私は教導機動大隊に所属するにあたって、士官学校のあるガーディアン・バンチから、実家のあるズムシティのムンゾ自治共和国防衛隊本部で辞令を受け取り、ダークコロニーに向かっていた。ダークコロニーとは過去にもしくは秘密裏に建造された秘匿性の高いコロニーだ。ここに教導機動大隊が駐屯している。
ここでジオンのモビルスーツ編成について説明しよう。
ジオンにおいては基本的にモビルスーツは3機で1個小隊。12小隊36機で1個中隊。4中隊144機で一個大隊が作られる。しかし、私の所属する教導機動大隊は割と適当に編成されている。これは教導機動大隊が完全に出来上がってはいないからだ。
事前に受け取った人員リストから、私が所属することになった第二中隊は、後に蒼い巨星と呼ばれるランバ・ラル大尉、後の黒い三連星の三人、格闘戦の草分けガデム大尉などが在籍していることが分かった。
ランバ・ラル大尉はダイクン派の元締めのラル家出身でザビ家にしては目の上のたんこぶ。ガデム大尉は派閥や権力に興味のない融通が利かない軍人であり、ザビ家にとって都合のいい駒にならない人物だ。黒い三連星に関しては兵隊やくざである。つまり教導機動大隊第二中隊は厄介な奴らの集まりなのだ。
私はキシリア閣下に啖呵を切った挙句、教導機動大隊の掃きだめのようなところに左遷させられたのだ。仮にも私は士官学校主席卒業者であるというのに……
(いや、私の実力を存分に発揮できる。腕がなるぜ)
テスはご満悦だ。確かに将来のエースがちらほら見える環境だが。
「私が教導機動大隊第二中隊中隊長のランバ・ラル大尉だ。こちらは先任将校のガデム大尉だ」
「テレサ・レノックス少尉です。士官学校卒業直後の新米ですがよろしくお願いします」
「ほう。嬢ちゃんエリートじゃねえか。これがどうしてこんな掃きだめに?」
「家の都合でして」
「ふん。連中は気に食わんな」
「ここはそういうやつらのたまり場だ。嬢ちゃんも肩ひじ突っ張らなくていいんだぜ」
ラル大尉やガデム大尉の好意は嬉しいんですが、残念ながら我が家はキシリア閥だ。父によると私をここに送り込むことでダイクン派とのつながりを強化するらしい。だから家の都合というのは全くの嘘ではないし、心苦しいが彼らが勘違いする分には仕方が無い。
ちなみに黒い三連星の奴らは私の尻を揉んできたので、投げ飛ばしたら彼らはラル大尉に連れていかれ、罰を受けたらしい。
私の指導教官はガデム大尉になった。私が少尉だからガデム大尉かラル大尉くらいしか丁度良く指導できる人材がいないのだ。
ムンゾ自治共和国防衛隊は連邦政府に隠れて軍備を拡大している立場であり、優先され拡大されるのは艦船だ。モビルスーツは二の次である。連邦宇宙軍に比べ圧倒的に数の少ない艦船を何とか増やすので精一杯なのだ。だから教導機動大隊といえど将官が少ないのだ。
ガデム大尉に連れていかれた先は巨大な倉庫だった。
「少尉、見たまえ。これがザクだ」
倉庫の扉が開き巨大なヒトガタが私の前に姿を現す。モビルスーツハンガーと照明、整備用の機械類で彩られていたのはMS‐05Bだ。私はこの機体が将来的には旧ザクと呼ばれるように呼ばれるようになっていることを知っている。それでもなお、このザクに引き寄せられた。
モスグリーンと黒で塗装された巨大な機械に私は魂を奪われた。作業員が私を怪訝な目で見てきたがそんなことは私には関係なかった。そうしてどれほどの時間がたっただろうか。
「美しい機体だろう。こいつは何百人というやつらの夢が形になったものだ」
私の何倍も年を重ねてきたガデム大尉の言葉には沢山の思いが含まれているにちがいなかった。
「ええ。私も魅せられました。モビルスーツというものに」
ガデム大尉は私の頭を孫にするかのようにワシワシと撫でた。不器用と優しさと機体の混じった撫で方のように私には思えた。
その後教本を渡され、その日はお開きとなった。しかし、この日の感動を私は忘れはしないだろう。
荷物を送ったコロニー内の宿舎で教本を読み終え、大体のところは理解した。これもひとえに私のニュータイプ成分であるテスのおかげだろう。彼女は感覚で大体のことを理解できるのだ。士官学校時代の成績は彼女の閃きに頼る部分が大きかった。
(閃き?私全部シャアのを精神感応してカンニングしただけだけど?)
前言撤回といこう。私の成績の大部分はカンニングによって成り立っていたらしい。
大体のところは理解したとガデム大尉に言ったところテストをさせられたが、難なくクリアして私はザクに乗れるようになった。事故に備えてノーマルスーツを着用し、コクピットに入った。コクピットハッチが閉まり、計器類に光が宿る。
機体がハンガーから解放され、機体の締め付けが無くなった。整備員の誘導に従って足を動かし、倉庫の外に出る。ガデム大尉のザクが倉庫から出てくる。私は感動していて通信が無事繋げたのを確認しすぐに話しかけてしまった。
「大尉。凄いですね。こんな巨大な機械に私は乗っている。なんて凄いことなんでしょう」
「少尉、少しは落ち着け。その気持ちは分かるがな」
「は、はい。落ち着きますね」
「よし、少尉、走ってみろ」
私のザクが機械音を立てゆっくりとスピードを上げた。地球よりも軽いコロニーの重力もあって私の機体は思ったよりも早く走り出した。
「少尉。かなり筋が良い。流石は士官学校卒だ」
「お褒めに与り光栄です」
「ふん。調子にのるな」
その日はザクを走らせただけで終わった。
次の日にはバーニアを吹かし、空中に浮かび上がったりもした。楽しいことはあっという間に過ぎるもので、ジャンプしたり、重力下での格闘戦をガデム大尉と行ったりもした。
宇宙空間での、戦闘訓練は楽しいものだった。スラスターを吹かし、自由自在に宇宙空間を飛び回るザク。アンバックを活かし、宇宙で方向転換を決めるのは楽しかった。
三か月余りがたち、私は教導機動大隊からの異動が決まった。詳細は不明だが非正規な任務になりそうなことは予想できる。
「少尉、随分と早いさよならだな。これからむさい男だけとはさびしくなるぜ」
「私もこれほど早く異動とは驚いております。大尉の御壮健をお祈りしています」
「じゃあ最後に飲みに行くか」
「ええ、行きましょう」
私はガデム大尉にお酒の味を教えられてしまったのだ。いいよねお酒。酔っぱらったガデム大尉の昔話は本人が話し上手なこともあってかなり面白い。人生の酸いも甘いも知った人のお話はとても為になる。
そういうことで私は教導機動大隊第二中隊と別れを告げたのだった。次の職場が不安で仕方が無いんですが……。