Fate/Tonitrus   作:雨在新人

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映画道(1/2)

「そういえばさ、あの刀って何だったの?」

 山を下り、尼谷市に広がる商店街を通って中心の尼谷桜田駅へと向かう道すがら、金髪の幼馴染がそんな事を聞いてきた

 

 映画といっても、尼谷市にはイオンモールだの何だのの総合施設というものは無い。一応駅ビルが似たようなものだが、食品とかは売っていないあくまでも娯楽系のみの場所

 古来の商店街を潰してでもこの地にイオンモールが新規出店しようという計画は15年ほどまえにあったというのだが、そのモール建設予定地が実は天国の私有地であり、竜脈の流れを見るに下手な事はせず大きめの公園にしておこうとしていた地を中心としたものであった為、当時の当主にしてトシキの父である天国久狼によって二度と計画が持ち上がらない程度まで叩き潰された

 今ではその私有地の大半を市や国へ寄贈等の手段で手放したから笑い話だが

 

 そんな事情から、尼谷市は旧来の商店街がシャッター街ではなく未だにしっかりとした形で残っており、同時にそれとは趣の異なる大きな駅ビルにでもいかなければ大きめのアミューズメント施設というものがないのだ

 子供たちにとって、遊ぶと言えば駅ビルに行くことが大半(互いの家や公園ってのは置いておいて)であり、誰々と誰々がデートするらしいという噂も、基本駅ビルに行けば本当か確かめられる

 そんな良いのか悪いのか良くわからない状況。トシキ自身は、各々が各々で専門店をやっているものが連なる商店街を嫌いではないが

 

 そんな古めかしい道を歩きつつ、トシキは返す

 「ああ、あれ?ちょっと半年前に旧い家の当主がジャパニーズサムライソードの美しさに目覚めたらしくて依頼されたものだ

 最初はオニマルだのドージギリだのの天下五剣に匹敵するの打てと言われて物理性能だけなら兎も角美しさと逸話を含めた価値で匹敵とか不可能だって感じだったんだが……

 最終的に東京国立博物館に所蔵されてる重要文化財『浮雲天境』よりは下のクラスで良い……ってかなりの無茶振りになったので受けた。そいつなら安土桃山時代の先祖が打ったものだし、そのちょい下で良いなら出来るかもしれないってな

 確か価格としては想定金額30000って聞いてたな。出来が気に入らなければ下げて良いって話にしてあるから本当に30000かは分からんが」

 「……安い」

 『そうなのかねミス・マスター?確かに、彼から渡された紙幣にある数字の合計が30000エンほどであったと記憶はしているが』

 「いや?古い名刀なら異様に安いけど、2018年に鍛造された刀としては有り得ないくらいに高いよ

 鞘は知り合いの人に5万で作って貰ったし、鍔のデザインは5000円で頼んで、柄や目抜きや磨ぎは俺がやったんで人件費とか考えなきゃプライスレス。実は地金に金多少混ぜてたりするんだが、そういった刃金の材料費と俺以外の人への費用合わせて8万円とかよ、原価

 3回流石に普通に武士に売るくらいなら行けるがお偉いさんにこれをお出しするのはって一から打ち直したけど、それでも刀身だけだしそんな変わらない

 ってかさ、何か勘違いされてる気がするんで補足しておくと、あの人等欧米……ってか、確かフランスの元爵位持ちって感じの名士の人の使いなんだ

 なんで、30000ってのはユーロ。ざっと370万円だな」

 「さ、さんびゃくななじゅう……結城ちゃん、信じられる……あの刀一本、うちの神社のお賽銭全部集めても2年分くらいあるんだって……

 ボクちょっとクラクラしてきたよ……」

 「イラストアプリの総合売上くらいある……」

 「……え?結城ちゃん?」

 ああこれか、と立ち止まりながらスマホを弄り、結城のアプリのひとつを立ち上げる

 

 「ホントだ。絵の数7500行ってる」

 ブラウザで立ち上げたのは結城が出会った頃に作っていたお友達アプリの条件付き返答出力技術から出来たという一つのアプリケーション。こんな感じでーと服装や髪型や大体の年格好を指定するとそれっぽい立ち絵をAIが仕上げてくれるという自動お絵描きアプリだ

 3Dキャラカスタム系のと似てるが、2Dかつネットの画像とかも取り込んだ上でアプリが書き直すから元々はアプリに素材がなくてもMODとか入れずに対応できるのが強みだ

 因みに絵柄のタッチは3種類くらいから選べ、一枚につき500円を支払うことにはなるが、払えば使用は自由。確か、未成年なのでトシキはしっかり確認したことはないが低価格ドットエロの同人の立ち絵に使われてるっぽいとかまであったような覚えがある

 更には数キャラをそれで用意して立ち絵IDを選びこれらのキャラでこんな感じの絵、と構図を指定すれば、それっぽい一枚絵も仕上げてくれる機能が最近追加された。こちらも少なくとも一枚絵にしたいキャラの立ち絵の分……特に複数キャラの事が多いから何枚分も既に払って貰ってるお得意様だからということで一枚500円

 DLやスクリーンショットはお金を払うまではプロテクト掛かってるので転用はそうそう出来ないが、どうしても気に入らなければお金を払わずリジェクトも出来ると先払いではない良心設計

 あくまでもAI作成のため本職イラストレーターに依頼した方が絵のクオリティは高いし修正も細かく口出し出来る為満足行くものになるのは間違いないが、ド素人が書くよりは数段上の自キャラの立ち絵なり挿し絵なりが本職なり依頼受けつけてるアマチュアなりに直接依頼するより安価で簡単に手に入るということで、一部の投稿サイトに小説を投稿してるが他人からイラスト書いて貰えないけど挿し絵入れたい!人々からは最近出た有難いアプリとして使われているらしい

 流石にトレスとかやりすぎないように調整した結果、当然だがちょい顔が判子気味と嫌う人は嫌うらしいが

 欠点はAIである以上スペック的に装飾とかしっかりした武器は何らかの有名作の武器のトレスにしかならない為書いてくれないし指定しないでとアプリの注意書にもあるところ。まあ、武器をかっこ良くきらびやかにオリジナルデザインしろとAIに言われても無理だろう

 

 「……うう、結城ちゃんが遠い……助けてトシキくん……」

 「どうも、鳴くよウグイスの辺りからこの地で続く鍛冶の家系の末裔です」

 「もっと遠かったの忘れてた!?」

 『因みにだがねミス・タカバネ。この私こそ現代社会の礎、電気の発明者である』

 「ぐえー!」

 『大丈夫よ、マスターさんのお友達。わたくしは普通のおばあちゃまですもの』

 「神話に名前がある人にいわれたくないよ!?

 普通なのは……ちょっと可愛い巫女さんってだけの普通の人なのはボクだけか……」

 少しだけ自賛しつつもずーんと肩を落とす黎南

 そんな事はない。普通だなんてとんでもないということを、トシキは良く知っている。根源接続。この中で一番特異な存在こそ、黎南である事を

 だが、それを言う気はなく

 根源接続者とはそれだけ恐ろしく、そして珍しいものだ。この地は中国4000年やら皇室2600年やらには歴史的に全く勝てないが魔術的には1200年くらい前からずっとこの地に根差してきた天国の地であり魔術協会も聖堂教会もロクな影響力がなく、本人に自覚も無い。それ故に聖杯戦争が今回起きるまで平穏に暮らせていただけで、本来はこんな風に生きてなどいけない

 

 「あ、姫乃ちゃんだ」

 駅ビルにほぼ到着するというところで、聞こえてくる歌に漸く黎南は顔を上げた

 「知ってるのかれーな」

 これは、何だろう。結構甘ったるい声の歌が、駅本体とは逆方向、大きく張り出た8階建てのビルの前から聞こえてくる

 「えー、トシキくん知らないの?2.5次元アイドル森石姫乃だよ、Vチューバーの」

 「悪い、Vのもの興味ないんだ」

 結城や黎南がデビューしたら見るかもしれないけど、アバター見てるより結城と話してる方が面白いしな、とトシキは続け、幼馴染の話を半分くらい聞き流す

 

 それにしても、黎南はアニメとかにはそんなに興味がなかったはずだ。2.5次元、リアルだけどリアルとは言いきれないアバターを被った配信者達。アニメよりドラマな彼女にとって、割とアリな線だったのであろうか

 

 「新進気鋭の個人勢でね、ボクが見てた人とコラボ配信してたから知ってるよ」

 「そうなのか。個人勢でもコラボってあるんだな」

 「個人同士だけどね。会社ってサポートがないから視聴して貰う為にもっと必死なんだよ個人勢」

 「そんなものなのか」

 「あれ?400万くらいってぽんと凄い売上が出るトシキくんとは違うんだよ、配信者って

 まあ、上の方の人は100万とか一晩で稼ぐんだけどさ」

 ほー、と聞き流しながら、トシキは駅前広場の人だかりを見る

 掲げられたものによると、イベントらしい。題して、現実出張姫乃3D~よりリアルな新VRを貴方に~。どうにも、3D投影プロジェクターか何かの新技術のお披露目か何かだとか。ステージの上では、画面越しになら見るだろうポリゴンテクスチャが確かにリアルのものである金属で支えられた白い其処に立っていて、そして踊っている

 恐らくだが、中の人の存在の上にバーチャルなテクスチャを被せているのだろう。ステージ下には大きな機械があり、恐らくはそれがステージ上に2.5次元の映像を見せている

 

 「金掛かってるなー、その割に」

 まあ良いやとぼんやり眺めながら、その横を通ろうとして……

 眼があった、気がした

 いや、そんなはずはない。ポリゴンテクスチャと目が合う事はない。精巧というよりはアニメっぽい造形の顔は、真っ正面から互いに見つめ合ったとしても尚目が合うという感覚はないだろう。何なら、あのちょっと髪の演算が足りていない顔は、遠巻きなトシキ達ではなく別方向に笑顔を向けているというのに

 じっと、その視線に合わせるように、いや、そこから少しずらすように、踊るポリゴンを見つめ

 

 ああ、そうかと納得する

 

 「行くぞれーなに結城」

 「……急ぐ?」

 「急げよ結城、ゆっくりポップコーンの味を選んでる時間が無くなっちまうぞ」

 おどけて、トシキは友人達を急かす

 

 なんて事はない。理由は簡単だった

 目があったように思える違和感なんてとんでもない。実際に目が合っていたのだ

 ポリゴンテクスチャの顔は別の方向を向いていて。なのにテクスチャを被っている何者かは、確かに此方を見ていた

 そこから感じた視線、そして、良く良く見れば感じる、微かな気配

 

 あれは、魔術だ。あまりにも堂々としていて、仰々しい装置まで置いていたから騙されたが、何の事はない。視覚に作用する魔術が使われていたから、2.5次元が踊っているように見えただけ

 魔術とは基本は秘匿すべきもの。あんなところで人を集めてイベントまでやって堂々と魔術を披露するような魔術師なんて居るまい。その先入観が、即座の看破を許さなかったが、あれは確かに魔術だった

 ならば、何故?何故あのVのものはわざわざ目立つことをしていたのだろう。その答えをトシキは一つしか知らなかった

 

 あれは、自分を使った餌だ。大きなイベントを起こし、人を集め、そして……残りのマスターを探る。人にはよるが、人の波に乗じてこそこそ隠れて調査するタイプのマスターには効果覿面だろう。人混み、イベント、その中でならば余程のクソ野郎以外は直接戦闘を仕掛けてこないだろうから安心して調査が出来るとしてやって来る。実際、トシキも釣られかけたのだから

 だとすれば……奴は、Vのもの森石姫乃は聖杯戦争のマスターであると推察できる。そんなものとはとりあえず結城が居る以上距離を取るに限る

 そんな思惑を胸に、ほら行くぞとトシキは親友の腕を取った。聖杯戦争から、彼女を引き離すように

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