第一話 転生者ムンゾに立つ UC0060~0062
私はテレサ・レノックス。
世界の真実を知り、絶望している幼女だ。
その絶望の切っ掛け?今年がUC0060であることだよ。
宇宙世紀が使われているということから様々な記憶が脳内に沸き上がり、私は知恵熱で倒れた。
そして今はベッドの中で力なく横たわっている。
私の絶望の切っ掛けとなった宇宙世紀とは何か?
簡単に言えば西暦の次の年代の数え方だ。
西暦1990年代、人類史上初の統一政府である地球連邦政府のもと、人類は宇宙に進出した。
それから時間は流れ、人類の生存圏は木星まで広がり、宇宙には人工の大地であるスペースコロニーが浮かぶようになった。
人類の生存圏は木星にまで広がったが、人が主に住んでいるのは地球とコロニーだ。
木星の燃料採掘基地や、火星と木星の間にある小惑星の集合体であるアステロイドベルトにも人は住んでいるが、地球やコロニーと比べると少数である。
後述するが、地球とスペースコロニーの仲は決して良好とは言えなかった。
このわだかまりを解決し人類が一つに纏まれるように恒久の平和を願い名付けられたのが、Universal Century。つまり宇宙世紀だ。
人類が宇宙に進出し30年余りが経った西暦2021年の1月1日、この日西暦から宇宙世紀への移行が行われた。ちなみに宇宙世紀の始まりと共に地球軌道上の地球連邦政府首相官邸ラプラスが爆破されるという事件が発生している。反地球のスペースノイドのテロリストの仕業と思われたがこれは連邦政府の自作自演であった。これがラプラス事件だ。
ラプラス事件からもわかる根深い問題である地球とスペースコロニーの対立について説明しよう。この世界では一般的に地球住民はアースノイド、スペースコロニーをはじめとした宇宙の住民はスペースノイドと呼ばれている。この呼称からして差別意識を含んでいるものだ。
この問題の根底は第二次世界大戦にまで遡る。この戦争は私が知っているものとは違い、日本が連合国側に立っている。また、ドイツとソ連は連合国にフルボッコにされている。敗戦国のドイツは分割統治、ソ連は崩壊、中国インドといった第三世界は台頭していない。そして戦勝国であるアメリカ、イギリス、西ヨーロッパ、日本を中心とした資本主義国家が集まって地球連邦が成立した。
ちなみに私が生まれたサイド3ムンゾは、敗戦し分割統治され経済的に苦しかったドイツ系ロシア系の宇宙移民が中心となって作り上げたコロニーだ。この時点でかなり、地球連邦政府に対してヘイトをためていることが分かる。このことが分かるのがジオン訛りというものだ。英語が公用語として使われているが、サイド3ではロシア語やドイツ語の単語や文法が雑じった英語が使われているのだ。
そして第二次世界大戦の影響か資本家の影響が強かった地球連邦政府は、環境汚染に対して十分な対策が出来なかった。環境汚染を食い止めるために地球の人口を減らすことを求められた政府は宇宙移民政策を奨励した。もっともこの環境汚染に対しては私は疑っている。景気が悪化し新たなフロンティアが経済的に必要になったという側面もあるだろうし一概に地球環境の悪化が絶対的な原因だとは言えないだろう。
様々な要因があっただろうがともかく宇宙移民政策は推奨され多くの開拓者が宇宙に上がっていった。
逼塞した経済状況の当時、失業者は多かった。そして彼らは連邦政府の薔薇色の未来が待つ宇宙開発という文句に踊らされ宇宙に出て行った。彼らの多くが政府の言い分とは全く異なる過酷な宇宙環境で働くことを余儀なくされた。そして彼らはスペースコロニーを建設しようやく安住の地を得ることに成功したのだ。そしてこの勇敢な宇宙移民者やその子孫がスペースノイドとなるわけだ。地球連邦政府の謳い文句に騙され宇宙開拓で酷い目に遭ったスペースノイドはこの宇宙移民を宇宙棄民と捉えることも多い。家族全員が無事に生活できると聞いて宇宙にいったら事故で家族死亡、自分だけ生き残ったみたいな状況はザラだったらしい。そりゃあ宇宙棄民とも言いたくなる。
一方、この宇宙移民を、あ ほ く さ と思いながら見ていたのが地球に残った人々だ。彼らからすれば宇宙開拓は、明らかに危険で不潔で賃金の安い仕事に思えただろう。アースノイドの多くは教育が有り比較的裕福な先進国の人間が多かった。経済的に追い詰められ危険な宇宙に行く貧乏人をネット民の如く自業自得、ザマあwwwと思いながら馬鹿にしていた連中だ。一部のアースノイドは宇宙開拓者に敬意を持っていたが大半の市民は他人事であったし、安全な地球から危険な宇宙に行く勇士たちをかえって嘲笑するほどだった。そんな彼らの子孫がアースノイドである。
私だって前世だったらそれ騙されてるだろと、馬鹿にしただろうし、市民なんてそんなものである。
このようにスペースノイドとアースノイドの対立は、敗戦国と戦勝国の対立、発展途上国と先進国の対立、貧困層と富裕層の対立、といった文脈も含んでいる。
ちなみに今年はUC0060である。西暦換算で2081年。サイド3ムーアはドイツ系やロシア系移民の多いスペースコロニーである。つまり1940年代の敗戦のヘイト、1990年代からの宇宙移民のヘイトをため込んでいるのだ。さらにスペースコロニーは近いうちに地球からの資源に頼らず、完全な自給自足が近年の間に可能になると予測されている。地球連邦政府に不信感を抱いているサイド3の独立待ったなしである。
実際私の知っている限りではUC0079にサイド3は独立戦争を始めるのだ。俗に言う一年戦争である。
げんなり来たところで、私自身のステータスについて説明しよう。
私はテレサ・レノックス。三歳の幼女だ。今年はUC0060であり。一年戦争が始まるであろうUC0079は19年後であり私は22歳だ。私の家であるレノックス家はイギリスの貴族階級の出身である。イギリス海軍で将官を務めていたが、女性関係でやらかして50年くらい前にここサイド3のコロニー駐留艦隊の司令長官として派遣されたらしい。そしてサイド3で反地球の動きが出てくるとコロニー側に転んだという歴史を持っている軍人一家だ。女性関係でやらかして左遷させられたのを恨みに思っているだけであって、過激な独立派ではない。うちはどっちが勝ってもいいように蝙蝠をするのが得意な家柄なのだ。
ちなみに父親は現役の准将を務めている。低いと思ったそこのあなた!地球連邦軍の軍制度をご存知だろか?
地球連邦軍は資本家によって文民統制が求められたのか、アメリカ軍が母体となっているためなのか古き良きアメリカ軍のように平時の階級が低いのだ。平時の最高位の将官が少将である。まあおおかた文民統制のせいだろう。このため地球連邦軍を模範にして作られたムンゾ自治共和国防衛軍に於いて平時の最高位は少将となっている。パパは上から二番目に偉い階級なのだ。
このある意味非常に残念な軍人一家に生まれたことくらいしか私の幸運は存在しない。
私の身の不幸についてだ。
私の生まれたスペースコロニーサイド3はジオン公国を名乗り、地球に攻撃を仕掛ける側だ。サイド2ハッテの首都バンチであるコロニー、アイランドイフィッシュに毒ガスを流し込んで地球に落とすという外道を犯すクズの巣窟になる予定だ。
将来的に虐殺しまくるので嫌われ者である。さらに学徒出陣という最悪の所業を行う。私は家のコネクションで多分セーフ。うんだけどやっぱりこんなコロニー逃げたいわ!!!
あばよとっつぁん、といきたいところだがどこに逃げる?
地球はコロニーが落下して地震雷火事親父で天変地異に見舞われる予定だ。
サイド1ザーン、サイド2ハッテ、サイド4ムーア、サイド5ルーム、サイド7ノアはジオンの攻撃によって消滅予定だ。
唯一生き残ったのは中立のサイド6リーアだけだ。しかしサイド6に逃げたら、核攻撃を喰らう可能性がある。嘘だと言ってよバーニーになる可能性が否定できない。
いっそのこと地球圏を脱出するのは?
アステロイドは世紀末なのだ。リアル北斗の拳である。貧弱な私はあべしである。
木星も同様にヤバい所だ。生きて帰ってこれたらニュータイプになれる素晴らしいほどのストレスを与えてくれる土地だ。木星帰りの女になれるよ………
そして、死亡フラグは留まることを知らない。
私は俗に言う二重人格であり、私の副人格がニュータイプらしいという事実だ。フラナガン機関から始まる人体実験が大好きな機関系に捕まったらアウトである。
ニュータイプであろう証拠に、目覚めたもう一人の私は異様に勘が鋭く、記憶力が良く、体の扱いが人外じみている。寝込んでいるのに頭がやたら回り、忘れていて当然の情報を私が知っているのは彼女のせいである。
私の名前であるテレサの愛称をとり彼女のことを私はテスと呼ぶことにした。近代の痛みを感じそうな名前だ。
(ひゃっほー)
目が死んでいて無表情でありながら、ハイテンションでベッドの上でバク転をする幼女がそこにいた。
テスのおかげで私は汚いミクよろしく宇宙空間で前回りをしても死なない自身がある。
(キュピーン)
(私にも刻が見える)
(ファミチキください)
うるさいよ。
こんな知識を知っているのだから私は転生者なはずだ。それとも、精神異常者であり変なことを考えているのだろうか?もしかしてこれは虚構なのか?二次創作?ハーメルン?うっ頭が。
怖いことになりそうなので私は思考放棄した。うん。ありふれた転生者だ。私の前世の性別は男だった気もするが気にしてはいけない。
私の属性を纏めると、TS二重人格ニュータイプ、ジオン軍人名家幼女だ。
嘘!?私の属性多すぎ!?
テレサこと主人格の私はオールドタイプで、テスこと副人格はニュータイプ。そして身体はニュータイプだ。
私余計なものになってない?この身体の本来の持ち主は何処に?
(考えても仕方なくない?)
確かにその通りだ。まずは生き残ることを優先に考えなければならない。まあ、いいやの精神でいこう。
UC0062になった。私の自意識らしきものが目覚めておおよそ二年くらいが経つのだろう。
私は本ばかり読んで日々を過ごしている。地球連邦の公用語は英語であり、前世で多少英単語については覚えていたからあまり問題は無かった。それに副人格のテスが私の記憶野から忘却された記憶を引き出してきているらしく、忘れていた英単語も思い出した。仕組みについて聞いてみたら、魂がどうたらとか言い出して怖くなったので聞くのを止めた。止めた理由にはテスは感覚派で説明に擬音が多く意味が分からなかったというのもあったが。
私の容貌に関してだが、外遊びが嫌いで家に引きこっもて本ばかり読んでいるので色が白い。髪はテスが気にするので可愛らしく背中当たりまで届くポニーテールで纏めてある。ちなみに私は茶髪なので本当に馬の尻尾に見える。
家族仲に関しては良好だ。私は何となく後ろめたさがあるのでテスにパパやママの対応は任せてある。テスはしっかりと両親のハートをゲットしている。私が身体を任せて彼女が甘えるということをしている。身体を任せた私が中から俯瞰していて恥ずかしくなるくらいにはテスは甘えるのがは上手い。
こうして知識を広げて将来の為に自分を鍛えていた私にパパが申し訳なそうに話しかけてきたのがつい先日のことだった。ちなみにパパは丸眼鏡に髭の似非英国紳士である。
「読書中済まないがちょっといいかな?」
「うん。いいよ」
「テレサ、今何の本を読んでるんだい?」
「ジオン・ズム・ダイクンのニュータイプろんだよ」
「ははっ、随分勉強熱心だなあテレサは」
「うん。しょうらいのためにべんきょうしてるの」
「内容は分かっているのかい?」
「うん。スペースノイドの宇宙棄民に関しての独特な解釈はあまり好きじゃないけど、人の革新によって人間が分かり合えるはずだと未来に希望を残している点は、彼が単に極右の政治家や論客ではなく将来の展望について憂うことが出来る理性ある人物だと理解できたよ!」
「そ、そうか。子供だというのにテレサは随分立派だなあ」
「うん。私は未来のために頑張っているんだ」
「そんな賢いテレサにお願いがあるんだ。キャスバル様のご学友になってみないかい?」
はあああ!?ななな、なんで私が!?あんな歩く死亡フラグに近寄らなければならないのおおおお!?