アンダーウッド貴賓室・グリーの個室。
俺は黒ウサギと別れて養生中のグリーに謝罪も含めた肉を持ってきていた。
「で、傷はどうなんだ?」
「貴様が気にする必要はない。あの状況で命があっただけでも奇跡だ」
「そうか」
俺はゲーム攻略の為にグリーの翼を犠牲にした。そうしなければ助かるものも助からなかったからだ。だが、そうしたのは誰がどういよう間違いなく俺だ。
「霧谷篝。あまり自分を責めるな。あの状況での貴様の判断は間違ってはいない」
「・・・・そうか。なら、俺はそろそろ行くな」
肉を詰めている麻袋を置いて俺はグリーの個室から出ていくお祭りを堪能する。
しかし、色々あるんだな・・・。
定番の屋台からギフトゲームまで多種多様にある。
周りを見ながら祭りの風景を堪能して歩いていると人だかりができている店があった。
「ば、馬鹿な!?あの小さな口が、この速度で食べ続けられる筈がねえ・・・・!」
「まさか口の中に、料理を収納する系統のギフトを!?」
「いいや、そんな小細工なんかじゃねえ!この女只々純粋に――――噛んで飲むのが早いんだッ!!」
ん?
大食い、食べるのが早い、女。俺が知る限りその人物に心当たりがあった。
人だかりの間を覗いてみると一人の少女、耀がもの凄い速さで肉を食べていた。
あ、やっぱり耀か・・・。
「目視すら出来ないほどの・・・高速の、大食漢だって・・・・!!」
「ハッ、おもしれぇじゃねえか!」
「応さ!十年前の英雄を思い出させてくれる戦士だ!おい、野郎ども!食糧庫からありったけ持って来い!こうなったら、全面戦争だあああああああ!!!」
ヒートアップしていく料理人に合わせて耀の食べる速度も加速していく。
「よ、耀様!頑張って!」
「おう、お嬢ちゃん頑張れ!」
「だらしねえぞ料理人!もう二皿しか残ってねえぞ!」
「うおおおおぉぉぉ!負けるかああああああ!!」
盛り上がる会場に俺は背を向ける。うん、楽しんでいてくれてよかった。
静かにその場を去ろうと思って歩き出そうとした時、冷めた声が聞こえた。
「・・・・・フン。何だ、この馬鹿騒ぎは。”
声がしたほうを見ると有翼人の類の翼を持ったいかにも偉そうな奴。
「連中はアレですよ。巨龍を倒して持て囃されている猿の一人です」
「ああ、例の小僧のコミュニティか。・・・・なるほど、普段から残飯を漁っていそうな、貧相な身形だ。碌に食事も与えられていないのだろう」
「”名無し”である以上、一時の栄光ですからな。収穫祭が終わるころには皆、奴らの事など忘れております」
「違いない。数日後にはまたゴミに塗れた残飯生活に逆戻りです」
おーおー。好き勝手言ってくれるな。
侮蔑の目で人だかりを見下している有翼人共に俺は溜息が出た。
まぁ、俺たちのことをそう思う奴も少なからずいるだろうし、いちいちあんな奴らに構っているだけ時間の無駄か。さっさと黒ウサギのところにでも行くとしよう。
「ああ、所詮、屑は屑。如何なる功績を積み上げても”名無し”の旗に降り注ぐ栄光など、ありはしないのだから――――」
「―――――そんなことありませんッ!!!」
無視して去ろうとした矢先に聞き覚えのある声に俺は振り返るとそこには真っ赤な顔で大声を出したリリがいた。
あちゃー、リリよ。我慢できなかったか・・・・。
「・・・・・なんだ、この狐の娘は」
「私は”ノーネーム”の同士です!貴方の侮蔑の言葉、確かにこの耳で聞きました!直ちに訂正と謝罪を申し入れます」
リリの言っている言葉は正しい。だけど、言う相手が悪い。
ああいう輩は自分たちより下の奴らに頭を下げることはない。
そして、俺の予測通りに奴らは逆にリリに謝罪を要求してきた。だけど、気になることを言っていた。
あのグリフィスという奴が次期”龍角を持つ鷲獅子”連盟の長で南の”階層支配者”?
おかしい、確か連盟の長はサラさんだったはずだが?
だけど、そんな疑問をグリフィスが答えた。
「何だ、あの女から聞かされてないのか?あの女は龍角を折ったことで霊格が縮小し、力が上手く使いこなすことが出来なくなったのだ。実力を見込まれて議長に推薦されたのだから、失えば退陣するのが道理だろう?」
確かに。耀たちには悪いが今の言葉がグリフィスが正しい。奴の言う通り道理だ。
力がない者が上にいても下の者が言うことを聞くわけがない。
「・・・・・それ、本当」
「狡い嘘など吐かん。何なら本人でも聞いてみるといい。龍種としての誇りを無くし、栄光の未来を手折った、愚かな女にな」
クックックと喉で笑うグリフィス。
愚かな女ね・・・・・。
俺は別にそのことに否定する気はない。グリフィスの言うう通り自分で栄光の未来を折ったのだから。その言葉通りだ。
だけど、肯定する気もない。サラさんはそれを承知したうえで自分の龍角を折った。未来よりも今ある命を救うために取った行動だ。
「・・・・・・訂正して」
「何?」
「サラは、”愚かな女”じゃない。彼女が龍角を折ったのは、”アンダーウッド”を守るためで・・・・私の、友達を守るためだ」
席に立ち上がった耀は淡々と謝罪を求める。あれは完全に怒っているな。
溜息を吐きながら俺は耀とリリに近寄る。
「おい小娘、いい加減に、」
取り巻きの男が耀の言葉を鼻で笑い、グリフィスと耀の真に割って入り上空へと吹き飛ばされる――――――ことはなかった。
「はい。耀。そこまで」
「か、篝・・・」
「篝様!」
耀の蹴りを龍化した俺の腕で受け止めたからだ。
「何だ、貴様は?」
突然、俺が現れたことに特に驚きもせず淡々と訪ねてくるグリフィス。
「失礼。私はこの二人と同じ”ノーネーム”の霧谷篝と申します」
「フン。小娘の仲間か」
あたかも興味なさげに俺のことも見下すグリフィス。俺はそのグリフィスに頭を下げる。
「ちょっ・・・篝・・・」
「耀。黙ってて」
俺の行動に驚く耀だけど俺は変わることなく頭を下げる。
「先ほどの同士の無礼を変わって謝罪させて頂きます。大変申し訳ございません、グリフィス様。どうか、寛大なお心でお許し願います」
謝罪する俺の姿に耀とリリは怪訝そうな表情をしている。まぁ、そうだろう。耀と一緒にこいつをぶちのめすのは簡単だ。だけど、それをしたら後々面倒を十六夜たちにまでかけてしまう。そう、だからこそバレないように壊せばいい。
「どうやらそちらの猿は多少は知性があるようだ。よく相手を選んでいる。いいだろう、貴様の利口さに免じて許してやる」
はい、言質取った。
「戻るぞ、お前・・・・っ!!」
突然その場で膝をつくグリフィス。
「いかがなさいました!?グリフィス様!」
慌ててグリフィスの傍に駆け寄る取り巻き達。そんななかグリフィスの顔色がドンドン青くなる。
今、グリフィスは俺のギフト感覚共有で俺と同じ感覚を味わっている。
死人である俺と同じように絶望を少しずつ共有させている。
まぁ、キッカケはこれでいいだろう。
「いかがないました?顔色が悪いようですが、呼吸が出来ないぐらい苦しいのでしょうか?」
「・・・・ッ・・・・ッ!」
喋らない、いや、喋れないグリフィスに俺はせせら嗤う。
「その様子ですと喋れない程苦しいのかもしくは喋れないぐらい激痛が体を駆け巡っているのでしょうか?」
「グリフィス様!?」
その場に倒れて痙攣しているかのように震えるグリフィスに俺は微笑みながら嗤う。
「貴様!グリフィス様に何をした!?ことと次第によっては只ではすませんぞ!?」
取り巻きの一人が俺を睨んでくるが俺は平然と言う。
「言いがかりは止めてください。いったい私が何をしたって言うのですか?連盟の長になろうとするお方に粗相な真似など。名無しの私は恐ろしくて何もできませんよ」
真っ赤な嘘だけど。しかし、ギフトで強化しているとはいえよく暗示が効くものだ。
俺は懐には常にハーメルンの魔笛刀を隠している。
このギフトの能力は主に聴覚から幻覚を見せることができるが、俺の言葉を強化させて暗示もかけることもできる。
そう、直接的な攻撃は俺は何もしていない。
グリフィスが勝手に苦しみ、痛がっているだけ。
「グリフィス様!お気を確かに!」
励ますように声を上げる取り巻き達やギャラリーと耀たちにも見えないようにグリフィスに視線を合わせて嗤う。
「・・・・ッ・・・・・ッ・・・・!?」
何かを叫んでいるグリフィスだけど俺には何も聞こえない。俺は嗤いながら楽にさせてあげようと次の言葉をグリフィスに言ってあげようとした刹那――――
「はい、そこまで」
突然の第三者。蛟劉に止められた。
「そこまでや。自分、そろそろ止めてあげてえな」
「おいおい、お前まで何言ってんだよ。俺は何もしてねえよ」
「コミュニティを馬鹿にされて怒るのはわかる。せやけど、この男も今は連盟に必要不可欠な存在なんや、僕に免じて許してやってな」
・・・・・・仕方ないか。十分懲らしめることも出来たし。
俺はギフトを解くとグリフィスは何事もなかったかのように立ち上がり全身を見渡す。そして、鋭い視線を俺に向けてくるが無視した。
蛟劉は溜息を出しながら俺とグリフィスに言う。
「ほな、とりあえず二人とも議長、サラちゃんのところへ行くで。ここまで騒ぎになってしもうとるから文句は言わせへんで」
「はいはい」
「フン!」
大人しく蛟劉について行こうとする俺に耀とリリが近寄ってきた。
「篝・・・ごめん・・・」
「篝様・・・」
「気にすんな」
俺は二人の頭を軽く叩いてサラさんがいる本陣営へと向かった。
まぁ、この先の想像はつくし、対策も出来ているけど。
俺は静かに嗤いながら歩く。