「……だれ?」
そんな話の中、ふらふらとトシキの背後から寄ってくる気配があった
「結城!?起きて大丈夫なのか」
着替えを持ってくるのを忘れ、昨日の服のまま眠ってしまった結城灯花である
「結城さん」
「警部。結城は朝弱いんで、勘弁してやってくれませんか?」
「……とっしー、けーさつの、ひと?」
「ああ。そうだよ
結城の家を荒らした人について、何か知らないかって聞きに来たんだ」
……結城には、言っていない
だから両親が死んだことを、きっとこの小さな少女は知らないだろう。あまり家族仲は良くなくて、けれどもそう聞いて何も感じないような奴ではない。だから、混乱するなかに更なる波紋を立てずともと思い、トシキは何も言わなかった
「うん」
「結城はどうしたんだ?まだ眠いだろ?」
「……起きたら、とっしー、居なかった」
「ごめん。不安だったよな」
「……帰ろうか、君」
「は、はい」
結城との会話を看るや、初老の警官は踵を返す
「確かに。君の言ったことを信じよう、
ただ、一報入れてくれた方が警察としては助かるんだ、そこは忘れないでくれたまえ」
「理解しましょう。貴方は結城灯花を拐ったのではないと」
「はあ」
何だろう、敵視されてる気がする。結城は幾つかアプリとか作ってるし、そのファンか何かだろうか。と、トシキは適当に推察し
『おおミス・マスター
服が乱れていてはレディではない。きちんと整えたまえ』
「……ねむ、い」
と、話の渦中である当人が何時も通りの朝の弱さを見せる(学校でも一時間目の途中くらいまではおねむなのが結城灯花である。それでも予習はしてあるから問題ない辺り真面目だ)中、そそくさと警察は去ってゆき……
『あ、わたしも話、良いかな?』
突如響くその声にトシキは固まった
「ランサー!」
『あら?どうしたのかしらマスターさん』
『エウロペちゃまと朝の散歩の時間だ』
「そんな時間はない!」
突然、気配もなく玄関口に立っていた一人の……まだ幼さを残す少女を前にして、トシキは叫ぶ
「鍛造、再開!」
更に魔術の起動までして、サーヴァントを呼びつけ、眠そうな友人を背に庇いつつ、トシキは相手を睨み付ける
スカートはちょっと短めで、白いニーソックスが大胆?に露出してはいるものの、他は割ときっちりとしたシスター服を着こなす、そこそこ豊かな胸をした可愛らしい金髪の女性を
「……何者だ」
『何者か、かぁ……ご挨拶だね
けど、わたしもちょーっと怪しい者だしこれは仕方ないかな
わたしはミラ、聖堂教会から派遣された、今回の聖杯戦争の監督役、って名乗れば分かりやすいかな?』
人懐っこい笑みを浮かべ、敵意無く語る少女、ミラ
けれども、何一つ警戒を緩めて良い要素など無い。そう感じて、トシキは構えを解かない
『そんな怖がらなくても良いのに
わたしは、普通の監督役だよ?過去の冬木ってところで起きたものでは、監督役が勝手に参戦したりしたから警戒してるのかな?それとも、元々此処って天国の支配があるからって聖堂教会の手が及んでなかったのにって感じ?』
「……違う」
そんな、聖堂教会がどうこうではない
聖杯戦争の監督役。そういうものが居るというのはトシキだって知っている。だが……
彼女がそうであるとは、到底思えないのだ
「……お前は、何者だ
監督役の筈がない」
何故ならば
「……サーヴァントが監督役を務めるなど、聞いたことがない」
そう。彼女はサーヴァントだ
だからこそ、敵であるとしてトシキは構えた。恐らく、クラスは……キャスターでは無いだろうか。アサシンかもしれないが、それにしてはのほほんとしているし
『あそっか。旧い魔術師だもんね、それくらい分かっちゃうか』
「なら、やることは……」
何時でも鍛造を終えて抜刀出来るよう、トシキは中腰に手を添える。空気を掴む抜刀術の構え
『お話からかな』
だが、どこまでも少女は敵意を見せない
「……とっしー?」
「大丈夫だ、結城。何かあっても、2vs1なら勝ち目はある」
「……戦う?」
「どう、なんだろうな」
敵意が無くとも、敵とは限らない
アサシンの中には、友好的に話してる間にその態度を崩すこと無くにこやかに話し続けつつ相手を殺す殺人鬼だって居るだろう。キャスターの中にはにこやかに話すなかで洗脳を仕掛けてくるのだって居るだろう
警戒を怠るな、とトシキは身構える事を止めず、睨み付ける
『うんうん、若いねー。警戒心丸出し過ぎるよ?
でも、大切な人を護り抜くにはそういうのの方が良いのかな?』
うんうんと頷く少女。どこか毒気を抜かれるが、トシキは構えを解かず
『じゃ、仕方ないしさっさと名乗ろっか
わたしはミラ。サーヴァントとしては、
「サンタクロース?」
『うんうん。それはわたしじゃなくてわたしから出てきた噂……っていうか祈り?かな。でも近いよ』
更なる魔力を、トシキは練り上げる。まだまだ扱いに困るクリロノミアを、それでも乗せる
「太古の、大物サーヴァントじゃないか」
『うん、そうだね
あ、大丈夫大丈夫。そんな警戒は要らないよランサーのマスターさんと、アーチャーのマスターさん
そしてゼウスさんにニコラ・テスラさんにエウロペさんだよね?
わたしは言った通り、普通に監督しにきただけだから』
「信じられるか?」
『信じて貰うしかないかなー
わたしのクラスって、ルーラーだしね』
「裁定者!?」
『そのようだ』
遠雷のようなゼウスの肯定
『あ、大丈夫。今回の聖杯戦争って、始まり方が変だったり目的がとっても
ちょーっと、わたし個人としてはキミのサーヴァントがズル過ぎない?って思うんだけど、ランサーの範囲内に収まってるしね』
「逆に、範囲外って何だよ……」
『えっと、エンシェント?
わたしが裁定者として召喚された聖杯戦争には、非常事態だって世界の歪みを駆使して降臨したエンシェント・ゴッドがオレアーチャー、良いな?って聖杯脅してサーヴァントやってたりしたし
それに比べたら、精神だけなゼウスさんはしっかりランサーなんだよね』
何も言えず、トシキは頷く
「……そうなの?」
「結城、昨日言っただろ、エンシェントクラス。奇跡を起こす聖杯を求めてるのに、奇跡そのものの神が降臨してたら戦争も何もないって」
「そういえば」
『今回の聖杯戦争って、反則スレスレはその一件だけだしね。あとは、キャスターさんの宝具も一応反則ギリギリアウトなんだけど、あれを使うには聖杯クラスの魔力が要るからね、使えないしセーフかな』
「ギルガメッシュは?」
『反則じゃないよ?強いってだけで反則なら色々制約凄くなっちゃうし
機嫌良く宝物ばら蒔くようならわたしみたいに反則扱いで出禁食らうけど、彼そんな人じゃないしね』
『あら?あなたは出禁なのかしら』
『うん。わたしだって一応ライダー適性とかあるんだけどね。わたし自身は聖杯要らないし、何よりサンタさんのプレゼントって色々配るのが奇跡を自力で起こせるって事だからって出禁だよ?
とまあ、わたしの話は良いかな
とりあえず、今回の聖杯戦争、わたしは単純に監督役として来てるから心配しなくて良いよ
ちょーっと人智を越えた強さをしていて、色々と聖杯戦争を人々に知られず進める為に反則が使えるだけの中立』
「……なら、ば」
疑いはそのままに。いざとなればランサーに何とかして貰う為に令呪を使う用意だけはしておいて、トシキは構えを解く
『うんうん』
「……なんで?」
『ん?どうかしたのかな、結城ちゃん、で良いんだよね』
金髪の裁定者は、ふわりとした笑顔で質問に聞き返す
「サーヴァント、聖杯戦争のあと、消えるって」
「受肉すれば残るらしいが、裁定者が聖杯を手にするのは不可思議な話だ」
『あ、そこ?
わたしが呼ばれた伊渡間の聖杯戦争は、わたしが止めなきゃいけなかった召喚された原因が、最後の最期に、自分の存在そのものを根底から破壊して抹消した事で決着が付いたんだ
わたしは、彼を助けてあげられなかった。これで良いって笑って、未来があるって微笑んで、でも死にたくないって自分を
だからね、わたしは確かに聖杯戦争を破壊しかねない脅威を止めるために召喚されて、でもそんな脅威は最初から居なかったって事になっちゃったんだ
召喚はされたけど、果たす使命がそもそも無くて。だから、座に帰るって条件が満たせなくて、わたしはまだこの世界に残っちゃってる
だから、とりあえず聖堂教会で、ほっとんど起こせなくなった聖杯戦争の監視役とかやってる感じだね。聖杯戦争の結果である裁定者だし、今となっては聖杯戦争の監視役なんて閑職も良いところだからね』
寂しげに少女裁定者は笑った
「それで、今回の監督役として、わたしは君達に会いに来たんだけど……」
一呼吸おいて、少女は告げる
『聖杯さんを、えーっと女の子なんだっけ?』
「高生、黎南だ」
『そう、高生ちゃん。ごめんごめん、わたし直接会わないと裁定者権限でも名前とか読み取れなくて
その高生ちゃん、わたしに預けないかな?』