私が教導機動大隊から異動したのは突撃機動軍司令部付き連絡小隊だ。最近になりムンゾ自治共和国防衛隊は宇宙攻撃軍と突撃機動軍に改められキシリア閥の私は突撃機動軍に編成されたのだ。私の副人格であるテスがキシリア閣下を煽り、教導機動大隊ではダイクン派や兵隊やくざの多い所に回された。しかし、今回は割とまともそうな場所に送られることになった。何しろ司令部付きである。
辞令を受け取るべく私を迎えた将官は特徴的な外見だった。階級章を見ると大佐らしい。突撃機動軍には多様な部隊が所属しているがこんなにインパクトのある将官は少ないだろう。
「テレサ・レノックス少尉入室します」
「ヒュー・マルキン・ケルビン大佐だ。貴官は中尉に昇進の上、表向きは突撃機動軍司令部付き連絡小隊に配属される」
「といいますと?」
「実際はグラナダの諜報員移送護衛任務だ。部下はこちらで用意した。入れ」
私が入ってきた扉から入ってきたのは二人の少女だった。
「ムンゾ自治共和国防衛隊狙撃猟兵大隊から出向しました、リンゼイ・シミズ伍長です」
「ムンゾ自治共和国防衛隊ケレス師団から出向しました、エリザ・ヘブン伍長です」
「貴官は教導機動大隊で優秀な成績で訓練を終えた。彼女たちは素人だ。訓練に関しては貴官に一任する。一か月以内に彼女たちを一人前に仕上げてくれ」
「りょっ、了解しました」
酷いことになった。モビルスーツに関しては素人である人間を鍛えろという無茶ぶりが投げられた。
リンゼイ伍長は正規の兵としての教育を受けているのは確かで、狙撃猟兵というエリート部隊の出身だ。狙撃猟兵というのはドイツ系が多いサイド3におけるエリート狙撃兵の部隊である。なんでそんなところからここに来たのかわからないほど優秀な人物だ。
問題はエリザ伍長の方だ。彼女が所属していたケレス師団というのはアステロイドで食い詰めた奴らが入る師団だ。借金やら何やらで首が回らなくなった人間の借金を肩代わりする代わりに兵隊にしたのがケレス師団だ。だからこの部隊は教育を受けていない人間が多く部隊の秩序は酷いものとなっている。
そんな彼女たちを一か月でMS乗りに仕立てるのだ。頭が痛くなる。多分これはキシリア閣下の嫌がらせだろう。それと教導機動大隊が未完成であるということも理由にあるかもしれない。
ちなみに私の訓練時間は600時間程度である。テスが脳内に巣食っているので一年戦争は多分生き残れるはずだが、彼女に力を借りなくても生き残れるくらいの実力は身につけられた。
「中尉大丈夫ですか?」
シミズという姓から分かるように彼女はアジア系で黒い艶やかな髪が鮮やかな女性だ。長い睫毛と黒真珠のような瞳、柔らかそうな厚みを持った唇が魅力的だ。そして何より私と同じくらい背が低い。
私の身長は160しかないのだ。しかし、私の周りの軍人は滅多やたらに背が高い。女性であってもそうだ。そんな中私と同じくらいの身長というのは好感が持てるのだ。不安げに揺らめく黒い瞳に吸い込まれそうになった。
「本当に大丈夫ですか?」
「ああ。一か月しかないのかと思うとな……」
「大丈夫ですよ中尉。私はこう見えて優秀ですから」
「それとモビルスーツ適正は別だ」
「心配性なんですね中尉は。それと中尉って何歳ですか?」
「私は20だ」
「えっ!?私と一緒なんですか。小っちゃくてかわいいですね」
えい、と言って私の頭をなでてくるリンゼイ伍長。こういう扱いには慣れてしまった。士官学校でもゼナに可愛がられたし。
(百合の波動を感じる……)
ぶっちゃけ恋愛とか知らないわ。まずは命の危機から逃げなければならないからな。しかし、こう撫でられていて悪い気持ちがしなくなってしまった。もしかして私は女の子が好きなのでは?
(やっぱり百合じゃないか!?)
まだ百合じゃないです。
リンゼイ伍長といちゃついてる私を複雑な表情で見ているのはエリザ伍長だった。彼女は一般的なジオン軍人の例に漏れず背が高い。そして巨乳だ。軍服で乳袋を作っている。煌びやかなブロンドをポニーテールにして腰までぶら下げている。茶髪虚乳童顔な私とは対照的な、金髪巨乳お化けだ。
私は小動物を可愛がるような蕩けた顔をして私をなでているリンゼイ伍長を正気に戻した。
「私はテレサ・レノックス中尉。モビルスーツパイロットをしている」
「中尉モビルスーツって何ですか?」
「ああそうか、そこからか。話はダークコロニーに行ったらするから、各自でこれを読んでいてくれ」
私はMS‐05Bの教本をリンゼイ伍長に渡した。そしてえこちらをジトっといした目で眺めてくる高身長金髪巨乳にもマニュアルを渡した。
ズムシティの軍駐屯地からダークコロニーまではガトル突撃艇で移動した。ガトルに乗るのは士官学校で操縦していらいだったが今回はお客様として運ばれるだけだった。ちなみに普段はガトルではなく普通の連絡艇を使うので今回は特別なのだろう。
エリザ伍長は最初は距離があったが、一緒に過ごしていくうちに距離は縮まった。彼女はアステロイド出身で友達が出来るのが初めてだというそうだ。リンゼイ伍長はそれを聞いて涙ぐんでいた。エリザ伍長元来快活な性格なのだろう、私を撫でまわして姉ぶっている。
そんなこんなで一か月が過ぎた。彼女たちのMS訓練は終了した。彼女たちは実戦では生き残れる程度の腕に仕上がったはずだ。
教育するのが大変だったため、モビルスーツシミュレーターの作製についての話をジオニック社の技術者さんに聞いたところもうすぐ完成するそうだ。技術者さんも教育に疲れた私と同じように納期に追われ死んだ魚の目になっていて、気晴らしにお酒を飲みに行ったら意気投合した。
他にも、ツィマッド社の人や、MIP社の人とお話をして仲良くなった。この時期のダークコロニーは研究者や技術者が集まり、かなりの賑わいを見せている。他にもモビルスーツのパイロットとして教導機動大隊にに召集された人などが集まっているので賑やかだ。今後の為に繋がりを作っておくのが大事だと思ったのでお酒を飲みに行った。技術者のおじさんのお話に相槌を打つ簡単なお仕事だ。というか内容分かるしそれなりに盛り上がった。
そんな裏工作とも言えないようなことをしたおかげで、私の愛機のMS‐05Bは脚部スラスターなどに改良を受け機動性が高くなった。高機動型旧ザクと言えなくもないものになったのだ。エリザ伍長のザクは本人に合わせて調整したもので、通常のMS‐05Bと大した違いはない。しかしリンゼイ伍長のMS‐05Bはかなり改造されている。具体的には武装が本来のザクマシンガンから、ツィマッド社から提供してもらったヅダ用の対艦ライフルを精密射撃用のロングバレルにしたものになっているのだ。それに合わせて頭部が後のMS‐06E型やザクフリッパーの原型のようなものに換装されている。狙撃特化型旧ザク。もしくは旧ザクスナイパーというようなものになっているのだ。
私達の機体がこうなったのは任務の為だ。グラナダの親ジオン勢力に通常の方法では持ち込めないものを渡すための密輸任務の護衛である。地球連邦軍の哨戒機を排除し哨戒域を突破、異変に気が付いた連邦軍戦闘機を排除し密輸部隊を無事に本国に帰す作戦だ。
護衛対象はパプア二隻である。私達はその一隻に乗り込み連邦軍の警戒空域で大暴れするのだ。普通に戦争寸前の国境紛争の真似事をするのだ。それにあたって私たちはタックネームを決めた。さらに私たちのザクは灰色の光学迷彩が施されている。これはこれで格好いい。
作戦の期日になった。非合法な物資を満載したパプア二隻の内一隻は三機のザクが乗り込める隙間を作っている。私達はそこにに乗り込んだ。
パプアの巨体がゆっくりとベイから離れていく。満載した荷物に紛れたザクの中では本当に荷物になった気分だ。
「目標の空域に到達。ザク小隊は発進準備を」
無線で勧告が入る。ゆっくりとパプアの搬出口が開きそこから暗黒とほんの僅かな光に彩られた宇宙が顔を出した。
「ドラキュリーナ、ザク出る」
「ライム、ザク出ます」
「イシュタム、ザク行きます」
タックネーム呼びで発艦するのもなかなか悪くない気がする。パプアからは私のザクを先頭に二機のザク青白い流星を引いて続く。
私は120ミリザクマシンガンにヒートホークを装備しているがバーニアをいじったため中々の快速が出る。リンゼイ伍長は長大なライフルを背負っての出撃だ。エリザ伍長はリンゼイ伍長の援護の為に頭部がツインアイに変更され、バラ撒き用の88ミリマシンガンとヒートナイフを装備している。ちなみにヒートナイフはツィマッド社が作った物だ。
「こちらカポネ1。目的の座標に到達。哨戒エリアの為かミノフスキー濃度が高くレーダーが利かない。ザク小隊はどうか?」
「こちらライム。敵哨戒機の航跡は確認できず。いや待ってください。小隊長あれって!?」
「ドラキュリーナ、ライムより画像を受信した。サラミスだな間違いない」
「馬鹿な!?なんでサラミスがこんなところにいる!?情報部がポカしやがったのか?おっと失礼した。済まないなザク小隊。あいつの足止めをしてくれ」
「ドラキュリーナ了解。沈めて見せましょう」
「幸運を祈る。カポネ1オーバー」
サラミスかよなんでだよ!?正直サラミス相手はやりたくない。巡洋艦相手に自分から喧嘩売るやつなんていないだろう。
(私がいれば楽勝。さあ身体を開け渡すんだな)
そうなのだ。ニュータイプを脳内に飼っている私なら余裕なはずなのだ。だけど怖い。それに部下が死んじゃう。部下が死んだら私の評価が下がってしまうし、昨日まで一緒にいた奴にいなくなって欲しくないのだ。
「隊長無理ですよ。あんなのどうやって沈めるんですか?」
「私が突撃しブリッジを潰す。その間ライムがバイタルを撃ち抜け。それで沈まず私が死んだらイシュタムが援護しつつ撤退しろ」
「ライム了解しました」
サラミスの艦橋が私の射撃によって撃ち抜かれる。相手は撃たれると思っていなかったのかまばらな対空砲火しかなかった。ライムの射撃でバイタルパートを撃ち抜かれたサラミスは明後日の方向に回転し始めた。そうしてクジラの死体が腐敗し破裂したかのように沈んでいった。
「こちら、ザク小隊。カポネ1、サラミスを撃破した。繰り返すサラミスを撃破した」
「隊長、反応有りませんね……」
「ミノフスキー粒子が濃いのか。パプアが撒きすぎたようだな」
「帰りのパプアに拾ってもらおう。それしかない」
「分かりました」
こうして、私のMSでの初めての実戦は終わった。帰りはきちんとパプアに拾ってもらうことが出来てよかった。
作戦の成果だが、パプアはきちんと積み荷をグラナダ内の親ジオン勢力に渡すことが出来たらしい。これでグラナダがジオンにわたることが確定となったようだ。
今回の戦闘は軽いものだった。しかし確実に実戦は近づいている。そう考えると、私はなんとも嫌な気持ちになるのだ。