Fate/Tonitrus   作:雨在新人

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遭遇戦(1/3)

「……ゼウス神」

 『……我に頼むか』

 「人払いは済ませた。れーなと結……」

 

 「駄目。此処に居る」

 言葉を遮られ、軽くトシキは奥歯を噛んで気持ちを切り替える

 「頼む。れーなを連れて、家に帰してくれ。あそこは無駄に防護がちゃんとしてるから、例え他のサーヴァントが来ても暫くは持つはずだ」

 といっても、恐らくあの黄金の王が現れれば一瞬で破られるのであろうし、参加しないよ?と言っていたあの裁定者とてそれは同じ

 気休めに過ぎないといえば過ぎないが、まだ正体不明のキャスター……は魔術に長けるから駄目か。アサシン襲撃くらいは即座に戦闘を離脱して家にゼウス神の力を借りて駆け付ければ間に合うくらいの時間は稼げるだろう

 

 『ああ、この娘を護ると言っていたな

 良かろう。女の子は背に乗せてやろう』

 「一応マスターな俺と態度違いません?」

 『男を背に乗せて何が面白いか』

 「その通りですね!?」

 軽口を叩くのはここまで

 「うん。頑張ってねトシキくん」

 聞き分け良く白い牛の背に跨がる少女は、それだけ言いのこして、空へと歩む牛に掴まる

 

 「……頑張れって言われてないぞ結城。お前も帰るか?」

 それでも、どれだけ本人から言われようが、トシキとしては横で小さく歯を鳴らして、雨の日の仔猫のように縮まりながら、それでも戦うと明らかに無理言ってる親友を巻き込みたくはなくて

 「次言ったら、おこる」

 けれども、返ってくる言葉は変わらない

 そのカラーコンタクトの綺麗な赤い瞳は軽く潤み、怖い逃げようと訴えてくるけれども

 それに反して、言葉だけは立派に戦おうと言い放つ

 『ミス・マスターの精一杯の乙女心を無為にしようと言うのであれば、この大天才、あまりそのような無粋な輩に手を貸したくはないなぁ』

 「スーパーゼウス、それも駄目」

 『おおっと。ミス・マスターの言葉であれば仕方あるまい

 ではミスター・カタナカジ。共に死合う準備は良いかね?』

 「再鍛。偽打・暁天境」

 小烏丸ではなく、打てる5本の妖刀ですらなく、鍛造するは単純な刀一本

 特異な力の無い。唯の鋒両刃の太刀

 『ええ、頑張りましょうね、マスターさん』

 理由は簡単だ。妖刀は魔力を多く使って打つもの。その分特異な魔術を扱え、例えば亀戸の宝刃ならば雨を降らせたり出来る訳だが、それだけ魔力消費が激しい

 そして、幾ら妖刀だろうが、サーヴァントに通用するかというと微妙だ。魔力と神秘を込めた刃故、相手がヘラクレス等の半神であっても手傷ぐらいは負わせられなくもないが、それでも作れて軽い傷に過ぎないだろう

 受けの面で言えば、そもそも刀とは相手と刃を合わせずに斬るもの。単純に材質と製法とあとは使った鍛造魔術による硬さだけがものを言う。そして、そういう点では妖刀は魔術を鍛造時に鋼に刻み込んでいる分脆い。強度よりも特殊能力を優先した形

 故に選ぶのは単純な刀。前回の戦いではトシキ自身が何とかしてセイバーを追い払わなければならなかったが故に妖刀を鍛えたが、今回は横にランサーが居る。魔力はそのランサーに回した方が余程有意義というもの。サーヴァントの相手はサーヴァントに任せるべきなのだ。トシキ自身の武器など、とりあえず硬くて剣をいなしやすければそれで良いのだから

 その点では小烏丸の方が硬く鋭くはあるが、それでもまともに打ち合えば折れる事は前回理解した。ならば、結局受けきれない硬さの差の為に、より魔力を使う意味など無いだろう

 

 その点で言えば、懸念すべきはランサーだ。ゼウス無しで本当に戦えるのか

 「ランサー、一人で何とかなるか?」

 『任せて頂戴な。おばあちゃまはこう見えて頑丈ですもの』

 「いや、攻撃面は……」

 『ゼウスさまが居ないとのーこんてにゅー?になってしまうけれども、精一杯頑張るわ』

 「寧ろ、あの牛が居ればコンテニュー出来るのか……」

 サーヴァントって怖い、と、トシキは呟こうとして

 くいっと袖を引かれる

 「結城?どうした」

 「多分、別のノーコン」

 「別の……」

 ノーコンって他に何があったかな……と一瞬トシキは考える。考えなくても分かることを、ちょっと認めたくなくて他の意味を探す

 No Controlなんて駄目だろうと

 けれども、その他にぱっと意味は思い付かず

 「ノーコントロール?それ普通に駄目じゃないか!?至近距離で撃つしかない」

 『そう!のーこんとろーる!』

 「……駄目だ、任せきれない」

 『では、この大天才の出番という訳か』

 青いマントを翻し、颯爽と前に出ようとする偉丈夫

 「頑張って」

 それを結城は応援し

 『ではミスター・カタナカジ等。数的有利を生かす用意は良いかね?一斉に、数とは力であると教えるとしよう』

 機械腕にスパークを走らせ、そのサーヴァントは堂々と宣言する

 

 ……駄目だ。このサーヴァントは何を言っている

 トシキは心の中で思う

 数的有利?そんなもの何処にもない。だって眼前のセイバーは、まだ一番の脅威を見せていないのだから

 そこまで考えて、トシキは漸く気がつく。今回の聖杯戦争におけるセイバーの真名を、アーチャー主従は知らないことに。だから、隠している切り札に気が付かない

 それは仕方の無い事。今まで自分は知っているからと半分眠っていて覚えてなさげな時以外に言葉にしなかったトシキの落ち度。他人と共に戦うことを考慮していなかったから、情報の共有を見落として

 「駄目だ、アーチャー」

 『臆することは無い!ライトニンッ!』

 偉丈夫のサーヴァントは駆け出しつつ、雷撃を手から放つ

 同時、マスターから離れたサーヴァントの行動を待っていたとばかり、鼻に香る獣の香

 「結城っ!」

 心の中で謝りながら、敵を知らぬがゆえに、そして恐怖故に突っ立っている親友にかけより、そのあまりにも軽い体を突き飛ばして

 『駄目よ、マスターさん』

 更に、その背をトシキも優しく、けれども人を越えた力で地面に抑えられて

 ガチン!と牙が噛み合わさる音が響く

 

 頬に垂れる、熱く赤い液

 『ランサー!』

 跳ね起きながら、刃を振るう

 その巨大な白影は、それを華麗に宙返りを加えたバックジャンプでもって避け、セイバーの横に降り立つ

 

 『大丈夫よマスターさん。サーヴァントだから、マスターさんより丈夫ですもの。ゼウスさまがいなくても盾にくらいはなれるわ』

 腕に大きな抉られた骨に届く傷痕を、噛み傷を残しながらも、その金髪の女性は慈しむように笑い

 「とっ、しー?」

 突き飛ばされ転んだときに少し怪我したのだろう。頬に細かい擦り傷をつけながら、ポカンと口をあけて、当たり前だが戦いに付いていけない少女が言う

 「アーチャー!とにかく結城を護れ!数は寧ろ不利なんだよ、此方が!」

 『なんと!獅子を連れた騎士とは!なんと面妖な!』

 アーチャーとて分かっているのだろう。セイバーへ向かう事を止め、宙を浮かんで後退してくる

 セイバーたるサーヴァントは、特にそれを追撃する事もなく、自然体に剣を下げたままそれを見守る

 

 『……天国の魔術師よ、一つ提案がある』

 「何だよ、ユーウェイン」

 そのわざと真名を言ったトシキの声に、びくりとその背で少女が震えた

 ユーウェイン。或いは獅子の騎士。あのアニメを見ていれば、その名を知らぬ者は居ないだろう。メインキャラの一人、ライオンを連れた騎士、強敵の一人として描かれていたのだから

 実物は、あれより強いが

 

 『あまり真名で呼ばれるのは好きではないのだがな

 ……と、そうではない』

 彼の前方で、獅子が唸りをあげる

 『ならば何だと言うのだね、ミスター・クズライオン』

 『せめてライオンナイトにして貰えないか?』

 『おっと失礼。やはりライオンと縁深いのは凡骨しかり悪魔しか居ないと思うと、つい最初はそう呼んでしまうのだよ、許してくれたまえ、ミスター』

 静かに頭を振り、騎士はまあ良いかと切り替えて言葉を紡ぐ

 

 『私とて一応は円卓の騎士だ。騎士道など、ガウェイン等や我等の王等強き者の言葉。護れる程度の敵に対して護れば良いとは思うが、ここまでの事は流石に見過ごす訳にもいくまい』

 「何が言いたい」

 『あのマスターは兎も角、私としてはあの聖杯を今手中に収めておくことに興味はない。故、手を出さぬ

 それと同じだ。そこの巻き込まれ仔猫のように震える一般人を巻き込むのは忍びない。私も盟友(とも)たる獅子も暫く動かないからとっとと家に帰してやれ

 そこの天国の魔術師と、あとはアーチャーだろうそこの口だけは攻撃的な男達。この戦争に巻き込むのはそれだけで十分』

 「だそうだぞ結城」

 愛想良く?ライオンが吠えて道を開け、前足を揃えて犬のように座る

 

 だが、トシキの上着の袖をきゅっと握り、小さな親友は首を横に振る

 「よけいな、お世話

 わたしだって、マスターだから」

 『……冗談は止せ、仔猫娘』

 ロウ、と獅子が吠える

 ひゅっ、と軽い息と共に、ふらりと小柄な少女の体が揺らぐ

 「結城!」

 刀をアスファルトに突き刺し、トシキは地面に倒れる前にその肩を抱く

 揺すってやると、すぐに眼を開けた

 「……ごめ、ん」

 「何があった」

 『……単なる狩りの咆哮。竜の叫びだ。多少なりとも戦いの心得がある者には効かない、弱き者の意識を恐怖で刈る小技

 それで息が止まるような一般人が?魔力もロクに無い単なる少女が?聖杯戦争におけるサーヴァントのマスターだと?冗談は上手い返しが出来ない私に言わないでくれないか』

 『無論冗談ではないとも、ミスター・クソライオン

 彼女は確かにこの大天才スーパーゼウスのマスターだとも。馬鹿にしないでくれたまえよ』

 は?とセイバーが素だろう反応を返す

 

 『正気か?替え玉とか囮ではなく?』

 『無論、正気だとも』

 『待て、待て!待つんだそこの自称超ゼウス。クソだクズだ私を適当に呼んでいたようだが、こんな少女を巻き込んででも聖杯を得ようとするゴミクズはそちらではないのか!?』

 どの口が、と思わず毒づく

 

 『おや。これは異な事を

 ミス・マスターを巻き込んだのは君達ではないのかね?』

 『……待て』

 『このスーパーゼウス。普段であればこのような……言っては悪いが私というサーヴァントを動かすにはあまりに少ない力しか持たぬ一般人に召喚などされないとも。動くはずもない

 だが、流石に今にも消えそうな命の灯火を見て、それを見過ごすほどの凡骨ではないというだけの事』

 剣を持たぬ左手で、あのアホども……とセイバーが額に手を当てる

 此方を見据える獅子も、何処か眼は生暖かく

 

 『あの仮面魔術師……』

 苦々しげに呟いて、騎士は踵を返した

 『去れ、天国の魔術師等

 流石に、そのマスターと呼ぶには魔術師として不完全すぎる巻き込まれ一般人を容赦なく殺す心の用意はない。今日のところは……』

 獅子もそれに合わせてということはなく。背中から襲われないように獅子に見張らせつつも、その段ボール鎧の男はトシキ達に背を向けた歩みを進め

 

 『何をつまらん事を言うか、(オレ)のセイバーを追い詰めた円卓の末席よ』

 だが、肩を落としてやってられるか帰るというその歩みは、上から投げ掛けられた声により止まる

 『下らん感傷で三文芝居を台無しにするな、より詰まらん事になるではないか』

 その声に、トシキは聞き覚えがあった

 いや、忘れるわけもなかった

 「げっ、ギルガメッシュ王!」

 『げっ!とは何だ大たわけ!』

 18時過ぎに閉まった肉屋の屋根の上。今日も今日とて黄金の盃で血のように赤いワインを煽りながら、黄金の王が椅子など出して高みからトシキ達を見下ろしていた

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