ドラゴンクエストⅦ ダーマの戦士   作:砂鴉

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 ドラゴンクエストの二次創作は初めてですが、できうる限り最高の出来栄えのものを投稿できるよう努力します。

 作者のリハビリ作品です。


~扉を開けて~
第0話:戦士の旅立ち


 三ヶ月が経った。

 ダーマ神殿が魔物に乗っ取られ、僕と姉さんがこの世の地獄に落ちて半年。いくつもの戦いを経て、ついにダーマ神殿は魔物の手から解放されるに至った。

 そして僕は、やっとのことで『戦士』の職を授かった。

 

「どうだい、姉さん? 戦士になった僕の姿は、けっこうさまになってるだろ?」

 

 僕の姉さんは、昔から病弱だった。元々虚弱な体質で生まれ、病気がちな体は今も姉さんを蝕んでいる。ダーマの騒動も、姉さんの身体を蝕むには十分過ぎた。

 

「これからは、危険だけど実入りのいい仕事をこなして姉さんの病気を治してやるよ」

 

 僕は『僧侶』の職についていた。けれど、魔法では姉さんの身体を癒してやることはできない。なら、もっと直接的に、姉さんを助ける力が、力が欲しい。

 だから僕は、『戦士』になった。守る力が、欲しかった。

 

「危険だなんて、怪我でもしたらどうするのよ!」

 

 そういった姉さんの目は、少し潤んでいる。僕が死んでしまう未来でも考えてしまったのかな。

 まったく、心配性だな。

 

「そんなヘマはしないよ。姉さんがどう思ってるか知らないけど、これでも僕は結構頼りになるんだぜ」

 

 それは虚勢ではない。まぎれもない、僕の得た自信からの言葉だった。

 魔物の主催する決闘場で勝ち抜き、その後の騒動でもたくさんの魔物を倒してきた。潜り抜けた激戦が、僕の中に確かな自信を形作っている。

 でも、姉さんはそんな僕を……見てくれてない。

 

「カシムよりずっとね。だから僕をもっと頼ってよ。姉さんのためなら、なんだってするよ」

 

 ほんの僅かな対抗意識から出たのは、あの気障な短足騎士だ。

 きっと姉さんはあいつを頼る。吹き溜まりの町にいた時からずっと、姉さんの目に写っているのはあいつだった。あいつだけだった。

 ……僕じゃ、ない。

 

「もうやめてよ! なぜそうまでして私に尽くしてくれるの?」

 

 姉さんは、今日に限って、その眼に僕を写して、そう言った。

 

「私は自分のために誰かが犠牲になるのが嫌なの。たとえ、それが弟であっても……」

「犠牲ってなんだよ。僕は好きで姉さんの世話をあれこれ焼いてるんだぜ」

「それが苦痛なの。まるで、私があなたの人生のお荷物みたいで、つらいのよ」

 

 なんだよ、それ……。

 僕は、幼いころから姉さんのために生きてきた。

 病弱な姉さんを想って。姉弟として当然のことで。

 

 だってそれが……、父さんと母さんの……、

 

『ザジ、姉さんを、ネリスを守って……私たちの代わりに、頼む……』

「――ザジがいなくたって、私は生きていけるんだよ」

 

 姉さんは視線を外し、俯きながら、胸の奥に閊えていた想いを吐き出すように、吐露した。

 

「――はは……結局、僕の方が姉さんのお荷物だったってわけか」

 

 剣を買ってくる。

 僕はそう言って、姉さんの前を離れる。階段を降りる前に、ちらりと姉さんの姿を視界に収めた。

 たぶん、おそらく、きっと――僕が姉さんを目にする最後の瞬間だ。……そう、しなきゃいけないんだ。

 

 

 

 

 

 

 ダーマ神殿の大扉。

 ここを一歩出れば、魔物が跳梁跋扈する世界だ。

 ダーマ神殿に巣食っていた魔物たちは、この三ヶ月で完全に追い出された。けれどここら一帯、ダーマ島にはたくさんの魔物が息を潜めている。元々ダーマに住んでいた魔物に加え、ダーマを占拠した勢力の魔物たちが追加されたのだ。この島が魔物たちに占領されていた、確かな証拠だ。

 

「ネリスを置いていくのか?」

 

 大扉に手をかけた僕の背に飄々とした声がかかる。幾分トーンが落ちた、少しばかり平静さを欠いたような声だ。らしくないぞ、短足騎士(カシム)

 

「これ以上一緒にいても、姉さんを苦しめることしかできない。だったら僕は、いない方がいい」

 

 自分で呟きながら、その言葉は自分の胸をえぐった。これまでの、十六年という長いようで短い人生、その中で必死に組み上げてきた自己というものを、呟いた言葉が完膚なきまでに踏み砕いていくのだ。

 

「ネリスは私がもらうぞ。それでもいいのか?」

 

 ある意味でとどめのような短足騎士の言葉に、僕は振り返って反論したい気持ちをぐっとこらえた。

 分かってるさ。そうやって彼に嫉妬し食って掛かれば、それだけ姉さんが悲しむ。

 それに、ダーマ解放の決め手になった数日間で、僕の彼に対する見方も変わった。それまではただ憎たらしい邪魔者でしかなかった彼は、いつの間にか僕ら姉弟の保護者代わりともいえるような人だった。

 この人になら、姉さんを任したって良い。そう思えるくらいには。

 

「それは姉さんとあなた二人だけの問題だ。僕は、関係ないよ」

「……そうか、道中気をつけてな」

 

 彼は何か言葉を探すように目を泳がせ、しかし小さく肩をすくめると僕の背中を押した。

 本当は、きっと、僕を留めようとしたんだろう。独りで行こうとする僕を、なんとかこの場に留めたいと思ったはずだ。もしかしたら、ダーマの騎士にでも勧誘しようとか考えたのかもしれない。

 けど、結局彼は僕を送り出すことにした。僕の居場所がここにないと、聡くて優しい、飄々としているようで人一倍熱血家の彼は、けれど悟ったのだ。

 

「ありがとう。あの人のことを、よろしく」

 

 大扉を押し開き、ダーマ神殿から歩み去る。ちらりと肩越しに背後を見やると、短足騎士は――カシムはまだ僕を見送るためにそこに立っていた。

 後ろ髪惹かれるけど、それを振り払うように僕は駆けだす。

 

 新調した【戦士】の証、鎧と剣は、ひどく重かった。




 本日の20時1分に第1話、それ以降は話に一区切りがつくまで毎日20時1分の投稿です。

 よろしくお願いします。
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