「そんな・・・・篝さん」
悲痛の声を出しその場で膝を折って項垂れる黒ウサギ。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」
黒ウサギの視線には自分の体を龍にへと変え自我を失くし暴れ回っている篝。魔王は倒した。だが、その代償は黒ウサギにとってあまりにも大きかった。
「おいおい、なんだあれ?篝なのか?」
黒ウサギの隣へと着地してきた十六夜。だが十六夜の右腕はボロボロ、拳は砕けていた状態だった。
「おい、黒ウサギ。項垂れてねえで説明しろ。ペストはどうなった?あの龍は篝なのか?」
「・・・・・・YES。
「今のようになったわけか・・・・」
状況を理解し納得した十六夜はどうするか考え始める。
「黒ウサギ。あの状態から篝を元に戻す方法はあるのか?」
「・・・・・黒ウサギにもわかりません。ですが、このままだと
「篝がこの街を破壊しかけないな。下手をすれば死人も出る」
暴れ回る篝を見てそう言う十六夜だが急に篝の動きが止まった。怪訝そうに首を傾げていると篝の視線が十六夜たちに止める口を大きく開けた。
『よう、貴様らが元宿主の仲間か』
十六夜たちを指しながらそう言うと十六夜は不敵な笑みを浮かばせながら篝に言う。
「ああ、そうだ。お前はいったいなんだ?」
『俺はタンニーン。暴れるのが大好きなただのドラゴンだ。感謝するぜ、お前らがいたおかげでこうして体が手に入ったのだから』
「・・・どういうことだ?」
十六夜の問いに口を吊り上げながら自分の胸を叩いく。
『なーに簡単だ。こいつは貴様らを守る為に自分を犠牲にしたんだよ。まあ、そうするように仕向けたのは俺だがな』
ケラケラと笑いながら言ってくるタンニーンに黒ウサギは
「よくも・・・よくも篝さんを・・・・・ッ!」
髪を淡い緋色色に染まり、薄ら涙目になりながらもタンニーンを睨む。
『安心しな、貴様には手を出さねえよ。そういう約束だからな。だが、貴様なら別にかまわねえか』
「っ!?」
赤い双眸で十六夜を見たと同時一瞬で十六夜の前に現れたタンニーンに一瞬十六夜も驚くがすぐに反撃をしようとしたが突然、タンニーンは動きを止め別の方向へと視線を向ける。
『おいおい、貴様が来るのか?白夜王よ』
「白夜叉様!」
タンニーンの視線の先には険しい表情をした白夜叉が立っていた。
「タンニーンよ。いったいどうやってあの小僧から体を乗っ取ったとは聞かん。じゃが、おんしが出てきたのなら仕方ない。私がここで息の根をとめてやろう』
「お待ちください、白夜叉様!篝さんは」
「すまんのう、黒ウサギ。私があやつにこやつを薦めたせいで・・・・。後でいくらでも詫びる。じゃから、あやつのことは忘れよ」
申し訳なさそうに謝る白夜叉に黒ウサギは声も出すことは出来なかった。
「責任は全て私にある。おんしらは何もするな」
それだけを黒ウサギたちに告げるとタンニーンに向けて強大な殺気を放つ。だが、タンニーンはそれを見て笑っていた。
『ハハハハハハハ!さすがは白夜王!凄まじい殺気だ!だが、さすがの俺も貴様と戦えば死ぬな。・・・・・そうだな』
不気味な笑みを浮かべたタンニーンは口から特大の炎を街に放った。持ち始める建物から魔王から避難や身を隠していた人たちが次々出てきた。
『白夜王よ。悪いが動かないでもらおう。まともに戦えば俺は貴様に殺されるが、ただではこちらもやられん。街の奴らを道ずれだ』
タンニーンの言葉に白夜叉は動けなかった。白夜叉なら倒すことは出来る。だが、少なからずの手傷は負う。そんな状態から街の人たちを守りながら戦えば白夜叉もただでは済まない。
『動かないでくれよ。少しでも動く気配を出したらあいつらもお陀仏だからな。今は・・・』
タンニーンは視線を十六夜に向けると翼を広げ滑空するかのように突っ込む。
『今は貴様らで遊ばせてもらうぜ!』
突っ込み鋭い爪で斬り裂くようになぎ払うタンニーンの攻撃を十六夜は姿勢を低くして躱し、左腕で殴り、境界壁までふっ飛ばした。
『ハハハハ!いいぜ!いい攻撃だ!人間として勿体無いぜ!』
平然とするタンニーンに舌打ちし拳をかまえ迎撃しようとかまえる十六夜。だが
「やりなさい!ディーン!」
『DEEEEEEEEEEeeeeeeeeeeeeeEEEEEEEEEEN!!!』
飛鳥の命令でディーンは紅い剛腕でタンニーンを殴りつける。だが、タンニーンはそれを受け止めた。
『おいおい、小娘。随分面白いものを従えさせているな』
「篝君!目を覚ましなさい!こんな奴の言いなりなってどうするの!?」
愉快そうな笑みを浮かべ飛鳥に言うタンニーンだが飛鳥は無視して叫ぶ。
「たかがドラゴンごときに操られる貴方ではないはずよッ!いい加減戻ってきなさい!」
『無駄だぜ、小娘!こいつの意識も完全に俺が乗っ取った!』
炎を飛鳥とディーンに放つタンニーン。だが、突然来た突風にかき消されたと同時、耀がタンニーンの頭から踵落しした。
「篝を返して・・・・ッ!」
無表情ながらもその目は怒りで満ちていた。それを見たタンニーンは笑った。
『ハハハハハ!もう無駄だ!こいつと俺は完全に一体化しこいつの体も心も支配した!もうこいつは助からん!人間とは脆いもんだ、少し心を刺激すれば簡単に乱れ隙が出来る。それと、これはこいつ自身望んでいたことだ。酷いもんだったぜ、こいつの過去は・・・・。苦しみを耐えていた時に訪れる絶望。それを味わったときに滲み出た人間への殺意と残虐性。俺が一瞬引くほどのものだった』
「・・・ッ!篝はそんな人じゃない・・・!」
グリフォンの力で大気を踏みしめ蹴りを放つがタンニーンはそれを受け止め笑みを浮かべながら問うに問う。
『何故貴様にそんなことがわかる?』
「篝は・・・・私を身を挺して守ってくれた優しい人。貴方が言う人じゃない・・・・ッ!」
『こいつは人ではなく死人だ。ただ死を追い求めていただけだ。結果的に貴様を助けたにすぎん』
「春日部さん!避けて!」
紅い二つの剛腕がタンニーンを挟むように両側から迫り耀は大気を踏みしめ回避するにたいしてタンニーンはそれをも受け止めた。
「そのまま動きを封じてしまいなさい!ディーン!」
『DEEEEEEeeeeeeeeeeeeeEEEEEEEEEEEEEEEN!!』
ディーンの両手のなかにタンニーンが挟まれ取り押さえられているがタンニーンの表情から笑みは消えなかった。
『ハハハハハハ!中々の力だ!だが、まだ俺には力不足もいいところだ!』
両手両足に力を入れ脱出したタンニーンはそのまま飛鳥へ攻撃をしようとするが突然の落雷に直撃する。
「黒ウサギのことを忘れてもらっては困ります!必ず貴方から篝さんを返していただいます!」
『さっきも言ったはずだ!こいつはもう完全に俺が乗っ取った!』
落雷が直撃したにもかかわらず平然とし、黒ウサギに炎を吐くが黒ウサギはそれを雷で相殺する。
「強い・・・・ッ!力を殆ど失っているはずなのにここまでの強さを持っておられるとは・・・・さすがは元最強種でございますね・・・・ッ!」
『懐かしいぜ・・・暴れ回ったあのときを思い出すな!』
懐かしそうの叫ぶタンニーンは十六夜たちに視線を送り十六夜たちに叫んだ。
『貴様ら全員でかかってこい!その方が面白そうだ!なーに、痛いのは一瞬じゃ終わらないのが戦いの醍醐味だ!』
挑発とも言えるその言葉に十六夜、飛鳥、耀が反応した。
「カッ、これはまたずいぶんな素敵な挑発じゃねえか」
「そうね、おとなしくやられてくれれば少し痛い目で許してあげようと思っていたけどその必要はなさそうね」
「・・・・・ボコボコにする」
「落ち着いてください!御三様!簡単な挑発に乗ってはいけません!」
挑発の乗ってしまう十六夜たちを黒ウサギは落ち着かせようとするが十六夜たちは止まらなかった。
「まずはその牙と爪をへし折ってやる!」
「本気で行くわよ!ディーン!」
『DEEEEEEeeeeeeeEEEEEEEN!!』
「容赦はしない」
「御三様!?篝さんのことを忘れてはございませんか!?一応、篝さんのお体でもあるんですよ!?」
もはや止まることの知らない問題児たちに黒ウサギはツッコンしかなかった。だが、十六夜たちはそんな黒ウサギのツッコミを無視しまずは十六夜がタンニーンに向かって跳躍し、そのまま蹴りをくらわせようとするがタンニーンはそれを避け鋭い牙で噛みつこうとするが耀の空からの攻撃にタンニーンはまともに喰らってしまう。
「今よ!ディーン!」
落下中のタンニーンに照準を合わせディーンの赤い剛腕で殴ろうとしたがタンニーンは態勢を立て直し翼を広げそれを回避する。
『どうした!?この程度か!?』
余裕そうに再び十六夜たちに挑発するかのような言葉を出すタンニーンを見て黒ウサギは奥歯を噛みしめた。
やはりお強い・・・・ッ!あのお方を倒すにはやはりインドラの槍クラスに強力なものでなければ・・・・しかし、そうしたら篝さんまで・・・・!
堅牢とも言える強固なあの鱗を破壊するには一撃必殺とも言える強力なものが必要。だが、相手は狂暴なドラゴンではあるがその肉体は篝本人。篝のことを考えればそれこそ強力なギフトは使えなかった。
いったいどうすればいいのでございますか・・・・篝さん。
いないにも関わらず思わず篝を頼ってしまう黒ウサギ。しかし、どんなに頼ろうとしても今ここに篝は存在していない。黒ウサギたちを守る為自らを犠牲にしタンニーンに体を捧げた。
黒ウサギのときは止めてくださったのにどうして御自分の時は自分を犠牲にするのでございますか・・・?
ペルセウスのとき、黒ウサギはルイオスが言ってきたレティシアと黒ウサギの交換のとき篝は無駄だと言い黒ウサギにきつい言葉を言った。それなにもかかわらず今回篝が自分を犠牲したことに黒ウサギは怒りを感じていた。
「篝さんの・・・・・篝さんの超大馬鹿様ぁ――――――――――――――――ッ!」
「篝さんの超大馬鹿様!黒ウサギにあんなこと言っておいてご自分だけ犠牲して満足そうに消えないでください!さっさとそこから引きずり戻して黒ウサギの素敵なお説教タイムなのですよーッ!」
うがーと髪を緋色にしながらタンニーンに向けて怒鳴る黒ウサギ。だが、帝釈天より授かった雷を直撃しているにもかかわらずタンニーンは平然とそれを受け止めていた。
『無駄だ。こいつの体も心もすでに支配したとなんべん言ったらわかる!』
黒ウサギの言葉を否定するように叫ぶタンニーン。すると、タンニーンの頬に涙が流れる。いや、黒ウサギの瞳から涙が溢れその涙がタンニーンの頬に落ちていた。
「黒ウサギの・・・・・黒ウサギのお返事はまだでございますよ?」
以前、篝が黒ウサギにプロポーズしたとき黒ウサギは返事をしていなかった。そのことをタンニーン越しで篝に言うがタンニーンは舌打ちした。
『チッ、しらけちまう。そんなにこいつが恋しいのならこれで死んどきな』
タンニーンは篝がもつギフトカードからレーヴァテインを取り出し、炎を刀身にまとわせ言う。
『確かこう言っていたな。燃え散らせ!』
刹那、レーヴァテインの炎が巨大な炎の柱になり黒ウサギを包み込んだ。
「「「黒ウサギ!」」」
炎に包まれた黒ウサギの名を叫ぶ十六夜たちの声が聞こえた黒ウサギは心の中で皆に謝った。
申し訳ございません、白夜叉様、ジン坊ちゃん、レティシア様、リリ、コミュニティの子供達、十六夜さん、飛鳥さん、耀さん、篝さん。お力になれず本当に申し訳ございません・・・・・。
死を受け入れようと目を瞑る黒ウサギ。
「クソッ!」
十六夜はすぐさま炎を破壊しようと炎の柱に殴りかかろうとするがタンニーンがそれを止めた。
『おっと、戦いはまだ終わってねえぜ!月の兎はもう諦めなぁ。魔剣の炎に飲まれたら最後死を待つだけだ』
「なら、止めやがれ!」
『断わる、俺の楽しみをしらけさせたんだからな』
「チッ!」
舌打ちする十六夜はタンニーンを無視して炎の柱に何とか攻撃しようとするがそのたびにタンニーンが邪魔をする。飛鳥もディーンを従えさせ黒ウサギを救出すようとするがそれも邪魔され、耀は猛風を起こして何とか炎を打ち消そうと試みるが効果はなかった。
『諦めな!もう月の兎は骨も残らず燃えているはずだ!』
黒ウサギの消滅を見て一笑いしようと炎の柱に視線を向けるタンニーン。すると、突然、炎の柱が消滅した。
『なっ!?』
炎の柱の消滅に驚愕するタンニーンだが、消え去った炎の柱から黒ウサギがいた。
「あれ?黒ウサギは確か・・・・」
死を覚悟した黒ウサギは自分が何故生きていることに自分自身驚愕していたが何より一番驚愕していたのはタンニーン本人だった。
『馬鹿なッ!?確かに魔剣の炎で月の兎を・・・・・まさか!?』
何かに気づいたタンニーンだが篝のギフトカードからナイトメアが飛びだした。更にタンニーンが持っているレーヴァテインがタンニーンの手を焼き離れる。
『まさか・・・・・まだ、まだ俺に支配されてないというのか!?貴様は!』
危なかった。もう少し意識を取り戻すのが遅かったら黒ウサギを死なせていた。あの時、黒ウサギの叫びで目が覚めてよかった。だが・・・・。
おい、タンニーン。よくも黒ウサギに手を出したな。許さねえぞ・・・・ッ!
『ハッ!すでに俺は貴様の体を乗っ取ってんだ!今あるお前の意識を再び支配するまで時間の問題だ!』
ああ、だろうな。少しずつだが意識が飲まれていっている。だからその前に決着をつける!
『どうやってだ!?この体は貴様のものだ!貴様の仲間に貴様を殺させるつもりか!?』
違う、そんなことはさせない。
俺が叫んだと同時、街から突然噴き出てくるように火柱が出て来てタンニーンごと炎の柱が俺たちを包み込む。
『ガァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?熱い!熱い!何故だ!?何故幻術で熱く感じてんだ!?』
『なら、何故俺は熱いと感じている!?』
それが現実悪夢。この技は視神経から脳に運び認識させ思い込ませる技。見たものを幻術へと喰らわせる技。お前は黒ウサギが炎に包まれたときこう言ったよな。骨も残らず燃えているはずだ、と。それはお前が黒ウサギにそうしようと考えたからその情報がお前の固定観念とされている。固定観念を止めない限りその幻術の炎はお前の精神が崩壊するまで続く。
『馬鹿が!俺が熱いと認識しているなら少なからず一体化している貴様にも影響が出るぞ!』
ああ、俺も熱いと感じている。このままじゃ俺も精神が崩壊するだろう。だが、それがどうした?
『何!?』
忘れていないか?俺は死人だ。すでに
『クソクソクソッ!貴様!?まさかこうなることを見越して俺に体を乗っ取らせていたのか!?』
いや、黒ウサギが叫んでくれるまで俺は完全にお前に飲まれていたよ。あれがなければお前は俺を完全に支配し好きなように暴れていただろう。お前の敗因は二つ。一つ、黒ウサギがいたこと。二つ、お前は俺が唯一生まれ持って自信のあるものを一つ見落としていた。
『なんだ!?それはいったいなんだ!?嘘か!?』
違う。俺は生まれ持って悪運が強いんだ。ガルドのとき同様、今回もその悪運に助けられた。お前は運が悪かったな。
俺は嗤いながらタンニーンに向けて最後の言葉を告げた。
運が悪かったな、タンニーン。この戦い俺の勝ちだ。黒ウサギとノーネームと俺に手を出したことが運の尽きだったな。
俺は元最強種のタンニーンの心を壊した。