「姫はね、森石姫乃っていうのはVネームで、ほんとーは魔術師の家系なんだ」
「いや知ってる」
語り始めた少女に、トシキはゆっくりと頷いた
「え?マジで!?そんなに簡単に分かるの!?」
大袈裟に驚いて見せる少女V
それを、魔術を使わせて此方の情報を引き出そうとしているのだろうと判断し、まあ魔術師としての眼がな、とトシキは誤魔化した
「んまぁ、どーめーだし話ちゃうか!
姫はね、元々旧くておっきな魔術師のかけーに産まれたんだ」
「……」
静かに、少女の語りを聞く
「といっても、アマクニやアムニスフィアみたいな旧さ……じゃなくて、せいぜい5~600年ってところなんだけど」
「古くない?」
首を傾げる黒髪の親友
それに一般的な感覚ってそうなのかと思いつつ、トシキは補足を加える
「魔術師として600年は古いと言えば古いってくらいだ結城。例えば歴史についてはとんでもなく古いアムニスフィア家ってのは2000年前から……えっと何やってたんだっけあのふっるい家」
「人理のけーぞくをほしょーする?」
「いや、彼等のめいだいが人理保障なのは何となく知ってるけど、その為に何してるかは全く知らないな」
「姫もしーらないっ」
「悪い結城。アムニスフィアは不適切だったな
例えば家だ。アマクニの家系。家は開祖
ってことで、平城京だ平安京だと言ってた頃にはもう家業を確立していた旧き鍛冶の民。最低限1400年くらいは遡れる訳だ。それに比べれば、600年は長いけど長くないだろ?」
そう、トシキは笑いかける
こくりと黒髪が揺れたのを見て、少しだけつまらなさそうなバーチャルな少女へと向き直った
「……それで?」
「姫の家はアムニスフィアじゃないけど、人理を護ることを命題にしてた家だったんだ
笑えるよねー、魔術師なのに、世界を救うって言ってるんだよ、じょーだんじゃん」
『あらそうなのマスターさん?』
「魔術師は基本性根が腐ってるよ、ランサー」
俺もな、とトシキは自嘲するように笑う
「……違う」
きゅっと握られる袖
「……とっしーは、違う」
「俺だって魔術師だ。他よりは多少マシかもしれないけど、多分自分では気が付かない部分で、性根が腐ってる部分はあるよ」
天国の一門の悲願は……辿り着くべき魔術の果ては……決して、世界の救済などではないのだから
「話を戻そう」
『賢明』
警戒を解かず、頷く仮面の武者
自身のサーヴァントに後押しされ、Vの少女は再び語り始める
顔は変わらない。バーチャルポリゴンなその顔は笑顔を張り付けていて、けれども今度は少し声音を暗くし、躊躇いを含みながら
「姫は長子じゃなかったし、おにーちゃんは優秀だった。魔術を受け継ぐにも問題なんて無くて、計画は上手く行っていて
姫は好きにしていいよーって、街から遠くの女子校に一人で通ってたんだ」
「……計画には関係ないの?」
「基本的に魔術は魔術刻印により受け継がれていく。だから一子相伝、魔術師に複数の子供が居たとして、全員が魔術師になる訳じゃない」
「そう、そのとーり!
姫はいもーと姫だから、やさしーおとーさん達に魔術にほぼ関わらず好きに生きさせて貰ってたの!悲願はもうすぐ完成するし、って」
悲願の達成。根源への到達
そんな事象が起きていれば、トシキとて当然耳にする。だが、そんな噂は一切聞かない。ならば、当然ながら……
言い澱む理由を察し、トシキは静かに言葉を待つ。何もせず、ただ、向こうが意を決するのをじっと待つ
「……でも、でもね
魔術師ばかりを集めたせーはいせんそー。基本的に可能な限り関係ない人を巻き込まず、姫の家で管理していた聖杯をほしーって寄ってくる酷い魔術師とだけ戦う事にしたその戦争
普通ね、姫のおにーちゃんは負けるはず無かったんだ。聖杯を管理してる事によるバックアップも万全、姫の家は竜脈の通る重要地点にあったし、さいきょーのサーヴァントを選んだ。おにーちゃん達は、聖杯戦争に勝ち残り、聖杯でもって奇跡を叶えるはずだったんだ」
『だが、そうはならなかったのだね?』
「そう、だよ」
震える声がする
「おにーちゃん達は!姫の家族も、友達も、多くの街の人もみんなみんな、殺されたんだ
最低最悪のバケモノに」
「そんな……」
共感したのか、黒髪の少女が顔を俯ける
根が優しい結城には、刺激が強い話だったのだろう。その震える手を握り、トシキは一つ頷く
大丈夫だから続けてくれ、と
「そりゃ、姫だって絶対ーってのは無いと分かるよ?負けるわけないーって言っても、それはせーせーどーどーの話だし。向こうが反則してきたら……
おにーちゃんだけは、死んじゃうかもしれなかった。さいきょーのサーヴァントを呼んだトーサカって人だって負けたし、姫もこの聖杯戦争でその再現をしないといけないってのもあるしー」
「でも、でもさ!?あれはそんなレベルじゃなかった!
竜脈は粉々にされ!姫のホムンクルスを含めたホムンクルス達は全滅、屋敷は瓦礫が散乱するくらいまで破壊され、子供の頃から姫が遊んでた森も焼け野原
街にも、おっきな被害が出たんだ」
「……それは」
魔術教会大変そうだな、と思った事件をトシキは思い出す。確か、伊渡間市だったか
「へんだなーと思って姫が家に戻ったとき、残ってたのは……血を搾り取られ、干からびたおにーちゃんの腕だけだった。魔術刻印があったから、灰にならないで残ってた」
『大変だったのね』
「ランサー、同情は良いけどあまり触れようとするなよ」
抱き締めようと近寄ろうとするエウロペに釘を刺す
「でも、その魔術刻印もボロボロに壊れてて……
おにーちゃんが負けただけなら間だ分かるよ?でも、こんなのってないよ!酷いよ!
そう思って、姫は……下手人を追おうと思ったんだ」
「当然……だな」
「でも!でも!手掛かり一つ無いの!
煙のように……ううん、最初からそんなの居なかったように!居た筈の何かが欠落してる。おにーちゃんを殺し、姫の家をあんなにした怪物が、確かに嘲笑ってるはずなんだよ!?
なのに!全部昔の不発弾がーとかガス爆発だとか、森の小川近くでバーベキューしてたバカの失火とかで片付けられて!」
『……』
憐れむような眼で、サーヴァント達は少女を見る
「悔しかった。世界を救いたかったおにーちゃん達の思いを、家の悲願を、故郷を……全部滅茶苦茶にしたバケモノの痕跡すら掴めななかったのが
でも、一つだけ、手掛かりがあってね?それがモルガン・ル・フェ
あの聖杯戦争で呼ばれたキャスター。姫達の勝利を約束してくれたサーヴァント」
「ああ、それでか」
この街は、モルガンの策略による聖杯戦争もどきのアニメの舞台。そこで巻き起こる聖杯戦争ならば、モルガンが出てくる可能性はある、そう踏んで、一縷の望みをかけたのか
理論としては納得出来るな、とトシキは一人心の中で頷く
「そう、だから姫は此処で聖杯戦争が起こるっていう噂を……じゃなくて、此処で誰かが聖杯戦争を起こそうとしてるって話を聞いて来たんだ
モルガンに会えるかもしれないし、おにーちゃん達の仇が見つかるかもしれないし……それに、姫だってふくしゅーとかは言わないけど、おにーちゃんの遺した壊れた魔術刻印を直して、一族の悲願をって思うし」
「だから、少なくとも仇たりえない俺達と組む、ってことか」
「そーそー!」
「で、壊れた刻印を見せたくなくてVのガワなんかを被って目立っているという訳か」
「めっ!だぞー!
女の子の容姿に付いてはかわいい!キレイ!えっち!以外は禁句!変なこーさつとか、嫌われちゃうぞー」
明るくおどけて、Vの少女はバーチャルで笑う。心の奥底に何を秘めたのかを、少しだけ見せたそれを隠して
「……ゼウス神。嘘はなさそうだよな?」
『我、全能ぞ?
明らかな偽りは一喝している』
「……分かった」
この中で一番相手を見透かせられそうな相手への確認
それを経て、トシキは頷く
「……分かった。君を信じよう
俺は天国トシキ、俺のサーヴァントはランサー、神妃エウロペ。神霊……というか意識体のゼウスを連れたギリシャ神話の姫君
此方からサーヴァントの真名を告げたことをもって、君への信頼とする」
「おっけー!じゃ、姫……ってSNSやってる?」
「最近メンバー入ったよ」
と、トシキは携帯を操作し、動画サイトの画面を開く。メンバー登録(月600円会員)が済んだ、森石姫乃のマイページを表示して、それを見せた
「おっ!応援よろしくねー!じゃ、DMとかでほーこく待ってるよー!
今日はもー遅い!解散!おつ姫!」
それだけ言って、バーチャル少女は踵を返し、サーヴァントを連れて路地の暗がりに消えた