宇宙世紀は終わらない   作:むにゃ枕

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第九話 月のサカナ UC0079 1.3~

 宇宙世紀0079。地球から最も遠い宇宙都市サイド3は、ジオン公国を名乗り、地球連邦政府に独立戦争を挑んできた。散り行く男たちと女たちの時代が始まった。

 

ついに一年戦争が開戦。これから世界は混沌に包まれていくのだ。ジオン公国の戦争初期のドクトリンは電撃戦(ブリッツクリーク)

キシリア少将旗下の突撃機動軍が月面都市グラナダ、フォン・ブラウンを制圧後、ドズル中将旗下の宇宙攻撃軍がサイド1、2、4を一気に制圧する形になっている。

 

そして私は突撃機動軍所属であり、MSパイロットとして月面都市に向かうことになる。

 

「これは、キシリア閣下の秘蔵部隊とされるカルミラ中隊御一行で?」

 

「ああそうだ」

 

 私の中隊は私の通り名である吸血鬼にちなんでカルミラ中隊と呼ばれている。カーミラだとかカミラだとかいわれている女吸血鬼の名前を冠した中隊だ。

おまけにザクには、コウモリと血のような赤いライン。

そんな中隊でも友軍からは好かれているらしい。

 

「随分美人な嬢ちゃんじゃないか、おい。愛人枠かい?」

 

「階級章が目に入らないようだな?」

 

「しっ失礼しました大尉殿」

 

私は立派な大人だ。なんて失礼な奴め。艦ごと沈めてやりたい。

 

「大尉。お怒りは最もですがこれからは戦争の時間ですよ」

 

「ああ。だから貴様らの緊張をほぐしてやったんだ。さあ行くぞ!」

 

パープルウィドウから降下する白いザクとその眷属達、目標はフォン・ブラウンの連邦艦隊の時間を稼ぐために派遣された、二隻のマゼランを中心とした連邦の小規模な艦隊だった。

 

私につけられたのは不本意なタックネームだが致し方ない。

 

「ドラキュリーナより各隊へ。蹂躙しろ。間違っても死ぬなよ」

 

 今日もザクの調子はいい。快調なバーニア音を響かせながら私は飛んでいく。部下の返事はどこかに消えて行った。

 

 楔形の陣形で対空防御を固めている連邦艦隊だが私には問題ない。弾幕との楽しいダンスだ。

加速のせいで体が重い。だがそんなことは関係ない。

 

腹いっぱいに魚どもをため込んだ、コロンブス級だ。

 

「MayDAy! MayDay!」

 

ミサイルを連射しこちらを落とす気だったのだろう哀れなセイバーフィッシュのパイロットが絶叫している。

 

こんなのに弾はいらない。私にコクピットを蹴り飛ばされふらついたセイバーフィッシュは、サラミスに突っ込んで果てた。

 

コロンブスの腹の中にバズーカをくれてやるとややあってから、彼女は宙の藻屑と化した。中からは戦闘機の残骸とともに、人が零れ落ちてくる。

 

原型を保ったもの、体の一部だけのもの。私の中に彼ら彼女らが入ってくる。

ああ。私は生きている。漆黒の狂気の空間での殺し合い。

その中では勝者だけが生き残れる。敗者はデブリの仲間入りだ。

 

「ふふっ。私生きているのね。素晴らしいわ!ねえ!もっと私に生を実感させて!!」

 

戦場の空気、一隻沈めたからか私は酷く高揚していた。

下腹を甘い疼きが襲う。

下着の中は温かく湿っていた。

 

「ソード1よりドラキュリーナへ、マゼラン二隻排除しました」

 

「了解。残敵の掃討に移行サラミス狩りいこうじゃないか」

 

「スコアが一番低かった小隊がボトルを奢るそうです」

 

「私はどうなっている?」

 

「貴女は一人で十分でしょう」

 

ストレット少尉からの通信で、私の身体の火照りが冷めた。

 

マゼランとコロンブスという中核が沈められたからだろう、サラミスの足が乱れ始めた。

それを小隊単位のザクが見事な連携で墜としていく。

 

奢るぐらいならしてもいいが、部下に負けるのは癪だ。

私も負けてはいられない。

(というか、沈めてんじゃんこの自分語りの間に)

まあ実際、手は休まず動いているしサラミスやレパント級フリゲート艦を沈めている。

 

こちらにはさして損害はなく、連邦軍のグラナダ防衛艦隊は壊滅した。

 

 

 

私の中隊が艦に戻り補給を受ける時に揃いのカラーリングのザクⅠが降下していくのが見えた。彼らはグラナダを完全に制圧するのだろう。数隻のパプアから兵士と物資が満載された船が下ろされていく。

 

元々、グラナダはジオンの力が強いので制圧はさして難しくないだろう。

補給を受け、艦船を護衛しながら向かうのはフォン・ブラウンだ。

こちらは連邦宇宙軍月面方面軍基地が行われている重要な基地である。

グラナダの小艦隊を蹴散らすようにはいかないだろうが、まあ頑張るしかない。

 

 

 

キシリアは、正面で行われている戦いから目を背けたかった。自身の側近の娘。眼前の戦場で大立ち回りを演じている白いザクのパイロットだ。

 

キシリアにとってその女は鬼門だった。初めは従順なはずの駒だった。使いつぶしてもいいはずの盤上の存在だったのだ。だが、士官学校を卒業した駒はキシリアに牙を剥いた。

 

暁の蜂起が起き、士官学校の生徒が連邦に立ち向かった。それはいい。しかし、そのなかで問題になったのがくだんの少女だった。

36人の連邦兵を残虐な方法で殺害した化け物。部下が拾ってきたその事実をキシリアは噂だと一蹴した。それがキシリアにとっての最初の過ちだった。

 

彼女とバーで対面した時にキシリアは得体のしれない恐怖を感じた。只の少女にだ。

そしてキシリアは銃を抜きかけ、少女に脅され惨めに失禁した。

キシリアにとっては屈辱だった。この少女に怯える自分自身が惨めだった。

この少女への殺意よりも自分への怒りの方が強かった。

この少女の皮をかぶった獣を惨めに殺すよりも、自分の下に屈服させ従順な飼い犬に仕立てる。

それこそがキシリアのプライドの守り方であった。

 

そして少女を教導機動大隊に送りMSパイロットに仕立てた。

士官学校を首席で卒業しただけあって少女は優秀だった。

そのためキシリアは司令部付きの小隊を任せた。

後に部下が獣の怒りを買おうとする行為を行っていたことを知り、キシリアは心底恐怖した。

狂気を従えた少女が自分を殺しに来るのではないだろうかと。

ただ、その少女が皮肉にも自分と同じことを恐れていたとキシリアは知らなかった。

 

そして、キシリアはその化け物を大尉に昇進させ中隊を任せることにした。

部下の評判も良いと聞き、キシリアはその側近の正気を疑った。

化け物の父親は平然としたもので、戦場の狂気だったのでしょう。軍人にはたまにあることですと言った。

更には親孝行な自慢の娘だとも。

キシリアの恐怖は理解されなかったのだ。

 

ジオン公国が宣戦布告し、月面を制圧するときにもその化け物はお仲間の中隊と共に真っ先に敵艦隊を殲滅した。

グラナダしかり、フォン・ブラウンしかりだ。

おかげでキシリアの突撃機動軍の損害は軽微だった。

キシリアは複雑な気分だった。

狂っているが優秀な人材であり、便利な駒であるが盤上から逃れることのできる駒だとキシリアはテレサ・レノックス大尉のことを認識していた。

 

しかしそれは残念ながら勘違いである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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