[エヴァンジェリン]
随分と夜も更けて来た。ネギの運転で高速道路を猛スピードでカッ飛ばして、ようやくの事で京都へとたどり着く。ネギに、よくあれだけの超スピードで運転できるなと聞いたら、色々科学的な説明をされそうになった。そんなのは超と葉加瀬だけで沢山だと言ったら残念そうな様子で、加速装置を使ったとだけ言われた。
加速装置とはアレか、サイボーグが奥歯のスイッチで使うアレかと問うと、満面の笑みで頷かれる。戦闘に使ったらごく一部の筋肉バカとかを相手取らねば無敵だなと言ったら、そうでもない、と残念そうな顔をされた。色々と、問題があるらしい。
そんな所へ、
「なんだ
『たいへんなんじゃ!婿殿から携帯電話で連絡が入ったんじゃが!』
「どうした
『じゃが誘拐犯は、木乃香の魔力を使って百数十体の鬼を召喚し、足止めに使って脱出したんじゃ。婿殿は必死に鬼どもを倒していたのじゃが、背後から白髪の少年の石化術を受けてしまい……。』
「石化術!?」
「うわ、ネギ!!」
「し、失礼。石化術と聞こえて、トラウマが刺激されて……。」
あー、まあ聞いた限りのネギの過去ならば、仕方あるまい……。
「あとで説明してやる。今は運転に集中しろ。」
「はい……。」
『婿殿だけではなく、他の面々も石化されてしまったそうでの……。ただ、敵を追って来て共闘したタカミチ君は、石化されずに無事だそうじゃ。タカミチ君は鬼を全滅させたものの、石化解除の
なるほどな。かつての英雄、旧姓青山詠春も、
「ネギ、何をしている?」
「石化解除なら、僕はエキスパートです。ダイオラマ魔法球の中で、6年間研究しましたからね。……あった。」
ネギは自分の影の中に手を突っ込んで何やら探していたが、やがて1本の杖を引っ張り出した。なるほど、影の中にある空間歪曲庫にしまっていた物品を探していたのか。
「これは爵位級悪魔の石化術にすら対処可能な、
「む、詠春のところに先に?」
「え?詠春さんまで石化されたんですか?」
「……そう言えば、まだ説明してなかったな。」
わたしはざっくりと、詠春が不甲斐なくやられた事を伝える。と、ネギは眉を顰めてタカミチのオープンカーを発車させた。
「詠春さんのところに行きましょう。」
「放っておいたらどうだ?」
「いえ、石化されて最終局面に何もできないって言うのは、後々まで心の傷になります。解石にはそんなに手間取りません。」
「まあ、それならそれでいいが。」
そこへ電話口から、
『おーーーい!聞こえとるかーーー!?』
「あまり、がなるな。五月蠅いぞ。」
『返事をせんからじゃ!それより、地図を見ながら誘拐犯どもの行き先を推測しておったんじゃが……。奴らは……。』
そして
「……
『わしも、そう思う。だが、奴らの移動方向から見て、それ以外考えられん。』
「少し待て。ネギに話して考えを聞く。」
そしてわたしは、ネギにかくかくしかじか、と
「なるほど。G-1を用意しておいて、良かったです。」
「……ちょっと動きを止める事ができれば、わたしの魔法で潰してもいいぞ?」
「いえ……。僕の魔法でもどうにでもなるでしょうが、せっかくです。誘拐犯に、圧倒的な絶望を教えてやりましょう。」
……G-1とは何なんだ?まあいい、ネギの顔が悪辣に楽しそうにニヤリと微笑んでいる。目にはあいかわらずハイライトが無く、どんよりしているが。
[刹那]
長……!!く、何と言う事……!!わたしは京都駅に1時間遅れで到着すると、高畑先生の指示通りに石化した長たちの保護に向かった。そして見た物は、関西呪術協会の術師たちが石化した姿。そして何よりも、最後の最後まで何処かに情報を伝えようとしていたのだろう、携帯電話に必死の面持ちで叫び続けたまま、石化した長の姿。ギリリ、と自分の歯ぎしりの音が聞こえる。
駄目だ、ここの人払いの結界が解ける前に、まずは結界を張り直さねば。そして本山に残っている穏健派の術師たちに連絡を取り、長たちを保護しなければならない。
キキーッ!!
自動車の音!?馬鹿な!まだ人払いの結界は解けていないはず!
「やれやれ、たいしたザマだな。」
「あ、え?エヴァンジェリンさん!?」
「喜べ。助けに来てやった。」
「え、あ、あれ?エヴァンジェリンさんは呪いで麻帆良から出られないハズで……???」
「ちょっとした裏技だ。」
そして車の運転席から、なんというか赤毛で超美形の、しかし目が疲れ果てた老人としか思えない青年が降りて来る。と、その姿がぼやけ、次の瞬間にはわたしと同程度かわずかに上か下か、ちょっと外人の歳はわかりづらいですが……。そんな感じの美少年に変わった。目の光は、相変わらず腐っているが。残念な美形とは、彼の事だろう。
「え、げ、幻術?」
「そうだよ。子供のままだと、日本で車を運転しちゃいけないんでね。タカミチから聞いてる。君が桜咲刹那さんだね。桜咲さんと呼んでも?」
「あ、はい!あ、呼びづらければ刹那と呼び捨てで構いません!」
「了解だ、刹那。僕はネギ・スプリングフィールド。ネギでかまわない。」
「はい、ネギさ……す、ぷりんぐ、ふぃーる、ど?」
まさかと思っていると、エヴァンジェリンさんがにやにや笑いながら、わたしの想像を肯定する。
「その通りだ。ネギは大戦の英雄、
「え、ええっ!?」
「……これが父の盟友、青山、いや近衛詠春さんか。」
そしてネギさんの影がすうっと立体的に浮かび上がる。ネギさんはその中に右手を突っ込むと、黒くて能面よりもさらにのっぺりとした仮面を引っ張り出し、顔に被った。次の瞬間、彼の身体に影が巻き付き、黒い制帽、黒い革ジャン、黒い皮ズボン、黒い装甲ブーツ、黒い籠手、そして黒い皮コートに変じる。あっと言う間の、完全武装だった。
更に地面に残った影の半分からは、すうっと2m半余りの長さの、機械をごちゃごちゃと束ねた様な巨大な杖が浮かび上がって来た。ネギさんはそれを右手で掴む。そして彼はその杖を掲げた。機械杖から、キュキュキュン、と言う異音が発する。
「……このレベルなら、
「え。」
そしてネギさんは再度巨杖を振る。キュキュキュキュン!異音が発し、巨大な機械杖の先端に強烈な光が灯った。
「きゃ!」
「まぶしっ……馬鹿者!何かやるならあらかじめ警告しておけ!」
「すいませんマクダウェルさん、すまない刹那。」
そして、そのとき不思議な事が起こった。周囲一帯に立ち尽くしていた石化した人々が、徐々に人間に戻って行ったのだ。そして、彼らはよろよろと
「お、長!」
「き……み、は……。せ、つな、君?」
「長!よかった……。いえ、ようございました。どこか、異常は……?」
「……いや、何処にも異常はない。あれだけ強力な石化術……エヴァンジェリン!?」
エヴァンジェリンさんが、胸を張って長の前に立つ。
「ふ、無様だな近衛詠春。あまりにどうしようもないので、仕方なしに助けに来てやったぞ。」
「あ、あの、エヴァンジェリンさん。今回の治癒はネギさんがやった事ですが……。」
「ええい、言わねば分からん事を。」
「ネギ?……ネギ、君?」
そこでネギさんが仮面を取る。長は、あまりの驚きに目を丸くなさっておられた。
「信じられん……。行方不明のネギ君は、まだ10歳になるかならないか……。」
「……近衛学園長から聞いておられないので?僕はダイオラマ魔法球に数年間籠って修行と研究してたんです。滅ぼされた村の村人を、石化解除するために。」
「そ、そうか。それで君はあれだけ強力な石化を解除できたのか。だが、かなり無理をしたか、それとも何か大きな代償でも払ったのでは?」
「いえ、呪文と魔力だけで充分でした。」
「なんと……。」
話が一段落したと見たわたしは、長の前に首を垂れる。
「長、申し訳ありません。直々にお嬢様の護衛を命じられておきながら……。」
「いえ、貴女はよくやってくれました。今回の敵が、周到だっただけです。」
そして長は立ち上がります。
「こうしてはおられません。誘拐犯の後を追わねば。」
「お、長!しかし対策を立てねば、また先ほどの二の舞に!」
「悔しいですが、あの白髪の少年は強い……。」
関西呪術協会の術師たちが口々に反論する。……であるならば、わたしだけでも行かなければ。木乃香お嬢様を……このちゃんを、今度こそ…今度こそ、わたしが護るのだ。
「いや、今追加の戦力を呼んでいますから、それからでも遅く無いです。と言うか、もう来ましたよ。」
「「「「「「え゛。」」」」」」
ネギさんが指差す先を、一同は見つめた。そこには、輝く流星が。いや、あれは流星ですか?いつまで経っても、消えずに光り続けるあれは。と言うか、大きくなっていないですか?あの、あれ、どんどん大きく、近づいてくるんですけど!?
[千雨]
わたしの眼前では、無数の鬼に囲まれて高畑と白髪のガキが戦っている。白髪のガキは見るからに苛立っていた。
「……身体に直接、拳を入れられたのは……初めてだよ。タカミチ・T・高畑。」
「怒ったかね?だがね、僕はもっと怒っている。よくも僕の生徒をいじめてくれたね?」
すげえ……。デスメガネだけの事はある……。
「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト。
キュキュン!ドッガアアアン!!
白髪のガキが呪文を唱える。早ぇ!そして高畑から異音が聞こえた。次の瞬間、爆発的な白煙が高畑を包み込む!煙に触れた鬼が、石化して行く!そしてその鬼を蹴散らして破壊した高畑は、他者を石化させる効力を持ってるみたいな白煙を突っ切って白髪のガキに踊りかかった。
白髪のガキはなんか
「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト。
キュキュキュキュン!!
白髪のガキがまた呪文を唱える。そして高畑からキュンキュンと異音がする。ガキの突き出した指先から、ビームが!?だが高畑の周囲には透明なバリアっぽいのが展開されてたらしく、ビームをはじく!
「先ほどの「石の息吹」を防いだのも、その魔法障壁か……。タカミチ・T・高畑は先天的に呪文詠唱ができない、という問題があって、魔法を使えないはずだったが?……いや、背広の右袖の下に隠して装備している、さっきから何やら音を立てている道具が手品のタネかな?」
「教えるとでも?」
「だろうね。」
「ええい、新入り!もっと気張りや!」
天ヶ崎千草が怒鳴る。白髪のガキは、しれっと言い返した。
「そうは言われてもね。想定よりもタカミチ・T・高畑が強化されている。それより僕が彼を食い止めている間に、さっさと召喚を済ませてしまって欲しいね。」
「言われんでも!オン・キリ・キリ・ヴァジャラ……。」
そうなんだ。天ヶ崎千草の奴は、さっきからなんかの術で動きを封じた近衛の額になんかお
わたしには、まだ何もできねえ。まだ。じっと、じっと観察しろ。何か、何かできる事が見つかるまでは……!!
「さすがはアーウェルンクス、か。使う呪文からして、「土」のアーウェルンクス、と言ったところかな。テルティウム、いやクゥアルトゥム、クゥィントゥムかな?」
「……「
高畑と白髪のガキが何話してるのか、よくわからない。だがここで、凄まじい「圧」が周辺に撒き散らされた。
ドドオオオォォォン!!
……爆音とともに出現したのは、なんと言ったら良いんだろう。巨大な、馬鹿でかい、呆れるほどの、怪獣。うん、怪獣だった。なんだっけ?ウル○ラマン・レ○に出て来た二面怪獣アシュ○ンとかいたろ。あんな感じのやつ。
「……成功か。」
「……これが目的か。君らは馬鹿かい?こんなもの、まともに扱えるとでも。」
「あーははははは!!
……ちくしょう、もういっぱいいっぱいだよ。今わたしらは、顔が前後に2つ、腕が4本の、身長が40mぐらい?いや、下半身はまだ出現しきってねえから、完全に出たら60~70mぐらいはありそうな巨大な怪獣の、その頭のところに浮いていた。近衛は魔力とやらを吸われて苦しいのか、動きの取れない身体でむーむー言っている。
「けど、力が大きすぎて細かく制御するのは大変やな……。タカミチ・T・高畑はん!聞きなはれ!アンタの生徒の一人、このハセガワとか言う娘っ子を、この高さから突き落とされたくなかったら、そこの新入り、あー、フェイトの魔法を受け入れてちゃっちゃと石になりなはれ!」
「む……。ふう、やむを得ないか。」
「それでええんやわ!あーはっはっはははははは!!はぁっ!?」
「こんの、オバハン!!」
今だ!わたしは空中で、天ヶ崎千草に掴みかかった。そしてその首を必死で絞める!
「な、このガキなに……!」
「黙れオバハン!いつまでも思い通りに行くと思……。」
「はなしなはれ!はな、グエ、ゲッ!ぐ、こ、このガキぃっ!!」
「長谷川君!無茶は……くっ!」
わたしは空中から振り落とされた。頭を下に、真っ逆さまに落下する。
「こんのクソガキぃ!当然の報いや!」
「長谷川君!間に合え!」
「……邪魔するのは簡単だけどね。人死に出すわけにもいかないか。しかも一般人……。この先も一般人でいるかはわからないが。」
わたしは、はるか高空から落下する。落下する。落下する。高畑が必死に走って来て、跳躍。高畑の右腕から、キュキュンキュン、と異音が発せられる。高畑は数十mは高くジャンプして、わたしを空中で抱き留める。高畑はそのまま、ゆっくりと地上へ降下した。
「チッ!運よく助かりおった……な、何っ!?」
「へっ。ざまあみやがれ。」
わたしは天ヶ崎千草に良く見える様に舌を出しながら、手に持った「紙束」をひらひらさせてやる。さっき掴みかかった時に、天ヶ崎千草の懐から奪い取った、呪符の束だ。やつが何か術を使う時に、お
「何しとりますのんや!ドロボー!返しなはれ!」
「盗人猛々しいんだよ!」
「あ、ああーーーっ!?」
わたしは呪符の束を、ビリビリビリビリと破いて捨てる。
「何してくれますのんーーー!1枚作るのに、どれだけ金と労力いると思うとりますのんやーーー!?」
「知るかオバン!」
「く、新入りぃっ!そいつらギッタギタにしてしまいなはれ!ああ、残りの呪符ほとんど無いやないの……。」
わたしと高畑は、地上に降り立つ。高畑が、怒った顔で言った。
「無茶をし過ぎだ。なんとか受け止められたから良かったものの……。ネギ君から貰った、この
「すいません高畑先生……。」
「だが、良くやってくれた。これであの女は、木乃香君を介しての『リョウメンスクナノカミ』の制御に支障が出るだろう。少なくとも、全力戦闘はそう回数はできなくなる。」
そして高畑は、ゆっくり歩いて来た白髪のガキに向き直った。白髪のガキは、無表情で言葉を発する。
「だけど、君もこれで足手まといを護りながら戦わないといけなくなる。これまでの様にはいかないよ。」
鬼どもが十重二十重と、わたしと高畑を取り囲んだ。
「……ネギ君、早く来てくれるといいんだがなあ。」
「ネ、ギ?ネギ・スプリングフィールド?行方不明だと聞いていたんだが。」
「え、誰それ。」
いや、だってわたしはただの一般人なんだ!下手すると、今後逸般人になっちまいそうだけど!なっちまいそうだけど!なんか有名な魔法使いっぽいけど、知る訳ねえだろ!
そして鬼どもが、一斉に襲いかかって来た。
高畑先生とちうたん、頑張った回でした。反面詠春とかは、まったくの出番無しに等しい惨敗ぶり。ごめんよ詠春。