?私に」

「実は出会った時から叩きたかったんだ……なのはちゃんのお尻」

「衝撃の事実だよ!」

 

 きゃんきゃん騒ぐなのはちゃんと俺を見てやれやれとするアリサちゃんとすずかちゃん。さて、冗談はさておき旅館内をまぁまぁ歩き終わった頃だった。向かい側から旅館の浴衣を着た色っぽい年上のお姉さんがとことこ歩いて来たかと思うと。

 

「はぁい、おちびちゃん達」

 

 こちらに声を掛けてきた。なんだこの人。ていうか格好エロっ!そんな胸元開けんなよ目の毒だ。3人の反応を伺うが全員怪訝な表情を浮かべているのを察するに俺達の誰かの知り合いってことはなさそう。反応に困っているとその女性はなのはちゃんの前に立ち品定めするかのように観察し始めた。

 何かぶつぶつ言っているような気がするがこっちの耳には届かない。さてどうしよう、なのはちゃん困った様子を見せてるし助け船を出したい所なのだが……あんまり変な事してこの人を刺激するのも怖いしな。このご時世どんな変人がいるか分かったもんじゃないし。少し考え込んでいる間にアリサちゃんが女性となのはちゃんの間に立とうと動き出す。慌てて肩を掴んでアリサちゃんを止める。考えすぎだとは思うけど、危険かもしれないのでその役目は俺がやろう。

 

「まぁ、任せろって」

 

 何で止めるのと目で訴えてくるアリサちゃんにそう小声で伝えて俺は2人の間に割り込む。

 

「し、慎司君……」

「んー?」

 

 庇うように間に立つ俺を女性は不敵な笑みを浮かべながら楽しそうに観察してくる。本当に何が目的だろう。ただの酔っ払いとかならいいんだけど。こういう時は………

 スゥッと息を少し吸い込んで俺はあらん限りの大声で叫んだ。

 

「だれかーー!!助けてええええええ!!」

「はぁ!?」

 

 俺の絶叫に女性はあたふたしだした。よしよし、余裕そうなその表情を崩してやったぞ。

 

「痴女がぁ!!痴女がいまあああす!!胸元開けて知らない子供相手に見せつけてくる痴女がいますううううううううう!!!」

「ちょっ、痴女ってあたしのことかい!?」

「あんた以外に誰がいんだよ!?そんな胸ぱつぱつの浴衣着て!」

「これ以外にサイズがなかったんだよ!」

「嘘つけ!?それにいくらなんでもそんな胸元開ける必要ないだろ!露出魔め!自分の胸のサイズにそんな自信があるのか!?だから見せつけてるのか!」

「別に見せつけてるつもりはないよ!?」

「うるさい!見ろこの3人を!」

 

 そう言って後ろに控えてたなのはちゃん達3人を指差す。

 

「浴衣の上からでも分かるくらいまだまだ残念な胸のサイズだ。そりゃそうだとも、まだ小学生だからな。まだ成長の余地は十分にあるとも、だけどそんなまだまだ貧乳の3人に見せつけるように現れて!謝れ!ぺったんこなのはちゃんに謝れ!」

「だから何でいつも私だけ名指しなの!?」

「ほら、嫉妬に駆られてなのはちゃんも怒ってるじゃないか!」

「あんたに怒ってんだよ!」

 

 焦れたのか女性はあぁもうっとイライラした様子で頭を掻きながら

 

「悪かったよ、人違いだったみたいだ」

 

 と苦し紛れにそう言いながらそそくさと逃げていった。はっはっは、我の勝利なり。流石にあそこまで大騒ぎされちゃ堪らんだろ、まぁ悪い人には見えなかったけどだからといってへんに絡んでこられても困るしな。

 

「よっしゃ、んじゃ探検の続きしようぜ」

 

 と、振り返って3人に言葉を送る。が、3人ともそれはそれはさっきと雰囲気が一変していた。

 

「貧乳ってどういうことかなぁ?」

 

 すずかちゃんは笑顔を浮かべながらも額に青筋を浮かべて。

 

「わざわざ私達をだしにする必要あった?」

 

 アリサちゃんはそれはもう燃え滾るような赤いオーラを背負って。

 

「ぺったんこって!なのはの事ぺったんこって!」

 

 なのはちゃんは虎……じゃないな、怒った猫が後ろに見えるような怒りっぷりだ。3人ともまだ小学生何だから胸のサイズなんか気にすんなよ。いやまぁ、確かにだしにしたのは悪かったけどさ。

 

「あっははは、3人ともそんな怒んなよ。…………貧乳が目立つぞ?」

 

 なんてからかってみるとプツンと音が聞こえた気がした。その後の記憶は曖昧だ。気付いた時にはアリサちゃんに何度も腹パンをされていて、すずかちゃんはずっと同じ場所を中々の力で抓っていて、なのはちゃんはいつもどおり俺の胸をポカポカしてた。

 あー、ごめんね?流石にデリカシーなかったよ。そんな俺の謝罪でようやく矛を収めてくれた3人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は部屋に移動して皆んなで豪華なご飯を食べて子供組は子供らしく早めに就寝した。翌朝、ただでさえ最近ボーッとしたりため息をつきがちだったなのはちゃんの症状が酷くなった事以外は何もなく温泉旅行は終わりを告げた。

 

「………………」

 

 帰りの車でボーッとしているなのはちゃんに何て声をかけるべきか分からず、結局俺はいつも通りからかったりしてみたがなのはちゃんの反応はいつもより薄かった。

 昼間のあの絡んできた女の人が関係してるんだろうか………今となっては知る由もない。そして、それを気にしているのは俺だけでなくアリサちゃんとすずかちゃんも同じだ。そして、俺とは違って真っ直ぐになのはちゃんにぶつかって力になろうとしたアリサちゃんはさらに酷くなったなのはちゃんの様子にとうとう爆発してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減にしなさいよっ!」

 

 バシンと机を叩く音が教室中に広まる。温泉旅行から少し経ったある日。アリサちゃんの怒声にクラスメイトが一斉にこっちに注目するが本人はそんな事気にせず続ける。怒りを露わにしている相手はなのはちゃんだった。

 

「この間から私達が何話しても上の空でボーッとして!」

「ご、ごめんねアリサちゃ」

「ごめんじゃない!私達と話してるのがそんなに退屈なら1人でいくらでもボーッとしてなさいよ!」

 

 俺は慌てながら間に立つように割って入り

 

「まぁまぁ、アリサちゃん落ち着けって」

「うるさい!慎司だって同じ気持ちなくせに!」

「だから落ち着けって……な?少し冷静になってからその話をしようよ、怒ったって仕方ないだろ?」

「っ!……いくよすずか!」

「あ、アリサちゃん」

 

 そう言って教室を出て行くアリサちゃん。すずかちゃんはなのはちゃんにフォローをしてあげてからアリサちゃんと話してくると言って後を追った。出て行く間際に目で俺になのはちゃんをお願いと訴えていた。

 

「…………」

「…………」

 

 しばしの沈黙。それを打破したのはなのはちゃんだった。

 

「慎司君もごめんね、私のせいで……」

「別に誰も悪かねぇだろ」

 

 ただ、お互い不器用だからちょっとしたすれ違いが起きただけさ。

 

「慎司君も……アリサちゃんの所に行ってあげて」

「俺は平気だよ、そんな気にすんなって」

「お願い………」

「…………分かった」

 

 今は1人にして欲しいのだろう。ある意味の拒絶ともとれるか。それは悪く考えすぎか。何度かなのはちゃんの方に振り返って様子を伺いつつ俺もアリサちゃんの後を追った。

 なのはちゃんはずっと俯いたままだった。

 

 

 

 アリサちゃんとすずかちゃんは屋上にいた。ある程度話は終わっているようでアリサちゃんも既に落ち着いている様子だった。俺が屋上に顔を出すとアリサちゃんはバツの悪そうな顔をして

 

「怒鳴ってごめん」

 

 そう短く謝罪してきた。

 

「あぁ、別に気にしてないよ」

 

 なのはちゃんの事を真剣に考えて、本気で心配しているからこそ起こった感情の爆発だ。寧ろ誇っていい。それほどアリサちゃんが優しいって事なんだから。そんな俺の思いを伝えるとアリサちゃんは照れて顔を赤くしつつも

 

「……ありがと」

 

 そう伝えてくれる。普段からそれくらい素直なら分かりやすいんだけどな。まぁ、普段アリサちゃんの方が俺は好きだけど。俺とアリサちゃんを見てすずかちゃんは満足気に微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 放課後、アリサちゃんとすずかちゃんは音楽のお稽古、俺は柔道の練習で別れて解散する事に。別れ際、アリサちゃんはなのはちゃんと言葉を交わす事なく別れてしまったがまぁそれはそんなに深刻に考えなくて大丈夫だろう。

 アリサちゃんはアリサちゃんなりの、すずかちゃんはすずかちゃんなりのなのはちゃんの支え方を決めたようだから。練習に向かいながら考える、なのはちゃんの悩み事は一向に解決する様子も無さそうだ。相変わらず俺は全くなんの事だか分かっていない。なのはちゃんが潰れてしまわないか心配だ。まぁ、そうならないよう俺たちが何とか支えててあげないといけない。たとえ、その悩みに対して何も出来なくても。役に立たなくても。そんな事を考えているうちに道場に到着した。

 さて、一旦切り替えて柔道に集中しよう。柔道だけは他の要素など切り捨ててやらなければいけない。まだまだ強くなるために。

 帰りに翠屋に顔を出してみたがなのはちゃんの姿はなかった。やっぱり家かな?もう遅くなっちゃいそうだから家まで行くのはやめておこう。帰り際に桃子さんからケーキを貰った、お礼を言って俺は帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日早朝、何となく早くに目が覚めてランニングに繰り出す事にした。近くの公園……なのはちゃんと出会ったあの公園で準備運動をしてから走るのが俺のランニング時の日課だ。いつも通りそれをしようと公園に赴くと。

 

「ん?」

 

 公園のベンチでこの辺では見かけたことのない同い年くらいの女の子の姿が。金色の髪が朝日に照らされてキラキラとしているのかと錯覚を起こす。それとは対照的に女の子の表情や雰囲気はどこか儚げで………冷たい。いや、冷たいというか何だろう……うまく表現できない。何となくあの時のなのはちゃんように放って置けないようなそんな感覚に陥った。

 

「…………っ?」

 

 じろじろ見過ぎたか、目があった。瞳も綺麗な色をしているがそれも儚げに揺れ動いていた。

 

「……………………」

「……………………」

 

 目があったままお互い沈黙。どうしよう、なんか言わないと………変な人だとは思われたくない。

 

「えっと……」

「………………」

「君は………………」

「………………」

「………………テロリストですか?」

「…………違うよ?」

 

 あぁ神様、テンパった時にわけわかんないこと言う俺を許してください。そんなやり取りが後に皆んなと同じく長い腐れ縁となる……フェイトとの出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 割とタイトルが思い付かない。そしてこの小説ではフェイトたそ初登場であります

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