[エヴァンジェリン]
航空研の複葉機が編隊飛行をしているのが見える。ふ、なかなか頑張っているじゃないか。
『只今より第78回、麻帆良祭を開催します!!』
放送の音声とともに、学祭門が開かれて一般入場者が列をなして入場して来る。あちらこちらの学校の出し物の客引きが、必死になって呼び込みを始める。ロボット工学研の恐竜ロボットをはじめ、仮装パレードが通りを練り歩く。今年で15年目だが、ここ数年は自らの意志で麻帆良に留まっている事もあり、大らかな気持ちで祭を見る事ができている。
だが、今年ほど自然な気持ちで祭を楽しめているのは、12年ぶりかも知れん。麻帆良で最初の3年は、ナギが呪いを解きに来るのを信じていたしな。ああ、本当に久しぶり……ぶぅっ!?
「どうなさいましたか、マスター。」
「おい!茶々丸妹参号!あちらの、一般入場者を確認しろ!今しがた学祭門をくぐった奴だ!」
「了解です。……骨格一致率94.06%です。05.94%の誤差は少々大きすぎます。ネギ・スプリングフィールド氏と同一人物の可能性は、低いと思われます。ですが他人の空似にしては、あまりの相似性が。」
「く、ああそうか。お前は「奴」のデータを持っておらんのだったな。ネギを基準に判断するしか無いと言う事か。
来い!」
「了解です。」
わたしは茶々丸妹参号を連れ、走り出した。うん、もう少し呼びやすい名前を、今度考えてやろう。
[のどか]
わたしたち3-Aの出し物は、メイドカフェ。わたしは気が小さい上に男の人が怖い事もあって、調理補助です。メインの調理役は、四葉さんと葉加瀬さんと超さんと茶々丸さんと委員長と大河内さんが入れ替わりでやってくれます。
お料理研究会と超包子もあるので、四葉さんと超さんは短時間しか入れませんし、葉加瀬さんも超包子の他にロボット工学研とか忙しいですから、そう長くいられません。でも、できるだけ長く居てくれようとしています。今メインの調理に入っているのは、四葉さんと茶々丸さんですね。
あれ?接客してるはずのゆえが、簡易キッチンに入って来た?
「接客でヘルプが必要です。のどかを借りて行くです。」
「え!?ちょ、ちょっとまって、ゆえ!」
「問答無用です。緊急事態です。」
「ええ~~~!?」
わ、わたしは、接客なんてだめなのに……。ゆえは妙に強引。たしかにお客さん大勢で、大変そうだけれど……。
「のどか、3番テーブルをお願いするです。」
「あ、え……。」
「いいから行くですよ。」
3番テーブルって、え、え……。ええっ!?そこに居たのは、高畑先生と……。ね、ネギ・スプリングフィールドさん!?
「やあ、宮崎君。その格好似合っているね。」
「ちょっとぶり、だったかな?宮崎さんだったね。」
「はははははい!お久しぶりです、ネギさん!」
「あ、名前覚えててくれたんだ。まあ、久しぶりってほどでも無い……ハズだけど。外の時間じゃ……。あ、いや気にしないで。」
あれ?前に会ったときよりも背が高い?少しばかり顔つきも精悍になってる?男の子の成長って、凄いな……。
「な、何にいたしますか!?」
「ああ、じゃあブレンドと軽食から……。そうだな、スパゲティ・ペスカトーレと、タカミチは?」
「僕はブレンドコーヒーとペペロンチーノを。それと、食後にレアチーズケーキ。」
「ああ、僕も食後にレアチーズケーキお願いするよ。」
「はいっ!注文承ります!ブレンド2、スパゲティ・ペスカトーレ、スパゲティ・ペペロンチーノ、それと食後にレアチーズケーキ2ですね!少々お待ちください!」
わたし、顔とか赤くなってないかな。簡易キッチンに戻って、注文内容を伝える。ふと見ると、ゆえがサムズアップを出していた。そう言えば、ゆえにはネギさんの事話してたんだっけ。高畑先生のお友達で、赤毛のちょっと目が死んでる外人さんだって知ってたから……。そっか、それで……。
やがて料理とブレンドコーヒーができます。わたしはテーブルにそれを運びました。
「お待たせしました。ブレンド2つと、スパゲティ・ペスカトーレ、スパゲティ・ペペロンチーノです。ケーキは食後にお持ちします。」
「ありがとう。」
そのとき、ドドドドドド……と言う様な足音が聞こえました。そして3-Aの教室入り口、今はメイドカフェの入り口になっている扉が押し開かれます。それはエヴァンジェリンさんでした。茶々丸さんとよく似た方と、もうお一方を連れてます。
「ネギ!」
「ちょ、エヴァちゃん。アンタ調理補助のシフト放り出して……。」
ギロッ!
「あ、いえご自由に。」
「パル……。」
「死ぬかと、いや死んだかと……。」
そしてわたしは、エヴァンジェリンさんが手を引いて連れて来た青年?壮年?やっぱり青年?の男の人を見て、言葉を失います。その人は、ネギさんそっくりだったんです。目は澄んでましたが。
[タカミチ]
エヴァが連れて来た人物を見て、僕とネギ君は驚く。
「……父さん。」
「ナギ……。」
「よお。タカミチ、そして……。ひさしぶりだな、ネギ。ずいぶんデカくなって。って言うか、デカくなりすぎじゃね?いや、デカくなった事情はエヴァから聞いた。……頑張ったな。」
「おい、宮崎のどか。わたしとナギが、このテーブルに同席するが、構うまい?」
「あ、は、はい!ご注文は何になさいますか?」
「俺はネギと同じもんを。」
「わたしはブレンドと、カルボナーラ。食後に、そうだな。レアチーズケーキを。」
宮崎君が急ぎ簡易キッチンの方に戻って行くのを目の端に収めつつ、僕はナギに訪ねた。
「……いいんですか?」
「おう。ってえか、『
これはもちろん、ナギが死亡したと言う事にして裏で動きやすい様にする、と言う作戦の事を訊ねている。それに対し、ナギは大別して2つある「敵」の片方に生存がバレてしまい、もう片方の「敵」であるメガロメセンブリア元老院の敵対派閥にバレるのも時間の問題だ、と言っているのだ。
こんなところで『
「それで、エヴァとタカミチとアルにその事を知らせておこうと思ってな。ってえか、アルには
「え。アルがいるんですか?」
「何!?聞いておらんぞ!」
「……『
「え、知らんかったのか?」
「教えていませんでしたからねえ。」
隣のテーブルから声がする。慌ててそちらを向いた僕らは、もぐもぐと軽食のサンドイッチを食べているアルの姿を目にした。まったくこの人は趣味の悪い……。人を驚かせたり、いじったり、からかったりするのが大好きなのだ。
「よおアル。教えてなかったのか。」
「敵を騙すにはまず味方から、ですからねえ。ひさしぶりですね、タカミチ君、キティ。そしてお初にお目にかかります、ネギ君。それにそちらの、茶々丸妹参号嬢、ですか?ああ、茶々丸嬢もいらっしゃいましたね。」
あ、厨房から絡繰君が出て来た。宮崎君といっしょに、ナギとエヴァの注文を持って来てる。
「マスター、ご注文のブレンドとカルボナーラです。レアチーズケーキは、食後にお持ちします。」
「あ、え、え、と、ネギさんのお父さん。ペスカトーレとブレンドコーヒーです。レアチーズケーキは、食後にお持ちしますので。」
「お、サンキュ。んじゃあ食うとすっか。細かい話は、そうだな。食い終わったらエヴァん家……いや、図書館島行くか。」
「キティ、それ美味しそうですね。一口いただけませんか。」
「誰がやるか!」
ここでネギ君が、深刻そうな顔で言う。
「父さん……。父さんに聞いて欲しい事があります。僕の
「おう、いいぜ。アルの奴から聞いてるは聞いてるんだ。何かしら、エヴァ、タカミチ、そしてその客人が企んでる様だってな。その客人がネギだってのと、
「あ、わたしの事はクウネル・サンダースと呼んでください。偽名ですが、気に入っているんですよ。ちなみにネギ君の存在は知ってましたが、先ほども言いました通り、敵を欺くにはまず味方からと言う事で……。」
「これだよ、こいつはまた。」
「了解です、クウネルさん、ですね。」
やがて宮崎君が、僕、ネギ君、ナギ、エヴァの分のレアチーズケーキを持って来る。……宮崎君、か。
おそらく彼女はネギ君に好意を持っているんだろうなあ。応援したい気持ちは無いでも無いんだが。けれどたぶん、ネギ君に好意を持っている女性は彼の周囲に多い。下手をすると、エヴァでさえも。エヴァの場合、ナギへの思慕がきっかけの1つではあったろうが、そのうちネギ君本人に対しての気持ちが大きくなっていったんじゃなかろうか。本人は否定するかもだが。いや、エヴァ本人気付いてない可能性も。
あとはネギ君、正直言って規格外の人物だ。3-Aでは「珍しく」「普通の」人物である宮崎君には荷が重いと思う。彼自身を支えて行くのも、彼の背負っている物を共に背負うのも。彼女はまったく「裏」の事情とか、更にその中でも極めつけに「濃い」事情をネギ君が背負っている事も、欠片も知らない。何かが無ければ、これからも知る事は無いだろう。比較的「並」の魔法関係者が相手であればともかく、ネギ君は……。連れ合いとしては、薦められる物件では無い。
それだけじゃなく、ネギ君は周囲と「あえて」そう言う関係にならない様にしているかに見える。一見鈍くて周囲の女性陣の気持ちに気付いてない様に見えるが、そうではない。彼には余裕が無い。能力的な問題じゃなくて、気持ち的、精神的に。せめて計画の第一段階、「
「世の中、ままならないね……。」
「タカミチ、どうしたんだ?」
「タカミチ、どうしたのさ。」
「ナギ、ネギ君、いや何でもないよ。……あれ?」
「いや、食べないからいらないのかと思いましてね。美味しいですねえ。」
僕が考え事をしている間に、アルが僕のチーズケーキを平らげていた。ふふふ、食べ物の恨みは恐ろしいよ?
[ネギ]
僕らは父さん、クウネルさんと共に、クウネルさんの居城である図書館島の地下までやって来た。クウネルさんが番犬代わりに巨大ワイバーンを飼っているのは、少々驚いたが。そして僕は、僕の
「これは……驚きましたね。」
「驚いた顔、してませんが。」
「いえいえ、驚いていますよ。しかし本気、いえ正気でしょうか?
計画の遂行途中で
「覚悟の上ですよ。」
クウネルさんは、うさんくさい笑顔を崩さずに、しかし考え込む。対して父さんの反応は対照的だった。
「いいんじゃね?他に方法がねえんだしよ。第一、ネギが必死こいて考え抜いた
「父さん……。」
「けどよ。そんな事になってんなら、早く麻帆良に来るんだったなあ。あ、いや。あんま早く来てもネギはいなかったのか。」
「ええ、僕は今年の春までは忙しく地球各地と宇宙のあちこちを飛び回ってましたから。」
「計画の基礎部分を全て、自分ひとりでやったのか……。ネギ、頑張ったな。」
父さんは、僕の行いを全面的に肯定してくれた。少々
「……何か気になる事でも?」
「いや……。
「両方、かなりの割合というか、ほとんどって言っていいぐらいに残ってますよ。予想以上に双方の相性が良くて。実感として今の僕は、「あのときの僕」の記憶も自分の過去として思い出せますし、「かつての僕」時代の出来事も思い出として残されてます。」
「……そうか。」
父さんは、ニカっとガキ臭い笑いを浮かべる。……この笑顔を壊しかねない事を、僕は父さんに訊かなきゃならない。少し
「父さん。聞きたい事があるんです。」
「なんだ?」
「アリカ王女の……。母さんの事です。」
「……。
…………。
………………。
……………………すまない。」
「そ……っか。」
長い沈黙の後、沈痛な表情で父さんは言った。すまないと、ただ一言。それは言えない事への謝罪で無いのは、表情や口調から理解できる。つまりは、「そう言う事」だ……。僕はもう二度と、この事には触れないだろう。父さんに、こんな顔を二度とはさせたくは無い。
その後、色々な事を話し合い、語り合った。父さんはとりあえず僕らとは離れ、「敵」の目を引き付ける、言葉は悪いが「囮」になってくれるとの事だ。ちなみにクウネルさんは、僕の「半生の書」を作成したがったが、僕の場合前世の記憶とか色々妙な事象が重なってるからねえ……。ちょっと事情を
ところでマクダウェルさんだが。普通に父さんと話をしていた。クウネルさんにいじられて咆哮する場面もあったが、振られた上に大変な頼み事をされた相手とは思えない、穏やかな表情で会話していた。きっぱり吹っ切れたんだろうか。どうなんだろうね。気にならない、とは言えない僕も僕だなあ……。
父さん、クウネルさんと別れた僕らは、その足で超さんの「まほら武道会」会場へと赴いた。仕事のあるタカミチとは別れて、途中で小太郎君や佐倉さん、刹那、木乃香、楓、千雨と合流したため、メンバーには変更があったけれど。そうしたら……。
「父さん、何やってるんですか……。」
「あ、いやな。23、いや24、あれ?25年前だったか?まあ、その時の「まほら武道会」で優勝した事があったんだけどよ。今もこの大会、続いてたんだなーって感慨深くなってなあ。まあ攻撃魔法とか『浮遊術』とかは使わねえからよ。『戦いの歌《カントゥス・ベラークス》』止まりで。」
「それで参加申請したのか。この馬鹿ナギ。この大会はわたしたちの身内がスポンサーなんだ。お前も身内に入るからな?ソレが優勝賞金とか優勝賞品とか、かっさらって行くのはイカンだろう。善とか悪とか言う前にマナー違反だ。見苦しい。」
「エヴァンジェリン……。い、いやな!?ソレだけが理由じゃねえぞ!?アイツを見ろ。」
「む?」
僕らは父さんが指差した、参加申請を終えた参加予定者の列を見遣る。……!?
「小太郎君!楓!刹那……はよして置いた方がいいか。2人は武道大会、参加してくれ!」
「了解や……。アイツが来とるとはな。」
「にんにん。しかし拙者らは主催者の「身内」でござるよ?いいんでござるか?あの御仁、それほどの要注意人物でござるか?」
「ああ。2人は優勝は可能な限り避けてくれ。彼とかち合うのが決勝戦でもない限り、ね。……こんな敵地に彼はいったい、何をしに来たんだ。」
そこに居たのは、あの白髪の少年魔術師。「
なにはともあれ、フェイトの目的を探らないと……。
「なあ、俺も優勝しちゃダメなのか?」
「あたりまえだろうが、馬鹿ナギ。」
「わ、わたしも出場しますっ!」
「え?愛衣、オマエもかなり
「違います!お姉さまが出場してるんです!……たぶん、超さんの事を探ろうとしてるんだと。」
「あちゃー。」
さて、僕らは裏方に回るよ?刹那、木乃香、千雨。
「はい!」
「りょーかいやー。」
「わかった。はぁ……。すっかり逸般人だな、わたしも……。」
「「何をいまさら。」」
けれどまずは、グッドマンさんの排除が優先かな……。
アリカ王女の事ですが、原作でその顛末については触れられていなかった事もあり、におわす程度にしてはっきりした結論は、本作中でも出さない事にしました。だけど、基本的に「もういない」物として、本作では扱う事になります。