「
繰り返すつどに五度
ただ、満たされる刻を破却する!」
続けられる詠唱、眼前に倒れこんだ、明るい色の髪の少年から、執念のように漏れる言葉
「殺せ、セイバー」
それを聞いて、
『……仕方がない』
円卓の騎士なら誰でも良かった。何故ならば、この地の魔術師、眼前の誰だか透冶にはそもそも名乗られた気がするけれども覚えてない男はバカなのだから。アニメという形で、この市は円卓の騎士の実在を望んでいる。土地的有利、知名度によるサーヴァントへの能力補正が確実に取れるのだから円卓の騎士を呼ばないのは基本バカだと、透冶は確信している。だから、聖杯戦争をやろうと言い出した残り二人の魔術師も、眼前のもバカだと信じている
例えそれだけサーヴァントが強くとも、マスターは問題ない。マスターに逆らえば、令呪という絶対命令権を使われる。それは、自殺しろといった本来従うなど有り得ない命令まで。だから、どれだけ強くともサーヴァントはマスターに逆らわない
二度、セイバーは剣を振り上げ
『……全く、度しがたい阿呆よな』
振り下ろされることは、なかった
「――――告げる。」
詠唱が止まらず、続く
「お前、何者だよ」
不快さを隠すこともせず、透冶は言葉の主を探す
『ふん、この
「どこのサーヴァントか知らないけどさ。姿を見せなよ」
3つめの偉そうな声。それは、ぶっ倒れたトシキの背後から聞こえていた
『阿呆。最初から此処に居る。見落としたのは貴様等雑種よ』
そして、妙に高いところから聞こえていた
神社の社の上、普通の人間であれば流石に罰当たりだと例え神を信じてなど居なくとも流石に登ることは憚られるだろう其所に、彼は悠然と腰を下ろしていた
黄金の王。全身が金色の鎧を身に付けた、とてつもなく偉そうな金髪の男が
「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
「何でだよ
何でわざわざ目の前で召喚されるのを見過ごさなきゃいけないんだよ」
見下ろす流石にサーヴァント以外であったら困る男に気後れせず、透冶は言葉を発する
(ま、どんな相手でもセイバーぶつければ良いしねー)
と、絶対の自信から気楽に
『本物の阿呆か雑種が
死にかけだからであろう。召喚に応える阿呆が居たとして、そこの雑種は正に死に体。後は冥府に旅立つのみよ。そのようなマスターが召喚とほぼ同時に事切れたサーヴァント、正式な1騎でありながら敵でもあるまい。貴様等の言葉では、鴨が葱を背負ってきた、とでも言うべきか?』
言葉はあくまでも上から。あらゆる意味で
日本の神を祭る社が自分の玉座ででもあるかの如く、尊大にサーヴァントはバカにしながら言葉を紡ぐ
「雑種って言うのは気になるけど、成程、一理あるね
でもさ、治せるサーヴァントが来たらどうするのさ」
バカはそっちだ、金ぴかのサーヴァント
そんな嫌みと共に、透冶は返す。セイバーは、何一つ言葉を言わない。元々手があるうちはそう人を殺すべきじゃないと綺麗事を言う円卓の騎士は、剣を納めて辺りを見ている
「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者」
詠唱を続けるトシキを無視し、話は進んで行く
『それは誰だ?
だが。そんな
黄金の王の言葉が途切れる
値踏みするような、一瞬の沈黙
『千子村正、菅原道真、安倍晴明。魔術の縁が呼ぶその辺りか。何れであれ問題はあるまい』
「誰それ?」
『……後ろ二人ならば分かる』
「んじゃ教えてよセイバー」
イギリス人の癖に何でか自分より日本の何者かについて詳しいセイバーに、透冶は少しだけイラついて
『前者、ついさっきトシ……あの魔術師に使われた刀の本来の持ち主だ。雨が降る直前、菅原道真の刀と唇が動いていた。後者は護国の陰陽師、狐の血を引くいけすかないクソ狐。恐らく、天国という家が護国というものに縁があるのではないだろうか
だとすれば、縁となりうる物の残りから最初の一人についても推測が立つ。彼が鍛刀の魔術の使い手であるならば、千子村正とは恐らく鍛冶師であろう』
「ふーん。ま、どうでも良いけど」
と、透冶は安倍晴明のところだけ少し熱の入ったセイバーの説明を聞き流す
「でもさ」
『そもそもだ、死に体にわざわざ応える英雄など、居るはずもなかろう。聖杯が取れぬ事など分かりきっている、契約の前提が既に破綻しているのだからな』
その通り。だから、無駄なんだよと透冶は心の中で嘲りながら、眼前のまだ詠唱を続ける少年を見下ろす
サーヴァントは、聖杯という万能の願望器で叶えたい願いがあるからこそ、召喚に応じる。そしてマスターを通して、この現代世界に存在し続ける為の魔力を得る。だから、マスターを失ったサーヴァントは普通そのまま消える。ならば、即座に死んで自分も消えることが、聖杯を取れない事が分かりきってる召喚に従うなんて馬鹿馬鹿しいにも程がある
「汝三大の言霊を纏う七天」
「じゃ何で止めてるんだよ意味無いだろ」
『いいや、あるとも
最後の希望を絶たれ絶望の中死を迎える、それを見ることこそ今殺すよりも愉悦であろう』
底意地悪く、立ち上がりながら黄金の王は応えた
「うわ、最低」
『マスターにも私にもそれを言う権利はないと思うが?』
「うっさいよセイバー」
……トシキが詠唱する時間は、得た。誰だか知らない黄金の王によって
(……だから、応えてくれ。誰でも良い、俺の声が届くならば……
れーなを守れる力を、貸してくれ!)
「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
数秒が過ぎた
何一つ、動くものはない
「きっひゃっはっはっ!やっぱり誰も応えないじゃん!うけるー!」
当然の事ながら、実際に見てみると愉快でならなくて。手を叩き合わせながら透冶は笑う
「んじゃ殺してよセイバー、いい加減喋ってウザかったし」
ひとしきり笑い終わり、透冶は横でにこりともしない使えない召し使いに命令を下す
『ふん。来んか、下らん』
自分で来ないことの絶望を見た方が笑えると言っていたはずの黄金の王は、けれども逆に不満げに背を向ける
三度振りかざされた剣は……
降り注ぐ豪雷によって、2度目の制止を余儀無くされた
「……や、り?」
雷と共に、トシキの目の前に突き立つ一本の槍。明らかに尋常のものではない威圧感を持つそれは、間違いなくサーヴァントの一撃
有り得ない何者かの出現に、一歩、透冶は後退る。石段を踏み外しかけ、横の男の手に支えられる
鳴り響く、牡牛の鳴き声と共に。トシキの前に突き立った槍の横に、一人の女性……少女?が立っていた
いや、正確には……白い毛並みで豪奢な鞍を付けたあまりにも立派すぎる角の牡牛の背に優雅に足を揃えて横向きに座っていた。ほぼ下着な服装の上に外套とという姿で
『あらあらまあまあ、そんな傷だらけで
あなたはとっても頑張りやさんだけど、無理しちゃ駄目よ』
「サーヴァント!?おい、こいつ……さっき言ってた三騎のどれでもなさそうだぞ!
どうなってるんだ節穴なのかそこの金ぴか!」
流石に透冶にも分かる。眼前の女がセイバーの解説が正しいとするならばそのうち誰でもないという事が
『ふはははははははははは!ΖΕΥΣ!よもやと思ったが……まさか、本当にあの神妃が召喚されるとは!何とも愉快な……いや、千里眼で見えたが、世迷い事かと思っていたとも』
だが、黄金の王は笑いこけている。自分の言った事が間違っていたというのに、愉快そうに
「聞いてないの、金ぴか男!」
『……良い、今宵の
今までの無礼、特別に許す。何処へなりとも消えるが良い』
「聞いて」
『いや、黙った方が良い、マスター
私としても、あまり彼と事を構えたくはない』
「ちっ」
セイバーに言われ、舌打ちしながら透冶は言葉の矛を収める
『あなた、立てる?』
「……立て、る」
何時しか、トシキの血は止まっていて。傷すらも、ほぼ消えていて
少女の横で震える白い牛にも体を支えられながら、長い金の髪にちょっと見るところに困る服装の少女の手を取り、天国トシキが、地面から立ち上がる
「ちっ、未知のサーヴァントか
帰るぞ、セイバー」
『御意』
「いや、れーなを、返せ!」
何故か回復した茶髪の少年が、血の痕だけが残る顔で、サーヴァントの威を借りて吠える
もっとも、この場でサーヴァントの威を借りずに吠えていたのは、元々サーヴァントである黄金の王のみだが
「うっさいよ、おま……」
二度、閃く雷
咄嗟にセイバーが捕らえていた黎南を捨て、透冶の体を引き寄せる。そんな少年の今まで居た地点に、やはり槍が突き刺さっていた
「何だよお前、いきなり現れて何なのさお前!」
『あらごめんなさい。名乗っていませんでした』
吠える透冶に、優雅にその少女のサーヴァントは一礼する
『わたくしはエウロペです。ごきげんよう
ああ、ええと……そうね、何だったかしら……
ラン……ランチャー……! そうねランチャー!
ランチャーのクラスにて現界いたしま────』
牛が、鳴いた
『はい。なあに、ゼウスさま
ん……違う? ランチャーじゃあなくてランサー?
………………まあ
コホン。あらためて。ランサークラスにて現界した、エウロペよ。
主神ゼウスの妃のひとりです
そしてこちらのとっても愛らしい方がゼウスさま』
誇らしげに、白い牛が角を掲げる
『とっても頑張りやなあなたがマスターさんなのよね?これからよろしく、マスターさん』
そうして、牛から降りて、立ち尽くすトシキの手を取った
「い、いや……
真名を、此処で、言わなくて……良かったんだが?」
『あら、ごめんなさい。わたくし、戦う英雄ではないのでこういった作法には疎いのです』
「というか、待て、待ってくれ
ゼウスさま?」
眼前で、召喚したはずの天国の魔術師が混乱する
『名乗るか、神妃
では、その勇気に免じてこの
「いや名乗りたいだけだろお前」
『黙っていろマスター!』
三度目の雷。透冶の口を塞ぎつつ抱き上げ、セイバーが地を蹴る
『
しかし、この
『あら、あなた、とっても優しいのね』
『ふん。誉めるな神妃、誉めても何も出んぞ?そこな白牛を捨てぬのならばな』
マスター陣営が呆けるなか、マイペースなランサーと、ライダーと名乗る黄金の王だけが動く
『もっとも、知性のある魔術師なれば、名乗らずともこの最古の王の名を知らぬとは思えぬが
……時に、そこの刀の雑種。この
話の矛先は、セイバーに投げ捨てられ、それでも動かない少女を見つめ続けるトシキへと向かう
「最古の王、黄金の王。本来であれば礼節を尽くすべき相手であると理解はしている
けれども、それではれーなを守れない。眼を離せば、奪われる。ですので、お許し戴きたい」
『良い。特に許す。流石に敵に対しても礼を守れとは言わん
では、改めて名乗ろう。我が真名はギルガメッシュ。その名、ゆめゆめ忘れんことだ。
二騎目のサーヴァントの真名の開示。
事態は、混迷を極めた