魔法転生・ネギ?ま   作:雑草弁士

26 / 38
第025話:フェイトの右腕

[美空]

 

 うひいいいぃぃぃ!?

 

「何をやっているのです春日さん!」

「そんな事いったってー!」

 

 シスター・シャークティにいくら叱咤されても、力量の差はあきらかだよーーー!こっちはタダの、見習い魔法使いっすーーー!あの狂ったバイオリンの音撃と、炎のカタマリになったあの女が放つ炎弾ーーー!たーすけーてえええぇぇぇ!ってココネ危ない!

 

「ミソラ!?」

「あぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃーーー!?」

 

 ひーん、炎の一撃受けちゃったよー!ココネが無事だったのはいいけどって、ココネーーー!?倒れたわたしの前に立ちはだかっちゃ、だめっすーーー!!逃げ、逃げてーーー!!逃げてココネーーー!!あ゛ーーー!!バイオリン女、やめ、やめ、やめてーーー!

 

「くっ……。」

 

 シスター・シャークティの投げた十字架が、障壁を張ってココネとわたしと神楽坂さんが庇われたけど……。十字架を使っちゃったシスター・シャークティが火だるまにーーー!?必死に地面転がって火を消してるけど……。これで戦力が無くなっちゃった……。

 

「あ、あ、あんたたち!何者よ!なんでこんな事すんのよ!」

「……なるほど。何も理解していないのね。フェイト様の推測の通りか。身元を消すために、記憶も消している、か。」

(ホムラ)!!もうばれちゃってるとは言え、うかつにフェイト様の名前を出さないで!」

「ご、ごめん(シオリ)。」

「記憶を消す?何の話よ!こんな手品じみた妙な技で、美空ちゃんやシャークティ先生たちを!あんたたち、超能力者か何かなの!?」

 

 あ゛ーーー!!やめとき明日菜ーーー!!なんか詳しい事情は知らねーけど、こいつらの狙いはアンタなんだからーーー!!

 

「間違いないとは思うけれど、確かめておかないと。」

「わかった。任せて。」

 

 炎女が火炎弾を明日菜に!

 

ドゴオオオォォォン!!

 

 目を(つぶ)ったわたしの耳に、爆発音が響いて来た……。なんで、なんでこんなコトに……。力が無いのが悪いの!?こんなコトなら、もっとまじめに魔法の練習してれば……。

 

「遅くなってすまない。生きてるか?」

 

 え、この声は……。目を開けたわたしの眼前には、明日菜の直前に空いた巨大なクレーター。明日菜は無事。傷一つ無い。間違いなく、火炎弾を吹っ飛ばした一撃が、クレーターを空けたんだ。

 そしてそのクレーターの(フチ)に立って敵を威迫してるのは、高畑先生……。なんていいとこで出て来るっすかーーー!これじゃ、いくらオッサンでも、明日菜じゃなくても惚れるっすよーーー!!

 

「何か言ったかしら、美空ちゃん?」

「イエイエイエ、ワタシナニモ言ッテナイデス、神楽坂明日菜サン。ソレトワタシ謎ノシスターネ。ミソラチャン?ダレノコトデスカ?って、いたいいたい火傷いたいから服ひっぱらないでーーー!」

 

 そして直後、空から2人の人影が降って来た。片方は浅黒い肌……長身の黒人男性、ガンドルフィーニ先生。片方はちょっと情け無さそうな優男、瀬流彦先生。

 

「シスター・シャークティ!生きているかね!?」

「が、ガンドルフィーニ先生……。」

「酷い火傷だ。瀬流彦君!」

「春日君、ココネ君、神楽坂君、君らは?」

「せ、瀬流彦せんせい~~~!痛いです~~~!」

「ミソラト、シスター・シャークティノオカゲデ、無事……。」

「せ、瀬流彦先生!?どこから!?」

 

 ……!バイオリン女が!

 

「瀬流彦先生!バイオリン女が!」

「見えてるさ。」

 

 バイオリン女の音波攻撃が、瀬流彦先生の無詠唱で張った障壁に阻まれて!?アンタ、いつの間にそんな強く!?そして高畑先生に追い詰められた炎女がヤケになって放った炎弾も、同じく瀬流彦先生の障壁が防ぐ!

 だけど……。明日菜がちょっと炎にビビって、後退する。そして瀬流彦先生の障壁に触れた。次の瞬間、障壁が砕け散って、炎が押し寄せて来る。必死に障壁を再展開した瀬流彦先生のおかげで、大事には至らなかったけど……。明日菜、アンタいったい……?

 

「……!!皆、確認は取れたわ!ただ目標の奪取は困難よ!ここは高望みはしないで、この情報を持ち帰る!誰か1人でも逃げ切って!」

「……!了解。」

「くっ……。わかった。」

「「逃がすと思うのかい?」」

 

 逃げようとした襲撃者の女たちを、2つの声が押しとどめた。1つは高畑先生。もう1つは……。誰?あの黒づくめ。

 

 

 

[ネギ]

 

 タカミチたちが間に合ったのは、ぎりぎりだった様だ。連絡の不行き届きでもあったかな?木乃香が怪我人のところに駆け寄って行き、治療魔法を施している。刹那と千雨が、各々抱えていた(タマキ)だとか言う女と(コヨミ)だとか言う女を放り出した。2人とも気絶している。

 いや、『暗黒縮退星(ブラックホール)群集合体砲(クラスター)』の魔法だけどさ。あんなもん、地球上で使えるわけないよ。勿論の事、空に向けて発射しましたともさ。で、発射した一瞬に千雨が麻痺(パラライズ)効果を載せた呪弾(ブリット)呪文(スペル)を連打して圧唱(クライ)。駄目押しに刹那が峰打ちで2人をボコにして完了。

 それはともかく、僕はタカミチに問いかける。

 

「タカミチ、どうしたのさ。見たところなんか遅くなって、間一髪間に合ったかって風情だけど。」

「うん、別の「アーウェルンクス」が出てさ。なんかぎりぎりで調整間に合ったのが、「(テルティウム)」の支援に送り出されたとかなんとか言ってた。「(クゥアルトゥム)」か「(クゥィントゥム)」じゃないかと思うんだけれど。」

「神楽坂君が危ない事は皆が承知していたから、エヴァンジェリン、絡繰君、絡繰君の妹壱号~参号、龍宮君、弐集院先生、葛葉先生、神多羅木先生、明石教授がその場を押さえてくれて、わたしたち3人が急行して来たんだ。ぎりぎりだったよ。」

「ガンドルフィーニ先生……。」

 

 まあ、そんな事情なら仕方ないか。この2人の結界に引っ掛かってた僕も僕だしな。僕らは3人の女……おそらくは人形に入った魔法世界(ムンドゥス・マギクス)人を、包囲下に置く。

 

「……!」

調嬢、動くな(フリーズ・ミス・シラベ)。」

 

 文節ごとに、念を押す様に発音する。聞く者の意識に直接介入する、呪式発声(ハードヴォイス)。相手は自分の心臓を、氷の手でつかまれたかの様な感覚に襲われているはずだ。僕は更に追加で、警告を発した。

 

「そのバイオリンを()こうとしたら、『死の呪文(デススペル)』が飛ぶかもしれないよ。死亡直後であれば『死者蘇生(レイズデッド)』が効くし、必要とあらば死者尋問(インクエスト)って手もある。

 焰嬢、君も動くな(フリーズ・ミス・ホムラ・トゥー)栞嬢、あなたもだ、動くな(フリーズ・ミス・シオリ・トゥー)。」

 

 動こうとした(ホムラ)さん(シオリ)さんとやらの機先を制し、これまた呪式発声(ハードヴォイス)を放つ。3人は、動きを止めた。(ホムラ)さんとか言う女は、炎が消えて全裸になる。あわてた(シオリ)さんとやらが、上着を貸し与える。そして数十秒後、気持ちが落ち着いたのか(ホムラ)さんとやらが、突っかかって来る。

 

「な、なんであたしたちの名前を知ってるの!?まさか(タマキ)(コヨミ)を拷問か何か……。」

「僕は『過去知(パストセンシング)』の魔法が得意でね。君らの居た場所にそれを使った。君らがあの場で行った会話内容は、全部筒抜けだ。」

「な、き、汚いわよ!そんなプライバシーの侵害みたいな魔法を!」

黙れ、テロリストども(ファール・サイレント・テロリスツ)。」

「「「!!」」」

 

 あえて呪式発声(ハードヴォイス)で、強烈に言ってやった。ああ、こいつらはテロリストそのものだ。一般人相手に「確認」のためだけに炎を投げつけて、恥じることもしない。明日菜嬢の護衛をしていた者たちを殺しかけたのは、護衛だから仕方ないとしても、その中に子供(ココネ)が混じっていると言うのに……。というか、後で学園長にねじ込んでおこう。子供をテロリスト相手の護衛に置くな、と。

 それはともかく、こいつらはテロリストそのものだ。『完全なる世界(コズモエンテレケイア)』そのものがテロ組織だと言う事もあるが。そして僕は過去の精神外傷(トラウマ)から、テロリストには手加減できない。自分がテロリストもどきのくせにね。

 ああ、そうだよ。僕はこいつら叩き潰したくて、仕方がないんだ。さっきの『暗黒縮退星(ブラックホール)群集合体砲(クラスター)』の魔法だけど、そこの気絶者2人殺すだけのために、地上に向けて撃ちたかった。その気持ちを抑えた事、褒めて欲しいぐらいだ。

 

キュキュキュン!

 

 脳裏の呪文(スペル)呪文編纂機(スペルコンパイラ)編纂(コンパイル)し、呼出(コール)して圧唱(クライ)呪力増幅杖(ブースターロッド)の先端から、巨大な暗黒の刀身が湧いて出る。これこそが『歪曲振動重力場剣・大(グラン・ワームソード)』の呪文(スペル)だ。

 

「『歪曲振動重力場剣・大(グラン・ワームソード)』に、斬れねものなし……。少しでも生きていたかったらさ。頼むから怒らせないでくれないかな。僕はテロリストの類が大嫌いなんだ。……殺したいぐらいに。

 言って置くけど、死を恐れないとか、殺すなら殺せとか、そう言う態度はあまり良くないよ。さっきも言った通り、必要だったら死者尋問(インクエスト)死霊(ゴースト)呪縛(しば)って、情報をあらいざらい抜き出してやる。なんなら精神探査機(ブレインスキャナーデッキ)の目盛りを最大に回して使ってあげてもいいさ。死体の脳からでも、確実に情報抜けるよ。」

 

 ……いかんいかん。テロリスト娘3人だけじゃなく、仲間達まで一歩引いている。あれ?千雨が震えてはいても、必死で下がらずに耐えてる。……何にせよ、悪い事したなあ。

 

カシャアアアァァァン!

 

「申し訳ないけれど、彼女らを殺さないでくれないかな。あともし「良ければ」だけど、解放してやって欲しい。」

「「「フェイトさ!……ま?」」」

 

 ガラスが割れる様な幻聴と共に、周囲に張っていた人払いの結界が破れる。そしてテロリスト娘どもが黄色い声を上げかけ、中途半端に終わった。どうしたんだと、彼女らの視線を追って僕の後ろの気配に目を遣る。うん、こいつが来たのはなんとなく分かってた。だからこいつが止めに入るだろうと考えて、少しどころじゃなく堪忍袋の緒を緩めておいたんだ。

 ……なるほど。テロリスト娘どもの黄色い声が中途半端に終わった理由がわかった。フェイトの学生服が、ズタボロになっている。

 

「ふぇ、フェイト様!そのお姿は!」

「ああ、「(クゥアルトゥム)」からの念話でね。君らのところにタカミチ・T・高畑が向かったと聞いて。それで急いで試合を負けて抜けてきたんだ。

 けれど小太郎君、強くなったよ。中盤までは僕の障壁を破れなかったけれど、最後の一撃は凄かった。僕の障壁を見事に破って、僕の胴体にすさまじい威力の一撃を喰らわせたんだ。あれは咸卦法、かな?上手く負けるのに都合が良かったよ。」

「な、なんてこと!おのれ、おのれ犬上小太郎!泣かします!キャンと泣かしてや……。」

吠えるな、テロリスト(ドゥー・ノット・バーク・テロリスト)。」

「ひ……。」

 

 何度目かの呪式発声(ハードヴォイス)(ホムラ)とかいう女……いい加減、さん付けする気もすり減った。その女は、一瞬黙った。だがフェイトが居るせいかな?必死の気力で口を開いた。……いいでしょ。聞いてやろう。

 

「貴様はネギ・スプリングフィールド……。あの英雄、ナギ・スプリングフィールドの縁者だろう!」

「そうだよ。息子さ。年齢が高いのは、ダイオラマ魔法球使って修行してたせいでね。」

「あ。」

 

 フェイトが何かに気付いた様に、右手を挙げて(ホムラ)を止めようとする。だが(ホムラ)は言い放った。

 

「何がテロリストだ!恵まれた英雄の、恵まれた息子に、周囲から祝福されたおぼっちゃんの貴様に、何がわかるんだ!親兄弟を殺され、塗炭の苦しみを味わ……。」

 

キュキュン!バギィッ!!

 

 呪力増幅杖(ブースターロッド)圧唱(クライ)する。僕の呪力増幅杖(ブースターロッド)じゃない。千雨の呪力増幅杖(ブースターロッド)が唸りを上げ、(ホムラ)を殴り倒したんだ。殴打(ビート)呪文(スペル)……。呪力増幅杖(ブースターロッド)の先端に、魔力の鎚矛(メイス)ヘッドを創り、敵を殴り潰す呪文(スペル)だった。

 

「き、きさま……。」

「んだぁ?自分が不幸だから?だからなんだ?同情してくださいってか?」

「なっ……。」

「それは構わんさ。同情してやるさ。けどな、ネギさんが恵まれた英雄の、恵まれた息子で、周囲から祝福されたお坊ちゃんだ?てめえらの目は節穴だ!いいか、英雄だからって恵まれてるなんてわきゃ無えんだ!増してやその息子だからって、何不自由なく生きて来たわけじゃ無え!」

 

 そして千雨は、僕に問いかける。と言うか、前に言った事の確認をする。

 

「ネギさん。3歳ごろの時分に食べた、一番のご馳走って、何でしたっけ?」

「あ、うん。そうだね。朽ち木にいたカミキリムシの幼虫とか、美味(うま)かったなあ。あれが見つかった時は、小躍りして喜んだっけ。」

「「「「「「え゛。」」」」」」

「あと、柔らかめの木の根とかあった時は、嬉しかったなあ。」

「「「「「「え゛。」」」」」」

「あ、うん。そんなもんだろうね。僕が保護した彼女らよりも、たぶん貧しい暮らしだったんじゃないかな。」

 

 そう言ったのは、フェイトだ。

 

「ふぇ、フェイト様!?」

「いや、ネギ・スプリングフィールドはさ。3歳ごろまでナギの故郷の村で「1人で」暮らしてたんだそうだよ。まあ村人には親切にはされていたようだけれど、逆に言えばある意味腫れ物に触る様な扱いだったみたいだね。」

「「「!!」」」

「その村は、メガロメセンブリア元老院の手の者によって襲撃されて、1回滅びた。召喚された悪魔の群れが、村を襲ったんだ。で、村人は皆が石化されて、そこで3歳のネギ・スプリングフィールドは行方不明になる。正直、生きていたのには驚いたけどね。」

「「「……。」」」

 

 千雨が、苛立たし気に言う。

 

「その村人を石化解除したのが、ネギさんだ。1年間山野を駆け巡り魔法の修行をし、ダイオラマ魔法球の材料を自力で採掘したり採取して集めて創り上げた。村が襲われたショックで思い出した前世の記憶が無きゃ、死んでたってよ。いくら前世の記憶があっても、メンタリティは3歳児だ。

 信じられるか?3歳児が、村が自分のせいで襲われたって思いつめて、村人を石化解除するために1時間が6時間になるダイオラマ魔法球に6年間、表の時間で1年間こもって修行したんだぞ?たった1人でだ!そしてわずか2年後にネギさんは10歳になって、村人たちを石化解除した。でも再建された村には戻れないでいる。自分のせいで村が襲われたって、村人に会わせる顔が無えって!

 ネギさんは吹聴はしてねえが、秘密にもしてねえから、頑張って調べればわかる事だ。いや、頑張らなくとも、最初のネギさんの村が1回滅ぼされた事は、ネギ・スプリングフィールドについて調べれば比較的容易にわかる。」

「……。」

 

 (ホムラ)は何も言えないでいる。そこへ千雨がとどめを刺した。

 

手前(てめえ)らは、自分が一番不幸だと思い込んでる、いや、そう思い込みてえだけの不幸自慢ちゃんなんだよ!だから他の自分より幸せ「かもしれない」連中が不幸になったって、かまわねえんだ!それが手前(てめえ)らの本性なんだ!」

「僕もネギ・スプリングフィールドの村の事は知っていた。でも彼女らが知らないとは知らなかった。それは、指示する立場だった僕に責任がある。」

 

 フェイトは無表情で、しかし真摯に言う。

 

「じゃあ、彼女らが「目標」を選別するために「無辜の一般人に魔力の炎をぶつけて火傷させてみる」って方法を使っていたのも、知らなかったのかな?」

「そうなのかい?うん、知らなかった。でも命令者として、責任逃れをするつもりは無いよ。」

「じゃあ、どうするんだい?」

「これで。」

「「「きゃああああっ!?フェイト様ーーー!?」」」

 

 3人のテロリスト娘どもが、悲鳴を上げて顔面蒼白になる。理由はわかる。フェイトが自分の右腕を折り取って放り捨てたからだ。

 

「これで僕は、しばらく前線には出られなくなる。まあ、所詮僕は人形だから、直せば直るけどね。少なくとも時間はかかるよ。」

「それを誠意と受け取れ、と?」

「そうしてくれると、ありがたい。」

「……あー、いいかな。前線に出るも何も、僕らは君らを逃がすつもりは無いんだが。」

 

 タカミチが言うと、フェイトは顎をしゃくる。そちらには、フェイトが人払いの結界を破ったために徐々に集まってくる一般人の姿があった。

 

「……あれで?」

「……。」

 

 タカミチは黙りこくる。再度人払いの結界を張っても、フェイトが再度破るだろう。この場でこれ以上、派手な立ち回りはできない。

 

(シオリ)調(シラベ)(タマキ)(コヨミ)を背負って。(ホムラ)は……。まあ、周辺警戒。行くよみんな。ああ、僕の右腕は拾わないで。あれは「けじめ」として置いて行く。」

「「「は、はい……。」」」

 

 落ち込んだ様子のテロリスト娘たちを引き連れて、フェイトは踵を返した。そこへ僕が声をかける。

 

「フェイト、これ持ってきなよ。」

「……これは?」

「君らの組織を攪乱するための、一手。」

 

 僕は影の中からひっぱり出した、3冊の本を投げてやった。フェイトは器用に残された左手で、上手く掴み取る。

 

「……『心理歴史学(サイコヒストリー)概論』『初歩の心理歴史学(サイコヒストリー)』『心理歴史学(サイコヒストリー)応用編』。3冊全部、ネギ・スプリングフィールド著、か。心理歴史学(サイコヒストリー)って言うのは何だい?」

「確率統計の観点から、未来をおおまかに予測する学問さ。時間的(タイム)スパンを長く取れば取るほど、それと知りたい未来の対象物の規模が拡大すればするほど、予測の正確さは上がる。1000年単位で、全人類を対象にしたりすれば、まあ外れないと思うね。逆に明日の個人のことを予測しようなんてすれば、的中率は0コンマいくつどころじゃなく小さくなる。」

「新しい腕ができるまでのヒマつぶしには良さそうだ。貰っても?」

「いいさ。」

「感謝するよ、ネギ・スプリングフィールド。」

 

 そしてフェイトとテロリスト娘たちは、近場の側溝に溜まっていた水を媒介に、水の(ゲート)を使って転移しやがった。周囲の一般人が騒ぐ。瀬流彦先生が大声で言った。

 

「はい、カットおおおぉぉぉ!一発撮影ってのは疲れますね!」

「え、あ、そ、そうだね!ああ皆さん!同人映画の撮影です!お気になさらず!」

 

 ガンドルフィーニ先生も、引き攣った笑顔で叫んだ。僕?僕はそこはかとなく影の中から出した、ちっちゃなビデオカメラを回してるよ?と、周囲に聞こえない小さな声で千雨が謝って来た。

 

「すいませんネギさん。あまりに腹が立っ……。」

「ありがとう千雨。」

「え。」

 

 千雨の謝罪を遮った僕の感謝に、千雨は驚きの声を上げる。顔は仮面で覆われて見えないが。ちなみに僕も仮面をしている。嫌な感じがするペアルックだね。ははは。

 

「千雨のおかげで、随分と溜飲が下がったよ。言い返してくれて、ありがとう。」

「あ、え、あ……。いえ、どういたしまして。」

「うん。それでいい。」

 

 僕は仮面を取って、笑った。見ると、千雨の耳が赤く染まっていた。顔は仮面で見えないけどね。

 そして僕らは、神楽坂明日菜嬢への説明に苦慮しているタカミチの応援に行く事にした。だけどなあ……。ある程度、(まほう)関係の事を話すしか無いんじゃないかな、これは。あとフェイトの右腕、拾っておかなくちゃな。




タイトルは、比喩的な意味ではなく、はっきり言ってそのまんまの意味でした。まあ、直るんですけどね。時間は少々かかっても。
そしてネギさんがフェイトに渡した、心理歴史学(サイコヒストリー)の手引き……。ネギさんが言った、『完全なる世界(コズモエンテレケイア)』を攪乱するための一手、とはまったく嘘ではない本当の事です。ここのフェイトは比喩的表現だと受け取った様ですが……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。