連続投稿は5月3日までです。もう少し、本作をお楽しみください。
闇に包まれた空を無数の黒い影が通り過ぎていく。漆黒の薄っぺらい体にニタリと浮かんだ笑み。剣と盾すら黒く塗りつぶされた姿は、その名まさしく
「あのスピードだと、村まで半時と言ったところか」
背の高い草むらに身を隠しながら上空を過ぎていくシャドーナイトの姿を見送ったルークは、冷静に呟いた。
「大丈夫なのかい? あなたのところの兵団は」
「ザジ殿の前では不覚をとったが、我らフォロッド兵団を見くびってもらっては困る。先日の雪辱を晴らさんと、皆張り切っておったよ。心配無用だ」
ふっといい笑みを浮かべ「彼らの献身に報いるためにも、我らも急ごうか」とルークは振り返らず歩き出した。昨日使った魔法のじゅうたんは、ザジが倒れている間に魔物によって魔力を抜かれてしまった。今や何の効力も持たないただのじゅうたんだ。
「あいつ、つええぜ。島に着いた時に襲ってきた魔物の集団もあっという間にやっつけちまった。船の上じゃ同士討ちみたいな感じで旗色悪かったが、胆がすわりゃあ無敵よ」
ドンホセもルークの言葉に同調し、ザジの背中をポンポンと軽く叩いた。二人からここまで言われれば、ザジもいつまでも気にしているわけにはいかない。気を引き締めて、ザジたちは島の中心を目指した。
魔物たちは奪い集めた魂を用いて【四元柱】なる強力な魔物の復活を企てている。一刻も早くその企てを阻止しなければならないが、当然魔物たちも対策は立てているだろう。フォロッド兵団が上陸していることは、魔物たちが把握していないはずがない。
そこで立てた計画は、フォロッド兵団によるアジトの強襲だ。当然それは村の付近に潜んでいる魔物によって察知され、彼らは先制攻撃を仕掛けてくる。
兵団が囮となって魔物の大軍を村に引き付ける。その間にルークとザジ、それにドンホセがアジトに侵入し親玉のジェネラルダンテを討つ。それが、ルークが立てた作戦だった。
本来ならルークは村に残り兵団の指揮に当たるはずだった。しかし、兵団の中でも突出した実力を誇るルークの力はジェネラルダンテを討つのに必要不可欠と判断され、ザジたちに同行したのだ。
やがてたどり着いたのは、三方を山に囲まれ、一方に湖が横たわった島の中心部だ。湖を横断するように作られた石造りの橋。その先にあるのが島の祠で、嘗て魔軍とたたかった神の兵たちの墓場でもある。
つい昨日、ザジはここにミクワとともにやってきた。そのミクワは、今ここにはいない。
自称大賢者の弟子である少女の不在は、ザジにとって不安を煽る要因だった。たった一日だったが、それだけでも空虚になっていたザジに与えた彼女の存在は大きかったのだ。
――不安、か。でも、あいつを取り戻すために、僕はここに来たんだ。そのためにも……。
「ドンホセ」
橋を渡る最初の一歩を踏み出したのはルーク。その後に続こうとした仲間にザジは声をかける。
「あん? なんだよ」
「確認なんだけどさ。君が教えてくれた方法、間違いはないんだよね」
「あたぼうよ。おれが実際に試して、使ったんだ。間違いねぇ」
ザジの言葉に、ドンホセはいつになく真剣な面持ちで返した。けれど、すぐに不安そうな表情を覗かせる。
「けどよぉザジ。お前、ホントにやる気か? おれたちにとっちゃ、トラウマみたいなもんだぜ。
「分かってるさ。僕も、あれにいい思い出なんか欠片ほどもないよ。使わないに越したことはない。けど、最終手段ってことで、あれが必要なんだ」
ドンホセの心配はもっともだった。
ジェネラルダンテの剣技は相当なものだ。ミクワとの共闘でどうにか打ち合えたザジにとって、それがない現状はかなりの不利であると認識せざるを得ない。
ルークという新たな戦力はあるが、それでも互角に届くかどうかといったところだろうとザジは考えている。
ルークとザジのコンビ、ドンホセの援護で崩せれば何も言うことはない。けれど、それができなかった場合、ザジ一人でもジェネラルダンテを崩す策が必要なのだ。
それがドンホセに聞きだしたある方法のことだ。
「こんなの作戦じゃねぇけどよ、やるからには一つだ。
「分かってるよ」
【みなごろし】とは敵味方の区別なく全力で襲い掛かる特技の一つだ。魔物の中でもバーサーカーなどが使ってくる、名前そのものまさに狂気の技だ。そんな技を例えに出すほど、ザジの考えた策は安定性がない。けれど、やるしかない。
「まずは僕の――いや、みんなの魂を取り戻す」
戦いに向ける決意を胸に、三人は橋を渡り切った。
***
「待ちかねたぞ」
祠の大扉の前。そこに居るのは数体のシャドーナイト。その中心で仁王立ちしているのは、魔人ジェネラルダンテだ。
「貴様が、ジェネラルダンテか」
「ほう、吾輩のことを知っているのか――小僧、まだ息があったのか」
代表して口火を切ったルークの前に、破邪の剣を引き抜きながらザジが進み出る。この場に来るはずがない存在であるザジの登場にシャドーナイトたちが驚きを見せる中、ジェネラルダンテは不快に口ひげを歪ませた。
「お生憎、どうやら僕の魂は奪い損ねたようだね」
煽る口調でザジは告げつつ、シャドーナイトたちを視線で浚う。その中に一匹、心底驚いた顔をしているものを見つけ、ザジは口角の端を少し持ち上げ、嗤った。
「下手くそのおかげで命拾いしたよ」
「こんの、小僧ぉお!!」
いきり立ったシャドーナイトが切りかかる。けれど、冷静さを欠いた、頭に血が上ったままの斬撃、対処は余裕だ。
ザジは瞬時にイオを唱え、襲い掛かるシャドーナイトの真後ろに爆発を起こさせる。追撃に加わろうとしたシャドーナイトたちを牽制し、突出した一匹の体勢を爆風で崩させる。のみならず、そのままこちらに吹き飛んできたその一匹に、剣を構える。
この後の展開を悟ったのだろう、シャドーナイトの表情が恐怖に歪んだ。
「た、助け――」
「ほら、君も魔族の面汚しの仲間入りだ」
一切の容赦なく、ザジはシャドーナイトを縦真っ二つに切り捨てた。薄っぺらい影の魔物を切り裂いた感触に少しの違和感を感じつつ、それを感づかれないようザジは刃に残ったシャドーナイトだった霧を振り払う。払われ、霧散していくシャドーナイトを一瞥し、ザジは油断なく残りのシャドーナイトに眼光を投げつけた。
次は誰だい? と視線で語る。
「はっはっは、見事だ小僧。吾輩との戦いを糧に
いきり立つシャドーナイトたちを片手で制し、ジェネラルダンテは曲刀を抜いた。
「あの方々の復活の儀式の前祝と行こう。吾輩の剣と貴様ら三人の魂を最後の貢物とする。お前たち、ゆけい!」
剣を突き出すジェネラルダンテの動きにシャドーナイトたちが応じる。まずは小手調べということか。
「ザジ殿、ここは私がやろう」
そう言ってルークが前に出た。腰に佩いた二振りの剣、コスタールとの交流試合の優勝賞品として彼の国から賜ったという【はやぶさの剣】を両手に握り、腕をクロスさせ刃を肩越しに構える。
「お、おい兵士長さん、なにやってんだよ」
迫るシャドーナイトの群れ、その数四体。焦るドンホセの声を聞き流し、ルークは意識を集中する。やがて宙を駆け抜け、目前までやってきたシャドーナイトたちが一斉に剣を振りかぶった瞬間、ルークの目がカッと開かれる。
「はぁっ!」
振り抜いた剣がシャドーナイトの剣を弾く。それを両手の剣で、全てのシャドーナイトに対して行い、手堅い防御を見せた。
ルークの剣はそれで終わりではない。踊るような刃は的確に影の刃を弾き、流れるような動作で二撃目へと移行していく。刃が宙を舞い、その剣軌道が兵士長を中心に無数に刻まれていく。両足をしっかりと踏みしめ、しかし斬撃の度に的確にその場で踏みかえていく足さばきは、まるで踊っているようだ。
シャドーナイトたちを打ち据え、薄っぺらい影の身体を縦横に両断し、瞬間的な斬撃は永遠のような時間をかけて刻まれていく。
「つぁっ!」
最後に横に振り抜く動作で一連の動きが終わる。計八撃の斬撃は幕を下ろし、その後に残されていたのは、霧散していくシャドーナイトたちだった。
「見事! 見事な【つるぎのまい】だ! フォロッドにはかなりの強者がいると聞いていたが、ウソではないようだな」
部下たちがあっさり切り捨てられてもジェネラルダンテは歯牙にもかけない。むしろ、ルークの剣技に感心した様を見せた。
感心したのはジェネラルダンテだけではない。ザジもそうだった。ドンホセから聞いてはいたが、まさかこれほどの実力者だとは思っていなかった。今の特技はドンホセにも見せていなかったのだろう。小男も目を見開いて一連の剣技を瞳に焼きつけている。
「今のは……」
「以前、旅の一族の剣士殿から習ったものです。彼の【つるぎのまい】は、まだまだこんなものではなかった」
淡々と告げるルークの言葉に、ザジは見たこともない剣士に興味を抱く。いつか自分も、そう思わずにはいられない、ほれぼれするような剣技だ。
けれど、今はそんな時ではない。ルークに倣い、ザジは鋭い視線をジェネラルダンテに送る。
「吾輩も興味があるな、その剣士。四元柱の方々の復活のあかつきには、その剣士と死合いたいものだ」
「そうはいかないね。あんたは、今ここで斃す」
「よい、よい覚悟だ。ニンゲンよ、ならばこの死合い、楽しもうぞ!」
一歩踏み出し、力強く大地を蹴ったジェネラルダンテが跳躍する。その曲刀が狙いを定めた相手はルークではなく、啖呵を切ったザジだ。
「ドンホセ、頼むよ」
「おうよ」
傍らの盗賊と短く言葉を交わすと、ザジの身体を金色の輝きが覆う。ザジの今の職は戦士だが、以前は僧侶の職についていた。守備力増強呪文のスカラはその時に覚え、ザジも使うことができる。同時に気合も溜める。守備力を上げ、次の一撃にかける力も込めた。
ドンホセが懐に持っていた砂煙を巻き上げる袋を投げつける。闇に閉ざされた世界を砂色が一瞬覆う。それを振り下ろす剣圧で吹き飛ばしたジェネラルダンテが、天より降りかかる。
「ぬぅん!」
「はぁっ!」
ジェネラルダンテとザジ。双方から気合の言葉が迸り、互いの剣が交差しぶつかり合う。しかし体格がよく、上空からの落下と重力も加味したジェネラルダンテの曲刀の方が力は上だ。押し負け、ザジは砂埃をあげながら衝撃で後退させられる。
「やっぱりか」
剣をぶつけあい、その感覚と先ほどの
力が、わずかだが力が抜かれているような気がする。この感覚も、ザジは覚えがあった。忘れようもない、身に染みた力を
「腕を上げたようだが、力は鈍ったか。昨日の件、こちらのミスではあったが、無意味ではないようだな」
ジェネラルダンテも気づいたようだ。ザジの魂は、確かに抜かれている。ただし、それは
「ザジ殿!」
ザジに狙いを定めたジェネラルダンテ。それを妨害するためにルークが割って入る。踏み込み、居合一文字で振り抜かれる曲刀を二本のはやぶさの剣が受け止めた。押し込まれる衝撃をステップを踏んで逃がし、素早く追撃の刃を振るう。
はやぶさの剣に使われている金属は特殊なもので、普通の金属よりもはるかに軽い。それでいて並の剣と同質の硬さを誇る。それを用いた刃は、一振りする力で二度の斬撃をこなすことを可能とする。それゆえルークはジェネラルダンテの居合に対し防御と攻撃、二つの動作を素早くつなげることを可能としたのだ。
だが、英雄の伝説の残る地を任された魔人であるジェネラルダンテは、それだけで地に伏すほど安い敵ではない。
ルークの素早い斬撃を上体を逸らして回避。崩れた体勢のまま接近した兵士長に回し蹴りを叩きこみ、そのまま曲芸師のように一回転し距離を離す。さらに追撃に駆け付けたザジの刃を受け止めて見せた。
1対2。
一見、数の優位でザジたちに傾きそうな戦局だが、ジェネラルダンテの剣技と体捌きはそれを容易に拮抗へ、さらには圧倒へと切り返していく。
恵まれた魔物の体力も加味すると、戦局はジェネラルダンテの方が上になる。それは認ざるを得ない。だからこそ、一瞬でいい。ほんの僅かでもジェネラルダンテの隙を作る必要があった。
ルークが前に出る。ザジと入れ替わるように進み出た彼の構えは戦端を切った【つるぎの舞】のもの。十分に集中する時間を得られない現状では、その剣技も半端なものにしかならない。けれど、その意図を察知したザジは場所を開けるべくジェネラルダンテの剣と打ち合い、衝撃を利用して下がった。
「ほぅ、来るがいい人間!」
つるぎの舞の構えに気づいたジェネラルは不敵に笑い、曲刀を両手で構えた。受けて立つ。そんな魔人の余裕が垣間見えるが、戦場は何が命取りになるか分からない極限の場なのだ。
ルークが駆け込みざまに剣を振り抜く。一撃、二撃。続けざまに、目で追うのがやっとなほどの剣軌道が描かれていくが、そのどれもがジェネラルダンテの身体に傷を負わすことは叶わない。
「ぬ、ぬぅ……!」
だが、刃を防ぐごとにジェネラルダンテの表情は硬く、苦しいものになっていく。流石の魔人といえど、計八撃に及ぶ斬撃をすべて凌ぎ切るのは困難だった。
そして、最後の振り抜きを剣で防いだジェネラルは、大地に強く足を踏みしめてそれを凌いだ。そこにザジが駆け込み、魔人のごとく斬りかかる。回避されることなど考えないやみくもな【まじん斬り】の一撃は、防御のために足を止めたジェネラルダンテの身体を鎧の上からたたき斬る。
竜の鱗で作られた群青色の鎧を砕かれ、ジェネラルダンテの顔が強く歪む。
そこに追撃が流し込まれる。突如ジェネラルの足元から湧き出した激流が渦を巻き、魔人の身体を飲み込んだ。周囲の湖から流し込まれたような多大な水の圧力は、魔人の身体を押しつぶさんばかりに嬲っていく。
「これは、【メイルストロム】……だっけ?」
「私の奥の手ですよ」
少し誇らしげにルークが笑った。
巨大な水流を巻き起こし敵を丸のみにする水の呪文、それが【メイルストロム】だ。経歴を限界まで積んだ海賊のみが放つことのできる奥儀とされている。
「これで決まればいいが……」
「そうもいかないよね」
ザジは先日の戦いを思い出す。
ザジとミクワは確かにジェネラルダンテを追い詰めた。だが、奴はほんの僅かな隙をついて自らの傷を癒し、逆転して見せたのだ。回復呪文を使った風でもない。もしそうであれば、魔力の動きをミクワが察知するはずだ。あからさまなものであればザジでも察することができる。
「ザジ殿、きますぞ!」
閉じ込めていた水流が、緩やかに動きを止める、いや、内部から氷が侵食し、大渦をまるごと凍り付かせたのだ。
割れ砕け、中から先ほどの傷の全てが消え失せたジェネラルダンテが現れる。
「見事、見事な剣に魔法だ。このまま永遠と、お前たちとの死合いにふけりたいものよ。だが、いつまでもお前たちに付き合うこともできん。吾輩にも任務があるのでな」
残念そうに、しかし余裕ぶった笑みでジェネラルダンテは告げる。その剣はうっすら氷を纏っていた。魔法剣の一つ、【マヒャド斬り】だ。
嫌な性格だと、ザジは思った。
この魔物は、おそらく今日までの戦いで全力で向かっては来ていない。拮抗する死合いを楽しみ、あえて相手の全力を受け、自らの死を迫らせる。そこから復活し、薙ぎ払う。あと一歩で斃せる相手が不死鳥のごとく蘇り、圧倒的な実力で逆転する様を見せつける。そうして敵対者に絶望を刻むのだ。
実に嫌味ったらしい、魔物らしい性格だ。
ザジたちは先ほどの連撃で致命傷を浴びせたと思った。それが何の痛痒もない風に戻ってきたのだから、無意識に与えられた精神的ダメージは大きい。
「フォロッドの兵士長だったか。まさか上級呪文を使えるとは思わなかったぞ。ゆえに、貴様から地獄を見せよう」
瞬間、ルークの前まで移動したジェネラルダンテはおもむろに、素早く居合を放った。凍り付いた刃がルークの鎧ごとその下の肉を裂き、傷口を一瞬で凍らせる。
「ぐっ、あぁ……」
痛みを噛み殺し、されど漏れ出た苦悶にジェネラルダンテは表情を愉悦に歪ませた。もはやルークは動けない。そう判断を下し、ザジに向く。
やはり今のままでは勝てないとザジは悟る。とすれば、使いたくなかったが、奥の手に頼るしかない。時間を稼ぐ。
――ドンホセ、早く!
「次は小僧、貴様だ。今度こそ、その魂を奪ってくれん!」
心の中で信頼する仲間に祈り、ジェネラルの攻撃に身構え、身体をこわばらせる。その時だ。
バキィン
何かが割れ砕ける音が響く。
その音にジェネラルダンテは動きを止めた。絶好の隙だが、ザジも動けなかった。何かに引き寄せられるような感覚を覚え、ザジはジェネラルダンテに背を向け駆ける。向かう先はメザレの祠だ。
「ザジ! そっちいくぞ!」
ドンホセが叫ぶ。
その声を耳に入れながら、ザジは自分に迫ってくる光を見た。
宙を舞い、迷いながらもどこかに向けて一心に飛んでいく光たち。その中の一つが、確かにザジめがけて突き進んでくる。
「あれは、集めた魂!? まさか……!」
ジェネラルダンテはようやく自分の失態に気づき、今度こそ迷わずザジに向かって剣を構え、駆けた。
魔人が迫る。ドンホセの投げつけてくる石など気にも留めず、まさに鬼の形相でザジを曲刀の錆に変えようと迫る。
それを無視し、ザジはやってくる光を、奪われた自分の魂の
その手に、
ジェネラルダンテが地を蹴り、跳躍からの一撃をザジに叩きつける。ザジはそれを、握りしめた【
怒り、憎しみ、恨み。
沸き上がる負の感情を、余すことなく握りしめた【
「小僧、貴様どこでそれを……!」
「あんたのお仲間に教えられたのさ」
波打つ禍々しい刃。【魂の剣】を握りしめ、ザジは不敵に笑った。
「目には目を、剣士には剣士を。そして、魔物には魔物の力をってね。借りるよ、君たちの力」
メザレの村の宿屋。その一室で、少女は跳び起きた。
胸に手を当て、自身の鼓動の感覚を感じとる。
視界に映るのは自分と同じく呻きながら起き上がり、生き返った感覚を噛み締めているメザレの住人。
耳に届くのは野太い男衆の鬨の声。剣戟と魔法の炸裂音。魔物と思しき絶叫の数々。
脳裏を過るのは――解き放たれたと同時に禍々しい刃となり、生きていた少年の手に収まった魂。そして、続く死闘にその身を投じる少年。
「――ザジ!」
跳ね起きた少女は、傍らに置かれていた【いかずちの杖】を握りしめ、宿屋の外へ駆けだした。