Fate/Tonitrus   作:雨在新人

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イントロダクション
プロローグ(1/3)


『円卓の聖戦~fate/britain order~』という5年前に放送されたアニメがある

 俺ー天国(あまくに)トシキ達が暮らす此処、尼谷市に持ち込まれた聖杯によって現代に蘇った円卓の騎士達が聖杯を求めて戦うというストーリーの、同市が思い切り予算出して盛り上げようとしたもので、いわば、円卓のイケメン騎士達を客寄せパンダにしたファンタジーバトルにかこつけた地域振興アニメ

 聖地巡礼だとか何だとかで観光地の多い奈良県にあるが元々は見るもののあまり無いこの市に人を集めて活性化させようというそんな浅ましい考えで市の予算を億使って作られたというそんなバカアニメ 

 一説には魔術教会があまりにも最近多い聖杯戦争の真似事に業を煮やして、聖杯戦争という大魔術の神秘を失墜させようと聖杯戦争のアニメ化に手を貸したとも(実際に手を貸した魔術師の一人息子から)言われる、始まる前から市の思惑が見えてて失敗するだろと囁かれていたそんなアニメだが……

 

 何の因果か、恐らくはキャラデザと声優の力か、バカ当たりしてしまった。結果、こうしてアニメ放送開始5周年記念フェスなんてイベントまで開催される始末である

 

 「……はぁ、フェス本番は明日だって言うのに、随分と人が多いな」

 この地に嘗て根差していた魔術師の末裔である天国トシキは、日が落ちた後になって漸く人の波が去った三輪明神神社の境内で、全くマナーがなってないなとぼやいた

 普段はそんなに人が来ない境内だが、アニメでは聖杯はこの神社の御神体に宿っていたという設定であったからか、毎年アニメ放映記念フェスの前後と年始だけは多くの人でごった返す。そして、そんなアニメ勢がそんなにマナーが良いはずもなく……

 「誰が掃除すると思ってんだ、バカかあいつら」

 と、投げ捨てられたペットボトルを拾い、左手に持ったごみ袋に入れる

 そんなトシキの額に、妙に熱いものが当てられた

 「って、急に後ろに立つなよれーな」

 トシキが振り返ると、其所には妙な缶ジュース……ホットとんじるを持った金髪の幼馴染が立っていた

 高生(たかばね)黎南(れいな)。この神社の神主の一人娘であり、トシキにとっては小学校以前からの腐れ縁である

 「ああ、れーなもお疲れ。よーく撮られてたな、ファンに」

 「巫女服、みんな好きなの?」

 「好きなんだろ。ま、アニメだとアーサー王を召喚したヒロイン枠が巫女さんってのもあるんだろうけど」

 ……と、トシキは嘯く。聖杯戦争という魔術の神秘を失墜させる為にアニメ各所に聖杯戦争の意匠を盛り込む。その父親が協力した計画に口出ししてマスターの意匠として黎南モチーフの巫女キャラをヒロインにしようと言い出した元凶はトシキ自身なのだから

 「トシキくんは?巫女服、好き?」

 見せびらかすように、少女はくるくると回って見せる。クォーター故の淡い髪が揺れ、ついでに多分同年代としては豊かな方である胸も揺れ、トシキは軽く眼を逸らした

 「ま、まあ。れーなはもとが良いから似合ってるんじゃないか?何でも似合うけど」

 「ふふん、正直。はい、ホットとんじる」

 その言葉に満足したのか、少女は手にしていた缶を手渡す

 「……いや、何時も言ってるが何処で買ってるんだよそんなもの……」

 呆れたように、いや実際問題呆れ果てて、トシキはそう言葉を紡ぐ 

 ホットとんじる。実際に豚などの具をまともに入れては缶ジュースとして成り立たない為それっぽい味で屑肉の破片が入っている程度の味噌汁なそれは、10年ほど前にどこかの会社が発売した……は良いもののあんまり売れなかった為、今やほぼ見かけることはないものである

 「でも、ボクを見付けてくれた時、くれたものだから」

 「そんな理由で何時もくれんでも宜しい

 というかあの時は子供ながらにデケェプラモ買ったせいで金が80円しか無くてホットのもので買えるのが安売り自販機のそれしか無かったから買っただけだからな?俺、別にとんじる好きな訳じゃないからな?」

 「でも、ボクは好きだよ?トシキくんのくれた思い出の品だし」

 そう言って、もう片手に持っていた自分の分を開け、少女は一口だけ飲む

 「うん、この味」

 「この味、じゃない。もう生産止まってるのに何でこんなに在庫があるんだ……」

 「え?無いかなーって思いながら街に行ったら何時も売ってるよ?」

 「阿呆」

 ことん、と。痛くないように加減して、当たる以上の衝撃がいかないように細心の注意を払って。トシキは貰ったその熱い缶を幼馴染の額に当てる

 「だから言ってるだろれーな。変な願望を持って動くなって。だってお前は……」

 願えば叶う。そんな存在なんだから

 そう言いたくて、けれどもそれを言うことは出来ず、トシキは口をつぐむ

 根源接続者。多くの魔術師の家系が一族の悲願として到達したいと切に願う根源の渦に産まれながらにして到達してしまっている驚異。彼女のソレは本人の気質もあるのかそう太い繋がりではないようだが、それでも売ってないかなーと思うだけで当の昔に生産が終わっていて元々流通量も多くなかったはずのあのホットとんじるを未だに安定して入手出来てしまう程度には願いを叶える万能の願望器としての性質を持つ

 だからこそ、その言葉を魔術師であるトシキは言うことが出来ない。大切な幼馴染を、大切な幼馴染のままにしておく為に。自覚がない、根源の力をロクに振るわない。だからこそ彼女は根源の力を振るう人ならざる化け物ではなく天国トシキの幼馴染である高生黎南で居られるのだから

 「だってボクは?」

 「変なこと考えながらだと良く迷子になる」

 だから、トシキは誤魔化した

 「そうだっけ?」

 「そのホットとんじるをお前が好きになった経緯は?」

 「迷子になって夜中になって……その時に、トシキくんが買ってくれたジュース」

 「ほらな、迷子のプロだろお前」

 少しだけ、両親が大喧嘩して、娘の黎南がもうそんな二人と二度と会いたくない!ってどっか行ってしまった昔を、トシキは思い出す

 結局見付けたのは、何処だっただろうか。少なくとも、日付が変わる頃だったのは覚えている。持ち出してきたお小遣いは当に尽きて、たまたま安売りされてたホットとんじる以外のホットドリンクは買えなかった。走り回った自分も喉がからからで、けれども何も買えなくて次の日には喋ることすら辛かった事も、良く覚えている

 結局、二人は仲直りした。娘がそんな思い詰めるほどに、夫婦喧嘩を苦に思っていたと突き付けられて、何よりも娘を見てあげられなかった自分達を、両方が反省した事で

 

 「でも、トシキくんなら見付けてくれるよね」

 「いや、何度も何度も夜中走り回りたくないんで出来れば遠慮したいんだが」

 「あれ?でも、境内とか走ってるよね?」

 「あれは単純に鍛練。ほら、剣道大会とかあるし」

 「剣道って走り込みいるの?」

 首を傾げる幼馴染に、トシキは少しだけ迷って、答えを返した

 「基礎体力だよ」

 嘘である。剣道部ではあるが、天国トシキが走り込みしている理由は部活の為ではない。魔術の為だ

 天国という魔術師一門は刀匠一門。その魔術も体力勝負な面がある。だから、魔術師として一人前であろうとして、トシキは毎日人がまず来ないから邪魔になることの無い境内で走り込んでいるのだ

 (決して、寝る前の幼馴染とかが薄着で夜風に当たりに来たのを覗きたいとか、そんな不純な理由ではない。不意に見えてしまうだけだ、可愛らしい猫パーカーの寝間着が)

 と、トシキは誰にでもなく、脳内で言い訳した

 

 「でも、ごめんねトシキくん。今年も手伝って貰って」

 「良いよ。家の親父がアニメに関わっててさ。こーんなに汚してく奴等が来るようになったのは、天国(あまくに)の一族の責任もあるんだから、さ」

 話しながら、トシキは一人ゴミを拾い続ける

 バイトはあくまでもコスプレしての人員整理。アニメのアーサー王コスプレをして、アニメファンの神社で騒ぎ立てる流れを何とか大事にならないようにする。その仕事はもう終わっている。クラスメイトで同じくバイトしに来たガウェインコスプレの友人はじゃヒロインとごゆっくりとか言って帰ってしまった

 アニメでは確かにメインヒーローはアーサー王で、ヒロインは神社の巫女。けれども、アーサー王コスプレしていたトシキと、元々年末年始は巫女姿の黎南の関係性はそうではない。単なる幼馴染である

 (今は、まだ)

 そう、その先があるかも分からない言葉を、トシキは付け加えて

 

 「ところで、アニメは面白いの?ボクは見たこと無いんだけど」

 「あれ、なかったっけ?」

 「恥ずかしいから見ないでくれって。あれは何で?」

 「何でだろうねー。お、まだ半分近く入ってる。そんなペットボトル捨てるなよなー」

 と、あからさまにトシキは誤魔化す

 理由は簡単だ。見る人が見れば分かるだろう。ヒロインのモチーフが黎南だと。この神社の、金髪の、巫女。今の神主である黎南の父側がハーフであり、母は純日本人。そして娘の黎南はクォーターで金髪。それはもう、誰かが黎南モチーフでヒロイン作ったななんて、バレバレである

 そして、トシキは話してしまっているのだ。自分の父親が、天国一門が、金と口を市に出してアニメに関わっていた事を

 「最近BDボックス出たんだよね

 買おうかな」

 「フェスの目玉か何かで主題歌生ライブチケット入ってたらしいから今新品無いぞ」

 「あ、そうなんだ、残念」

 さして残念でも無さそうに、少女は言った

 

 「でさ、去年は言わなかったのに突然どうした?」

 「うーんと、今日アニメのヒロインみたいとか、アニメの話を沢山振られちゃって」 

 困ったように、首が傾げられる

 「ああ、最低限の話を合わせられるようにしたくなったのか

 今年は止めといた方が良い。一応今無料配信とかあるけど、2クールだから、あれ」

 「クール?」

 「アニメの放映って基本的に3ヶ月で1区切りなんだ。その区切りがクール。3ヶ月の放送が1クール、半年だと2クールって形。あのアニメ予算が市から出てたから2クール、つまり半年やってたんだよ。全23話+総集編1話」

 「長いの?」

 「一話25分と換算して……」

 軽く脳内で換算し、トシキは答えを出す

 「ノンストップかつ総集編飛ばしたとして、9時間半ちょっと。今からだと徹夜だぞ。話合わせるためにそこまでしたいかー?」

 アニメとしては面白いのだが。主に、作画が。金かけたハイスピードバトルの絵面の迫力はやっぱり違う。引き込まれる

 

 「でも、何にも知らないのは……」

 「んじゃ、軽くな。親父さん来るまで暇だし

 ストーリーは割とありきたり

 聖杯によってこの地に召喚された六人の騎士。彼等は最後の一人になるまで勝ち上がり、聖杯を手にすれば人生をやり直すことが出来る、自分達の物語、辿ってきた歴史を変えることが出来るという聖杯の声によって召喚されたかつての英雄、円卓の騎士達であった」

 「うんうん」

 「12人居るとか、もっと居るとか言われる円卓の騎士だけど、今回召喚されたのは六人だけ。ガウェイン卿、ランスロット卿、トリスタン卿、ベディヴィエール卿、バロミデス卿、ユーウェイン卿。彼等は当初は騎士らしく、礼儀とルールをもって、現代にあまり迷惑をかけないように普段は現代に溶け込んで生活し、聖杯による合図があった時だけ戦って勝敗を競っていたんだ。そこまでで3話」

 「まだまだ先は長いんだ」

 と、少女は一口何時ものようにホットとんじるを飲む

 「そっから3話はまあ、日常回。各々の騎士の現代での諸々を描きつつ、まだ誰も脱落しないけど後半戦ってそれぞれがどんな強さをもった騎士なのかって見せられる

 それが、7話で変わるんだ。騎士道を忘れ、騎士達が暴れ始める。最初はランスロット卿、続いてトリスタン卿といった感じで、理性的で良い人だって描写があったはずの騎士達が、次々と人々に犠牲を出し始める。その彼等には、黒い霧がまとわりついていて……

 遂には正気だった最後の騎士、ガウェイン卿が狂ったランスロット卿との戦いに負け、霧に飲まれてしまう」

 「ど、どうなっちゃうの?」

 「その時、ちょくちょく騎士達と会話したりしていたヒロインである神社の巫女の強い願いに聖杯が応えて、七人目の騎士、アーサー王が召喚されるんだ。これが第一クール」

 「巫女さん?」

 「そこは気にしなくて良い、単なるヒロイン枠だから」

 まさか、モチーフお前だよとは言えず、トシキは頬を掻いて誤魔化す

 「そうして、アーサー王とヒロインは、聖剣エクスカリバーを使って次々と暴れまわる騎士達と戦う。その中で、実はヒロインには浄化の力があると分かり、その力でその霧を払って騎士達を正気に戻していくんだ

 そうして、アーサー王達は真実に気が付く。元々の聖杯も、起きた戦いも、全てはアーサー王伝説を、ブリテンの歴史を滅茶苦茶にしてしまおうという魔女モルガンが仕組んだ事。誰が勝とうと歴史は滅茶苦茶になるように最初から全ては仕組まれていたんだ。でも、ヒロインの願いで聖杯が浄化されてアーサー王が呼ばれたことで、その計画が崩れだした

 アーサー王の姉で、魔女だから千年は生きていた彼女という黒幕に気が付いた騎士達は、魔女に最終決戦を挑む……ってのが第二クール」

 「へ、へぇ……」

 ちょっとわかんないな、という感じで、とりあえずといった形で幼馴染の少女は頷く

 「れーな、お前のその巫女服はコスプレじゃないけど、多分そのヒロインの娘のコスプレに思われてる

 だから、多分絡んでくるコスプレイヤーは円卓の騎士って凄い、みたいな事言っとけば満足するはず」

 「?芝居とか、しなくて良いの?ボク、じゃなくてわたしとか」

 当然のように、飛んでくる疑問

 「気にするな。ヒロインの一人称ボクだから」

 (……だって、お前だからな、ヒロインの原型)

 なんて分かりやすい真実は言えず

 「ん?トシキくん、お父さんの仕事手伝ったからちょっと俺の意見入ってるって……」

 「なあれーな?ヒロインなんてそんな大事なところに、俺の意見が入ってると思う?」

 ……入っている。おもいっきり入っている。お前の思う可愛い娘の要素挙げろ盛り込むと父親に言われた時、トシキは要素ではなく高生黎南と答えたのだから。父は、3日間トシキの顔を見るたびに吹き出していた

 

 「にしても、遅いな親父さん」

 ゴミを全部拾い終え、トシキは伸びをする

 去年であれば、ゴミ拾いは単純に黎南の幼馴染だからと手伝いに来たトシキだけでなく、黎南の父、此処の神主も一緒だった。だが、今年は完全に日が落ちても帰ってこない。明日の為の打ち合わせと人が少なくなったのを見計らって出ていったのだが、遅すぎる

 

 「親父さん、何か……」

 カラン、と音を立てて缶が転がる。中身の屑肉入りの味噌汁が敷き詰められた砂利を汚していく

 「れーな!」

 美味しいのか?となるような不人気商品だが、ホットとんじるは3日に一本は飲んでいる黎南の大好物である。捨てることも落とすこともまず有り得ない

 そんな異常事態に、思わず少年はふらっと傾く幼馴染の少女を抱き締めて

 「あっつ!」

 更なる異常に気が付く。額に当てた手が、あまりにも熱い。そもそもこの幼馴染に熱があることが異常事態であるとトシキは知っているが、それ以上

 「何度だよこれ……50℃軽く越えてるんじゃないか?」

 一応展開は出来る、但し入り口にしか入れない程度の魔術工房の中で感じる熱さにも近いほどの熱。1日アニメファン達の前で巫女をやってきたその体から出たろう汗が湯気となって蒸発していくほどの熱さ

 明らかに、人体が出していいような温度ではない

 「まさか……魔術による攻撃か!?」

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