[スタン]
わしが意識を取り戻したのは、暗い地下室の様な場所じゃった。はて、何がどうなっておるのじゃろう。……そうじゃ!ネギ、ネギはどうなった!?わしは村を襲った悪魔と相打ちで、石化の呪を受けてしまったんじゃ!ネギを庇って!
「こ、こうしてはおられん!……と、とと。か、身体が……。」
身体が言う事をきかぬわ。節々が、強張っておる。これは……おそらく長期に渡り、石化されておったためじゃろう。何?長期に渡り?……と言う事は、あの村の襲撃は既にけっこうな昔の事になっておるのか?
「く、いったい何がどうなっておるんじゃ……。ネギは助かったのか?石化が解除されたと言う事は、誰かしらの手により解呪されたんじゃろうが……。」
周囲を見回すと、村の連中が未だ石像になったまま、突っ立っておる。わしだけが石化から解放されておるのは、何故に……。と、その時ふと、赤毛の後頭部が石像の群れの合間に見えた。あれは……!!
「ぼーず!待て、待つんじゃネギ!」
「……スタンお爺さん。」
「ネギ……ぼーず、じゃろう?……大きくなった、な。」
後ろを向いたままのぼーずの背は、10歳前後と見ゆるほどに成長しておった。となると、あれから7年は経過しておると言う事か?いや、それよりも。この場には、わしとぼーず以外に動く者は無い。と言う事は……ぼーずが、まさかとは思うがわしの石化を解除したのはネギぼーず、なんじゃろうか?
「ぼーず、何がどうなっておるんじゃ?わしはあの悪魔に、相打ちで石にされてしもうたはずじゃ……。それが……。」
「スタンお爺さん、お爺さんたちの石化は大人の魔法使いの人達でもどうにも手が出せなかったんです。そしてここ、メルディアナ魔法学校の地下室に皆、移されたんです……。いつか石化を解呪できる可能性に賭けて……。」
「……それで今、わしが治ったと言う事は、メルディアナの連中が?」
わしの問い掛けに、だがぼーずは首を振る。
「爵位級悪魔による石化は、さっきも言った様に、あの人たちでは手が出ませんでした。僕はあの事件以来、まずダイオラマ魔法球を造る事から始めたんです。そしてそれが完成してから、その中で必死に研究と修行に励みました……。」
「な、何!?」
「そしてついに、悪魔による石化を解呪するための魔道具を完成させたんです。ただ、使い捨てなのが残念ですけど。スタンお爺さんの足元にある包みが、その魔道具の杖です。村の皆に行きわたるだけの数がありますから、それで皆の石化を解呪してあげてください。使い方は、包みの中に説明書きを添えてありますから……。」
そう言って、ぼーずはわしから離れる様に歩き出す。わしは慌ててそれを制止した。
「ま、まつんじゃ、ぼーず!何処へ行く!?」
「……会わせる顔が無いんですよ。村の皆に。本当はスタンお爺さんとも話さないで消えるつもりでした。でも、魔道具の事を最低限説明しないと……。」
「な、何故じゃ!何故ぼーずが消えねばならん!なんで会わせる顔が……。」
「僕のせいで、村は襲われた!」
「!!」
ぼーずの声は、涙混じりの声じゃった。わしは目を見開く。違う、ぼーずのせいじゃないんじゃ、そう言いたかった。だが舌が言う事を効かん。
「あの悪魔どもは、村人の皆は石化に留めた……。けれど、僕には明らかな殺意を持って襲いかかってきました。狙いは僕だったんです。間違いなく。村の皆は、その巻き添えを受けたんです。」
「ま、待つんじゃ、ぼーず……。」
「理屈では、僕に何の責任も無いって、理解はできます。でも……。それでも僕のせいで、村の皆は石化させられた……。アーニャも、まだ小さい時分に親を奪われた。
……感情が、赦さないんですよ!!」
悲痛な叫びじゃった。わしはぼーずの後姿に、それでも何か声を掛けようと必死で適切な言葉を探す。じゃが、思いつくのは薄っぺらい、慰めの言葉ぐらいじゃ。わしは今この歳に至るまで、何を学んできたんじゃろうな……。
「……さようなら、スタンお爺さん。」
「待……。」
そしてネギの姿が、自らの影の中に消える。10歳程度にしか見えんぼーずが、影のゲートを使った転移魔法を……。どれだけ修行したんじゃろうな。ぼーずの言った通りだとするなら、3歳からの7年ほどの間、ずっとずっと修行と研究にばかり、全てを注ぎ込んでいたんじゃ。人生のうちで、希望と楽しさに溢れていてしかるべき子供時代を、ひたすらそればかりに……。
視界が曇る。視界が歪む。わしはいつの間にか、滂沱と涙を流しておったんじゃ。惨い、あまりに惨い。わしはあのとき、ネギぼーずの命を救えたかも知れん。けれどその事で、ぼーずを地獄に叩き落としてしまったのじゃろうか……。
そしてわしはその後、ぼーずの言った通りに包みの中の魔道具で、村の者達を石化から解呪した。地下室が騒がしくなったので慌てて様子を見に来たメルディアナ魔法学校の校長に、全てを包み隠さず話した。校長も愕然としておったのう……。
そしてわしは、校長からわしが石化されていた間の事を聞かされた。なんと、わしらが石化されたあの事件はわずか2年前の事だと言う。それを聞いた時、わしの胸に過ぎったのは、あの事件を起こした者たちと、自分自身への憤りじゃった。わしが見たぼーずは、10歳前後に見えた。ぼーずはダイオラマ魔法球の中に籠って修行と研究をしていたと言う。子供が7年もの時間、たった1人きりで。たった5年の時間を縮めるだけのために。
わずかだが、良い知らせもあった。あのナギのバカが、生きていたと言う。ただし「敵」との戦いにおいて隠密裏に行動するため、表向きは死んだことにしておくそうじゃ。村の者でそれを知らされたのは、わし1人。しかもギアスの魔法で、それを口に出さぬ事を誓約して、はじめて教えてもらったのじゃ。
アーニャが母親と再会できたのも、良かった事の1つじゃの。復活した母親に抱き付いて涙するアーニャには、多少じゃが心癒されたわい。なれど……。
「ぼーず……。」
ぼーず、お主が頑張ったおかげで、村人は皆元気になったぞ。誰もナギやぼーずを責めてなんぞおらん。村も再建されつつある。というか、村人もナギと敵対する者が村を狙う可能性は、重々承知の上でおったんじゃ。だから、ぼーずが苦しむ必要なんぞ、どこにも無いんじゃ。
何時か気持ちが晴れたら、どうかちょっとだけでもいい、村に顔を見せてくれい。この村は、ぼーずの
[ネギ]
ようやく……ようやくの事で、村の皆の石化を解呪できた。これで後顧の憂いなく、「仕事」に取り組む事ができる。「ぼく」と「わたし」が完全に融合を果たしてから、既に体感時間では6年が過ぎていた。ちょうど村の襲撃から1年後、ダイオラマ魔法球を造り上げた頃に完全融合が成ったんだったかな。
まあ体感では6年だけど、ダイオラマ魔法球の外では1年しか過ぎていない。……このダイオラマ魔法球も、そのうち造り直そう。もっと時間の加速率を高める事も、今の僕なら可能なはずだ。そう、今ならば1時間を2~3日に引き伸ばせるほどの物が造れるはず。
それはともかく、僕はこの「6年」の間、ダイオラマ魔法球の外の世界へ分身を派遣して、情報収集を行って来た。分身の外観は白人黒人黄色人種、色々に偽装して8体ばかり送り出した。そのうち3体は、
「……馬鹿じゃないの?」
思わず独り言が洩れる。あまりにも阿呆じみている。
問題は、
だが火星の魔力は、火星に生命体が現状存在していないため、太陽から僅かずつ降り注ぐ分しか増えはしない。圧倒的に
「……馬鹿じゃないの?いや、馬鹿だろ。」
僕は再び、独り言を漏らした。だってそうだろう。人造の異界なんて不安定な場所に、数多くの知的生命体を、人類を住まわせるなんて、馬鹿だろ。あの迷惑幽霊、居なくなってからも面倒を残しやがる。
そしてその
だが更に隠された本当の、真の目的は……。
「……ふうん。」
いや、馬鹿の親玉、キング・オブ・バカたる
父さんたち『
ここで出て来るのが、母さん……。ウェスペルタティア王国の王女であり、最後の女王であったアリカ母さん。自分の国を滅ぼしてまで、
処刑寸前に、父さんたちに助けられた母さんだけど、今も汚名は晴れていない。そして今回の調査でも、母さんの行方は掴めなかった。父さんと一緒にいないと言う事は、もしかしたら……。生きてはいないのかもしれないな。
そして母さんに汚名を着せたメガロメセンブリア元老院の連中は、隠されて育てられていた僕の事を、なんらかの手段で知った。その上で、万が一の火種になるかも知れないと僕に刺客を送ったんだ。それが村を滅ぼしたあの悪魔たちと、その召喚主。
「取りこぼしせずに全員救うって事は、奴らメガロメセンブリアの元老院連中まで救うって事だ。それは我慢できないな。」
あえて言葉に出すと、なおさらにその気持ちが強まった。「完全なる世界」とやらに封じて、幸せな夢を見せるって言うのは正直あまり好みじゃない。だけど緊急避難としては仕方ないのかも知れない。だから、そこは赤点ぎりぎりだけど及第点と言う事で。でも、僕としては絶対に譲れないラインがある。
「メガロメセンブリアの元老院、少なくともその中で、村の襲撃に関わっていた連中……。そいつらだけは、絶対に赦さない。可能であれば、母さんに汚名を着せて処刑しかけ、父さんたちを反逆者扱いしながら上辺だけ英雄として利用した奴ら……。そいつらは破滅させてやる。その上でなら、
うん、
僕は再度8体ばかり分身を創り出し、外観に偽装を施した上で再度、ダイオラマ魔法球の外へと送り出した。今度の調査は主として
ちなみに過去知魔法は、未来予知魔法の真逆だ。不確定な未来を予知するよりも、確定している過去を知る方がぶっちゃけ難易度は低いので、重宝している。超能力で言うサイコメトリとかに近い効果がある魔法だ。
だけど……。そろそろ分身だけに任せないで、僕自身も動くべき、だと思う。というか、今まで机上の演習と勉強、研究ばかりで、僕には実践の経験が極めて少ない。このままでは、いざと言う時に足をすくわれかねないだろう。僕は急ぎ、旅立ちの準備を整える事にする。とりあえず今回の旅の目的は、
さて、大体の準備は整った。それでは出発だ。万が一のためにダイオラマ魔法球は空間歪曲庫に入れて持ち運ぶけれど、海中に建設した秘密基地は厳重に閉鎖して行こう。ヤバい研究成果とか色々置いてあるからね。
原作ネギのトラウマの1つであった、村人石化問題いきなり解決。ネギの企む
……いや、たいした方法じゃないんです。と、ガッカリされないよう予防策を張っておく(笑)。