「俺はこの戦争に参加した」
瞬間、空気が凍る
『むにゃむにゃ……』
そして、一瞬で氷解した
「……ランサー、こんな時にそこで寝ないでくれ」
何時しか、足折って座れば蹄の問題はないなとばかりに牡牛がその姿を現しており、その白い巨体に体を預けて金髪のサーヴァントはお眠であった
魔術師であること、戦争の参加者な事。正に殺されかけた結城にとって恐怖ともいえるその一言は、けれども寝惚けた空気の読まない言葉に虚をつかれてなお維持できるものではなかった
「とっしー、も?」
「そうだ。結城の呼び声にそこのスーパーゼウスが応えたように」
……脇腹に突き刺さる、ゴムのような何かを被せてある槍。皮膚を破って深く刺さらないので血は出ないが、素直に痛い
「……痛いんだが」
『……我の前でかの者をスーパーゼウスと呼ぶな
自称を付けよ』
「……め、面倒な
と、自称スーパーゼウスが応えたように、俺の呼び声にはそこのランサーの子が応えてくれたって感じだ」
「……あれ、ボクは?」
紅茶に口をつけ、素直に聞いていた金髪の幼馴染がトシキにそう尋ねる
「……ああ、れーなは違うよ
れーなにも魔術の素養はあるから、結城と同じように使おうと思ったのかもしれないな」
いけしゃあしゃあと、大嘘をトシキは告げる
「……それで、呼ばれて……それからどうするの?」
「あ、ちょっと待ってくれよれーなと結城」
と、トシキは用意しておいた磁石の丸みを帯びた塊と、7つのマグネットを取り出す。マグネットはチェスの駒のようで、けれどもより写実的に人間のような形状をしたもの
そして、茶を飲み終わったコップをどんと横に
「結城、れーな。このマグネットを、召喚されたそこの二騎みたいな過去の英雄……サーヴァントだと思ってくれ」
こくり、と少女等が頷くのを見て、トシキは続ける
「そして、このデカイのがこの世界。ま、これは後でサーヴァントとマスターについての時に使うから今は忘れてくれ」
7つの駒を、机の上に置く
「本来は決戦術式。なんだけど、今行われている魔術は聖杯戦争って名前
戦争ってつく以上、召喚されたサーヴァント同士が戦いあう。戦争の勝者を決めるために、殺しあう」
鍛造魔術で治せるものだし、とマグネットの上の駒の飾りを一つ、トシキは手に持って折り砕いた
「そうして、倒されたサーヴァントの存在は、この魔術の核とも言える聖杯というものに貯まっていく」
と、砕いたそれをコップに適当に流し込む
次々と砕いて入れていくと、6つめでコップの縁まで駒の残骸が届いた
「そうして、7騎のうち1騎以外が倒れた時、聖杯はサーヴァント6騎まるごとという莫大なリソースを得る。あとは、それを解放すれば……恐らく、望む奇跡に届く。それが、聖杯戦争の目的だ
つまり、俺は魔術師の悲願として奇跡に辿り着く為先祖から色々と途中なものを受け継いでるって言ったよな?それを自分の代を経て未来に何時か完成させるのではなく、アホみたいな量のリソースの暴力で自分一人で手っ取り早くほいほいと奇跡に辿り着こうとする、この戦争を始めたのはそういう奴等だ」
「……おかしい」
けれど、トシキの言葉に結城灯花は首を振る
「ん?」
「矛盾している。サーヴァントを作り上げるリソースよりも、作ったものを破壊した時に産まれるリソースが多い
作るリソースの方が多いはず」
普通に考えれば最もな疑問に、トシキはぽんと手を打つ
「あ、そこか
サーヴァントはあくまでも召喚してるだけ。別に1から作ってる訳じゃないんだ
英霊の座と呼ばれるまあ、スーパーな異次元的な場所に彼等はその存在が記録されてて、呼び出してるだけ。酷い言い方をすればレンタカー借りてるみたいなもんだ。魔力ってリソースを代金に、英霊の座ショップからサーヴァントって車を借りてる感じ。まあ、それも安いものじゃないけれども、車一台よりはとても安い
そして、聖杯戦争は借りたレンタカー6台を叩き壊してそのパーツ使って巨大ロボットでも組み上げて、壊した弁償も返却も何一つせずしらばっくれるって奴」
「……なら、分かる」
言いつつ、結城の視線はアーチャーへ向く
『ミス・マスター。イケメンな私に見惚れるのは良い。それは婦女のたしなみの一つだ』
……ナルシストかよ、とトシキは少しだけ呆れて
「これが、サーヴァントと聖杯戦争の基本かな
サーヴァントのクラスだとかの細かいところもあるんだけど、それは少し後」
「ランサーとか、アーチャーとか?」
「そういうこと」
言いつつ、鍛造魔術を起動
コップの中に突っ込んだ駒の残骸を鍛造して6つの駒に造り直す
「で、サーヴァントとマスターだな。結城が襲われた理由なんかに繋がる重要な奴
言ったように、6騎ぶんのリソース集めれば奇跡も起こせる凄い奴だが」
言いつつ、マグネットを丸みを帯びた世界ということにしてる鉄塊に置く
磁石化させているそれは、表面を磁石であるマグネットの吸着面と同じS極にしてあり、当然ながらマグネットは弾かれて机の上に転がる
「当然、今の世界にとって異物だ。基本的にはこうして、世界からは排除される存在
じゃ、結城。世界の上にサーヴァントを存在させるにはどうすれば良い?」
「……
……
そのマグネットなら、磁石の向きを入れ換える」
数秒考え込んで、黒髪の少女はそう告げた
「結城
それはサーヴァントをリソースに分解して作り直すって事だ。いや、流石に地上戦用のロボットを宇宙戦のフルバーニアンに改装するくらいかな
どっちにしても、アホみたいにリソースを食う。いちいち7騎全部にそんなリソース割けるならば正直な話そのリソース使えば奇跡に届きかねない」
「……確かに」
「なら、何かで止める?」
金髪の幼馴染からの提案
「正解だれーな
異物として離れていくならば、異物でないもので離れないように繋げば良い
それがマスターという存在。サーヴァントをこの世界に留めておく楔の役割」
雑だけど良いか、と細い糸で駒を括り、磁石に結び付ける
「そしてこれが、結城がサーヴァントを呼べと言われた原因だ
サーヴァントはマスターの存在によってこの世界に存在できる。ならば、そのマスターが死んだりして居なくなれば……」
糸を切る。当然ながら駒は磁石の反発で弾かれて……トシキが倒して置いておいたコップの中に転がり込んだ
「ま、当然ながらサーヴァントは強い。でも、奇跡に届くには儀式の形式上7騎呼ばれるうちの6騎までを倒さなきゃいけない
じゃあどうすれば良いか。楔になってるマスターを殺せば良い。そうすればこうして世界に残れなくなったサーヴァントが勝手に倒れてくれる。ま、それも聖杯戦争の定石的な戦法の一つだが……
召喚から既に支配下に置いておき、サーヴァントが召喚された瞬間にマスターをぶっ殺せば、サーヴァントの妨害を掻い潜ってマスターを殺しに行くよりも更に楽にサーヴァントを倒せるって外道戦法だな
れーなもやったことあるだろ、結城のカードゲーム。あれで言う、相手クリーチャーがバトルゾーンに出る時、代わりに墓地に置くって制限しろと言いたくなるアレだ。クッソせこいが、有効な戦法」
「でも、向こうの望み通りスーパーゼウスは来た
なのに、殺されなかった」
『否や、ミス・マスター
この大天才、召喚に応じた瞬間に理解したのです
素直に出ていったら刹那にミス・マスターの命は奪われてしまう。ならば、相手が油断するのを待つしかない、と』
得意げに弓兵は語る
正直な話、酷い言い方をすれば出てくタイミングを狙っていたという話だが、それはまあ仕方のない事だろうか
「……ランサーもそうだったのか?よさげなタイミングで出てきたが」
と、トシキは自分のサーヴァントにも話を振ってみるが……
『すぅ……』
「……て、寝てるのか」
本来は睡眠とかも要らない超存在であるはずのトシキのサーヴァントは完全に話を聞かずにすやすやしていた
『……エウロペちゃまには服などの支度もあるのだ』
「それを支度してる暇があったらタロス持ってこれたんじゃないのか!?
というか、一応真名隠してたのに雑だなゼウス神!?」
『雷は全能である
隠し事に意味はない』
「相手は全能じゃないから隠し事にも意味はあ……
いや、ゼウス神が牛の姿って時点で真名バレるか」
「……真名?」
と、もみあげを長くしたショートボブの少女が首を傾げる
「ああ、真名
サーヴァントってのは、言ったとおり過去の英雄だ。サーヴァント達の存在がある英霊の座って場所は時間の概念とか狂ってるから極々ごくまれに未来の英雄とかも居るけれども、そいつが召喚される事があるとしたら……
まだ英雄と呼ばれるような存在になる前の生前のそいつに深い縁があった場合、くらいなんで今は無視で良い」
こくり、と少女から頷かれる
「でだ、とりあえず円卓の聖戦を思い出してくれ
7人の騎士が出てきて、それぞれ戦闘スタイル特徴的だっただろう?
ガウェインなら太陽の光でスーパーガウェインに変身できる、アーサー王は特殊なものの無いシンプルなスタイルだけど素の実力が高くて持ってるエクスカリバーが超強い、ユーウェインならば本人はそこそこだが連れてるライオンが本人より強い、トリスタンは弓の名手なので遠くに居ても攻撃してくるって感じで
じゃあ、相手があの作品のうちの誰かだとしか分からなかったら、戦うときどうすれば良い?ガウェインだったら日中に戦うのは愚作だけれども、相手がトリスタンだとすると矢が見えにくいから夜の方が危険
そういうように、自分のサーヴァントの正体が相手に分からないってのは、此方の手の内を隠せる事なんだ。逆に、もしもそいつがガウェインならば夜に挑めば与しやすいって分かるわけで
英霊、サーヴァントってのは過去の英雄だからな。その分、切り札や弱点なんかも名前から割とバレるのよ。だから、サーヴァントの名前を真名と読んで、基本は隠す」
「……スーパーゼウスも?」
「その通り。本来の名は……
トーマス・エジソン、グラハム・ベル、或いはイライシャ・グレイ辺りな気がするけどな
アーチャー、そこの所は?」
トーマス・エジソンの名を出した瞬間に顔が歪んだことを、トシキは見逃さなかった。それで、恐らくというアテはついてしまったのだが……それはそれとしよう
『トーマス・エジソン。あの悪鬼の名を出すな』
「……だよな、アーチャー、ニコラ・テスラ」
エジソントークに乗ってきたので良いかとばかりに、トシキはその名を告げる
「ニコラ・テスラ!?」
黒髪の少女は目を見開いて偉丈夫を見上げ
「ニコラ・テスラ?」
金髪の少女は首を傾げ
『……くぅ』
金髪のサーヴァントはまだ寝ていた
「と、と、と、とっしー
あの?」
震える声で、少女がトシキに言葉を投げる
「ああ、お前が伝記良く読んでるあの」
『このニコラ・テスラの伝記とは勤勉なミス・マスターだ
この大天才のどのエピソードがお気に入りかね、語って聞かせよう』
その言葉に、結城がフリーズした