『……ふん、同じか』
『節穴。
『言いおるわ!』
鬼面の天狗武者と、白馬と一つになった騎士が、天空で競り合う
どちらの手にしていた赫刀も既にその手からは溶け消えていて。故にどちらも、新たなる刃を呼び起こす
鬼面の武者が地面から引き抜くようなモーションを取るや虚空からは一振の刀が抜き放たれ、それを黄金の渦より顕現した大振りな大剣が受け止める
『逃腰。刀ではないとは』
挑発しつつ、武者が引き抜いた刀を中段に構える
トシキの眼に、その一振は確かに見覚えがあるようにも映り
けれども、遠目には判別が付ききらない。刀の差異なんてと素人目には思うかもしれないが、あの刃紋は、あの拵えは、あの感じる威圧感は、確かに何処かで見たその名を轟かす刀である、そう思うのだ
『王たる
笑わせてくれる』
その挑発に乗らず、黄金の王は、刀という繊細な武器にとってはかなり苦手であろう、単純な鉄の塊と言いたくもなる大剣を引き抜き、その肩に担ぐ
「そうだぞー!同じどひょーでずっとやってても、世界平和は訪れないんだぞー!」
トシキによって地面への激突を避けたVのものにして魔術師、今もVtuberとしてのガワを被ったマスターの少女は、助けられた事を気にもせず、何処か抜けた応援をしていて
「おっとごめんねー!スパチャとかそういったお礼は後で纏めて!
そこだー!こきゅー?だー!やっちゃえバーサーカー!」
忘れていた訳ではないとしつつ、けれどもトシキ達には目もくれず、不可思議な応援を、少女は続ける
感情に合わせて光るという設定があるらしいティアラはピカピカと安易に光を放っており、一応は他マスターの前であるというのに、警戒も何もない
『呼吸。了承』
『ほう?貴様、そんな面白いものが使えたのか。良いだろう、見せてみるが良い、
空中で、黄金の王は静止する
自分には効かない。それを本当に信じているのだろう
それに対し、武者は手にした刀を消し、地面から引き抜くような動きでもって、再び虚空から別の刀を取り出す
「……ズル」
『いや確かに。だが、それを言えばその場で作ってくるミスター・カタナカジとて相当なズルであろうなぁ……』
トシキの横で、アーチャー主従が空を見上げつつ、ぽつりと呟く
そんな地上は露知らず、天狗の武者は引き抜いた刀を鞘に納め、トシキも多少は使える抜刀術を構えるように、柄にその手を添える
変則的な居合であるぱっと見武装解除したようなものではなく、基本の型。基本ゆえに磨き上げられた最速の居合一閃。ずらされた天狗面の下から、赫刀の柄が展開した角を月明かりに輝かせ、獰猛にバーサーカーが嗤う
『妹よ。これで良いのか……』
妹。何処かズレた言葉を言いつつ、静かに武者が眼を閉じる
『「呼吸波紋・雷電」』
「……は?」
「……あれ?」
黒髪の親友と二人、トシキは出てきた言葉に呆ける
呼吸波紋。今一応日本で一番売れている漫画雑誌に連載されている大人気和風ファンタジーがある。そこに出てくる剣士達が、国と人々を脅かす吸血鬼を倒すために使う技術こそが呼吸波紋だ
つまり、呼吸波紋とは簡単に言ってしまえば漫画の必殺技である。その世界では室町の世くらいから剣士達に伝わってきた由緒正しい技能であるとされてはいるのだが、当然ながら現実は違うバーサーカーが室町の御家人であろうが戦国の武将であろうが江戸の浪人であろうが幕末の壬生狼であろうが、呼吸の剣士である筈がない。あれは漫画の存在だ
だが、あくまでも大真面目。空中で居合を構える黒翼の武者に照れも何もなく、静かにその技の名を告げる
『「初段 霹靂一閃・雷切」』
その技名を告げきったその刹那
バーサーカーの姿は既に空に無く
数十m離れていたはずの黄金の王の眼前で、刀を振り抜き終わっていた
その刃を走る電流が消え、完全に技が終わる
一瞬遅れ、雷撃が落ちたかのような踏み込みの音がトシキの耳へ届いた
「音を、置き去りに……」
「……っ」
戦闘にかけては素人で何も分からない親友にも、視覚的に分かりやすい脅威は伝わったのだろう。トシキの服の袖を握る手に力が籠る
『
『おや、対処できるのかねミスター?』
『本来の姿の我は数段
だが……』
雷神と自称現代の雷神は、そんな呑気な考察を交わす
だが、トシキにそんな余裕はなかった
「がんばれー!バーサーカー!姫のミラクルライトが応援してるぞー!」
3Dポリゴンのそれっぽい(トシキには、女の子向け変身ヒロインものの映画で配られているヒロインのピンチに振って応援してね!というアレにしか見えなかった)ライトを振りつつ応援している何がしたいのか良く分からない2.5次元のマスターは置いておいて
唇を歪めた黄金の王の手にある剣が、根本からぽっきりと折れた
『ふん。多少は出来るか』
ギルガメッシュはそれでも自身には届かんと嘲笑うが、彼のように伝説の英雄ならざるトシキには、とても笑える状況ではなかった
呼吸波紋・雷電 初段 『霹靂一閃』
これは、漫画の技だ。特異な呼吸法で波紋と呼ばれるエネルギーを体から放ち、雷のような速度で懐に飛び込んで居合一閃。漫画的表現として雷のエフェクトが描かれているが、術理的には特に雷が発生しているとかそういうものではない
因にだが、実際にはその特異な呼吸法を練習しても波紋は出ない。ただ、魔力は練りやすくはある
だが、空の上の武者は、そのあくまでもカッコいい表現に過ぎないはずの雷のエフェクトを含め、完全にその技を再現してのけたのだ
そして、重要なのはその技を撃てることではない
漫画の技くらいサーヴァントならばその気になれば再現出来なくもないだろう。アーチャー……ニコラ・テスラだって、今日見てきた映画の主人公の得意技くらい再現できるかもしれない
だが、スペック的に理論上再現できることと、実際に再現することはまったく違う
あのサーヴァントは、現代であの漫画を読み、そして使って見せた。それは、あのバーサーカーは、恐らく真名をそうそう見せないであろうという事を示す
まさか、あの漫画の技が使えるからといって、あの技の漫画での使い手が真名だなんて話はない。漫画はフィクションだ
創作とされている神話は現実に過去に地上で起きた出来事であり、同じく創作である巌窟王等もその創作に近い歴史を辿った何者かがサーヴァントとして召喚されうることはあるらしい。だが、それでもあの漫画は完全なフィクションだ。モチーフとなる似た出来事も無い
当たり前だ。そんなものあったとして、古来より刀鍛冶である天国にその関連の話が伝わってない筈がない
太陽の光を蓄えた鋼から作られた刀?日緋色金がそもそも星光を集める工程を経るので星の代わりに集めるものを太陽光にすれば再現できるだろうし実際にトシキは一本打ってみたことがあるが、他に実際に鍛造した資料はない
それに、血を啜る鬼は死徒という名で実際に居るが、極東ではそう活動していないのだから
閑話休題
兎に角、奴は剣豪であり、そしてその真名を漫画の住人で覆い隠している
それは、あまりにも危険だ。漫画の存在を真似してやる程度には現代に馴染めているのもそうだし、剣豪ならば確実にあるであろう必殺剣が何なのか全く分からないのも然り
三段突き、燕返しといった複数の斬撃を同時に重ねて行うことで空間を崩壊させる防御不可の技なのか、或いは全く別の論理による回避不能技なのか、はたまたどちらでもなく、けれども当たり前のように真空波を飛ばしてくるのが奥義なのかもしれない
そういった宝具、敵となるならば警戒すべきそれについて、単純明快にスペックが高いからこそより気を付けるべきであるのに何一つ思い当たれない。何時何処から何が飛び出してくるか検討つかないというのは、とてつもなく恐ろしい話だ
更に言えば、あの烏に狼。鋼で出来ていて鎧となる謎の者達。その存在が、更にトシキを混乱させる
ふと、恐らくはバーサーカーが呼び出したのであろう、トシキの周囲で動きを止めている狼へと視線を移す
じっ、と、狼の兜に刻まれた眼が、正確に言えば穴になっている其処から漏れ出るコアらしきものの光が、トシキを見詰め返す
その光は何か優しくて。けれども、何一つ分からずに
トシキが狼と見詰めあっている間に空の小競り合いは終わる
『まあ良いか、今宵の三文芝居は此処までとしよう』
地上のトシキを一瞥し、あっさりと王は引き下がる
『負犬』
バーサーカーは尚も煽る
だが、王は止まらず、堂々と背を向けて飛翔を開始する
『もはや今宵、
『逃亡。よほど、戦うのが怖いと見える』
挑発に乗らず、悠々と隠すこともせず、黄金の王は空を歩んでいく
『笑止千万よ。貴様らなぞ』
「ランサー!」
膨れ上がる危機感に、駆け出しつつトシキは叫ぶ
『……何時でも殺し、聖杯戦争を終わらせられるわ』
黄金の渦が発生し、其処から宝具と呼ばれる伝説の武具のオリジナルが射出される
バーサーカーに向かってではなく、地上のそのマスター、そして近くのトシキ達へ向かって
『大丈夫かね、ミス・マスター!』
雷電を纏うアーチャーの機械腕が、突きだされたオートマタの手刀と競り合い
『舐められたものだな』
『頑張って頂戴な、ゼウスさま』
一際巨大な渦から放たれるタロス・パンチを白牛の突進が受け止める
そして
「……っ!はぁっ!」
敵か味方か。そんなものは分からない
それでも、一度助けてもらった恩くらいは返さなければならない。その思いに駆られ、2.5次元の姫へと向けられ放たれる投石……というか投チーズを、トシキは鍛造した赫刀で二つに切り裂く
『だが、それではあまりにも詰まらん
故、生かしておくだけの事よ。精々
更なる波状攻撃も可能。何なら、バーサーカー達へ向けても攻撃できるだろう
だがそれをせず、ずっと控えていた巨大人型ロボット兵器を動かすこともせず、黄金の英雄王は、どこまでも上から目線のまま、その全てを仕舞い、空を立ち去る
『ではな、大たわけ
次はもう少し
……次に出会った時、契約通りそこな小娘の腕を貰うとしよう』
その言葉を最後に、元から既に明かりの無くなっていた商店街は静けさを取り戻した