Fate/Tonitrus   作:雨在新人

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犠牲(1/1)

結城(ゆうき)ぃぃぃぃっ!」

 出来れば神秘の秘匿だとかを言いたい。だが、それを語って間に合わなかったでは済まない

 

 その焦燥にかられ、天国(あまくに)トシキは白き牡牛の背に掴まり、空を駆ける

 その左手には、既に通話の切れたスマートフォンを握り

 高生黎南(たかばねれいな)に事情を説明しようとした瞬間、トシキの携帯が震えた。着信相手はトシキにとって決して多くはない友人の一人、その中でも珍しく女性な結城灯花(ゆうきとうか)。その少女が電話を掛けてくることは決して珍しいことではない。学校では別々なクラスなせいかあまり話す機会も無く、そのせいか2日に一度は掛かってくる。何時ものとおり、天才少女が自作しているアプリケーションの意見でも求めてるのか、と電話なら悪いけど後にかけ直してくれと言うためにトシキはその電話を受け

 スマホの画面を覆う防護ガラスが割れるような音と、その後ろから途切れ途切れ聞こえる英霊召喚の呪文を聞いた。その声は苦しげで、けれども聞き間違えるはずもない、友人のもの

 

 瞬時、トシキは判断した。黄金の王がセイバーのマスターに提案したような事、つまりは半死まで追い込んだ魔術の素養がある人間にサーヴァントを召喚させそのまま止めを刺す事で労せずしてマスターの死によりサーヴァントを脱落させるというせせこましい策略が、トシキの友人をも巻き込んだのだ、と。確かに、素養は無くもない。だからこそ、トシキは最初の最初、一人ぼっちでずっとパソコンに向かっていたその少女に声を掛けたのだから。故に、狙われても……可笑しくはない、少なくとも大抵の人間よりはマスターとして選ばれ、サーヴァントを召喚する可能性は高いはずだ

 その結論に至った瞬間、トシキは黎南を膝枕したままのランサー(エウロペ)にまだまだ何も分かってない幼馴染の少女を任せ、いざとなれば令呪の絶対命令で黎南と共に此処に来いランサー!で転移させれば良いそれくらいの奇跡ならば令呪は起こせるとして

 人払いの結界を唱えるやそのままゼウスたる牡牛に跨がる……事は男が乗るなと許されなかったので腕だけでしがみつく形で、何時も家にいる結城ならば、と結城家へと駆けて貰ったのである

 ガラスが割れるような音、更に続く不愉快な音。単に落としたはずもない、何者かに恐らくは踏まれている。ならば、ならばだ。そもそもトシキがその電話を受けられた事そのものが、奇跡と言っても過言ではないだろう

 スマホ画面の通話の仮想ボタンが、靴裏だか足裏だかに運良く反応した。指ではないので反応悪いだろうそれが、画面のうち一部しかない仮想ボタンを確かに押したと壊れ行く機械に判断された。その奇跡を、根源接続者の少女にとってもやはり友人な結城を失いたくないという無意識の願いが産んだもの、ならばきっとまだ間に合うと都合良く信じて

 

 そうして、結城家近くに辿り着いたトシキが見たものは、引き剥がされた屋根と、その上に浮かび上がる鋼鉄の腕の偉丈夫であった。その腕には、喉に赤い痕を残す幼馴染の少女、結城灯花。ぐったりとしており、意識は無い

 「『再鍛!偽打・霊刀新勝』!」

 スマホをポケットにねじ込み、左手に刀を鍛造。選んだのはやはり天国に伝わる五剣の一つ。由来は良く分からないが、とりあえず魔除けとしての効能を持つ刀。クラスは不明、だがしかし人一人で空に浮かぶ以上何らかの魔術であると思われるし、ならばキャスターの可能性が高い。だとすれば、多少は魔術に抵抗が出来る刀こそが一番良いという判断だ。本来、トシキには打ち方だけは知っていても鍛造出来ない神剣こそが対キャスターには相応しいのであろうが……残念ながら、歴代でも打てた人物はほぼ居ないらしい

 宙に浮かんだまま、雷神の意思を持つ牡牛は制止する。突き付けるまではいかず、相手の姿を睨み付け、トシキはサーヴァントであるはずの敵を観察する

 決して背が低いというトシキではやいが、それでも頭一つ向こうの方が高い。黄金の王より高いだろう。エウロペとは比べるまでもない、頭の頂点でも胸元まであるかどうかだ。目立つのは機械腕。ならば機械文明の発展した産業革命以降の何者か

 と、決めつけるのは危険だ、とその思いをトシキは振り払う。青銅巨人タロス、あれだって言ってみれば巨大ロボットだ。トシキはゲームでしか知らないが交渉人が主人公だが相手が相手だけによく交渉決裂するアニメにあんな感じのロボットが居たような覚えもある。だが、だとすればエウロペは産業革命後の存在というはずもない。つまり、ロボットだろうが機械腕だろうが、近代のサーヴァントとは限らないのだ。眼前の男だってローマ神話辺りに出てくる何者かでないという保証はない

 

 『ほう、この大天才の前に立つとは何者か』

 「天国(あまくに)トシキ。その腕の中の子の友人で、ランサーのマスターだ」

 『なんと!ミス・マスターの友人もマスターとなっていたか』

 「ミス・マスター。結城をそう呼ぶということは、結城のサーヴァントか」

 ならば、警戒しすぎも良くない

 あくまでも嘘であったときに何か出来るように裏で魔術は走らせつつ、一度トシキは刀を消す

 『如何にも

 この大天才こそミス・マスターの呼んだサーヴァント。ゼウスを越えた雷電、アーチャー、スーパーゼウスである』

 と、大袈裟に男は名乗ってみせる。開幕自分の真名を名乗ってみせた金髪二人とは違い、名を隠す辺りは割と理性的

 今此処に、この牡牛が居なければそれは間違いなく正しい判断であっただろう

 

 『…………

 エウロペちゃまのマスターよ。先の言、この我への挑戦か?』

 響き渡るのはそんな声

 自分を越えたと言われ、ゼウス神の意識が御立腹である。空に軽く黒雲すら産んで稲光を迸らせている辺り、本当にキレているようだ

 「……多分偉い神を越えたと嘘言って自分に箔をつけたいだけだと」

 『ライトニンッ!

 よもや本物のゼウスか!?』

 だが、トシキの言葉は聞き入れられず、話はサーヴァントと牛の間で進んでいく

 『……現代の人たる者よ、我を越えたと言ったな?』

 『私こそ現代のゼウス神。世界を照らす雷電、新たなる現代の雷神、スーパーゼウスである

 ミスター・カウが本当にゼウス神であるならばご覧にいれよう。人類の刻みし新たなる神話を!』

 機械腕がバチバチとスパークし、アーチャーと名乗ったサーヴァント周囲に電磁コイルが発生する

 『神代の雷霆の一端を見せてやろう

 現代の神話?そのようなものが真実の神話に近付きこそすれど越えることなど無い。思い知るが良い』

 同時、黒雲の最中に幾つもの槍が産まれたのがトシキには理解できた。エウロペの代わりにゼウス神が狙っているらしい投槍、勝手に産み出しているらしい

 「いい加減にしろゼウス共が!

 結城を休ませてやるのが先だろ!」

 その二つの雷は、トシキの叫びによって霧散した

 

 『む、むぅ……』

 天空の雷神は口をつぐみ、空に浮かぶ自称スーパーゼウスは喉を鳴らす。黒雲も、電磁コイルも姿を消し、場が白ける

 「アーチャー、結城は大丈夫なのか?」

 『命に別状は無いだろう』

 「……そう、か」

 良かった、とトシキは息を吐き

 「事情は……て、分かるわけ無いか、聖杯戦争だなんて」

 苦笑して、トシキは左の手を差し出す。相手の特徴、機械腕と握手できるように

 「本来、サーヴァント同士、マスター同士は最終的には聖杯を奪い合う敵同士。けれども、今回はそんなことを厳密に考える間柄でもない

 一時休戦を、アーチャー。今はまず、結城を休ませて、事情を教えたい」

 『良い提案だ、ミスター・カタナカジ』

 「アーチャー、結城の部屋は?」

 『かの悪鬼の所業により惨状である』

 「なら、俺の家の方が良いか」

 休ませる場所を決め、トシキは牡牛から飛び降りる

 「ゼウス神、お願いする。結城とアーチャーをランサーの……ってバレてるか、エウロペのところまで先導して欲しい」

 『おや、君はどうするのだねミスター?』

 言いつつ、自分は別行動をしようというトシキへと、偉丈夫から当然のの疑問が投げ掛けられる

 「独り暮らしの家ですよ、俺の家。結城が休めるものなんてありはしません。というか、結城自体お気に入りの毛布が無いとまず眠れません

 中学の修学旅行、眠れないからって午前4時まで電話に付き合わされましたからね、それで」

 まあ、興奮であんまり寝れなかったトシキには、それはそれで良い思い出だったので、気にしてはいないが

 『何故、電話を』

 「直接会ってたらヤバい。夜中に女子の部屋に行くとか夜這いか何かか」

 実際、当時トシキの同室になった友人は夜這いを仕掛けて、そして教師に捕まっていたが

 というか、何故そんな方向に話を持っていくのだろう、スケベか。と、話を振る雷神にトシキは脳内で突っ込んで

 「お願いする、ゼウス神」

 頭を下げる

 『時にミスター。私が万が一裏切って、君のサーヴァントを倒してしまったらどうするかね?』

 「貴方を紳士だと信じるならば、マスターに手をあげたりしない

 なら、安全な結城に頼みますよ、その令呪でそこの裏切り者を自害させてくれ、と」

 『ははは!それは困る

 では古きゼウス、案内を』

 

 ゼウス、結城、そしてスーパーゼウスと別れ、トシキは天井の穴から結城家へと侵入する

 結城家はハイテクな指紋認証オートロックの一軒家だ。一応手を怪我して指紋認証が反応しない時用のパスワードもあるらしいが、その内容をトシキが知ってるはずもない。なので、表玄関は使用できない。遠慮無く友人の少女の部屋へと飛び降り、部屋を物色する

 「PCは……ダメそう、湯気出てる」

 傷の無さそうな外付けの記録媒体だけをほいと取り外し、無事だった結城のベッドの上に天井の瓦礫を避けてから置く

 「スマホ……。持ってくか、画面バキバキだけど」

 何者かに踏まれたのだろう画面が割れた上にくの字になっているスマホも拾い、HDDと一緒にしないためにポケットに突っ込む

 「あとは結城の毛布に……」

 色々と見回すが、あまり持っていくものはないな、とトシキは思う

 そして不意に、まだ何でか結城灯花の両親が娘の様子を見に来ない事を疑問に思った。いくら娘にあまり近付かないとはいえ、流石に可笑しい

 疑問のままトシキは扉の蝶番が破壊された友人の部屋を出て、廊下を進み、リビングへと辿り着く

 

 「……そういう、事かよ」

 キッチン一体型のリビング。直火で炙るのに使えるからと、そこは最新式の電気調理ではなく古式なコンロ式のキッチンで、横倒しになった鍋と肉の塊を、コンロの火が焼いていた

 トシキが手を触れる前に眼前で、流石に異常とコンロの火が消える

 

 今日は結城はあまり好きじゃないけれども両親がよく作るらしいカレーだったのだろう。カレールーが床に散らばり、深鍋は横倒し

 作りかけのカレーを混ぜようとお玉を握ったまま、或いはリビングの席で妻の料理が完成するまでとタブレットでニュースを開いたまま。結城灯花の両親の時は永遠に止まっていた

 

 ああ、来ないはずだ。彼等は一足先に、本来何者かが結城をそうしようとしていた姿に変えられていたのだから

 「……畜生」

 トシキにとって、結城灯花の両親は決して印象の良い大人ではなかった。それでも、こうして事切れていて良い気分になれるような、そんな人ではなかった

 「畜生!」

 無力に、トシキは拳を握りしめる

 天国の魔術師、本来この市に根差し、この地を守る存在の末裔として。本来これは、トシキが防ぐべきであった、外からの魔術師による犠牲なのだから

 

 最後に謎のキーホルダー付きの飾り気の無い財布(昔のアニメに出てくる緑の宇宙人のキーホルダーだ。トシキも見ていたアニメでありキャラは理解できるが、あのバトルもののサブキャラクターのキーホルダーを女の子が財布に付けている理由はトシキには皆目検討がつかなかった)を取って、HDDを毛布にくるむと身体強化の基礎魔術を使用。そのままトシキは一飛びでもう無い天井を越え、街へと身を踊らせる

 友人に結城の家がヤバいことになってるの一言だけをメール

 それだけで、俺は結城を見てるから後頼むという意図だと理解してくれると勝手に願って、トシキは勝手知ったる……というには結城家をあまり訪ねたことがないのであやふやな道を人払いの結界を貼りつつ神社へ向けて駆け出した

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