「あのさぁ……」
暗がりに、不満げな少年の声が響く
「あの金ぴか王、アンタのサーヴァントでしょ?
ぺっ!とガムをその辺りの壁に吐き出し、透冶は仮面の人を責める
アニメだなんだで神秘を失墜させられ、聖杯戦争がそうそう起こせなくなったこの日本。逆にその神秘を失墜させたアニメ人気にあやかる事で、本当にアニメみたいな出来事が起これば良いのにという漠然とした信仰を糧に何とか引き起こすことに成功した、最後かもしれない聖杯戦争を起こした三人は、聖杯を手に入れる為にそれ以外の四人をまず排除するという方向性で話を纏め、此処、尼谷へと集結していた
だからこそ、許せないとばかりに
ま、別に怒ってる訳じゃないけど、と一人脳内で舌を出し、透冶は表面上は責め続ける
あわよくば此処に今は来てない三人目も引き込んでこんな奴信じられないと処分出来れば御の字だ、と
「知らん。あのサーヴァントめ、言うことを聞かんのだ。サーヴァントを何だと思ってる」
「ま、そんな外れサーヴァント引くようじゃ、真っ先に落ちるのはキミかなーって
滑稽だよね。あれだけ最強のサーヴァントを呼び出す触媒があるから負けるはず無いってほざいてたのにさ!」
『……マスター』
静かに、透冶の横に控え、黒いスーツに着替えてそれっぽく偽装したサーヴァント、セイバーが肩に手を置く
『これ以上は止めておけ』
「なんでさ。面白いじゃん」
『……この場には居ない
だが、屋根の上には黄金の王が居る。私としても戦いたい相手ではない』
「まったくさぁ……」
消極的な自己のサーヴァントにも苛つき、二つ目のガムをオレンジのジャケットのポケットから取り出して咬み、気をまぎらわす
『……というか、だ
この場でそれはどうかと思うのだが……』
ただ一人、何も頼まないのはどうかと思うとコーヒーを3人前頼むも要らないと突っぱねられて一人で嗜む銀に近い髪のサーヴァントが呟く
「サーヴァントなのに常識なんて語っちゃってさぁ……
そこの仮面もだけどバカじゃない?」
「誰が、バカだ」
壊れた仮面の奥から響く若くはない男の声。それを無視して透冶は続ける
「ってかさぁ、なんで仮面してるわけ?」
「……天国等が生きているのだろう?
出会うと面倒だ」
ぽん、とその答に手を打つ
「そういやアンタ暫く前からこの街に潜伏してたんだっけ。会ったことでもあんの?」
「あるからやっているに決まっている!
そうでなければ誰がこんな暑苦しくて重いものを好き好んでつけるというのだ!」
叫ぶ仮面を無視して
「でさ、最後の一人遅いじゃんどうしたのさ
まさか死んだ?あれだけ自信満々に召喚された瞬間にマスター殺す手とか語っておいて、まさか返り討ちにでもあったわけ?」
失礼な事を吐き捨てる透冶の前に、いつの間にか一人の女性?が立っていた
「いえ、残念ながら生きてますわ」
その姿は……バーチャルであった
「なにそれ」
「見て分かりませんの?姫こそは今をときめくVtuber、森石姫乃ですわ!」
くるっとターンするバーチャルな少女。物理演算がキツイのか、明らかに動きの速度からすれば過剰に、ともすれば下着が見えそうで見えないというほどにスカートが浮き上がる。小柄な体にはアンバランスな胸も明らかにブラとかしていたらこんな揺れないだろうというわざとらしい揺れを見せる
そう、透冶たちの前に立っていたのは、画面越しにであれば見ることもあるかもしれない、バーチャルなポリゴンテクスチャであった
髪は演算に限界があるのか3房に分かれて可動するふわふわのロング。頭には出来が微妙というか、キラキラした感じなのに自己発光であり光を反射していないティアラ。全体的に小柄ながら、胸だけは無駄に大きい。胸元の開いた趣味全開の少しだけ下品なドレスっぽいワンピース衣装は、膝上までのスカートを翻す
「いや、そうじゃなくてさ
なんでそんな姿してんの?」
前に会ったときは……と、透冶は思い出す
声が違う女性が来てたはずだ。もっと背は高く、声はこんなアニメ声ではなかったはずだ
「姫は姫だもん!」
『いや、そうじゃなくてだな……
恐らくマスターが訊きたいのは魔術を使ってそんな浮いてどうするんだって話ではないかと私は思うわけだが』
「えー、姫にファッションの話禁止ー!
やっちゃえバーサーカー!」
「に、似合わん……」
仮面の男が呟く中
『……』
『……こんな場で剣を抜くな
無作法過ぎる』
突如現れた、明るめの髪色をした青年が振り下ろさんとする片刃の剣……いや、日本刀の根元近くを銀の髪の青年サーヴァントが握ることで抑えていた
微かに流れる血が黒いスーツに目立たないまでもシミを作るが、それを気にせずセイバーは和服に近い服装をして浮いた空気のサムライを睨み付ける
『マスターに軽口で言われて、本当に斬りかかるのはどうかと思う訳だが』
「えー、姫に暴言吐くのはサイテーだし!」
『……妹の言葉だ』
「そうそう、姫はいもーと?だし!良いからやっちゃえバーサーカー!」
『狂化で騙されてんぞオイ!大丈夫かこのバーサーカー!?』
味方の居ない中、一人常識的であろうとする円卓の騎士の叫びが響く
「ってかさあ、もう姫で良いけどさ姫
アンタそもそもキャスター呼ぶ気じゃなかったの?」
「それがね!訊いてよみんな!
姫が呼びたかったのにキャスター枠もう誰かに盗られてたの!酷いと思わない?
でさ、バーサーカーは強いからキャスターはマスターごと殺したんだけど、それでも別に姫がまた新しくキャスター呼べるわけじゃ無いし、姫の準備がぜーんぶ無駄にされちゃったんだよ!全くさいてーだよね」
ぷんすかと過剰に赤くて湯気が出るような表情差分を見せながら、バーチャルな少女は告げる
「なら、あとはあの忌々しい天国のところと」
「自称スーパーゼウス」
『そして、残された1騎、話を聞く限りアサシンクラスか……』