パーティーから2日後、自分は、いつも通り部室でお客を待っていた。
あの事件の後、気を失った俺は本社医務室で目を覚ました。俺からどれくらい気を失っていたのだろうと、京介さんに訪ねるとたったの15分ぐらいとの事らしい。
あれから、篠原さんの胸の中で気を失った後、パーティーは終わり、江雪誠次は親から勘当を言い渡されたらしい。
どうやら、あちらもこの事は大事にしたくないらしく、エーユー製薬と二条製薬、そして、うちの兄の関係もそのまま維持になったらしい。
俺は目を覚ましたあと、すぐさま依頼者であった篠原さんに電話で謝罪をした。篠原さんとの謝罪の電話から伝わってきたのは信頼と心配だった。彼女の「守ってくれてありがとうございました。」と言われた時、自分は本当の意味で安心したが、彼女には心配をかけただろう。
そんな電話の中に登校日に時間が欲しいといった内容の話があった。
という事で今日、こうして部室で待っているというわけになる。
「疲れ、とれてないのか?」
スマホを弄りながらこちらに話しかけてくる翼。彼は俺一人で依頼をこなしていることを知っている。まぁ、依頼者と内容は話してないのだが、疲れが目に見えて出ていたのかもしれない。
「疲れてない……って言いたいところだが、こう、精神的な疲れは残ってるかもな。」
「なんかしたのか?」
「……やらかした。」
その一言に驚いたのか、こちらを向きてからするりと落ちていくスマホを自分は目で追った。
「スマホ、落ちたぞ。」
「いやいやいやいや、え!?あ、スマホは多分大丈夫ってそうじゃぁねーーーっての!!」
「そんな、驚く事か?」
「お前!驚くも何も!?え、お前がやらかしたって!?完璧超人のお前が!?」
顔がどんどん近づく。
「近い近い!!ちょっと離れろ。興奮し過ぎだ。」
自分が翼と距離を取ろうとした時、ノックのないまま、部室のドアが開く
「しっつれいしまーす……へ?」
部室に入ってきたのは柚木さん。
自分は近づいてきた翼を剥がそうとしている状態。それを目撃した柚木さんは間抜けな顔をした後、みるみる顔を赤く染め上げていった。
「た、たたたたったっくん!?もしかして、これは……BとLな感じなの?」
「「え!?」」
その発言に、自分と翼は目を合わせた。
確かに今のこの状況は、無理やりキスしようも迫ってきた翼を引き剥がそうとしている風にも捉えられる。
「そういうのは、いいかもしれないけど……流石に学校の敷地内、部室の中は…その、はしたないというか……」
「「違う!!」」
同時に否定をした後、翼は柚木さんに近づき、方を掴んで説得している。
「俺と真澄は、そういった関係じゃないし!!友達で部活仲間!!それ以上でもそれ以下でもない!あと!!俺の好きな人は女性だっ!こんな完璧超人では無いし、男でもない!」
柚木さんはその勢いに圧倒されながらうんうんと頷く、少しは落ち着いたか?
自分が慌ててる以上に慌てた人を見ると少し落ち着くやつだな。
「そうですよ。こんな脳筋自分もごめんですよ。後、自分も恋愛対象は女性だけですので、こんなゴリラ願い下げですよ。」
「おい、聞いてれば脳筋だのゴリラだのバカにしてんのか?お前だって成績は同じぐらいなはずだぞ!」
「成績は、な。」
そんなイザコザをしていると、柚木さんが笑い始めた。
「アハハ、確かに仲のいい友達みたいだね。いやー、最近友達にそういう本を勧められていたから、てっきりって思っちゃったよ。ごめんね。」
そう言って、恥ずかしそうに答えてくれた。
「それで、柚木さんは何用でここに来たんですか?」
「おっと、そうだそうだ。これ!」
そう言って、渡された大きめの茶封筒。
それを受け取り中を取り出し確認する。
「入部届と、なんですかこれ?推薦書?みたいな…」
「入部届?なんでユノが?」
「推薦書のようなものには、調理部の部長さんと顧問の先生からですね。」
「うん、先生と部長に頼んで作ってもらいました。この部活に入りたくて。」
「そうですか…」
どうしようか悩んでいると、ノックの音がした。
そういえば突然来て掛け看板の表示を変えるのを忘れていたな。
その後、ドアノブを回す音がして、空いているのを確認したのか、ノックの主がそのまま部室へ入ってきた。
「失礼します……と、御取り込み中ですか?」
姿を見せたのは篠原さんであった。
「あ、しのりん!!」
「由乃さん。」
どうやら2人は知り合いらしい。
柚木さんは勢いそのまま篠原さんへ抱きついた。
勢いと思いっきしの良さで篠原さんはあわや倒れそうになるが、何とか耐えたみたいだ。
「ちょっと…待ってください。あの、少し苦しいです。」
「むぅふふふ。もう少しもふもふさせるのですよ!!」
あ、可愛い系と綺麗系の子同士がゆりゆりしている…なんというか、見てはいけないような。けど、凄くイイ。取り敢えず言えることは、百合の間に割って入る男は殺したるって事か…
「真澄さん。」
「なんですか、翼さん。」
「ご飯何杯行けますか?」
「そりゃ、3杯でも4杯でも。」
そういうと、大きく頷く翼。我ながら酷い内容と共感の話をしてしまった。仕方がないよね。自分だって年頃の男の子ですもん。あんな素晴らしい風景を見て、何も思わないとかそんなことは無い。
いやいや、今はそんな事じゃなくて、早く篠原さんから要件を聞かねば……
そう思い、口を開こうとした時、柚木さんが先に話し始めた。
「ん?しのりん、その今持ってるものって何?」
柚木さんの抱き着きの力が緩んだのか、されるがままだった篠原さんは彼女の腕からするりと抜け、持っていた紙を自分に渡してき
た。
「これは報酬です。」
そう言って渡した紙には『入部届』と書いてある。
「篠原さん。知っての通りうちの部活は報酬を受け取らないんです。それに報酬がこれって……」
なんと大胆な!これじゃ私が報酬ですなんて言っているようじゃないか……いや、これは自分の心が穢れているからだ。
仕方がないよねっ!
そんな邪念を振り払っていると、柚木さんが近づき、俺の手元を覗き込んできた。
「え!?しのりんも入部希望なの?」
「由乃さんもですか?」
「うん!って言っても、こうやってしのりんと同じく入部を渋られてるけどね……」
そういうと2人して自分の顔を同時に見つめられる。
「どうしてそんなに、この部活に入部したいんですか?はっきり言ってこんな面倒で偽善で、見返りのないし、人によっては感謝もされないこんな仕事をなんでしたいんですか?」
はっきりと言う。
この部活は自分が自分による自分の為の踏み台であり、自己満足する為の部活だ。他人からも踏み台や厄介祓い等の扱いも受ける。そんな、偽善の場だ。偽善者の戯れだ。
何も出来なくて、守られて、そして、自分が嫌いな権力と大きな力で全てが解決してしまった『あの事故』の時のように無力な自分で居たくないだけ…
それだけの為、自分が誰かから必要とされて、それを自分だけの力で解決する場所が欲しかっただけのこの部活なのだ。
そんな捨て場所のような部活に彼女らを巻き込んでは行けない。
翼は自分から入部の話をした時あいつはこの場を踏み台にしてもいいといった覚悟の目をしていた。それだけ叶えたい事があるということだ。バスケ部の助っ人で初めて会った時から目の前のこの場所は眼中に無く、ただの通過点だという未来を見据えた人間の目をしていたから誘おうとした。
“こんな場所には彼女らには相応しくない”
「手順を踏んでいるだけで、私は無理やりでも、この報酬は受け取ってもらいますよ。」
ニコニコしながらとんでもない発言をしてきた篠原さん。
「なんなら、一緒に由乃さんも一緒に行きましょう。そうしましょう!!」
「えぇ!!け、けど、うちの学校は、教師が勝手に部員を入れて、部員達の混乱を招かない様に、部長に入部届けを出して、それを担当教師に渡すって、決まりになってるじゃん!」
柚木さんが言う通り、教師と部長が部員を把握でき、勝手に部に入れないような仕組みになっている。
どうやってそんな抜け道を使って部活に入ろうとするんだ…というか入部手続きに抜け道とかあったのかよ。
「はい。ですけどこの部活の場合通す事が出来るんですよ。これは、“この部活”で部長が“不動さん”だから出来る抜け穴なんですよ。」
一呼吸して、篠原さんは続けた。
「私、依頼を持ってきた日に聞いてしまったんです。この部活部員が足らなくて、今年中に規定人数を揃えないと、廃部になってしまうというお話を…」
「……聞かれていたんですか。」
「部室に着いた時に、そういう話をしていたので、消して盗み聞きした訳ではないです。」
「いえ、疑ってませんよ。」
「それなら良かったです。」
安堵したのか、ホッと息を着いた篠原さん。
「それで、あの依頼を受けてもらった後に、生徒会長にここの部活は部員を募集しているか等を聞いたところ、『もし、入部の際に真澄に断られたら、俺に言ってくれたら問答無用で通すから。恩人である俺の頼みを無下にする事はアイツには出来ないからな!』というお話を受けました。それと、依頼の日に宮坂先生からも、『よろしくお願いします。』というお言葉をもらいました。」
笑顔は崩さず、『貴方には受取拒否出来る逃げ場はありません。』とそう伝えられた。
「ごめんなさい。無理やりな事をしてしまって。でも、何故頑なに部員を入れたがらないかは分からないですけど、もしかして“過去のあれ”が原因ですか?」
その言葉に全身から嫌な汗をかいた。
何故篠原さんが事故の事を知っている…確かにあれはニュースにはなった物の名前等々は伏せられていはずなんだ。兄貴や相手側の権力を使って伏せられている…はず…
いきなりでた、“過去のあれ”という単語に混乱と同様を繰り返し、冷静な判断が出来ない。何故、どうして、が頭の中をぐるぐると駆け回り、周りの音さえも聞こえないぐらい、どうしようもなくなっていった。
「おい、聞こえてるのか真澄!!」
「なにがだ…」
「お前が過去不良だったって話!って、大丈夫か?お前顔色悪いぞ。」
「そうか、で、誰が不良だって?」
「ん、お前だよ。お前。たった今篠原さんがそう言ってた。」
篠原さんが?というか不良って確かに中学時代の俺は酷いもんだったけど、不良はないだろ。
「不動さんは過去、不良でそれの償いというか、真っ当に1人で人助けしたくて、この部活を立ち上げたんじゃないんですか?」
「では、篠原さんが知っている過去って、この事ですか?」
「はい、これですよ。これ以外は今の不動さんしか知りません。あ、これもお兄さんから聞きましたよ。」
「そう、ですか。」
不安だったものが全て解消されたのか、思考でぐちゃぐちゃになっていた脳内がクリアになった……途端に、恥ずかしい事を暴露された事がまた思考で埋め尽くす。
え!?はっず!というかなんで知ってんだよ!!いや、ちゃんと言ってたなクソ兄貴がまたべらべらと喋ったみたいだ。
「あれ?不動くん。顔真っ赤になってる。」
「ほんと、珍しいな。真澄がこんなになるなんて。」
あぁ、依頼でもやらかして、今日は過去を暴露されて……なんて日だ。
「さて、不動さんの秘密を打ち明けた以上、この部活に入部させなければ、これを広めます。という脅しも聞くようになりました。さて、どうしますか?」
「わお、しのりん怖い……」
怖いも何も、チェックメイトじゃないか。
もうやれる手立てはない。
しかも、ここで柚木さんだけ入部拒否という事が出来ない状態にまで詰んでいる。
「お手上げですね。2人とも入部を認めます。」
「……いいの?私何もしてないけど。」
「なにもって、しっかり準備してきてたじゃないですか、あそこまで推薦されれば充分ですよ。」
「よかったぁ。」
安堵する柚木さんを見た後、自分は篠原さんに目線をやる。するとそれに気づいたのか、バツが悪そうにこちらを見てきた。
「本当にごめんなさい。私がやった事は不動さんにとっては不愉快な事をしましたし、あらゆる汚い手をつかいました。
こんな事を聞き返すのは何ですけども、こんな私を、本当に入部を認めていいんですか?」
「怒っていませんが、あんなえげつない事をしておいて、今更ですか?」
「え、えげつない……確かに……」
「ですが、この場合。最後まで準備が出来ている人が勝つのは当たり前です。今回は自分の完敗という事で、これからよろしくお願いします。」
「はい、よろしくお願いします!」
自分は正式に2人から入部届けを受け取った。
部員探しを本格的に始める前に、あっけなく終わってしまったが、ここからこの部活にさらなる異変を持ってくる事を期待して
さて、今日も支援しますか…
第一部最終話です。
後は補足話兼描きたい話数があるので、それを間幕として入れて第二部を始めたいと思います。2部はいつになる事やら……
さて、今まで見ていただきありがとうございます。
また間幕、2部で会いましょう。
バイバイ
あ、第一部リニューアルしますよ。
今のやつを再編集するので、2部が始まるまでまた1からたのしんで下さい。