「さて、結城」
家に帰った俺は、居間として使っている部屋に置かれた棚を漁る
「好きなの持っていってくれ」
そうして、幾つかのカップ麺を机の上に並べ、親友へと差し出した
「……カップ麺?」
「見ての通りカップ麺だ。れーなと違って、ゲテモノや超激辛味は無いから安心してくれ。テンプレートな味だ」
「晩御飯が、カップ麺?」
首を傾げる少女に、当たり前だろとトシキは頷く
「結城、俺を何だと思ってるんだ?」
「凄い魔術師」
「別に凄くないし、魔術師が料理出来る前提がそもそも無い。ってか、大半が料理の腕なんてゴミ同然だぞ」
「でも、色々と作れる。作ってた」
「良いか、結城」
食い下がる少女に、無駄に空気を重くするように重々しく、トシキは告げた
「鍛造魔術は無から有を作るものじゃない。既にある材料から、俺が作れる限りの完成品を即座に作り出す魔術だ。無から打ってるように見えるかもしれないけどさ、いざというときに何時でも刀を鍛造出来るよう、ずっと靴底や服や鞄に鋼仕込んであるんだぜ?
だから、妖刀は撃てても拳銃は作れないし、当然料理出来ない俺が鍛造しても真っ当な料理が完成するはずもないんだよ」
「……」
そんなトシキの説明に、小さな親友は無言で頷いて
「でも、不健康」
ばっさりと一言で切り捨てたのであった
「野菜を切って付けるくらいなら何とかなるんだけど……」
「作れたら、苦労しない」
余談だが、結城灯花の料理の腕だって決して誉められたものではない。トシキが作るよりはマシかもしれない程度である
そんな風にカップ麺を前に二人で悩んでいると、遠雷のように轟く声が響いてきた
『貴様等……阿呆め』
「その声は、ゼウス神!」
なにやってるんだろうこの神というぼやきは飲み込んで、トシキは窓の外を見る
『神の妃、我が妻、家事万能のエウロペちゃまの存在を忘れたか……』
「その手があったか!」
ぽん、とトシキは手を叩こうとして
「いや
困惑して止まる
「まあ、美味しいご飯が作れないの?
おばあちゃまに任せてちょうだいな」
あ、大丈夫そうだな。扉の前に霊体化を解いて現れた少女サーヴァントの発言を聞いて、問題ないかとトシキは頷く
「ランサー、任せた。一応不健康なのは分かってるんで食材自体はある。基本適当に焼いて詰め込む以外の調理法が出来ないから持て余してるが」
「ええ、きっと美味しいって言える料理にするわね
あ、マスターさん。あの飴よりも、もっと現代的な味の方が良いのよね?」
「任せる」
サーヴァントの使い方としてこれで良いのだろうか。いや、良いのだろうきっと
思いつつ、トシキは頷いて
『申し訳無いが、この大天才へも一膳用意して貰えないかね?』
「……スーパーゼウス?」
「アーチャー。基本的にサーヴァントに食事は必要ないはずだが。結城は良いが、あまり此方の財政に負担をかけようとしないでくれ」
その声に、はっと気が付いたように黒髪の少女はバッグへと手を伸ばす
「とっしー、これ」
そして、そそくさと一冊の通帳を取り出すと、渡してきたのだった
「……結婚でもするのか結城?通帳は出さなくて良いからな?」
「お世話になる。お金が要る」
「お互い様だろ?何度も結城にはお世話になった、そこら辺は結城は考えなくて良い。ってか、正直な話をすれば冗談みたいなもので、財政に問題はないんだ。だからその通帳は仕舞ってくれ」
8桁の数字が見えるそれから目を逸らし、トシキは息を吐いた
「でだ、アーチャー。金払えは流石に冗談だが、理由くらいは聞かせてくれないか
意味もなく食事を楽しみたかっただけ……でもまあ結城のサーヴァントだし良いんだが」
『当然』
轟く雷声。ゼウス神はその解釈で当たり前だろうと返していた。何なら自分も要るぞと主張していた
『時にミスター・カタナカジよ。この大天才が趣味嗜好の為に人に
「捧げられて当然の雷神ではないから違うと思う。だから、知りたい」
ゼウス神を刺激しないよう、ゼウス神が要求するのは神だから良いと予防線を張りつつ、トシキは答える
『然り。これはミス・マスターの死活問題ともなりうる要求だとも
このスーパーゼウスのクラスはアーチャー。当然、単独行動スキルはあるとも。この大天才、圧倒的な実力ながら普段の活動ではミス・マスターに法外な魔力の要求などしないとも。あの凡骨サーヴァントと違ってな!』
どこかの聖杯戦争で召喚され、魔力をバカ食いでもしたらしいライバルを虚仮にしつつ、偉丈夫のサーヴァントは語る
『しかし、しかしだね。少し酷な言い方をしてしまうが、ミスター・カタナカジもご存知の通り、ミス・マスターは御世辞にも魔術師として……いや、マスターとしてまともな存在とは言い難い。あのような緊急事態を見過ごし見殺すほどの冷血漢ではない故、此度は召喚に応じたが……本来、ミス・マスターはマスターとして不適だ。サーヴァントと契約し、それを維持し、あまつさえ戦闘を行う。そんな魔力の酷使に、ミス・マスターの悪く言えばあまりにも貧弱な魔術回路は耐えきれないとも
だからこその食事だよ、ミスター・カタナカジ。そして神妃よ。この大天才、世に満ちた交流電気から自前で魔力を集められはするが、それでも溜め込む魔力は多いほど良い。そして、食事を取れば多少なりとも魔力は得られるのだよ』
「結城を護る為に魔力が要る、か」
ふむ、とトシキは頷く
確かにその通りだ。魔力量的にマスターとして不安は無いトシキだからこそ、他人はそうとは限らない事を少しだけ忘れていた。いや、結城の魔力ではサーヴァントが宝具を撃つには辛いのではと思っていたが、その量を見誤った
「存分に食事していってくれ。代金は此方で持つ」
言いつつ、トシキは財布から万札を数枚取り出し、封筒に入れて渡す
「別行動の時にも食事で補給できるように、渡しておく。結城をしっかり護ってくれ」
「……そこまてしなくても」
呟く親友に、トシキは首を振る
「結城。聖杯戦争は遊びじゃないんだ。備えあっても憂い無しとは言えない。だから、備えはしっかりな」
『ああ、電気でも魔力は得られる。そこまで気にしなくとも良いとも。だが直流は駄目だ。あんな野蛮な電気は我慢がならん。ところで、この家に通る電気は当然交流だと思うが、どちらだね?』
その質問は、トシキには答えが分からなかった
『雷には二つある。神の雷か、否かだ』
「ゼウス神よ。神の雷でないものの細分化の話なのですが」
何か言っている神は無視して
「交流になるように変電機か何か買ってこないとな……」
そう、トシキは思ったのであった
そうして、大体料理が出来上がったかなーという頃。突然、玄関のチャイムが鳴った
驚いて、広げていたパソコンの画面から顔を上げる黒髪赤コンタクトの少女
「大丈夫だって、結城」
そんな親友を宥めつつ、トシキは玄関へと向かう。どうせ来るはずだと思っていたから
「やっほー」
果たして、ドアの小窓越しに見えたのは、やはりと言うか知ってたというか、金髪の幼馴染の姿。お土産的なものだろうものは肉じゃがのタッパーらしく、ゲテモノではないことにトシキは安堵して
「何だ、れーなと……」
その背後に立つ同性の友人の存在に気が付いた
「柳我。お前が来るなんて珍しいな」
「御免な、
「気にすんな。妹のところに即帰るってのが何時ものお前だから、ちょっとだけ気になっただけなんだ」
すまなさそうな友人にそう笑って、トシキは家の鍵を……
「結城、そろそろ出来たかー?」
開ける前、ふと気が付いて声を上げた
誰か来たぞという合図。本来厨房(あまり使われていない)に立っているのはランサー、エウロペ。決して親友の結城灯花ではないし、そんなことはトシキだって知っている。その上で言うことで、サーヴァントが居てはいけない、サーヴァントの存在を知らない相手が来たという意思表示
「もうすぐ」
少しの間が空いて、帰ってくるのはそんな返事
分かってくれたのだろう。そう思い、トシキは家の鍵を改めて回した