「お嬢様、お待たせ致しました。」
会場ホール前で待たせていた篠原さんに、挨拶をする。完全に仕事モードの自分をクラスメイトに見せるのはあまりないので、篠原さんも驚いている。
「え、あはい。では行きましょうか。」
先に歩く篠原さんの後を自分が歩き、そのまま会場に入る。
すると、それに気づいたのか知らぬ男性がこちらに向け、手を振ってくる。それに応じて篠原さんも手を振り返し、その男性の所へと向かった。勿論俺もその後を着いていく。
「うん、よく似合ってるよ莉奈。」
「ありがとうお父さん。」
細身で身長は大体180と言ったところ、顔には黒縁のメガネをかけたこの男性は、どうやら篠原さんの父親みたいだ。
こうして親と会話を交わしているところ親子仲はそれなりに良いみたいだな。微笑ましい光景だから
そんな光景を見ていた俺に気づいたのか、篠原父は俺の手を取り握手をしてきた。
「君が真澄君だね!始めまして二条製薬社代表取締役社長で莉奈の父、二条御陰だ。君のことはここの社長であるお兄さんから良く聞いているよ。自分と同じぐらいできた弟で本当に頼りになるってべた褒めしてたよ。」
おい、そんなふうに言うなよ兄貴。これじゃ俺が完璧超人と同じと言われているんだが、どうしてくれようこの怒り。
とはいえ、嬉しそうに握った手をブンブンと振ってくれる御陰さんの裏表のない表情は、何処と無く癒されるし、この人の気持ちには答えたくなってしまうような、そんな気分にする。この雰囲気は多分親子同じだなと思ってしまう。
「こちらこそ、改めまして不動真澄と言います。今日一日は旦那様とお呼びしますが宜しいですか!」
その一言にようやく手を離してくれた御陰さん。そして、考える間もなく、即答する。
「旦那様……いいねぇ!そう呼んでくれ。」
「では、よろしくお願いします旦那様。不束者で、今日あっただけでは信頼には至らないとはお思いですが、お嬢様の事はお任せ下さい。」
「うん、君なら任せられるよ。よろしく頼む。それじゃ、楽しんできてね。莉奈、不動くん。」
「またね、お父さん。」
そう言って、別の場所に向かっていった。
後もう一度言っておく、これでいいのか篠原家!!兄がそう言ったからと言ってそんなに他人を信用してもいいのか?一応、思春期真っ盛りの男子高校生だぞ!娘さんをそんな自分に任せるとかどうかしてる!
「今不動さん、自分にそんな信頼を置いてもいいのかと思っているよね。」
「は!えぇ、なぜ分かったのですか?」
「顔に出てますよ。今のは私でもわかり易かってたです。けど、あんな感じでも、父は人を見る目がピカイチなんですよ。多分、不動さんの立ち振る舞いとかで、すぐにでも見極めたんじゃないんですかね?」
なるほど…人を見極める力なのか。それにしてもピカイチとはいえ、大きな博打でもある。これが信頼した人で、その信頼をぶち壊す人だとすれば、大きな損害を得ることにもなる。それを瞬時に判断する力はさすが社長の技量といったところか?多分うちの雄也兄さんでも無理だろう。
「では、私は認められたということになるのですかね?」
「そうかも、そのうち、うちの会社にってスカウトとかされるかもしれませんね。下手したら、婿養子にって……それは私も困りますけど。」
「確かに、流石にそれは私も困ります。」
お互いにふふっと笑い合う。彼女と接点がなく話した事も無いため、初めは不安だったものの、話を始めればそれなりにキャッチボーができているて心底安心した。
自分だって年頃の男の子だ、こうやって女性と話すだけで少しは胸が高鳴る。更には、学校でファンクラブができるほどの文武両道の美女である。少しは何かあるんじゃないかと期待をしてしまう。
そんな期待を隠そうと決心した矢先、とんでもないやつが近付いてきたのがわかった。
「真澄ぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「フンッ!!」
自分を見つけるなり、走ってきたブラコンを思いっきりローキックした。ローキックは見事、兄貴の尻を捉え、兄貴はそのまま地面にうつ伏せ状態となった。
地面にうつ伏せになるこのパーティーの主役、それを見て慌てる篠原さん、そして、溜息を着く自分。そんなところに、歩いてくる。宮坂先生と京介さん。
「だから、言ったろ雄也。今の真澄は仕事モードだ、そんな事すると痛い目に見ると知っててやっているのはわかるがもう少し、弟の気持ちを考えてやれよ。」
「だとしてもよォ京介、こうやって俺が主催のパーティーに来てくれる事がとても嬉しいんだよ。これであと2人も来てくれたら良かったのだが……っとぉ、失礼したね莉奈ちゃん。」
「い、いえいえ、ぇー、だ、大丈夫なんですか?」
あわあわと心配する今日限りのご主人様。
「大丈夫大丈夫!寧ろこうやって仕事してるのにも関わらず構ってくれることの喜びの方が勝っているから。」
何かわかっていないような感じで首を傾げる篠原さん。ここは何もわからなくてもいいんだよ。その人が特殊なだけだから。
「にしても、久々だね。莉奈ちゃん元気にしてたかい?」
「はい。雄也様もご結婚おめでとうございます。」
「ん、ありがとう。という事で紹介するよ。妻の睦月だ。」
そう言って隣に来ていた女性。基、自分の部活の顧問である宮坂先生を紹介した。
「……!?み、宮坂先生!?!?」
「ふふっ、金曜日ぶりだね、莉奈さん。まさかこんなところで会えるとは思わなかったよ。」
そう言って今日この場所に来ている理由を説明する篠原さん。最初すごい顔で驚いていたとはいえ、すぐに切り替えて淡々と話していく。その話をに聞いて静かに相槌をする先生。
「なるほどね、わかった。じゃあ学校では内緒ってことでいいのね。」
「はい、秘密ごとになってしまいますがよろしくお願いします。」
「いいの、いいの。私からしたら秘密が増えただけだからね。スミ君。」
「確かに貴方は義姉ではありますが、その呼び方はやめていただきたいです。」
ケチーと口を尖らす睦月さん。あのスミ君という呼ばれ方はなんというかむず痒いし気持ち悪い。なるべく控えて頂きたい。特に学校とかでは。
そんなやり取りをした際、横でソワソワし始めた。篠原さん一体どうしたのだろうか?
「お嬢様。どうされました?」
「あ、あの。そういえば私勝手に不動さんの家庭事情とかを知ってしまっているんですが、不動さんは大丈夫だったりするんですか?」
「どこまで知っているかには寄りますけど。」
「あ、そんなに深くまでは。兄弟は4人で兄が仙道グループの社長で私と同じで苗字を変えているってことぐらいですよ。本当にそのぐらいです。」
アワアワしているが話しぶりからしたらそこまでしかしならないだろう。多分、兄さんもそこまでしか話してないみたいだろうから、俺からしても気にするほどでもないな。
「馬鹿な兄貴がやった事ですし、それだけなのであれば、内緒にしていただければ私は何も言いませんよ。」
「そうですか。なんかホッとしました。」
そう言って胸を撫で下ろす篠原さん。秘密を抱えてちょっと緊張気味だったのかと振り返ればそう思えるところがある。
「それでは私は席を外しますね。」
多分御手洗であろう。しかし、こういった時って傍付きは着いて言っていいのだろうか?いや、勿論中に入らないし、入口で待ち伏せという訳にもいかないだろう。
んーっと難しく考えていると、篠原さんが俺の裾をちょいちょいと引っ張ってきた。
「会場の入口で待っていただければ……」
お、おう、バレバレでしたかね。
「わかりました。ではお待ちしております。」
「では、雄也様、宮坂先生。また後ほど。」
そして、篠原さんはお花をつみに、自分は会場入口では待機となった。
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御手洗を済ませて、私は洗面台にいた。
「とりあえず、良かった。」
不動くんのお兄さんが不動くんの家庭事情を少し話していた事だけれど、本人はそれを知られていてどう思っているか心配だった。
多分、お父さんの話を聞いた時から気づいていたとは思う、だけど、その場で追求してこなかったという事は広まらなければ良いと思っているのだろう。そして、私が彼の事情を話すような人ってわかっていて……
「不動くんも見る目あるよ。」
お父さんほどではない、けど人を見る目はそれなりにある。
彼のお兄さんである。雄也さんや、学校で依頼を受けた先生達が好評する人間ではあるなぁと感じるし、人当たりもいい。
けど、私が昔写真の少女から聞いた話とは違った。
「寧ろ、真反対だよ。」
優しい所は変わらない……けど、基本喧嘩好き、一人称は俺、勉強はできるのに何故かグレているとか、よく少女漫画に出てくるような優男系ヤンキーみたいな印象をしていたというか、もはやそうらしいです。
しかし、初めて会った時には驚いた。高校生デビューしたかのごとく180度変わっていたて、そして今の彼である。
分からないことも多いが、今と前の彼が違う事だけはわかった。
「とりあえず、戻ろう。」
洗い終わった手をハンカチで拭き取り、御手洗から出た入口に誰か立っていた。
「お嬢ちゃん可愛いねぇ。このパーティーもつまらないし、2人で一緒に抜け出さない?」
「いえ、私は楽しんでいますので…」
さらりと出た言葉。嘘のようで嘘じゃない。
いつもは何も思わなかった社交パーティーだが、今回は楽しいと心から思えている。
「えーー。でも、若い人も俺らだけだしね。大人達の仕事話やのご機嫌取りのような会話も疲れるでしょ?だからさ、外に出て空気でも吸いに行かない?」
「私待たせている人がいるので、失礼します。」
そう言って、知らぬナンパ師の横を通り過ぎた瞬間、私の腕を取られる。そしてそのまま壁際に追いやられた。
「やめて!はなして!」
握られた腕には多少の力が込められ逃げる事が出来ない、顔は近づいてくる。
嫌だ、怖い、怖い怖い、反論したいのに声も出ない。何かが私の声を遮ってしまう。
怖気づいてそのまま流されてしまいそうになった時。ナンパ師が私の手をつかんでいる手首にもうひとつの手が現れた。
「お嬢様から離れてください。この下衆。」
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入口で待っていれば、篠原さんのような声で離せと聞こえてきたから向かってみれば、見るからにチャラ男に迫られていた。
見るからに顔が近く、このままだと唇を奪われてしまうところみたいだったな。早めにあの声に気づいてよかった。
自分が手首を掴んでいる相手はこちらをずっと睨んできている。邪魔されたのがご立腹なのであろうが、こちとら信用問題に関わるんでな。その掴んだ手首に力を込める。
「何邪魔してんだよ!!ア゙ァ!!その手を離せよ!いい雰囲気だったろ!!」
「貴方様は脳が沸いておらっしゃるようですね。嫌がる女性に無理矢理迫って何処がいい雰囲気なのでしょうか?その汚い手でお嬢様に触れるな…とっとと離せ。」
自分はさらに力を込める。するとチャラ男は痛がり、篠原さんの腕を話した。
つかまれた腕が離れた篠原さんはすぐさまここから距離を取った。それを確認した自分はは掴んだ手首を離して安堵の溜息をついた。
その瞬間、顔に痛みが走り、右を強制的に向けてしまう。
「人の恋路を邪魔しやがって、殴らせろ。」
どうやら、俺は殴られたようだ。口から血は出てないものの、それなりの痛みが俺を襲う。とは言っても数回だけの喧嘩慣れした拳だろう。力任せで踏み込みが甘いのでそこまででは無いただの見掛け倒し左フックだ。
「ムカついたら手を出してくるとは…ほんとうにこの会場にお呼ばれされた方なんですか?ただのチンピラにしかお見受け出来ないのですが?」
さらに挑発する。先ずは名前とどこの会社か聞き出しておきたい。今後の兄さんの仕事に影響が出さない為にも…
「はぁ?お前何言ってんの?俺の会社知らないのか?」
はっ、っと笑い飛ばすし、そんな事も知らないのか?と言わんばかりの顔をこちらに向けている。
腹は立つが流石に苛立ちはまだ押え冷静を保つ。
「すみません。失礼なお話、貴方様のような人望がなさそうな人、こういった所ではみかけませんので…すみませんねぇ。」
「オイオイ、本当に知らねーのかよ…ウチの会社はエーユー製薬の江雪誠也の息子、江雪誠次だぞ、覚えておけ!」
「エーユー製薬の息子様でしたか、それは失礼致しました。まさか、そんな方がタダの能無しで、威厳なしとは想いもしませんでしたので…申し訳ありません。」
エーユー製薬は日本シェアでもTOPの会社でその江雪誠也さんはウチの親ともそれなりにいい関係を築いていたのは知っていたし、息子がうつけ者と言うのは聞いていたが、まさかこいつだとはな……
「という事でよろしく頼むよっ!」
そう言って、このうつけ物は、近づいてきて右ストレートをかましてくるが、自分はその拳をさらにと躱し、その反動を利用して思いっきり距離を取った。
「お嬢様。仙道様とその秘書である葵咲様を呼んできてください。お嬢様にお願いするのは心苦しいのですが、お願いできませんか?」
「わ、わかった……」
「本当にすみません、それと上着を預かって頂けませんか?」
差し出した執事の上着を篠原さんに差し出す。すると、彼女は無断で受け取り、その場を後にした。とりあえずこれで時間は稼げるかな?
「何逃がしてんだよ!ありゃ俺の獲物だ。カッコつけてんじゃねーぞ!あぁ!」
テンプレートなセリフと似合いもしないメンチをきる江雪。
自分はそんなのセリフに面と向き合うことにした。
「貴様のような親の権力を自分のように使う人間は嫌いでな。どうせ今まで失敗したことないんだろ?親の金とその権力とかで女ども従えてきたみたいなやり口っぽいしな。」
「なぁっ!」
全て相手を焚き付ける為のブラフだったのだがまさか当たりだったとは…
「ハハッ、思ったより最低で良かった……」
「それがどうした?」
そう言って、殴りかかってくる江雪誠次。
自分は江雪からの暴力をサンドバッグのように受けるが、急所へ攻撃は回避しそれ以外は全て自分のみに受ける。
自分でもドMの所業かな?と思う程のものだか、消してそうでは無い。
「大口叩いた割には、お前しょぼいよな!!」
間髪入れずに、拳や蹴りをかましてくる。
「お前が、邪魔するから、殴られっ!てんだ、よっ!」
「許しを乞うまで、やめねー、からよっ!」
相手も相当頭にきていたのだろう。にしてもたった少しの挑発だけでこんなにもなるとは…今後は気をつけた方がいいか?
そうやって、今後の対処法を考えたながら急所を避け続けて5分も立たないうちに物事は自分の考えた通りになる。
「真澄ツ!って……あいつ何やってんだ?」
「やべっ!」
誰かが来たのを知って、逃げ出しそうになる江雪誠次だが、自分は攻撃を受けたそのヨレヨレの体を使い、江雪を羽交い締めにする。
そして、兄貴と京介さんがこちらに駆けつけてきてくれた。後ろには篠原さんもいる…とりあえず、そんなに時間がかからなくてよかった。
「不動さんっ!」
相手の攻撃を受けてヨレヨレになった俺を見て、心配そうな声を出す篠原さん。それに対して、安心しきっているこの会社の2人。
「雄也様、京介さん。エーユー製薬で江雪誠也もしくはその息子である江雪誠次の出席は確認されていますか?」
「京介。」
「はい、社長。」
そう言って、こうなっていることを知ってか知らずか、出席名簿を確認する京介さん。すると、すぐ出てきたみたいで兄貴と確認する。
「真澄。誠也代表取締役社長は来てないが、名簿の方に江雪誠次の名はあった。後、彼は当日記入の方ではなく、招待者記入欄の方に入っているからな。」
一応招待者の方で来ているのを確認できた、勘違いせずに、殴り返さなくて良かったわ。こいつは屑でも、江雪社長とのイザコザは不味いからな。
「では、京介さん。エーユー製薬の代表取締役社長様にご連絡お願いします。そしグファッ!ァァ!」
羽交い締めにしていた江雪誠次が、大人しくしていたと思いきや、肘打ちが繰り出される。
油断していた自分はそれをお腹にモロに直撃し、羽交い締めが緩む。その隙に逃げ出す誠次。
「油断したな、間抜けがァ!」
そう言って、蹲った自分を思い切り蹴り、距離をとる誠次。
咄嗟の事で防御も出来ず、そのまま横脇に蹴りが当たる。素人の蹴りでも流石に痛い、立ち上がるのにも時間がかかる。
「俺の事そっちのけで、訳分かんねー事話やがって!あぁ!こっちは大企業の御曹司だぞ、そんな俺をこんな扱いしやがって……」
自分はよろよろと何とか立ち上がりながら、その言葉を聞く。
こちらが挑発したこともあり、自業自得とは言わないにしろ、流石に馬鹿みたいなことで起こっている。
あいつにそんな、人に何かを従わす権力などない。全て、彼の父親の力である。そんな力を我がものかのように扱っているのが間違いなのだ。
「だから、どうした。たかが御曹司だろう?お前がその会社やこの社会において、どんな権力を持とうが、世間では通用しないんだよ。だからお前はぼんぼんなだけのおぼっちゃまなんだよ…」
この中でただ一人、アイツにだけ効く言葉…
いや、若しかしたら、俺にも跳ね返ってくるかもしれないそんな言葉は、この場を静寂に包む。
「…ぶっ殺す。てめぇだけはぶっ殺す!!」
さっきの言葉で怒りが頂点に達したのだろうか誠次はポケットから鉄塊を取り出しそれを器用に回し、刃物を出現させる。手に持っているのはバタフライナイフのようだ。
「俺を殺す?ハハッ。どうぞ、お好きに?」
「殺すぅぅあぁぁぁぁぁ!!」
怒り任せにこちらに向かってくる誠次。
自分は怖気付く事無くこのボロボロの身体で構える。
これまで暴行を受けてきたのだ、拳の一発や二発かまさねば、こちらの気が晴れることもないし、それぐらいだったら正当防衛にもなるだろう。自分がナイフを持っている相手に対して、それをかわして無力化出来ることを兄さんや京介さんは知っている。だから、誰も俺の前に飛び出さないと思っていた。
そう思った瞬間、誰かが、自分の前に立ち塞がる。篠原さんが、俺が出るという事。それを知る良しもなかった事をたった今、この瞬間に思い出した。
篠原さんは誠次に背を向け立ち塞がる。その全身は震えていて、目を瞑り覚悟をしていたようだ。
「バッカ!!」
前に立ち塞がる篠原さんをすぐさま抱き留め。“俺”は篠原さんごとしゃがみながら向かってくるクズ野郎に足払いをする。
足払いは見事命中してその場に思いっきり足を取られ倒れるクズ。
「兄貴ッ!!」
俺はクズ野郎が起き上がる前に兄貴に向かって叫ぶが、叫んでいた時には、クズ野郎の方に向かってきており、彼を無力化してくれていた。
「大丈夫!怪我はないか!?、無理矢理引っ張ったから、筋とか傷めてないか!?足首は!?捻ったりしてないか?」
抱き留めいた篠原さんを離して、肩を掴んで、慌てて確認する。
「あ、はい、だ、大丈夫…です。」
「本当ですか?違和感とかもないですか?」
「よかったぁ〜」
ようやく、安堵のため息をつく。
気が抜けてしまったのか、体全体が痛み出して、目の前がチカチカしてくる……
プツンと何が切れる感覚がした……
-----------------------
目の前にいた彼がホッとした様子から一転、肩に触れていた彼の手の力がするりと抜けてそのまま私に寄りかかってきた。
「……んッ!?///」
彼が思いっきり密着してきて、思考は真っ白でも、顔は真っ赤になってしまった。そして、変な声まで出る始末。いや待て、落ち着くんだ私。とりあえず冷静に冷静に……
私が不動さんを助ける為に飛び出して来た時逆に抱きつかれて助けて貰った。あのままだと彼は刺されていたかもしれない……と、その瞬間は思った。しかし、あの場にいた彼のお兄さん達は動かず見ていたあたり、彼にはあれを対処できる術がしっかり備わっていたのかもしれないと、今その冷静な判断が出来た。
何故、あの時彼を助けようと飛び出してしまったのかは、今では分からない。
多分、咄嗟の出来事で訳が分からなくなったのだろう。一種のパニック状態みたいなものだったのだろう。
急に密着して来たので、煩悩を振り払うかのごとくすぐさま思考を切り替えるが彼は一向に離れない。
「あの〜流石に離れて頂いてもいいですか…流石に不動さんのお兄さんとかにも勘違いされますし、私もここでこんなに密着されたら流石に恥ずかしいので。」
呼びかけても起きない。し、その後肩を思いっきり揺すっても起きない……
「…!!雄也様!!不動さんが目を覚ましません!!」
不安が先進を駆け巡り、大声を出して彼のお兄さんを呼んだ。私でも驚く程声が出た。
その大声にすぐさま駆け付けてくれた雄也さんは、彼の容態をじっくり観察して、すぐに口を開いた。
「莉奈ちゃん安心していいよ。こいつ、ただ気を失っているだけだから。多分失神だと思う。あと数分もしたら目が覚める。こいつは、俺が医務室に運んでおくから、お父さんと一緒に帰りな。もうそろそろ、パーティーもお開きの時間だ。」
「わかりました。」
「本当に安心してくれ。こいつが目覚めたら君に連絡するように言っておく。後、今うちの秘書が今回の騒動に関して、君のお父さんに伝えに行っているから。」
「はい、ありがとうございます。」
雄也さんは私を宥めてくれたが、結局私の不安が拭われることはなかった。
お父さんが迎えに来てくれて、私達は車で帰路についてた。
お父さんが私の迎えに来た時に、抱きしめてくれたが、同じ男の人でも、父と不動さんでは、また違った温もりを感じ、不動さんの時、私は胸が高鳴っていた事を改めて実感した。
車中では、今日のパーティーと騒動について話をしていた。
お兄さんが話していた通り、秘書である京介さんが事細かに話していたのか、私に聞くことは最小限になっていた。
「にしても、真澄くんには感謝しないとね。一応依頼は聞いてもらったしね。まぁその依頼者に危険を及ぼした事は褒められたことじゃないけど、信頼してもいいと僕は思うよ。」
「私もそう思う。と言っても、ナンパに絡まれたのも、危険な目にあったのも、私のせいだよ。」
「え!?そうなの?僕は京介君からは莉奈は何もしていない。ただ真澄くんがやり過ぎただけだ。と、そう聞いていたんだけど?」
食い違う。多分、京介さん事実を少し曲げてして伝えたのだろう。私が依頼者だから、全部その依頼を受けた不動さんに責任を押し付けた……
いや、あの人達はそんなことはしない。多分不動の意志か、彼に関するなにかが関わっているのだろう。
私は話の食い違い部分を全部話した。
「そう、だったのか…なんで隠したんだろうって言っても事実を話したら莉奈を叱ると思ったのかな?それとも何か誰かの意思が関与しているのか……まぁ、僕には分からないけど、事実を話してくれてありがとう。」
「なんか、全部不動さんのせいにするのは気が引けるから。」
「そうか…今日は彼に関して何かわかったかな?」
「彼は権力が嫌いなんだと思う。そして、それがあの事件で酷さがまして、本心まで、抑え込むほどに。」
彼が本心と思われる言葉を言った際に一人称がこれまで使うことのなかった“俺”に変わっていた。
これは私の予測でしかない、そして、彼があの事件の真相を何処まで知っているのかも分からない。だけど、今日一日いてわかったことがある。
彼は写真の女性が言った通りの人間だ。本心と思われる発言をした際の口調と雰囲気が、聞いた通りだった。
多分、基本誰にも見せないだけで根っこの部分は変わっていないはずなのだ。
決めた…
「お父さん。突然だけどさ……」
最近ナマケモノ投稿してます。僕です。
さて、唐突ですが、次回で第1章を終わらせます。そして、リニューアルさせます!!
まぁリニューアルと言っても内容がガラリと変わる訳ではありません。
小説名が変わったり、あらすじが変わったり、1部内容が増えたり削られたり細部が変わります。
という事なので、次回第1章最終話気長にお待ちください。
それでは、また何処かでお会いしましょう。
バイバイ