[愛衣]
……何をしているんでしょう、あの人たちは?ホワイトボードに色々な図形や数式……ちょっと良くわからない高度な数学ですけど、それを板書して講義をしてます。そして講義をしているのは、10代半ばっぽい赤毛で外国人の男の人です。
講義を聞いているのは、ガンドルフィーニ先生、瀬流彦先生、弐集院先生、葛葉先生、神多羅木先生、大学の明石教授もいます。それと超鈴音、葉加瀬聡美などの問題要注意生徒とされてる人たち。なんとエヴァンジェリンさんまでいます。他にも何人も人がいますね。
あ、あの人は有名人だから分かります。中武研部長の古菲さん。口から魂出てますね。たぶん聞いている内容が難しすぎるんでしょう。わたしも全然わからなくて、同じく口から魂出そうです。あっちの背が高い、糸目の女の人も、頭から煙噴いてますね。その巨大な胸、少し分けてください。
あら?桜咲刹那さんと、彼女が護衛してる近衛木乃香さんも。でもわたしの目は誤魔化せません。桜咲さんの頭からも、煙が上がってます。あちらの人は、時折学園長が狙撃の依頼を出してる龍宮真名さん。こちらもキリリとした表情を装ってますが、後頭部に浮かんだ巨大な汗の球が、彼女の理解度を如実に物語っています。
って、あっ。あっ、あっ、ああっ。こっち来ないでください。あ!扉あけないでください!きゃーーー!!
わたし、捕まってしまいました。
[瀬流彦]
掃除用具入れの中で僕らの様子を窺っていた佐倉君を、僕と明石教授で取り押さえた。怯える様子が、小動物の様だね。
「何をやってるんだい君は。この予備教室は、この放課後は僕らが貸し切りにしてるんだけどね。学園長からも了解を得て。」
「えっ。学園長から?」
うん、理由とか全然聞かずに貸してくれたよ。まあ、精霊召喚で
まあ、学園長の許可を得た、と言った事で佐倉君は色々勘ぐってる模様だね。
「更に人払いの魔法までかけていたのは、ちゃんと理解してると思う。それと僕らの会議中、ここが立ち入り禁止になるのは一般人に対しても、魔法関係者に対しても告知してたはずだよ。」
「あ、は、はい……。」
「僕らはきちんと手続きを踏んで、「正しいやり方で」行動したよ?それを非合法なやり方で「盗み聞き」するのは、「正義」として正しい在り方なのかな?」
「あ、う……。」
僕は溜息を吐きながら、続ける。
「君「たち」は、「正義のためなら、あたりまえ」と言うかもしれない。だけどね。正義のため、と言う理由でさ。どれだけの非道が行われて来たか、理解してる?第二次世界大戦では、ナチスは自分たちの正義のために、どれだけの虐殺を行った?
連合国側でもそうだ。アメリカで、日本移民たちが収容所に収監された事も、広島や長崎に原爆を落とした事もそうだ。必要な事だった、と言う意見も根強いけどね。だけど当の原爆落とした爆撃機の乗員は、かなり精神的に苦しんでたそうだよ。ある意味その事実が、答えの様な気がするけれどね。
相対する日本軍もそうだね。一つ一つの事例は多過ぎて言わないけど。日本帝国軍の蛮行も、彼らなりの「正義」から出ているのは間違いない。」
「……。」
「暴走した「正義」は、「悪」よりずっと恐ろしい。まあ、僕らがやってる事も正義とは口が裂けても言えない事だけどね?」
「え゛。」
僕は教室の片隅にいる、不可視の学園長の使い魔にもある程度の情報を与えるつもりで、口に出した。僕らのしている事は、正義ではない、と。
「……僕らの「正義」じゃ、救えない物がある。それを救うために、小さな「悪」に手を出す事にしたんだ。いや……小さな、どころじゃないな。大きな「悪」だ。そして大きな「悪」を犯す事で、より大量の無辜の人達を助けたい。……100人を救うため、99人を見殺しにする。僕らがやってるのは、そう言うのに近い。」
「あ、あの……。全部を救う事は……。できない、んです、よ、ね?」
「できない。あの教壇にいる彼……ネギ君や、超君が何度も、何度も確かめたよ。気の遠くなるほど莫大な計算をして、どうしても100を救うには99を犠牲にしないといけない、と。
もしかしたら、他に方法があるのかも知れないけれど、それは見つからなかった。そして今決断しなければ、間に合わない。あるかも知れない、無いかもしれない方法を探している間に、カルネアデスの舟板が沈んでしまう危険は、冒せない。」
ここでネギ君が割って入る。僕は、一歩引いた。
「今日は帰っていいよ。佐倉さんだったね。それをグッドマンさんだったかに話すのも、止めない。だけど不特定多数の人に漏らそうと言うなら、僕らはそれをどんな手を使っても止める。けれどその時も、僕らはそれが「正義のため」だなんて免罪符を使うつもりはない。「正義」なんて形の無い物に全て背負わせて、責任から逃げる様な事はしない。
まあ裁かれるために、足を止めている余裕は無いけれどさ。でも僕らは少なくとも、その事をずっと背負って行く覚悟はできている。……よく、考えてみてくれ。」
「……はい。」
佐倉さんは、肩を落としてトボトボと言う感じで教室を出て行く。僕はちょっと気になって、超君に視線を向ける。彼女は頷いた。頭の中で、彼女の声が響く。ネギ君を
『きちんト、監視装置は付けたネ。』
『そうか。それならいいんだ。』
さて、この一手がどう転がるかね。あ、この後もきちんと講義と会議は続けたよ?
[近右衛門]
ワシの使い魔を分けて佐倉君を追わせたが、佐倉君はグッドマン君に「見つかったけれど解放された」とばかり報告し、瀬流彦君やネギ君から語られた内容については口を
ううむ、心配じゃのう。グッドマン君は歯噛みしておるし、佐倉君は思いつめた顔じゃし。本来ガンドルフィーニ先生の担当なんじゃが、ガンドルフィーニ先生はネギ君らに
……それにネギ君らの計画。明らかにワシに聞かせる目的で、そのさわりだけを漏洩させたと見るべきじゃの。100人を救うため99人を見捨てる……。とは言うても、そのままじゃない気もするの。あくまで比喩じゃろう。
となると、犠牲となる99人に相当するのは……。なんじゃろうな?
……いかんの。考えておるだけではどうにもならぬ。近いうちに、そう、学園祭が終わって面倒が無くなったあたりで、覚悟を決めてネギ君に訊ねてみるとしよう。その結果、協力するか、決裂するか……。
なるべくなら、平和的に終わって欲しいもんじゃ。ネギ君たちは、どんどん麻帆良の魔法先生などを協力者として傘下に収めておる。決裂して敵対でもしよう物なら、麻帆良が、関東魔法協会が、割れてしまうわい。
とにかく、まずは学園祭期間中の、ネギ君が世界樹と周辺に仕掛けてくれた、魔力を電力に変換してしまう装置の警備プランを発表せねばの。じゃが、警備員からはネギ君たちのお仲間は外して置いた方がいいんじゃろうのう。なんか忙しそうじゃし。
[小太郎]
おお、いたいた。なんや
「おーい。たしか佐倉とか言うたな。」
「え。あ、さっきの教室に居た……。」
「俺は犬上小太郎。最近、麻帆良の小学校に転校して来たんや。小太郎で、ええで。」
「あ、はい。小太郎さん……。な、何か御用ですか?」
「いや、な。ほんとはネギさんがお前に話しに来ようか、っちゅー事になりかけたんやけどな。ネギさん働き過ぎや、って事ですったもんだの末、俺にお鉢が回って来たんや。
いや、さっきの感触で、お前ただの「正義バカ」とちゃうみたいやったからな。話す価値がありそうやって認められたんやで。喜んどけ。」
「あ、ど、ど、どうも……。」
さて、何から話そ。こういうのは、掴みが大事やって聞くしな。あ、その前に。
「お前、人払いの結界張れるか?」
「あ、はい。」
「じゃ、頼むわ。」
周囲から人の気配が消えたな。んじゃ、遠慮なしに。
「驚くなや?」
「は、はいっ!!」
「お。気合い入れたな?んじゃ……。
「な、なんだってーーー!?」
「ノリええな。」
「……マジです?」
「大マジや。」
「え、ええええええーーー!?」
驚いとる、驚いとる。そして俺は、ネギさんから聞かされた
「そしてネギさんと俺らは、
あげくに今ある「せーじたいせい?」とか、「けーざいこうぞう?」とか、「しゃかいちつじょ?」とか、全部叩き壊す事にもなるんやしな。正義やとは、口が裂けても言えへんやろ。」
「……。」
「ショックやったか?」
「はい。いえ、計画の内容とかじゃありません。……お姉さまは、
「あー、「行き過ぎた正義」ちゅー奴かもなー。「正義のためならあたりまえ」「自分たちが正義だ」なんて思うとるんやろ。俺らは正義ちゃうけど、それやからこそ自分らの行いが間違うてないか、常に自分に問いかけとるで。」
佐倉が、感心した様子で俺を見つめる。なんや、こそばゆいな。
「あー、ほんま言うと俺も、そない偉そうな事言えんのやけどな。少し前やったか。俺は言葉づかいからわかるかも知れんが、西のもんやったんや。で、麻帆良の西洋魔術師どもを倒してヒーローやーって感じで、西の「てろりすと」に雇われたんや。そしてあっさり負けて、麻帆良のやつら、瀬流彦のおっさ、兄ちゃんに負けて捕まった。
自分がどんだけアホやったか、色々教わって思い知らされたわ。自分の「正義」を貫こうとして、一般人まで巻き込んで、酷い事したんやからな。その一般人2人は、今は魔法使いの訓練受けとる。俺らアホどもが、裏の世界に巻き込んでしもたんや。
……俺は、もう間違うわけにはいかんのや。少しでも、少しでもええから……。もう一度チャンスを貰ったんやから、少しでもええから……。「正義」やなくともいいんや。「悪」でもかまわへん。でも、少しでも皆のために……。」
なんや夕陽のせいやと思うけど、佐倉の顔が赤いな?いや、やっぱ赤いのか?夕陽にしては赤すぎる気が。
「なあ佐倉……。」
「愛衣です。そう呼んでもらえますか?」
「ほか。なら愛衣。グッドマンとか言う人の事やけど。……!?」
なんや急に、愛衣の顔が能面みとうなったで!?口元は微笑んどるけど、細められた目が笑ってえへん!?
「なんでわたしと居るのに、お姉さまの事を?」
「あ、いや!このままやとヤバいやろ!?アイツ話によれば、超やエヴァンジェリンさん、ひいてはネギさんに、なんやアカンことやりかねない、そやろ!?」
「お姉さまの気を引くために、わたしにコナかけたとかじゃ無いんですね?」
「ちゃう!ちゃう!ってか、コナかけるってなんや!?言葉の、単語の意味がわからんのやけど!」
よかったー。死ぬかと、いや死んだと思うた。愛衣は普通の笑みに戻って、そやけどちょっと拗ねた口調で言う。
「ならいいんです。でも、女の子といるときに、他の女の子の事口に出すのは避けた方いいですよ。最初の女の子が、気を悪くするかも知れませんからね。仕方ない場合は仕方ないですけど。でも、女の子の前で他の女の子を褒めたりするのは、絶対に駄目ですよ?」
「お、おう。で、でもなんでや?」
「どうしても、です。」
何が起こったんやろ。何で俺、こないにビビっとるんや。なんか、何かに捕まってしもた感じがする。どないしよ?
後で瀬流彦の兄ちゃんに相談したら、血の涙流してにっこり微笑まれた。死んだかと、いや死んだと思うた。
小太郎「もう一度、ガンダムになるチャンスを……。って内心を吐露してたら、なんや桃色の鎖に、ちゅうかトラバサミに捕まってしもたんやけど。」
愛衣「