「え?ボクも泊まるけど?」
なんて発言を受け、軽く一発柳我に殴られて
そんな打ち上げも終わり、時刻は丑三つ時にも差し掛かろうかというところ
「……珍しいな、結城」
魔術工房の入り口たる扉が開く音、特定の人間だけは自動迎撃しないように設定された其所が普通に開くその音に、天国トシキは静かに手にした鎚を置き、鍛冶場の入り口を振り返った
「ごめん」
立っていたのはやはりというか、一度アーチャーと家に帰ると言って夕食後に出ていった黒髪の少女。流石にトシキが適当に詰めてきた着替えはそう数もなく、ついでに言えばセンスも無い。幾らなんでもトシキには親友とはいえ、いや親友だからこそ、そんな女の子の肌着を選別とかしてる余裕はなく
だからこそ、聖杯戦争が終わるまで、両親を殺したろう仮面の男ーアーチャーが言うにはライダー……もといギルガメッシュ王のマスターたる彼等にしっかりと落とし前をつけさせて安心できるようになるまで一人で居たくないという少女には、一度家に色々と取りに帰って貰ったのだ。警察にも一報入れておいて
「いや、責めている訳じゃない。でも、珍しいな、って」
気にすんなよ、と頭に巻いていたタオルも取り、今日は終わりという雰囲気を出しながら、トシキは呟く
実際、結城灯花がこんな時間に来ることは珍しい
「鍛冶してる日に結城が絡んできたのって……三年ぶりくらいか?」
「……うん」
その三年前も、ふと1時過ぎに着信に気が付いたトシキが折り返し電話したた瞬間、こんな時間なのに電話させちゃって御免なさい、重要なことじゃなかったのにとだけ告げて、お休みなさいごめんなさいと直ぐに切れたものだ
以来、鍛冶の日に結城灯花が電話をしてきたことはない。一度たりとも
その分、夜に暇してる日には良くかかってくるのだが
『あら、今日は終わりなの?』
『……怠るなよ。未だ一人前には遠い』
トシキを見守っていた、ついでにアドバイスをしていた金髪と白毛のサーヴァント達も立ち上がり、口々に言葉を交わす
「そこは明日だ、ランサー
結城が邪魔するってことは、それなりの理由があるんだろう。だから終わりだ」
指を弾く。それだけで炉の火が消え、辺りが一段暗くなる
「……無い」
「ん?何か言ったか結城?」
「それなりの理由なんて、無い」
「いや無いのかよ」
思わず突っ込む
「家、めちゃくちゃだった」
『そのようだ』
「お父さんもお母さんも、もう何処にも居なかった」
「……だろう、な」
父親は、タブレットのニュース画面を開いたまま顔を下ろされていた。母親は、鍋の代わりに顔を炭化するまで直火焼きされていた。両方とも、確実に死んでいて。その遺体は早々に搬送されているだろう
「でも、床が血だらけで。玄関の鍵も、壊されてて」
ぽつりぽつりと言葉を絞り出す少女の肩は、小さく震えていて
「結城。言いたくないなら、言わなくて良い」
『辛いなら、泣いて良いのよ』
「……ようやく、分かった
……死ぬ事。殺される事」
「……結城」
眼を伏せて、縮こまって震える親友の頭に、軽く掌を乗せて
「……そんなに怖かったのか?」
「……昨日は、まだ
現実味が無くて、麻痺してた」
「なら、明日……というかもう今日だな。改めて裁定者の所に行くか?」
「……行かない」
けれども、やっぱりマスターを止めるとは、その少女は言わず
「……怖い」
「なら」
「……でも。もっと、居なくなる?」
「そうだな」
静かに、トシキは頷く
恐らくはだが、九条彩月も、何らかのサーヴァントに襲われたか、誰かを襲うのを見たのだろうと推測している
来ると言っていてフェスに来ないことも、その上でそんな妹を心配せず、あのシスコンが打ち上げに来て意味深な事を言うことも、完全に可笑しいから。被害は既に、増えているかもしれない
「……わたしは、弱い。でも、アーチャーは、強い」
『その通りだとも、ミス・マスター』
少女の後ろに控えていたサーヴァントが自画自賛し
「だから、止めない
もっと多くの人が、とっしーが、あんな風になるのが、もっと怖いから」
そんな声も、震えていて
「……でも」
「……御免な、結城」
震える仔猫のような親友の頭を、優しく撫でて。頭の天辺が自分の肩近くまでしかないその体を、軽く抱き締める
「分かってたのにな。親父が失踪したとき、結城に、れーなにも迷惑かけて
そうだよな。親が居なくなって、殺されて。変にならない訳無いよな」
……だからだ。アーチャーも居て、だから何かあっても間に合うはずだと思い、ならば今はゼウス神によりトシキ自身には自覚がなかった鍛造魔術の本質を教えられたが故に鍛練だと鍛冶場を開いた自分を恥じながら、トシキはその小さな親友を撫で続けた
「それで、帰ってきたら俺が居なかったら、不安だよな。御免な、付いていくべきだった」
……そして、10分後
「ね、寝れねぇ……」
一人では不安だという親友は袖を掴んで眠ってしまった
その少しまだ強ばった寝顔を眺め、出来る限り離れたせいで自室の布団から半分出た状態でトシキは呟く
一人では寝られないだろうからと、側に居てやれば割と直ぐに結城は眼を閉じた。それは良い。それは良いのだが……
「……針の筵か此処は」
『大丈夫、マスターさん?』
これである
サーヴァントというものは、睡眠を必要としない。寝ようと思えば寝られるのだが、眠ることの利点としては魔力消費がある程度抑えられることくらいしかないのだ。故に、サーヴァントは眠らない。ランサーは趣味で、そしてアーチャーは眠ることによる消費軽減よりも、電力を堂々と盗電することによる魔力チャージを優先するが故に
そんな2騎3対の眼が此方を見ていて。ついでに自室の布団の中には緊張はあるものの無防備な寝顔を晒す親友。黎南は別の部屋(本来は結城と二人で泊まれと言っておいた居間なのだが、一人で寝られない結城は自室に連れてきたので一人だ)で、他に見るものとて無く。ただただサーヴァントの視線に晒されて。疲れたのか、或いは一度入らせて貰ってから服が足りないと気が付いて出ていったが故に一度抜いた風呂をまた入れてと言えなかったからか、少女からは少し汗の臭いもして
『成程、これが男の恥か』
「いや、何が!?」
そんな状態は、翌朝早く起きてきて結城が居ない事に気が付いた黎南が、「ちょっとお話があります。ボクの言いたいこと分かるよね?」と部屋の扉を開けるまで続いた