ドラゴンクエストⅦ ダーマの戦士   作:砂鴉

13 / 16
第12話:魂の刃

 砂煙を巻き上げると同時に、ドンホセは一目散に戦場を離脱した。

 始まった戦闘を尻目に、盗賊の【しのびあし】を活用して祠へと向かう。事前に三人で決めていたのだ。

 今回の戦いの最優先事項は囚われた魂の開放のである。魂は、生きた身体から無理やり抜き取られた状態だ。解放してやれば、それらは元の場所へ――元の身体へと戻るのではないかと予測したのだ。

 

 発想のきっかけは、魂の剣だった。

 生きた人間の身体から魂を抜き出し、それを剣へと変える魔物の編み出した禁呪。その魂の剣は、元の人間の身体に突き立てれば再び一つの魂として戻る。

 身体と魂は、結び付いている。死という状況に追い込まれれば魂と体は離れるだろうが、抜き取られたというのなら状況は魂の剣の製法に近い。つまり、元に戻すことも可能であろうという予測が立った。

 

 だからこそ、ドンホセは一人戦いを尻目に、魂が囚われている祠へと向かった。

 儀式の準備をしていたのだろう。祠の扉は開け放たれ、中には怪しげで巨大なツボが安置されている。これを壊せば、魂を解放できるはずだ。

 

「て言ってもよぉ、どうやってこいつを壊せってんだよ」

 

 守護者であるジェネラルダンテはザジたちとの戦いに夢中の様だ。あの魔人は戦い好きだ。剣と剣の戦いであればなおさら。そのおかげで剣士でないドンホセは眼中にないのであろうが、手間取って時間を浪費したり、ツボの破壊で大きな音を出せば気づかれかねない。

 

 素早く、それでいて静かに、ドンホセはツボ破壊というミッションをこなさねばならない。

 

 試しにどくがのナイフで叩いてみるが、やはり傷一つつかない。道中で見つけた鉄球を振り回してぶつけたが、鉄球が明後日に弾かれるだけで終わった。呪文ならばと覚えたての【ザキ】の呪文を投げつけたが、これも弾かれてドンホセに当たりかけた。

 

「あ、あっぶねぇ……」

 

 自分の呪文を弾かれて死ぬなど情けない。情けなさ過ぎて目も当てられない。そうならなかったことに胸をなでおろし、さりとてどうしようもない状況に思案する。

 

「お、そうだ」

 

 ドンホセは背負ってきた荷物袋を下ろし、戦いの様子を横目にしながら荷物を漁り始める。出発前、ザジに教えられたメザレの倉庫からめぼしいものをあらかた持ってきたのだ。英雄の村なのだから、なにかしらこういった状況の打開策になるものでもあればと思った。

 

「こいつは……カード、んなもん役に立つか」

 

 袋にしまい込む。

 

「ザジの言ってた魔法のじゅうたん。今はいらねぇ」

 

 袋にしまい込む。

 

「握りやすい大きさの石ころ。なんでこんなもん持ってきたんだよ!」

 

 足元に投げつけて袋の中を探る。されど、役に立ちそうなものは何一つなかった。

 ドンホセの特技は道具の扱いだ。多種多様な道具を駆使し、戦いの場での手口を広め、相手を翻弄する。観察眼もいいと自負している。だからこそ、ザジはツボ破壊をドンホセに託したのだろう。けれど、何の手掛かりもない状態ではドンホセとて手の打ちようがない。

 

「ちっきしょう!、おれは結局役立たずかよ!」

 

 持ってきた袋の中身をぶちまけて、ロクなものが入っていないことに憤慨する。

 こんなはずじゃなかった。自分を受け入れてくれたザジのため、見るからに胡散臭い――実際に泥棒までした――ドンホセを受け入れ、共に戦おうと、頑張ろうと言葉をかけてくれた。

 

 打算だった。助かればいいとだけ思っていた。けれど、受け入れてくれた。その事実が、ドンホセを危険極まりないこの戦いに赴かせたのだ。

 そして、来たからには役に立ちたい、一矢報いてやりたい。そんな気持ちがある。けれど、今ドンホセは何の役にも立てていない。

 

「道具使うだけがおれの脳だ。それが通用しなきゃ、どうしようもねぇじゃねぇかよ……」

 

 無理だ。やっぱり自分みたいなケチな盗賊。身の丈にあったことしてりゃよかったんだ。後悔と諦観の想いが、ドンホセの中に満たされていく。

 けれど……

 

『力がなくてもさ、おもいっきりやるんだ』

 

 ふと、ダーマで聞いた言葉を思い出した。

 それは、アントリアが倒れて数日ほどした時のこと。罪滅ぼしにとダーマ周辺に巣食う魔物の討伐に協力した時のことだ。その戦いでもドンホセは力になれず、パーティを組んだものたちからぼろくそに言われ、一人へこんでいた。

 そんな時だった。適当な木に背を預けて休んでいたら、ちょうど同じ木の上で休んでいた少年に話しかけられた。向こうは覚えていないようだったが、ドンホセには見覚えのある少年だった。そして、屈託なく笑う彼に、自身を話したのだ。

 

『おいらも最初は強くなくてさ、みんなに守られてばかりだった。でも、それでもみんなのためになりたかったんだ。だから思いっきり戦って、できること全部やって、おいらの戦い方っての見つけたんだ』

 

 ドンホセは知っている。この少年は不思議な仲間を持っている。少年の雄たけびに応え、どこからともなく半透明の白狼が現れるのだ。その力だって、最初から見出していたわけではないのだろう。

 

『おっちゃんさ、誰かの役に立ちたいんだろ。ならせいいっぱいやるんだ、なんでもさ。そうすりゃあ、なんとかなるさ』

 

 なんとも気の抜ける、保証も何もない言葉だ。けれど、ドンホセは少年の言葉に少し元気をもらった気になった。今できることでいい、それを続ければ、きっと力を持てる。強みを持てる。

 

 そして、ドンホセはダーマ復興に援助する傍ら、盗賊時代に身に着けた目利きを活かして道具を集めた。ダーマの決闘場で使ってたような、ただ投げつけるだけの粉や砂袋だけじゃない。武器として使わなくても力を秘めた道具を、自分の手で使えそうな道具を、かたっぱしに。

 

 

 

「やって、みるか」

 

 ぶちまけた道具から鉄球を取り出す。柄の部分を支点に勢いよく頭上で振り回し、遠心力もプラスしてツボに叩きつけた。割れない。

 フォロッド兵からもらった手持ちのボウガンにアサシンダガーを括り付けて発射する。弾かれるだけだ。

 炎の爪を手に持ち振りかざす。発射されたメラミはそっくり同じ軌道を描いてドンホセにぶち当たる。地面を転がって火を払い、道具の中から【けんじゃの杖】を握りしめて祈る。杖に込められた回復呪文(ベホイミ)のおかげで火傷が楽になった。

 さっきは役に立たないと思ったカードに念を送る。何も起こらず、自分には使えない道具と判断して懐にしまう。

 持っている道具を片っ端から試すが、それでも通用しない。しかしダメなら使い方を変えてみるまで。そう思いなおし、もう一度ばらまいた道具に視線を走らせる。

 

「ん?」

 

 そこで試していない道具を一つ思い出す。メザレに入る際に必要だった聖なる炎、それを使って作った灰だ。封印を突破する聖なる力を秘めた炎の灰ならばあるいは、という憶測が浮かび上がる。

 

「えっと、灰、灰……ってあ!?」

 

 見つけた灰は、袋をぶちまけた際に包んでいた小袋ごと破けてしまったらしい。足元の小石にかかっていた。とにかく少しでもまけば可能性がとドンホセは小石ごと包み拾うが、寸前で手を離した。

 

「あつっ、なんだこれ!?」

 

 灰を被った石はかなりの熱を持っていた。十分に冷ました灰を被ったにもかかわらずだ。

 そこで気づく。この石は、メザレの倉庫に落ちていたものだ。なんとなく気になって持ってきた、握りやすいこぶし大の石。英雄の村の保管庫にあったのだから、それが灰を被って熱を持ったのなら、何かしら効果があるのではないか?

 結びついた可能性にかけ、ドンホセは小石をボウガンにセットする。

 

「こいつで、どうだよ!」

 

 ぎりぎりまで弦を引っ張ってセットした小石は、一息の時間でツボに激突する。そして、ツボと小石の接触面に十字の文様が刻まれると――

 

 大爆発と共に、魂を封じたツボが割れ砕けた。

 

 

 

***

 

 

 

 ザジの魂は、砕かれ損ねていた。

 魂砕きに遭った際、ザジの魂を砕いた戦士は満身創痍の状態だった。そのため、力が十全に乗らず、ザジの魂を砕き切ることができなかった。

 ザジの魂は、欠けたような状態になったのだ。そして、一度欠けたものは、直したとしても継ぎ目が残り、また欠けやすくなってしまう。

 ザジの魂もそれと同じだ。欠けやすくなっていたのだ。

 

 そして、再び欠け落ちたザジの魂の欠片は今、ザジの手に握られている。

 

 

 

 叩き込まれた魔人の曲刀を正面から受け止め、押し返す。取り戻した魂を用いて生み出した剣はあの時と同じ、ザジの身体能力を底上げしてくれる力があるらしい。その事実を肌で実感し、また諸刃の剣であることを承知の上で、ザジは大振りの剣を両手で構えた。

 

「小僧、キサマァ!」

 

 ジェネラルダンテは顔を真っ赤に怒らせ、怒号を放った。大地を踏みしめる両足にも力が籠り、全身から憤怒の感情があふれ出してくる。

 

「よもや、その力を自ら使うとはな。アントリアめ、過ぎた力をニンゲンなどに与えよって……」

「つまり、僕らが君に匹敵する力を持ったことが気に食わないんだ。所詮は上をとって僕らを小馬鹿にしたいだけ。偉そうなこと言っといて、君も低俗な魔物に違いないね」

「やかましい!」

 

 ザジの言葉に魔人はさらに顔を赤に染め、怒気を収めることなく大上段に構えた曲刀を振り下ろす。ザジはそれを、軽く持ち上げた魂の剣で受け止めた。

 再び剣と剣がぶつかりあい、銅鑼のような音が響き渡る。同時に、ザジの内側がまたずきりと傷んだ。

 

 魂の剣は、もとはと言えば所有者の――ザジの魂に違いはない。それを武器にするということは、本来内にあるはずの魂を傷つけると同意義だ。刃をぶつけあえば刃こぼれもする。同じだ。

 長引かせるわけにはいかない。だから、この先はもう、恐怖心も躊躇もなしだ。感情の全てを、戦いに傾ける。

 

「はぁああああっ!!」

 

 雄たけびを上げてザジは剣を振るった。打ち合い、その度に内側が悲鳴を上げようと、かまわず斬り結ぶ。魂の剣を使うのに必要な負の感情。怒り、憎しみ。その全てをジェネラルダンテに叩きつける。

 ザジの本当の死闘は、ここから始まった。

 

 

 

「よう、兵士長さん。大丈夫か?」

 

 ザジが戦い始めたのを確認し、ドンホセは急いでルークの元に駆け付ける。袋から取り出したけんじゃの杖の効力を発揮し、発せられたベホイミがルークの傷を癒す。

 

「ドンホセ殿、あれが……」

「ああ、魂の剣だ」

 

 ドンホセは目を細め、口元に嫌気を滲ませながら呟いた。

 

「大丈夫、なのだろうか」

「人間に向けりゃあ魂を砕く魔剣だが、魔物に対してはただの武器と変わらねぇ。ただ、使えば使うほど魂が傷つき、精神が壊れてく。長引きゃまずいぜ」

 

 魂の剣を武器として使い続ければ、精神が壊れ、もだえ苦しみながら発狂し、死んでいく。ドンホセはそんな人を何人も見てきた。ダーマの決闘場で魂の剣を武器として選んだ者は少なからずいたからだ。他ならぬ、ザジの姉であるネリスもその一人だ。

 

「ならば、私も休んでいるわけにはいきませぬな。ドンホセ殿は」

「二人に囮になってもらったんだ。こっからはおれもやるぜ」

 

 ドンホセは取り出したボウガンと腰のナイフを見せる。ルークもまた、隼の剣を拾い上げた。今はザジが凌いでいるが、それもいつまでも保たない。早く加勢しなければ。

 頷き合い、魔人と少年が刃を削り合う戦場に踏み込んだ。

 

 ドンホセは掌に【ザキ】の魔力を集中させる。触れた対象を死に至らしめる一撃必殺の凶悪でおどろおどろしい魔力が、掌に球体を描いて収束する。そして、自らの気配を察知されないよう、【しのびあし】の作法で近づき、ジェネラルダンテにそれを叩きつけた。

 

「効かぬわぁ!」

 

 ドンホセの接触と自らに染み入る死の魔力。それを怒声でかき消し、踵を返したジェネラルの曲刀がドンホセを襲う。が、すんでのところでルークが割って入り、両の隼の剣をクロスして防御態勢をとる。

 十分な勢いをつけて叩き込まれた痛恨の一撃も確実な振り抜きを、ルークは一歩も引かずに受けきる。あらゆる攻撃に対し万全の防御態勢をとる技【だいぼうぎょ】だ。

 睨み合い、刃を凌ぎ合わせる両者の間にドンホセが砂煙を巻き起こす小袋を投げ込んだ。ルークは事前に目を閉じて躱すが、怒りで周囲の警戒がおろそかになっていたジェネラルダンテは一瞬、視界と注意力を潰される。

 

「ザジ殿!」

「分かってる!」

 

 ルークの叫びにザジの反応は早い。下段に構えた魂の剣を地面を引きずるようにして地面との摩擦熱を剣に帯びさせながら近づき、ザジは魂の剣を斬り上げた。刃が振り上げられ、ジェネラルダンテの身体を背中から、豪奢なマントごと引き裂く。

 

 背中の鎧を切り裂かれ、ジェネラルダンテの身体を覆っていた鎧が剥がれ落ちた。鍛え上げられた魔人の肉体が露になり、さらに鎧の上からつけられたザジ斬傷が丸見えだ。魔人の青い血液が滴り、ジェネラルダンテのひげの下から僅かな苦悶が零れる。

 いける!

 その感覚がドンホセを、ルークを、そしてザジの戦意を後押しする。

 

 だが、

 

「ニンゲンどもがぁああああああああ!!!!」

 

 これまでにない本気の怒声で、ジェネラルダンテは曲刀を振りかぶった。その剣が極大の火炎を帯び、回転する動作と共にジェネラルの周囲に灼熱をまき散らす。

 

「まだだぁ!」

 

 のみならず、次いで魔人の剣は真空の刃を纏った。跳び上がり、降りる動作に同調して竜巻の刃を作り上げる。その竜巻が、火炎に転げまわっていたドンホセに無数の切り傷を生み、吹き飛ばした。

 

「次はキサマだ!」

 

 魔人の動きはそれに終わらない。曲刀に極低温の冷気を宿し、そのひと振りでルークの足元に氷柱を形成。氷柱は瞬く間にルークの身体を氷像へと変えた。

 

「ニンゲンが、吾輩の背に、背に傷を負わせるとは! 背後の傷は戦士の恥! 許さぬぞ!」

「弱者の上に立つことでしか威張れない奴が、いまさら恥だなんだと見苦しいね」

 

 激高するジェネラルダンテに、ザジはマヒャド斬りの冷気と同等の冷ややかな眼差しで返す。つい昨日、余裕の表情でザジの前に立ちはだかった、誇り高き魔剣士に見えた魔物がこのザマだ。確実に追い詰めている確証があった。

 

「ルーク兵士長をあのままにしておけないし、僕も長くはもたない。とっとと終わらせるよ」

「その前に、その首もらうぞ! 我輩を倒し、メザレを救う英雄になるつもりだろうが、貴様はそんなものにはなれん!」

 

 まるで自身の力を見せつけるように、ジェネラルの剣は稲妻を走らせる。【かえん斬り】【しんくう斬り】【マヒャド斬り】そして【いなずま斬り】。魔法剣と呼ばれる剣技を見せつけ、この戦いに終止符を打つつもりだろう。けれど、負けるわけにはいかない。

 

「英雄? 興味ないね。メザレがどうなろうが僕の知ったことじゃない。けど、お前は目障りだから倒す。そして、僕は旅に戻る。なりたい自分を探す旅にね」

「貴様の旅など無意味! 我らに食い潰されるのみよ! ニンゲンが我ら魔族に敵うはずがない。貴様の手にあるその剣こそ、貴様らが弱者である証拠だ!」

「そうだね。僕は、君たちの力を借りないと、君たちと対等に渡り合う力すら持てない。けど、それがどうした? 現実見ろよ、僕は勝つ。勝って見せる。……人間様を舐めるなよ」

 

 この戦いは、当初はザジにとって流されるままに、流れ着いた末の戦いだった。けれど今は違う。

 目的も取り柄もない自分に光明を見て着いてくると言ってくれたドンホセが。ザジを雇い、その実力に全幅の信頼を置いて共に戦ってくれていたルーク兵士長が。そして、ザジの中の恐怖心を和らげ、追いつきたい、隣に立ちたいと思った少女が。

彼らには、これからも居てほしい。ザジの旅の行く末を、共にに見てほしい。だから、負けられない。

 ザジの目的は、今だって朧気だ。なりたい自分なんて、ちっとも見えてこない。けど、

 

あいつら(アルスたち)のように、誰かに希望をもたらす人に成れるなんて思わない。魂の剣に頼る弱い僕に、誰かを守れるほどの強さがあるなんて思わない。けど、だからこそ、僕はなりたい自分をこれから探す。僕の――()()の旅の邪魔をするな!」

 

 魂の剣が――ザジの魂が光を放つ。ジェネラルダンテが居合の構えで走り出したのに対し、ザジは魂の剣を腰に添えて駆けだす。怒りに満ちたジェネラルの曲刀に、魔物への憎悪を剣に注ぎながら自らの希望を口にするザジの剣がぶつかり、

 

 

 稲妻がはじける。

 

 

 互いに弾かれる。大地に背中を叩きつけられる中、ザジは見た。

 剣を弾かれ、されど大地に脚をつけ、反撃に出ようとする怒りに満ちたジェネラルダンテの姿。

 そして、――一人の少女の姿を。

 

 

 天より落ちてくる、無防備な人物。

 マジカルスカートにいかずちの杖を装備した少女。

 少女は、集中した魔力を解き放つ。

 想像を絶する火力に達した【メラミ】の火球が、魔人を焼いた。

 

 背中を打った痛みを噛み締め、起き上がる。見えてはいけないところを隠せなかった少女は、頬を紅潮させ、マジカルスカートの裾を抑えながらザジに振り返った。

 

「……見えた?」

「……まったく君って奴は、無防備すぎるんだよ……白」

「次言ったら焼くわよ」

「なら、もう少し周りに気を配ってくれよ」

「そうするわ。特にあんたに気を付ける。で、あれを倒すんでしょ」 

 

 少女――ミクワが指示した先には青い肌を一部炭化させたジェネラルダンテがいた。少しずつ傷が癒えていく姿を晒している。魔人の再生力の正体が露になった。

 

「やっぱり【めいそう】ね」

 

 周囲の気を吸収し驚異的な回復を行う特技【めいそう】。

 それである程度傷を癒した魔人の周囲に灰色の煙が立ち込める。マホトーンだ。ミクワの登場はジェネラルダンテにとっても予想外だったはずだが、対抗手段を素早く講じる辺り、やはりやり手の魔物である。

 

「ぬっ!?」

 

 ジェネラルダンテの口から驚愕がこぼれる。

 

「無駄よ。先にあんたの魔法を封じたから」

 

 ミクワの言葉通り、ジェネラルダンテの周囲にあった魔力の蠢きはすっかり消え去っている。ミクワのマホトーンだ。けれど、ミクワはそんなそぶりを見せただろうか。

 そこから一つの推論を導き出したザジは、ミクワに視線を投げた。少女は、病み上がりということもあるだろうが、明らかに苦しさを隠そうとしている表情だった。

 

「あんたも無茶してんでしょ。お互いによくないんだから、さっさとやりましょう」

「分かったよ」

 

 魂の剣を構え、ザジは駆けだした。その背後から呪文を行使する気配がするが、ザジは意識しない。ぎょっと振り返りたくなるほどの魔力の質だった。けれど、それが彼女の()()なのだ。

 

 ザジも魂の剣に意識を集中する。魂の剣は、持ち主の気力と精神を引き換えに、力を引き出す。病弱だったザジの姉(ネリス)はその力で魔物の決闘に参加していた。

 

 ――なら、僕にだって!

 

 ネリスが使えるようになったのはヒャド系の魔法とマヒャド斬り。おそらくは、ネリスにはその資質があったのだろう。ならザジは。イオの呪文を独力で習得したザジなら。

 

 ザジはイオを使う時の感覚を、剣に流し込んだ。魂の剣は黄色い閃光と共に、バチバチと弾けるような音を立て、雷光を纏う。

 イオの魔法は、術者から魔力を秘めた見えない電気を発し、空気を刺激することで爆発を起こしていると聞いたことがある。その魔力を武器に直接流せば、この結果も納得だ。

 

「これが、あたしの全力よっ!」

 

 背後からメラミの火球がいくつも飛んでくる。ミクワの編み出したメラストーム。それを強化したメラミストームとでも呼ぶのだろうか。ジェネラルダンテはそれを剣で弾こうとするが、一発一発が通常のメラミよりも速く、強大だ。一発弾くごとにその体勢が崩れていく。

 

「がっ!?」

 

 ジェネラルの体勢が大きく崩れ、炎に包まれる。その脇腹には漆黒の魔力の球体があった。ザキ――いや【ザラキ】だ。ジェネラルダンテはザキの魔法に対し耐性を持っていたが、ミクワの強すぎるマホトーンがその魔法耐性まで封じたのだ。流石に死に至らしめるほどの効果は防げたが、死を司る魔力は確実にジェネラルダンテの生命力にダメージを与えている。

 

「あれは……なぜキサマからミミックの気配が!?」

「ザジと同じ、おめぇらの力を借りたのさ」

 

 驚愕の表情を張り付けながら、ジェネラルダンテはドンホセに向かって叫ぶ。

 ザラキを投じたのはドンホセだ。全身傷だらけながら、どうにか一矢報いる力を振り絞ったのだ。そうして崩れたジェネラルの視線は、その横を駆け抜けていくルーク兵士長に注がれる。メラミの火球で氷から解放された彼は、駆け抜けざまに剣の舞を放った。計八度の斬撃が、ジェネラルダンテの身体に確実に傷を負わせていく。

 炎に包まれながらジェネラルは曲刀を防御に掲げるが、剣の舞によってその腕が断ち切られた。

 

「ザジ!」

「ザジ殿!」

 

 瀕死の二人に応え、ザジは跳躍する。魂の剣による身体能力の強化で人間の力では到達できない高度まで跳び上がったザジは、剣に宿したいなずまを集中し一気に斬り下ろす。

 

「これで、終わりだぁあああああっ!!!!」

 

 雄たけびを上げながら放たれた渾身の【いなずま斬り】が、ジェネラルダンテの身体に吸い込まれていく。稲妻が走り、大きく痙攣する魔人は、真っ二つに切り裂かれて崩れ落ちたのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。