Fate/Tonitrus   作:雨在新人

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雷霆と黄金(2/2)

「……どうするんだよこれ……」

 神霊。神々とされたものそのもの。宇宙より飛来したギリシャの神々、人を越えて神となったローマの神々、元々自然現象だったのが奉られた日本の神々、色々と居るが、その総体の現在の魔術的呼称

 一万と四千年前に飛来した白き破壊の星により大きく傷付き、社の上でワインを煽っている彼ーギルガメッシュにより決別してこの世界から姿を消したと言われる存在。今では、三次元を越えたところで世界を見守る虚ろなものとなっているらしい神々を、神霊と呼ぶ。因みにだが、しっかりと神代の力と存在を持っている場合は神霊ではなく神と呼称した方が恐らく良い。そんなもの、この世界に現れるはずもないが

 「……というか、何で召喚されてるんだよΖΕΥΣ!?」

 今では虚ろな存在とはいえ、彼等はかつて神と呼ばれたものそのものである。サーヴァント、英霊召喚とはかつて生きた英雄を呼び出すものではあるが、原則的に神霊は召喚不能

 当然だが、神が呼べたらそれそのものが奇跡なのだから。奇跡を得る、聖杯を手にする権利を求めた聖杯戦争で召喚などされては可笑しい。極論だが、聖堂教会が救世主と呼ぶ彼が召喚出来てしまったとしたら、聖杯戦争なんてやってる事自体が無意味になる。そもそもかの者の血を受けた杯が伝説上の聖杯なのだからちょっと血を貰ってそこらの器に入れるだけで好きなだけ本物の聖杯が作れてしまう。そんな事態が起きた場合、わざわざ伝説上の聖杯では恐らくないがその聖杯のように奇跡を起こしうる力を持つナニカを魔術上聖杯と呼んで聖杯戦争なんて行ってまで奪い合う必要が何処に残るだろう

 

 『ふん、安心せよそこのたわけ

 神霊なぞ、本神が望んでも基本来れんわ。来るとすれば、真に世界の理すらも歪める規格外、それこそ外星より飛来せしものでも既にその地に居らぬ限りはな』

 『然り、我はΖΕΥΣ。しかしてこの霊基は牡牛

 神霊たる力は持たぬ』

 仰々しく響く言葉

 「えーと、つまり?」

 『意識こそ我、ゼウスそのものなれど、牡牛の体はあくまでも牡牛。エウロペちゃまの代わりに持ち込んだ投げ槍を指定地点に投げ込むくらいの事しか出来ぬ。本来の全能神としての力は無い。意識のみが、全能の神のものである』

 再度仰々しく響き渡る言葉

 だが、トシキは更に頭を抱える。内容ではなく、フレーズに

 「エウロペ、ちゃま……」

 『然りよ

 我が妻エウロペが良く自分をおばあちゃまと名乗るのでな。そう呼ぶことにしている』

 『マスターさんも呼びたければ呼んで良いのよ?おばあちゃま、って』

 「神の、威厳とか……そういったものは……?」

 恐る恐る、膝を折って牡牛まで目線を下げて、トシキは問い掛ける

 『ふはははははは!あるわけ無かろう!』

 『誰も彼も私の子はゼウスの子と嘯いた

 それだけ人に手を出す神と思われていたのだ、威厳など人に求められてはおるまい』

 「そ、そういうものか?」

 少しだけ、トシキは色々なものに思いを馳せる

 湯上がりにされたり、ゲームで女にされたり、ドラゴンにされたり……

 「否定が、否定がしにくい……!」

 真なる神ゼウス……の意識。そして最古の王ギルガメッシュ。雰囲気がのんびりしたエウロペを除いて、基本的にこの現代の人間が対等に話すとか出来ないような大物……の、はずなのにそれっぽく接しにくい相手に、どうしろと言うんだとトシキは幾度めかの溜め息を吐いた

 

 『あら、大丈夫?

 マスターさんはとっても頑張りやさんだけど、無理はいけないわ

 ほら、いらっしゃいな。エウロペおばあちゃまが、膝枕を……』

 ギロリ、と牡牛の眼が光る

 「……い、いえ。精神的な疲れなので横にならなくても大丈夫だ、ランサー」

 ふん、と牡牛が宜しいとばかりに鼻を鳴らした

 『エウロペちゃまの提案を断るか』

 (面倒くせぇぇぇぇぇっ!夫婦らしいし気持ちは両方分かるが受けても断ってもダメとかこの主神面倒くせぇぇぇぇっ!)

 と、叫びたくなる気持ちはぐっと堪えて、トシキは何とかしっかりと立ち直す

 『ゼウスさま、ゼウスさま

 マスターさんは気を使ってくれたのだから、怒ってもいないのに怒鳴っちゃダメよ

 マスターさんには、心が疲れているならアメをあげましょう』

 「それは……、いや、有り難うランサー」

 少女姿のサーヴァントが、白くて裏地が赤の、下着にしか見えない服の上から羽織られた外套ポケットから取り出したアメを、トシキは大人しく受け取る

 『あとは、マスターさんを助けてくれた優しい金ぴかさんにも』

 『……ふん、悪意はないか

 ならば受け取ろう。善意の寄贈を断るほど王は狭量ではないがゆえな。だが』

 「だが?」

 何を言うのだろうこの王はと、トシキは首を傾げつつアメを口にする。口のなかに……あんまり美味しくない味が広がった

 『当然だが雑種共と同列の扱いなど許さん。別の味にせよ

 時にそこのたわけよ、何を微妙な表情をしておる』

 「いえ、人類の美味への執念が積み上げた歴史って凄いんだなー、としみじみと」

 まさか折角貰ったのに不味いと正直に言いたくはない。ボカすようにトシキは言葉を選ぶ

 『ふむ、歴史の重みか……少し待てたわけ

 それは歴史の初期であるそのアメは不味いという事ではないか早く言え。(オレ)にそのようなものを口にさせる気か

 ああ、言い訳は聞かんぞ、何よりも(オレ)の舌の方が重要であろう』

 『あら、現代の食べ物はもっと美味しいのね

 マスターさん、今度買い物に行きましょう。金ぴかの王さまも美味しいって言うようなものを見つけてみるわ』

 と、トシキの服ーコスプレの上着を脱いだあと、適当に羽織ったシャツーの袖を、金髪の少女サーヴァントが引っ張る

 「マイペースだなランサー!?」

 とりあえず、黄金の王とまともに会話を交わすつもりなのはトシキだけであるようだった

 

 『……まあ良い』

 「では、王よ。ならば此方の歴史の積み重ねが作り上げたジュースなど……」

 『最高級にせよとまでは言わんがそこはせめて酒にせんかたわけ!』

 「未成年は買えません!無理です!」

 なんて一幕も経て

 黄金の王が、再び立ち上がる

 『時にたわけよ

 (オレ)は未だに貴様から礼を受け取っていない。貴様の命を救ってやったのだ、礼の言葉一つでは足りぬのは道理よな』

 見下ろすように、初めて、黄金の王がトシキに視線を向ける。ながら見ではなく、見据える形で

 『形が分からんか。ならば特別に(オレ)から指定してやろう

 神妃の宝具を、<青銅巨人の超重槌(スフィリ・トゥ・ターロー)>を見せよ

 ああ安心しろ、寄越せとは言わん既に持っている。壊しもせん。ただ、見てみたいだけだ、我が蔵のオリジナルの方が当然性能が優れていると確信する為にな』

 「な、成程……」

 トシキは相槌を打つ。いや、他に反応出来なかった

 

 赤い瞳を見返す

 本気だこの王。本気で、この青銅巨人凄いよ、流石はタロスのお兄さん!する気で要求している。その強い眼光に、トシキはそう判断した

 「ランサー。頼む」

 『……タロス、何処かしら、タロス?』

 マスターの願いを受け、少女サーヴァントは軽く呼び掛け……

 そして、首を振った

 『あら、ごめんなさいマスターさん。タロス、此処に来ていないみたい

 きっと、ライデン……じゃなかったかしら

 ああ、そうねゼウスさま。ライダーよね。ライダークラスではないからかしら』

 さして重要でも無さそうに、ぽわっとした空気を崩さず、牛上の少女は告げる

 「……えっ?」

 すっ、と。黄金の王の眼が細まった

 

 『無い、だと?

 (オレ)<天の鎖>(友の名を冠する宝具)があるように、貴様には青銅巨人が付いているものであろう。エウロペとは、タロスに守られているものだ。それを居ないなどと、(オレ)を笑わせたいのか?』

 『見たがったのにごめんなさいね』

 『隠すと為にならんぞ?疾く出すが良い』

 言葉は相変わらずの上から目線。何一つ変わっていないようにも見える

 だが、違う、とトシキには感じられた。実際に空気が重い

 いや、違った。見えにくいが、トシキ周辺に本当に魔力反応がある。全身の周囲に、16ヶ所

 恐らく、<王の財宝>(ゲート・オブ・バビロン)の門であろう。もう少し気を損ねたら、きっと其処から剣なり槍なりが一斉に射出されて、囲まれているトシキは串刺しハリネズミになる

 「ランサー、本当に無いのか?」

 『期待されているのにごめんなさいね

 ランサークラスだから、ゼウスさまとゼウスさまから貰ったもののうち投げ槍、それしか持ってないみたい』

 空気は変わらず。門の気配を感じているのか、それとも気が付いていないのか。そのどちらとも取れる自然さでエウロペは答える

 嘘のようには、誰にも見えないだろう。いや、そもそもこいつ嘘なんて付くか?という雰囲気を漂わせている

 だが、しかし。黄金の王がそれで納得する筈もない

 『エウロペちゃまの言葉が信じられぬとでも?』

 「ああ、信じるよ」

 言いつつ、トシキは空へと左の手を翳す。右手甲から心臓部にかけて広がる、普段は見えないが確かに魔力を流せば見える魔術刻印と被るからだろうか。利き手ではなく左手に浮かび上がった、三条の雷を模した紅の紋様を

 令呪。サーヴァントに対する3回の絶対命令権。社上の王にも見えるように翳した手に、右手の指を当てて、トシキは叫ぶ

 「……ならばこそ

 『令呪をもって我がサーヴァントに願う。ランサー、宝具を。<青銅巨人の超重槌(スフィリ・トゥ・ターロー)>の解放を』」

 宣言と同時、カッ!と紋様の一部が目映い輝きを放つ

 光が消えると共に、その部分に描かれていた紋様は非常に薄く、嘗て其所にあったという名残のみを残して消え去っていた

 令呪の使用が果たされたという証拠である

 だが、しかし

 『あらあら、マスターさん。そんなことしなくて大丈夫よ

 ごめんなさいね、大切なものまで使って貰っても、居ないタロスは出せないもの』

 『……聞いていなかったのか?』

 ランサー(+その牛)からの咎める声

 マスターに向けて無いと答えて。それを信じると言いつつ全く信じていないかのように使えと命じた。不興を買うのは当然だろう

 だが、それで良いとばかりに、トシキは空を見る。登ってきた月を背にした黄金を

 

 『ふは、ふははははは!はぁっはっはっ!』

 頭に手を当て、黄金の王は大笑していた

 「……この通り、無いものは何ともなりません」

 無いものはない。幾ら言ったところで、隠しているだけだと言われれば平行線。無いことの証明など、基本は悪魔の証明である

 だが、其処に例外がある。基本逆らえぬ絶対命令、令呪。幅広い命令、例えばこれからずっと私に従え、等であれば弱まる可能性はあるが、今回の命令は至極単純かつ明快。異論の余地はない。それすらも全く無意味とするならば、それは不可能の証明として機能する

 『……大たわけ

 貴様、(オレ)に不可能だと見せるためだけに、令呪を切ったのか?』

 「……いえ

 若しも貴方と戦うことがあったとしたら。その心臓に届きうる一撃はやはり、令呪による強化を得た一撃のみであると思います」

 『ふん、当然よな』

 「その貴方に届く可能性を持った、、俺の所有するたった三矢のうち一つ、そして先の要求が不可能の証明

 以上をもって、王の要求する返礼への代用としたい。その交渉の為に」

 『ふははははははははは!

 こんなに笑ったのは何時ぶりか。大たわけ、貴様この(オレ)を笑い死にさせる腹積もりか?』

 「……本気です、ギルガメッシュ王」

 『良い良い、元よりそこなランサーが青銅巨人を持ってきておらぬなど知っておる

 英雄王ジョークという奴よ。だがしかし。貴様の返答は愉快であった。それをもって許そう』

 言って、黄金の王は渦から何かを取り出し、放り投げる

 しっかりとトシキがキャッチしたそれは、小さな瓶であった

 「……これは?」

 『分からぬか?』

 「分かりません」

 恐らく、何かの薬だというところまで。霊薬の造形に疎いトシキには、皆目見当がつかない

 『貴様の言う令呪がこのギルガメッシュの心臓に届くと言うならば、その価値は(オレ)にも等しい

 勿論そんな事はないが、仮にだ。まあ、1/3の価値は認めてやらん事もない

 で、あれば。この(オレ)の1/3と、いずれ死ぬ雑種一人の命なんぞが釣り合う訳もなかろう。だのに令呪の礼を受け取ったままでは(オレ)がまるで狭量な王のようではないか

 故、貴様にくれてやる。脳と魔術回路を研ぎ澄ます霊薬だ

 そこの聖杯戦争という大魔術を体の中で走らされて流石にパンクしている聖杯娘に飲ませれば数日は普通に生活できるだろう。勿論、貴様が飲めば魔術師として段階を越えられるだろうが……どう使おうが構わん、好きにせよ』

 言うだけ言って、黄金の王は社の上から宙にその身を踊らせる

 「有り難う、ギルガメッシュ王よ」

 『ではな、愉快な間抜け姿の主神に大たわけ』

 そのまま、白い騎士鎧?にしては少し大きすぎる全身を覆うフルメイルに身を包んだかと思うと……

 轟音と共に、背部ブースターが点火。パワードスーツみたいなものであったらしいソレに着込まれて、黄金の王は何処かへと飛び去っていった

 「……ところで、神秘の秘匿とか……

 気にするはずないか」

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