「おー!終わった!」
『終了。他愛もない』
身に纏う鎧を鉄烏へと分解、再構成しながら舞い降りる男
その頭には、もう一度鬼面がしっかりと被さって
仕掛けるか、と低く唸る牡牛に、それは止めておこうと目線で合図しながら、トシキは降り立つ和装の男をしっかりと見据える
鍛造した刀を地面に置き、戦う意志が無いことを示して
「おっ、姫とおはなし?」
「あまり闘いたくはない。特に、結城が居るから無理も出来ないしな」
意図して軽く言葉を紡ぎつつ、安全だろ?とトシキは手を振ってみせる
大嘘だ。救援に現れてくれたっぽく見えるが、彼女が味方であるという保証など何一つ無い
相手が高生黎南なら、れーなにそんな騙す脳があるかよと警戒を解くだろう。或いは足の震えがまだ止まらない横の少女ならば、結城は裏切ったりしないと信じるに決まっている
だが、眼前の半バーチャルな魔術師……Vtuberな少女の素の性格など、いや、バーチャルなテクスチャを被った表面的な性格すらもトシキは良く知らないのだ
それなのに、助けてくれたというだけで警戒を解くなどあり得ない。何時でも鍛造をし直す為に魔術回路に火を灯し、待機させつつトシキは表向きにこやかに笑う
『不快』
だが、その首筋に、刀が突き付けられ、トシキはその火を吹き消した
『槌を下ろせ、我が妹を斬ろうとするその鍛治を止めよ』
「仕方ない」
何故バレた!?
その疑問符を喉奥に押し込み、魔術回路に通していた魔力が霧散する
いざというときの切り札を……サーヴァントに通るかは怪しい力を捨て、無防備な形でトシキは肩を竦める
『善哉』
「少しくらいの警戒は許してくれても良いだろうに」
『却下。如何に天国といえど、妹に向ける害意に繋がる全てを、許してはならん』
大地に突き刺し、刀を何処かへと消し去るバーサーカー。だがその鬼面の奥に見える瞳の火は消えていない。あくまでも此方が武器を捨てたから、一旦鞘に納めた、くらいの域だろう。腰にも刀は吊り下げられているし、あれを抜刀してトシキを斬り捨てる方が、此方が動くよりも速い
「そうだぞー!姫の帝国はラブ&ピース!戦いなんてメッ!だぞ?」
今のやり取りを分かっているのかいないのか、Vのガワを被った少女が呑気な声をあげる
魔術師だが、声は軽い。どこまで理解しているのかどうかは、完全なモーションキャプチャーではなく幾つか用意されているだろう表情を切り替えるタイプであるのかニコニコ笑顔を一切崩さないその外面からは全く読み取れない
最初に見た瞬間の行動の間抜けな絵面からは想像も付かない程に厄介な相手だ。ぱっと見のインパクト、そしてその瞬間に見て取れる魔術師そしてマスターであるという証明
その二つに隠されて馬鹿にも思えたが、その先何一つ掴めない。令呪を使われる事を封じるために狙うべき令呪のある場所は?令呪は今何画?そして言葉の裏で何を考えている?そもそも魔術を解いた素顔は?そこら辺が何一つ読み取れない
Vtuberという珍妙なガワは、その辺りの全てを覆う、初見の印象とは真逆の力を持っていた
「色々と厄介な亡霊等と戦ったこともあって、ついその癖でね」
「姫にこわーい話禁止!ゆーれいとか、居ないものの話は姫にはNGだし」
「ゴーストは実在するものなんだけどな」
『ミス……流石にミスターではないとして話をさせて貰おうか
ミス・バーチャル、それではこの天才等についても話が出来ないのではないかね?』
「目の前に居ればセーフ!」
『なかなかに緩いNGだ。では御見せしよう、雷電の神秘、セントエルモの』
「アーチャー、駄目」
『おっと、ミス・マスターに言われては仕方があるまい』
結城に窘められ、下手に手の内を見せようとしたアーチャーがその機械腕を引っ込める
見せても影響はない程度のものだとは思うが、向こうが見せているものが少ない以上、此方からわざわざなにかを見せる必要はない
「というか、脱線しまくり?」
「だろうな」
「そんな立ち話じゃなく、姫はとりあえずどーめー?を結びに来たんだけど」
あっけらかんと、そんなことを言うバーチャル少女
嘘じゃないよーとばかりに頭のティアラが発光し、鬼面の武者もそうだと頷く
「同盟?」
「そう、どーめー!」
意外な言葉に、トシキは首を捻る
「今回のせーはい戦争は、わるーい三人の魔術師が起こしたものなんだ」
「複数居るのは分かっていたが、三人か」
嘘か真か。そこら辺は分からないが、とりあえずトシキは頷いてみせる
敵だと分かっているのはアサシン、
そして眼前のバーサーカーが同盟と言い出している辺り味方よりだと換算すれば、あと不明なのはキャスターだ
「キャスターが不明瞭だが、敵でない保証は?」
「えー?キャスターって不人気だよね?」
「そうなの、とっしー?」
サーヴァントについて疎い親友が、くいっと袖を引いて問い掛ける
それに対しトシキは
「よっぽどな規格外を引けなきゃ外れだな」
と返したのだった
「そうなの?」
「結城、例えばあのアニメのデザイン元になった冬木の聖杯戦争において、キャスターとして召喚されたのは魔女メディア。フリーアプリのカードゲームでネタにも使ってたから知ってるよな?
あの神代の魔女をして、奇跡が起きれば勝てる、くらいの扱いなのが冬木式聖杯戦争におけるキャスターなんだ」
「あの魔女、で?」
『この私にもそれなりの魔術耐性がある。もっと神代に近い者であれば更に酷いことになるのであろうなぁ
この大天才にはそんな差など関係はないが』
「という感じだ」
アーチャーの言葉に合わせ、トシキは親友にそう返す
「サーヴァントのうち、セイバー、アーチャー、ランサー、ライダーには元々魔術耐性が付く。サーヴァントによってはバーサーカー辺りも持ってたりするな。流石にアサシンが持ってることは少ないけど……
こういう形で、存在そのものがメタられているのがキャスター。それを覆そうと思ったら、本気の規格外をサーヴァントとして召喚するしかない。例えば……」
そこまで言って、トシキは言い淀む
「えーっと、神代を終わらせたあの……
ゴエティアの魔神達を従えた……」
あれ?そんな魔術師居たか?という気持ちになる
『ソロモン』
その雷神の言葉に聞き覚えはなく。違和感を覚えつつも、そんな名前の男が居たとは思えなくとも
それでも何処かでそうだという気持ちもあって、トシキはそうだなと続ける
「魔術王そろもん?とか、或いは……モルガン・ル・フェは厳しいか?
真っ当に戦えるキャスターで勝ち抜こうとするならば、そのレベルが必要だ
だから一般的に、聖杯戦争を起こそうという魔術師がキャスターを狙って呼び出すことはまず無いと思って良い
余程のサーヴァントを呼び出せる確信があれば話は別かもしれないが……」
「姫もそう思う」
「……それで?
何故、俺達と同盟を結ぶ?」
「おっ、姫に聞いちゃう?」
何処か嬉しそうに、トシキの質問に、乗り気でバーチャルな少女は語り始めた