『ギフトゲーム―――”アンダーウッド”の収穫祭・狩猟部門――――
・参加者
自由参加(前日までに要申請)。
・ルール規定
一、コミュニティごとに戦果を競う(ゲーム内での同盟は可)
二、亜人を含む人類は狩猟用の武具を着用すること。
三、勝敗は獲物の総重量をポイントにして決する。
四、角付きの戦果には加点あり(奉納・祭具として寄付を認めた場合に限り)。
五、期間は前夜祭の正午から夕暮れ迄とする。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、各コミュニティはギフトゲームに参加します。
“龍角を持つ鷲獅子”連盟 印』
篝と黒ウサギが出会う半刻前。
”アンダーウッド”・東南の高原とアラサノ樹海・境界線で飛鳥と耀はギフトゲームに参加していた。十分な戦果を出し、満足しながら仕留めた獲物を運ぶ一団へと積み飛鳥たちも荷馬車へと腰を下ろし楽しそうに談話していると突然の地響きと共に車輪が大きく跳ねた。
「痛っ・・・・・・・!な、何よ今の揺れ」
「何だろう。凄く大きなものが落ちてきたみたいだけど」
耀が隙間からそっと外を覗く。しかし耀が確認するまでもなく、馬車の運転手であるガロロが歓声の声を上げた。
「うおおおおお、すげえなアンタ!こりゃ狩猟祭の優勝は決まりだな!」
聞き捨てならない言葉に飛鳥と耀は馬車から外へ飛び出すと高原の中腹に位置するその風景は三〇匹を超えるペリュドンと一二体の魔獣の残党が一撃で絶命されていた。
「・・・・・貴女たちも参加していたのですね」
静謐な女性の声が飛鳥たちに届く。
二人は声のする方に視線を向けるとそこには仮面の騎士・フェイス・レスがいた。
飛鳥は苦虫を噛み潰したような顔でフェイス・レスを見上げる。
「それは此方の台詞よ、仮面の騎士様。貴女はこの手の野蛮なゲームには参加しないものだと思っていたわ」
「ええ、当初は参加する予定は無かったのですが・・・・・私にも、人並みの付き合いというものがありますので」
言い捨てて、軽くため息するフェイス・レスに飛鳥は意外に感じた。そんな人間らしい一面があるとは飛鳥は思ってもみなかったからだ。
「・・・・・・何か?」
「い、いえ別に」
慌てて否定し、視線を逸らす。
「あいやー凄いですね!私たちの収穫量の五倍くらいはあるんじゃないですか?」
「・・・・五倍?」
フェイス・レスは小首を傾げながら飛鳥たちの荷馬車を見て不機嫌そうにハッキリとため息を吐いた。
「ちょっとお待ちなさい。人の戦果を見て、その態度は失礼でしょう?」
「・・・・・失礼。貴女たちならもっと収穫を上げていると思っていたので」
ぐむっ、と黙り込む飛鳥と耀。
「・・・・・彼は――――霧谷篝は参加しなかったのですか?」
周りを見渡しながら飛鳥たちに問いかけるフェイス・レスに飛鳥は不機嫌そうに答えた。
「・・・ええ、貴女に勝った篝君なら今も部屋でだらけていると思うわ。それにしても意外ね。貴女が篝君を気にするなんて」
「・・・・・いえ、彼が参加していたとしたら私にも勝ち目はなかったでしょうから」
これはまた意外。と思った飛鳥。自分たちの五倍はある収穫量を出しているフェイス・レスが篝が出ているというだけの理由でそこまで弱気な発言をするとは。
「・・・・・本当につかめない人ですね」
それだけを言い残してフェイス・レスはギフトカードに狩った獲物を収納し、高台の対岸へ消えていく。
”アンダーウッド”地下都市・収穫祭の露店通り。
飛鳥・耀・ガロロの三人はその後、獲物の収穫所に荷物を置いて”アンダーウッドの地下都市”に足を運んでいた。
「なぁに、南側じゃ良くあることさ。それに収穫祭が始まれば、昼夜問わず飲み明かす連中が大半だ。そんな細かいことは気にしねえよ」
「・・・・そう」
不機嫌そうな声で返す飛鳥。
狩猟祭の結果は六本傷でも上位に入賞出来た飛鳥たちだが飛鳥も耀も優勝できなかったことに悔やんでいた。それだけではなく今回の狩猟祭にはゲームルールとは別に飛鳥たちはガロロと制約を交わしていた。
「・・・・春日部さんはグリフォンのギフト限定。私はメルンとの連携に限定。ディーンは修理中だから無理としても・・・・・本当なら、この何倍も豊猟だったはずよ」
不満そうに言う飛鳥。だけど、それ以上にフェイス・レスの最後の言葉が聞き捨てならなかった。
「篝がいたら優勝出来ていたかな?」
耀がポツリとそうつぶやく。
飛鳥もそう思っていた。でもそれを口には出したくなかった。それを言えば自分たちは篝なしでは優勝することは出来ないと認めるということになるからだ。
「春日部さんはそう思う?」
「うん。何となくだけどね」
その言葉に飛鳥は内心で同意した。飛鳥にとって霧谷篝はつかめない男だと思ってる。普段は黒ウサギを弄り、おちょくるにたいして現実問題になると誰よりも現実を見て対処しようとする。自分たち以上に無茶をするくせに他人には無茶をさせないように行動している。ふざけているのか、現実主義者なのか、優しいのか、馬鹿なのか。飛鳥にはわからなかった。
「春日部さんは篝君の事どう思ってるの?」
考えが纏まらない飛鳥は耀に訊いてみると耀は首を傾げながら答えた。
「・・・・お兄ちゃんかな?」
「お兄さん?」
「うん。私は一人っ子だからそういうのはよくわからないけどお兄ちゃんがいたら篝みたいな人かなって思うんだ」
飛鳥にとってその答えは意外なものであったが何となく納得できる答えでもあった。
お兄さんか。私にも兄がいたら篝君みたいな人がそうなのかしら?
納得した飛鳥は耀と一緒に露店巡りを楽しむことにした。
「・・・・・・・・」
黒ウサギは誰もいない場所で呆然としていた。
篝と露店を巡り、素直に楽しんでいた黒ウサギだが篝の真剣な告白に頭を悩ませていた。
うぅ・・・・黒ウサギはどうすればよろしいのでしょうか?
黒ウサギは霧谷篝のことが好きだ。だが、それはコミュニティの仲間としてだ。だけど、篝が言う好きは明らかに好意を寄せている方の好きであることは黒ウサギは理解している。
「はぁ~、黒ウサギはいったいどのような顔でこれから篝さんと会えばいいのでしょうか?」
「このような場所で悩み事とはいったいどうなされました?月の兎さん。よろしければ僕が相談相手になりましょうか?」
「いえいえ、お気遣いなく・・・・」
突然優しく話しかけられる黒ウサギは相手に気遣うように断ろうとその人を見て一瞬体が硬直した。
「こうして直接会うのは初めてだね。初めまして月の兎さん。僕の兄さんが迷惑をかけているね」
話しかけてきた相手は篝の弟、霧谷誠だからだ。
「っ!」
すぐに臨戦態勢を取り、手元からギフトカードを取り出そうとした黒ウサギだが誠にギフトカードを持っている手を握られ動きを封じられた。
「そんなに警戒しなくても戦う気はないよ。もっとも月の兎が僕に勝てるとも思わないけど」
誠の手から逃れようとする黒ウサギ。だが、腕が何かに挟まって抜けないかのようにビクともしなかった。
「・・・・・黒ウサギをどうするおつもりですか?」
力を入れながらも冷静に誠に問いかける黒ウサギに誠は余裕なのか笑みを浮かべながら答えた。
「それはもちろん。月の兎を攫って監禁して束縛して僕のものにするためだよ」
「え・・・」
血の気が引いて顔を青くする黒ウサギ。それと同時に自分の貞操のピンチに危機感を感じた。
「もちろん冗談だよ。僕にそんな趣味はない。これは篝兄さんの趣味だ」
「ええっ!?」
「これも冗談だよ」
「冗談でも止めてください!というか何で魔王側の貴方にまでツッコミを入れなければならないのですか!?」
「キミが勝手にツッコンでいるだけだろう?」
ぐぅ・・・・と言葉がでない黒ウサギ。そんな黒ウサギに誠は問いかけた。
「キミは篝兄さんのことが好きなのかい?」
その言葉に顔を真っ赤にして髪が緋色に変わる黒ウサギ。そんな黒ウサギを見て誠は黒ウサギの手を離した。
「なるほど、そういうことか」
納得するかのように頷く誠に黒ウサギは距離を取ってもたれていた手を擦る。
「・・・・いったい貴方の目的はなんなのですか?どうして実の兄である篝さんを殺そうとするのですか?」
「篝兄さんはもう死んでいる。死人が死ぬのは当然のことだと思うけど?」
まるで当たり前かのように言う誠に黒ウサギは怒りを感じた。
「篝さんはしっかり生きています!辛い事も悲しい事も全部自分一人で抱えようとしてそれに耐えられなかっただけです!黒ウサギは・・・・黒ウサギはそんな篝さんを放ってはおけません!一緒に背負うと決めたんです!」
「優しいね。いや、これが月の兎の献身の象徴ともいえるのかな?」
分析するかのように黒ウサギを見ていた誠は踵を返す。
「目的は果たした。僕はこれで帰るよ」
「まっ」
帰ろうとする誠に黒ウサギは止めようとするがその一瞬、警戒が解けていた黒ウサギの肩に誠は手を置き黒ウサギの耳元で囁かれた。
「予言しておくよ。その優しさがいずれ篝兄さんを殺すことになることを」
黒ウサギの耳に入ってくるのは誠の無感情な言葉。黒ウサギの隣を通り過ぎる誠に黒ウサギは慌てて振り返るとそこには誠の姿はなかった。
『それともう一つ。篝兄さんがキミに抱えている感情は恋愛でも愛情でもない。ただの依存だよ。まぁ、せいぜい気をつける事だね』
空から聞こえる誠の声に黒ウサギは何がどうなっているのかわからなくなっていた。
「黒ウサギが・・・・篝さんを・・・・・」
先程の誠の言葉は真実なのかもわからない。自分のせいで篝が死ぬことも、篝が黒ウサギに抱えている感情が依存だということも黒ウサギにはわからなくなった。
「・・・・・黒ウサギは・・・・黒ウサギはどうすればいいのでございますか?篝さん・・・・」
悲しげにつぶやく黒ウサギの言葉に帰ってきたのは静寂な風の音だけだった。
一方その頃、黒ウサギと別れた篝はというと。
「はい、レティシア。あ~ん」
「ぬぅ、改めてされると恥ずかしいな」
「おいおい、レティシアが言ってきたんだろ?あ~んして欲しいって。俺の初めてをあげるからレティシアの初めてももうらからな」
「ふむ。それでは主殿初めてのあ~んを頂戴するとしよう」
ぱくりと食べるレティシアは少し頬を染めながら美味しそうに食べていた。
「いいものだな・・・・」
「そうだろうな。リリが作ってくれたシチューだからな」
「そういう意味ではないのだかな・・・まぁ、いいだろう。今度は主殿が食べる番だ」
試食も兼ねてレティシアと一緒にシチューを食べさせあっていた。