どこまでも蒼い空、白い雲、そして地平は続く事はない。
そんな事を考えながら、果てしない空を眺める。
こんなきれいな空を私は知らない筈だった。
もしくはこれ以外の空しか私は知らない筈だったのではないだろうか。
そんな時、遠くから私を呼ぶ声が聞こえる。
振り返れば、元気よく走ってくる少年とその隣を飛ぶ赤い生き物。
その一人と一匹の姿がはっきり視認できる頃には、間違い用のない、私の大事な人たちだと判る。
少年が息を切らせて私の前で立ち止まり、私の顔を見るとぱっと花が咲いたように笑った。
「探したよ、ジータ!」
私も笑顔を彼に返す。
「どうしたの? グラン」
「あのね、あっちに、こんなに大きな甲虫がいてね!」
「おい、グラン、もうちょっと落ち着けって」
すぐそばに浮かぶ小さな相棒の言葉も耳に入らない様子で興奮しきった彼は待ちきれないという風に私の手を掴んだ。
「とにかく、すごいんだ! はやく! ジータも見てよ」
ぐいぐいと引っ張る彼に私は小さく笑う。
「もう、しょうがないわね」
仕方なく彼に手を引かれるままに後をついて走り出した。
「ビィもはやく!」
「おう、いま行くぜ!」
と答えた赤い羽根を生やした
「まったく、どっちが上かこれじゃあわかんねえな」
そんな呆れを大いに含んだセリフは私達の耳に入る事はなかった。
▼▼▼
「ほら!見て!ジータ!」
瞳をキラキラさせながら指さすそれは立派なツノの生えた黒光りする甲虫だ。
確か、カブトムシ、だったような気がする。
かなり朧げになりつつある
男の子がこの手の虫に興奮するのはどこの世界でも共通らしい。
落ち着きなくはしゃぐこの少年はグラン、私の双子の兄だ。当年9歳。さもありなん。
対して年不相応に落ち着いた態度でやや引き気味の笑顔で返す私も同じく正真正銘9歳になる。
年齢詐欺などしていない。この世界で生まれ育って9年になる。
ただし、私には前世の記憶なるものがあったりする。何年生きてたかまでは覚えていない。
大人だったのは覚えている。
そんな曖昧な中、一際鮮明に記憶に引っかかったものが『グランブルーファンタジー』と呼ばれるものだ。
主人公は性別切り替えが可能のゲームだったと記憶している。
いま住んでいるこの世界、そのゲームと世界がそっくりなのだ。
そっくりどころか、世界観とか地名とかそのまんまだったりする。
「ねえ、ジータ、きいてる?」
「うん、もちろんよ、グラン」
加えてこの名前である。
ゲームの主人公のデフォルト名が男の場合は『グラン』、女の場合は『ジータ』である。
前世の意識が強ければ、ゲームの世界だやっほー、などと喜んだかもしれない。けれど、私の場合は
この記憶を思い出した当初はこの事実をどう受け止めていいか解らず、かなり不安定になり、グランに多大な心配をかけてしまい、挙句、何故かグランまで不安定になる事案が発生。
結局、自分どころの話ではなくなった為、その問題をぶん投げて、グランに立ち直ってもらうために全力を注いだのは今となっては良い思い出である。
それ以降、グランの瞳に陰が挿す事はなくなったと思う。
願わくば、全く同じにとはいかないまでも、私の前世の記憶にある感じの明るく前向きなグランに育ってほしい。