ソウルイーターRTA パイルバンカーデスサイズチャート   作:雑魚E

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遅れました


Part13:矢印の向く方向

 

当初のチャートから外れていくRTAはっじまぁるよー

前回ミフネと戦いあんまり役に立たないスキルを引いたところからです。

 

 

 いきなりですがメデューサが魂を逃がした蛇が子供の体を乗っ取るムービーが挟まります。キャンセルで。

 

 次のストーリーイベントまで時間があるので、それまで汎用依頼と特訓をこなしながら、毎日クロナのところへ通い詰めて時間消費の無い雑談一回のみで友好度を稼ぎます。

 

 クロナのメデューサ決別死武専ルートに入るとちょくちょくメデューサがちょっかい掛けてきますが、鬼神戦が大幅に安定、高速化するので決別ルートを採用します。

 

 特に注意する点はありませんがあえて言うなら連打で会話二回目を選んでしまうと時間が消費されるのでそこぐらいです。毎日お話しして友好度稼いでイベントを起こす……ギャルゲかな?

 

【「うじゅ……」】

 

【『>・雑談』】

 

【「あ……うん……」】

 

【『クロナと雑談を楽しんだ……』】

 

 これだけです。雑談汎用イベントはロードも無くテキストメッセージも短く、ガッツリコミュするよりも毎日少しづつ雑談であげる方が結果早いです。そもそもコミュはランダム要素があるので計算が面倒です。即興チャートなので固定値で計算を楽にします。

 

 稼ぎの目安ですが挨拶の文が変わったらルート変更フラグの前準備終了です。その後、メデューサの生存を伝えればフラグが立ち、マリー先生に盗聴器を仕掛けるイベントで盗聴器を渡してもらえます。

 

 任務受けて少女と戯れてクロナと雑談するだけなので加速。

 

 ここでクロナ死武専ルートについて、お話しします。

 クロナ死武専ルートとは、その名の通りクロナが離脱せず、死武専に所属し続けるルートをクロナ死武専ルートと言います。

 クロナが自分の意志で前を向いたり、メデューサの中にわずかにあった母性と家族愛が見えるのが特徴のルートです。プレイヤーの中にはメデューサの心情について解釈違いがあるとして好き嫌いが分かれるルートですね。

 

 でもこの動画ではイベント完走しないから安心! そもそもイベント完走には一回ストーリーをクリアする必要があります。クリア前に終了する選択肢もありますが最終ステータスに違いが出るので実質罠選択肢でしょう。

 

 そもそもメデューサはテスカトリポカに魂を映さ

 なんで等速に戻す必要があるんですか?

 

 

【「あ……ども……」】

 

 はやこいつもう終わりかいな

 挨拶文が変わったので必要友好度は大丈夫そうです。

 

 ペルソナ付いてるおかげで早めに終わったみたいですね。役に立ったな。すかさずここでメデューサの生存をタレコミます。

 

【『>・雑談:〔記憶した魔女の魂〕』】

 

 なおここでのキーワード選択でメデューサを選ばないように。普通に昔話されてフラグが立たずに終了します。

 しかしメデューサと邂逅までに間に合って良かったです。前提としてクロナがメデューサと会う前までにこっちからメデューサの生存を伝えておく必要があります。

 

 後はもう友好度稼ぎはいらないのでパーティーイベントも蹴って盗聴器イベントまで待つだけです。イクゾー(ボンバーマン)

 

【『今日の授業はアラクノフォビアに対する対抗授業だ』】

 

 おっと、その前に対抗授業の班決めがありましたね。順当に行けばオックスキムキリクの班にぶち込まれることでしょう。

 

【『あなたのチームはオックス、ハーバー。

  キリク、ファイア、サンダー。

  キム、ジャクリーンと一緒のチームなった』】

 

 順当。ナニモイウコトハナイ

 

 はいはい加速加速!

 

 

【「会いたかったわ、クロナ」】

 

 オォン、メデューサ生存ムービーが来ましたね。この後のマリー先生に盗聴器を仕掛けられるイベントが盗聴器をホモ君に渡してもらえるイベントになります。

 

【「エルカ、例の物を渡して頂戴」】

 

 お、この後ですね、テキストは連打。

 

 

 

【「マリー先生……実は、相談したいことがあって……」】

 

【「ん、そうね……もうちょっとで仕事終わるから

  うちに来る? お茶でも飲んでゆっくり話しましょう」】

 

 ん? このイベントってマリー先生の家まで行ったっけっかな?

 

【「ゲコ、うまくやれた?」】

 

【『ただいま』】

【『おかえりシュタイン』】

 

【「ゲココ、聞こえる聞こえる♪」】

 

 ンアッーー!

 

 盗聴器貰えてないやん! 盗聴器が欲しくてクロナに媚売ったの!

 どぼじでごん"な"ごどに"な"っ"だの”おおおぉぉぉ!

 

 さて、クソどうでもいい茶番は置いておいて冷静になって考えてみましょう。

 

 クロナルート分岐に必要なのは友好度とメデューサに会う前に生存を伝えることの二つがフラグになります。

 今回はしっかりと生存を伝えているので友好度が怪しいですね。

 ですが話しかけた時の文章はちゃんと変わっていました。では何がいけなかったのか。その謎を解明すべく我々はwikiの奥地へと向かった。

 

 wiki情報によると会話文が変わる友好度はイベントに必要な友好度より低いみたいですね。

 

 これやんけ!!

 これ!1!

 やんけ!!れ!

 

 ですがまだ終わっちゃぁいません。まだリカバリーは可能です。

 

 このイベントはクロナがコミュ可能キャラになってからメデューサに会うまでの時間が短いことから厳密にはメデューサの生存を先に伝え、その後友好度を稼いでも大丈夫です。

 欠点と言えばもうBREWはどうしようもない事です。無理すれば仕掛けられた盗聴器もどうにかできますがさすがにリターンが見合いません。BREW死武専確保ルートの方が微妙に早い程度なので。

 文章が変わっている所からほぼラインギリギリの状態だと言うことは分かっています。多分パーティーに参加していれば足りたぐらいに。もったいない。覆水盆に返らず。

 

 それと文章が変わった後に雑談もしていましたがメデューサ生存のタレコミはルート分岐で必須ですが、疑惑値が上がるだけで友好度が上がらないイベントなのです。ですから、あと一回雑談してもう一回話しかければ大丈夫でしょう。

 

 やはりチャートに無いきちんと調べてないイベントを挿入してはいけない(戒め)。

 

 まぁもう引き返せないんでこれからも続けるんですけどね。ハハッ(夢の国チキンレース)

 

 

 

 お泊り室へどーん!

 クロナァアア!

 お前がやったんだろ……お前がやったんだろ!?

 

【「…………あの。これ……」】

 

 良かった。無事に発生しました。

 

【『クロナから【メデューサの発信機の抜け殻】を受け取った』】

 

 けっ、ブツを受け取ったらこんなじめついた所に用はねぇ、二度と来ねーよぺっ

 後はマカと宜しくやってなさい。

 

 しかしマカと宜しくヤったら百合なのかノーマルなの

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

――――――

――

 

「や、クロナ」

 

「あ……ども……」

 

 北条 基。このヒトは僕の事をよく気に掛けてくれる。

 

 

「はいこれ、いなかった時の授業のノート」

「今日は気圧が低いらしいから無理しないようにね」

「あぁ、この先に人が結構たむろしてるみたい。……別な道通るかい?」

「しんどくなってきた? はいこれ、毛布と耳栓。あっちにベンチがあったはず、今なら人が居ないよ」

「お疲れ、ゆっくりでいいからね」

 

 

 外に出たがらない僕に毎回付き添ってくれて、僕に負担にならない距離感でずっと居てくれる。僕が何か困ってしまっても何も言っていないのにすぐ気づいて解決してくれる。

 

 

「ほらこれ、人に話しかけられたとき、あらかじめ決めた文があれば受け答えしやすいんじゃないかな?」

 

 そう言って一緒に作った”自己紹介カード”は基もマカも居ない時に大いに役に立った。少なくとも、話しかけられて、無言でお泊り室へ逃げ帰るようになることは少なくなった。本当に。

 

 何人かは新しく……その、友達、も出来た。

 まだどうしていいかわからず逃げてしまうことも多いけれど、数は少ないけれど友達に助けられて、その、楽しく、過ごせてると思う……タブン……

 

 死武専は世界の警察を担い、そしてそれを育てる機関であるから押しが強い人が多い――ちょっと多すぎる、よ――

 

 マカやマリー先生もよくしてもらってるけど、二人が言う様に友達は全く作れなかった。

 最初はマカと親しい友達と少し仲良くできたぐらいだ。

 

 そんな僕に友達が出来たのは、基による所が大きい。

 基はまず、僕にどうして友達を作ったほうが良いかの説明をして、僕の意見を聞いて――と、言っても僕は全然喋れなかったのに、すぐに理解してくれた――

 それで、僕が頑張れる範囲での人付き合いの仕方を教えてもらった。

 

 そして接しても消耗しないヒトたちを紹介してもらって、いろんな話を聞いて、いろんな話をして、いっぱい失敗して、同じ数だけ立ち直らせてもらって、手伝ってもらいながらも、友達を立ち直らせたりして……

 

 人の暖かさを、知った……と、言うよりも、理解し直した……?

 

 僕の母……、メデューサさまは思い返してみれば、方向性はズレていたけれど、そこに愛はあったように思える。

 だからこそ、今、世間一般の言う普通の情と言うものが受け入れ難かった。でも、完全に普通である必要はないと、基が教えてくれた。示してくれた。

 

 今でこそ自分が変わったと思えるけど今ここで思い返すまで自分が変わったとは思ってなかった。

 

 今では授業に――後ろの端の方でだけど――出て、友達とお話しして、遊ぶ約束をして、明日を楽しみにしながら眠りにつく。

 ちょっと前までの僕が聞いたら信じられないんじゃないかな。

 

 

 でも、僕の友好関係は広がったけれど、深くはない。

 僕が初めて自分から、自分だけで作った友達も、今では基の方がずっと親しい。

 その友達の、むずかしい課外授業の達成祝いに何か送ろうと思っても、苦手なものも、好きな物も分からない始末だ。基が僕より親しいことはあまり寂しくはないけれど、全然友達の事を知れていないことに、自己嫌悪と、少しの焦りを感じる。

 

 けど、そうしてウジウジして何もしない事は本当に何にもならないことを教えてもらったから、お祝いは送ろうと思う。

 ……基に相談することになるけど。

 

 

 基に相談するとあっさりこともなげにと答えてくれた。その友達はお菓子が好きらしいので基のおすすめの店を紹介してもらう。

 ……知らなかった。必要になるまで知ろうとしなかった。気持ちが後ろ向きになってくるがひとまず反省会は後回し。基とその店へ向かう。

 

 僕は、基やマカ、みんなに貰ってばかりだ。迷惑をかけっぱなしだ。

 

 でも、貰ってばかりじゃなく、僕もいつか、少しずつだったとしても――

 

「返していきたいな……」

 

「ん? どうしたの、クロナ」

 

「ぇあ?」

 

 どうやら、口に出てたらしい。

 こういう時、基には隠し事が通用しない。最初から正直に話したほうが基の時間を奪わないで済む。

 

「えっとね、僕は……皆に……その、迷惑ばっかりかけて……」

 

「死武専の皆は迷惑だったらバッサリ言う人ばかりでしょ。

 嫌だったら離れていく人ばっかりだよ」

 

「うん、そうなんだけど、そうじゃなくて……

 その、どうして、僕に……僕の、傍に居てくれるの?」

 

「友達の傍にいることに明確な理由は必要かい?」

 

「その、僕も……友達の力にはなりたいけど……

 何も、返せないから……」

 

「クロナ、もう、貰ってるよ」

 

「え?」

 

「クロナは友人のために贈り物をしようとしている。

 しかもその理由は借りを受けたからじゃなくて純粋にお祝いをしたいから。

 そういう選択が出来るのは素敵だと思うよ」

 

「でも……それは、普通だから、そうしようと思って……」

 

「確かにそれが良いとは教えたけれど実行に移したのは君だ、クロナ。

 結局は他人にどんなことを言われたりされたりしても選ぶのは本人でしかない。

 ま、例外や特殊なことがあるから僕の想定してる前提では、って付くけど……」

 

 そこまで言って、並んで歩いていた基は少し前に出て僕に振り返る。

 

「君が昔魂を集めていたのも君が決めたから。

 君が今友達のために思いを伝えようとしてるのも君が決めたから。

 君がどういう生き方するかは君が決めることだ

 ……死武専の規範に沿って欲しい、友人でいて欲しいと思って色々言っているのは僕の都合だ。」

 

 僕を覗き込む基の瞳は黒く、どこまでも深かった。

 

「友人関係なんて損得じゃないし……

 まぁそれなりに打算とかはあるだろうけど……

 クロナは頑張って、今のクロナなりの世界を創ってる。

 その中で、皆に対する感謝の気持ちとか、頑張ろうって向上する心とか、今回みたいに誰かのために動けるところとか、本当にたくさん、僕が欲しい物を、持ってるよ。

 だから、僕はクロナと一緒に過ごしたいんだ」

 

「それって……?」

「ぴぃぎゃああああぁあ!!まだるっこしぃ!!

 ンだそれ!? 話が繋がってねぇ上に結局答えてねぇじゃねぇか!!」

「ラグナロク」

 

「ははっ、ごめんごめん、持論を語るとどうしても話がズレってっちゃうんだよな……

 そうだな、貰ってるってのはクロナの迷惑をかけたくないって気遣いや、返していきたいって気持ちをたくさん貰ってるってことかな、分かるからね」

 

「でも……思ってるだけじゃ、変わらないし……」

 

「クロナは、気持ちだけもらっても役に立たないから要らないと思うのかい?」

 

「そんなこと……!」

 

 ……そういう……こと?

 でも、僕はあまり口に出して伝えられないし、僕の気持ちなんかが、対価だなんて、おこがましい……

 

「計算じゃなく、素で人の事を思える人は、一緒に居て心地いいよ。

 言えなくても、伝えられなくても、分かるからね、僕は

 ……気持ち同士が釣り合わないなんてことは無いさ」

 

「あ……うん……」

 

「ま……不安になったらとりあえず美味しい物食べて、暖かくして何も考えずにたっぷり寝るのが一番だよ」

 

「そうだ!! 菓子屋に行くってのに何止まってんだ!! 早く食わせろ!!」

 

「そうだね。

 ごめんね、行こうか。

 お詫びにラグナロクに何か奢ろう」

 

「なぁにぃ?

 ……お前ぇ……話が分かる奴じゃねぇか」

 

「僕はクロナから欲しいな~」

 

 歩き出した基がおどけたように語尾を上げてこちらを伺う。

 

「あ、うん。

 が、頑張る」

 

 小さいけれど、いつものお返しが出来る。頑張ろう。

 

「じゃあ、交換っこしようか」

 

「え、でも、いつものお返ししたいから……」

 

「じゃ、お返しのお返しだ」

 

「えぇ……?」

 

 どうしよう、無限ループだよぉ……ループとの接し方が分からないよ……

 

「はは、

 さ、もうちょっとで着くよ」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 基が案内してくれたお店はこぢんまりとした温かい雰囲気の洋菓子屋だった。

 今回は贈り物だから足の速いものは買えないけれど、シュークリームや各種ケーキなどいろいろなお菓子を取り扱っていた。

 

 基が言うには、プレゼントを送ろうとしている友達は甘いものは好きだけど、チョコと、コーヒーも苦手らしい。

 

 友達にはナッツが入ったクッキーを、基にはラングドシャクッキーを丸めた……所謂シガレットクッキーにホワイトチョコを掛けたものを選んだ。

 

 

 会計を済ませて路地裏のちょっとした公園のベンチに座る。

 ここは碌な遊具もないせいか人が来ない。でもキチンと清掃が行き届いておりゴミもなく、過ごしやすい公園だ。

 

 ここはマカに教えてもらった。直射日光も射さないし、それでいてほどほどに明るいし、静かだし外で読書したいときに使うんだって。

 

 友達に送るクッキーをベンチに置き、自販機で買ったお茶のリングプルを開け一口飲む。

 ラグナロクは缶を噛んで穴を開けもう全部飲んでしまった。

 

「はい、まずはラグナロクの分ね」

 

 基が取り出したのは透明な袋に入ったブローチのようにきれいなキャンディクッキーだった。

 

「へへ、やったぜ」

 

 ラグナロクは袋をひったくり上を向いてざらざらと口に入れる。

 もう、せっかくきれいなんだからもうちょっとゆっくり食べても……

 

「いい歯ごたえだ、気に入った

 もっとくれてもいいんだぜ?」

 

「また今度買ってくるよ」

 

 基は苦笑いしながらもう一つの袋を取り出す。

 

「はい、どうぞ、クロナ」

 

「ありがとう……

 えと、これ、僕、から……」

 

「有り難う」

 

 紙袋の中を一緒に確認する。

 

「わ……!」

 

 紙袋の中、さらに包装されて入っていたのは小さく、白く、まんまるのクッキーだった

 

「スノーボールって言ってね、冷たくはないけど口溶けは雪みたいなクッキーだよ。」

 

「へぇ……かわいいね」

 

 基も紙袋からクッキーを取り出す。

 

「これは……チョコ掛けシガレットか

 ありがとう。ホワイトチョコ好きなんだ」

 

 交換したクッキーを二人で食べる。ラグナロクに何個かとられたから二人じゃないか。

 それを見てた基にシガレットを貰ったり、ラグナロクがゴネて結局基から貰ったり、そのお返しにスノーボールをあげたりしていたらあっという間に食べきってしまった。

 

 

 ◆

 

 

「……冷えてきたね、そろそろ帰ろうか」

 

 夕方と言うほどでもないけど太陽が傾き建物により日が遮られ薄暗くなってきた。気温も少し下がったように感じる。

 

「うん……そうだね。あの……今日はありがとう」

 

「ん……どういたしまして、だ」

 

 基は食べ終わったクッキーの袋を畳み、荷物を持ち立ち上がり、近くのダストボックスへ入れる。

 そのままこちらを振り返り手招きする。僕も立ち上がり基の後につき公園を後にした。

 

 

 ◆

 

 

「あ……犬……」

「ん? ほんとだ」

 

 犬種は分からないけれど、耳が垂れていてぼんやりとした顔の犬だ。

 

「どうし――あっ!」

「おっ」

 

 トテトテと近づいてきたのでしゃがんで目線を合わせようとしたら、しゃがんだ瞬間紙袋をひったくられた。

 あの中には友達に渡すクッキーが入ってる。

 

「ま……待って!」

「あっ、クロナ」

 

 紙袋を咥えた犬を追いかける。

 犬は全速力ではないものの裏路地の狭い道を通る為、あまり距離が縮まない。

 

「待っ――あぅ!!」

 

 暫く追いかけていると、裏路地に転がっていた瓶を踏んで転んでしまった。

 犬が曲がり角を目指して走る。見失ってしまう。

 

「待って……待って……!」

 

 急いで立ち上がり後を追う。

 犬はすでに曲がり角に差し掛かり、もう隠れる寸前。というところで角の影から手が伸びて犬を持ち上げた。

 

「どうどう、ごめんね、返してもらうよ。」

 

「あ……基……」

 

「はい、クロナ

 中身大丈夫かな?」

 

 基に紙袋を渡され中を確認する。

 ……良かった。割れてない。ちょっと裏路地通ることになったけど紙袋の中にさらにビニールの包装できちんと密閉されてるし……大丈夫だよね?

 

「うん、大丈夫じゃないかい?

 心配なら買い直すかい?」

 

「ううん……今から戻ってもお店閉まってるかもしれないし……

 明日じゃないとまた課外授業でいなくなるらしいから……」

 

「確かに今から戻ったら間に合わないかもな……

 うん、『犬も思わず食べたくなるクッキーだよ』って渡してみたら?」

 

「や、それは……

 素直に言って嫌って言われたらもう一回買うよ」

 

「大丈夫だとは思うけどね、確かに綺麗とは言えないけどゴミ溜めって訳でもないし」

 

 話しながら表通りに移動する。犬も付いてきたからしっかりと袋は胸のあたりで持っておく。

 

「うん……ありがとう。あ、お店教えてもいいかな?」

 

「もちろん」

 

「ありがと……明日渡し……あ!

 明日って基たち来れないんだっけ?」

 

「キッドの家でパーティーだっけ?

 ごめんね、任務が入ってるから僕とペグは欠席だ」

 

「そう……」

 

「楽しんでおいで。

 ……っと、あげられるものは何もないんだ。ごめんね」

 

 さっきの犬がふんふんと鼻を鳴らしながら基に纏わり付く。

 

「だからなにも持ってないって、ごめ――

 あ、が……っ!」

 

 いきなり基が崩れ落ち膝をつく。

 

「基!?」

 

「うっ……ぐ、あ……あぁ……」

 

「だ、大丈夫? 基」

 

「………………」

 

 立ち眩みか何かだったのかすぐに落ち着いた。

 基はゆっくりと自分だけで立ち上がった。

 

「キャン!」

 

 さっきまで基に心配そうに鼻を擦りつけていた犬が一鳴きして裏通りへ走り去る。

 何かに怯えたような様子だったけど、周りには僕達以外なにも居ない。

 

「基……?」

 

 基は痛みで苦しむでもなく、心配させまいと笑うでもなく、一切の感情を読み取れない無表情でこちらを見つめる。

 その瞳は暗く、意思のようなものは感じ取れない。

 

「メデューサ・ゴーゴンは生きている」

 

「え?」

 

 基の口から不意を突いて出た言葉の意味を理解するのに数秒かかった。

 

「メデューサ・ゴーゴンは生きている」

 

「え? メデューサさまが……?

 何で……」

 

「メデューサ・ゴーゴンは生きている」

 

「なんで……どうして……?

 どうしてそれを僕に……?」

 

「…………」

 

 基は眉一つ動かさず何も言わずこちらを見つめるだけで何も言ってくれない。

 

「そ……れを、僕に、伝えて、どうしろって……」

「そうならなければならないから」

 

「それって……?」

 

「伝えなくてはならない

 大きく外れてはならない

 そうならなければ捨てられる」

 

「どういう……」

 

 問い詰めようとするが基の体からふっ、と力が抜け膝から崩れ落ちる。

 

「あっ……」

 

 さっきまでの異様な雰囲気に圧倒され動くことが出来ず基は前のめりに倒れた。

 そのままピクリとも動かない。

 

「も……基……?」

 

 傍に寄り仰向けにして状態を確認する。

 正常に整った息をしている。外傷も無い。表情も強張っていない。

 こういう時頭を揺らしてはいけないって習ったから肩辺りを叩き呼び掛ける。

 

「ねぇ……基? ……基!」

 

「ぐ……」

 

「基……! 大丈夫?」

 

 基が少しうめいて細く目が開かれた。

 

「君は……?」

 

「え?」

 

「あ……確か……教会で……」

 

「……っ」

 

 僕を……忘れてる?

 

「ここは……デスシティ?

 どうして君が……?

 ……いや、そうか、君と僕は……」

 

 基はぐったりとしながら、うわごとのように言葉を紡ぐ。

 

「すまない……名前を、聞いても……?」

 

「……クロナ、だよ。 基……」

 

「……そう、ありがとう、クロナ。

 僕が、迷惑を、かけると思う……

 でも……どうか……どうか――」

 

 段々と声がか細くなって行き、またしても基の動きが止まる。薄目から見える眼球は濁ったまま微動だにしない。

 

「えっ? 基? 基!?」

 

 必死に呼びかけると徐々に目の焦点が合ってくる。

 目が開かれると同時に基は跳ね起きた。

 

「よかった……基……」

 

「……ごめんクロナ調子が悪いみたいだ

 先に戻らせてもらうよ

 この埋め合わせは必ずする」

 

「もと――」

 

 基は一気にそれだけ言うと裏路地のから飛び出していった。

 

「んだアイツ

 ヤクでもやってんじゃねぇのか」

 

「そんなこと……」

 

 目の前であんなことが起こったため、ラグナロクの言葉に

 ない、とは僕は言い切れなかった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 友達にクッキーを渡し、たいへん喜んでもらったからお礼をしようと基を探すけれど見当たらない。

 

 マカが言うにすでに任務に行っており今日は死武専に来ていないらしい。

 そこから今日のパーティーの話に移り、僕も言いふらすことではないかと考え、昨日の事は基が帰って来てから聞こうとそのことは一旦意識の外へ追いやった。

 追いやってしまった。

 この時マカに基の事を話していたら何か変わっていただろうか。

 

 

 

 

 

 放課後になり、皆でキッドの家へ集まり、パーティーが始まった。

 そんなに騒がしくなくて、僕が何かしなくちゃならないことも無くて、みんなとちょっと会話したりして、パーティーを……パーティーを楽しんだって言えるのかなこれ……

 

 ともかく、皆良い人達だと再確認できたし、皆が……その、僕と友達だってはっきり言ってくれた。

 

 

 

 パーティーが終わり皆帰路につく。

 キッド達が途中で抜けて帰って来なかったけれど……大丈夫かな

 

「気にすんじゃねェーよ

 キッドだって”こまい”男だが実力者だ

 まぁ? 俺様と比べてしまうと生きとし生けるものすべてが矮小な存在になってしまうが?

 どっちにしろ心配することじゃねぇ

 ぜってぇ帰ってくるからよ」

 

「そうだよ、クロナ

 いっつも細かくて忘れがちだけど死神なんだから心配いらないよ」

 

「うん……」

 

「……クロナ!!

 今度はうちに遊びに来い!」

 

「ラグナロクみたいに食べっぷりがいいと料理も作り甲斐があるわ」

 

「うん……!」

「うるせェ誰が行くか」

 

 

「くしゅっ」

 

 マカがくしゃみをした。

 太陽が完全に隠れ月が爛爛とした目でデスシティーを見下している。

 

「さすがに冷えてきたな

 さっさと帰るか」

 

「じゃあな」

「バイバイ」

「また明日」

 

 

 死刑台屋敷から少し歩いたところで解散となった。死武専のお泊り室へ向かう。

 

「オイ! クロナ! テメェ―も料理の上手いやつパートナーにしろ!」

「僕のパートナーはラグナロクでしょ

 ……楽しかったね、パーティー」

「ケッ お前ぇーは単純だな」

 

 

『みんなクロナの友達だよ』

『みんな逃げたりはしない。自分のペースで輪に入って行けばいいさ。別に焦ることは無い』

『オイ! クロナ! お前をいじめるやつが居たら遠慮なく言えよ。俺様が月までぶっ飛ばしてやる』

 

 今日のパーティーで皆に言われた言葉が反芻して笑みがこぼれる。

 友達。全くもって理解できなかったコミュニティ。

 貰ってばかりだと思ったけれど、最近僕からも『つながり』が伸びているような気がする。

 理解できるまで親身になって付き合ってくれた基には感謝しかない。

 

 そう、感謝だ。

 基に言われたようにもう少し謝罪では無く感謝を伝えられるようになろう。

 明日、基が居たらパーティーのことを話して、ありがとうって伝えて――

 

「ふふっ……」

「随分と嬉しそうね、クロナ」

 

「……え」

 

 闇夜に溶け込むようなローブ、独特の雰囲気。

 小さい女の子の体になっているが、判る。

 

「会いたかったわ、クロナ」

「め、デューサ、さま……」

 

「うれしいわ、こんな姿になってもわかってくれるのね

 情けないでしょ」

 

「……おれと同じで小さくなったな」

 

「本当に……生きてた……」

 

「えぇ、クロナに会いたく――

 ()()()?」

 

 メデューサさまの纏う雰囲気が一気に探るようなものに変わる。

 僕は僕の遅すぎる失言に気づいた。

 

「……あっ」

 

「……クロナ、お母さん本当に心配したわ」

 

「……うん」

 

「でも、本当によくやったわ――

 ――そのまま死武専で()()()を続けて頂戴」

 

「エ!? す、スパイだなんて僕は――」

 

「そんな謙遜しなくていいわ

 スパイをするために死武専に潜り込んでくれたんでしょう?

 ――(母親)のために」

 

「ぼ……く、は」

 

「さあ、手始めに誰が私の生存を掴んでいたか教えて頂戴」

 

「ア、あぁ……」

 

 心臓を掴まれたかのように痛い。走ってもいないのに息が上がる。視界がぼやけ、狭まっていく。どうすればいいか分からない。分からない、分からないよ……!どうしたら――!

 

「ホージョーもといとか言ったかァ?

 クソカス波長を叩きこんでくる武器のアレだ」

 

 ラグ、ナロクっ……!

 声を上げようとしても喉がヒクつくだけで声が出ない。

 

「デスサイズの……

 そう……有り難う、有益な情報だったわ

 それと、死武専のどこかに秘密の保管庫があるはず……それを見つけて頂戴」

 

「ぼ、くっ……! 死武専に、友達! が、居て……

 そんな、裏切る、なんて――」

 

「――クロナは、お母さんのためにやってくれるでしょう?」

 

 その、問いかけるような目に、わざとらしい口調に、考える意志を奪われそうになる。

 死武専の友達の顔が頭に浮かぶ。裏切る……? 皆を……?

 僕は――

 

『伝えなくてはならない

 大きく外れてはならない

 そうならなければ捨てられる』

 

 ――急に、様子がおかしい時の基の言葉が浮かび上がった。

 大きく外れてはならない? 捨てられる?

 

 ――僕は、結局、メデューサさまの子だから、メデューサさまから大きく離れたら、捨てられてしまうのだろうか。

 

 ――基は、僕を捨てるのだろうか。

 

 

「クロナ?」

 

 メデューサさまが返事を待っている。

 

「――合点、了解です」

 

「……良い子ね、クロナ」

 

 

 俯き、しばらく歯を食いしばっていると何時の間にかメデューサさまは居なくなっていた。

 引きずる様に、歩を進める。

 

「ぐピピ

 おもしろくなってきたぜ」

 

 ラグナロクの言葉に何も言い返さず、まっすぐお泊り室へ戻り、部屋の隅に行き、クッションを抱いて寝た。

 夢は、見なかった。

 

 ◆

 

 次の日、僕は授業を休んだ。

 

 

 体調不良を伝えて休みの許可をもらい、ベッドに座っていると日が傾きかけたほどの時間に窓からエルカが顔をのぞかせた。

 

「ゲコ

 こんな危険な場所に何度も出入りしたくないのよね、まったく……

 で? 保管庫の場所の見当はついたの?」

 

「死武専は広いから……立ち入り禁止区域なんて初めて入ったし……入り組んでるし……」

 

 嘘だ。今日は一日ずっとベッドに座っていた。

 

「そう、私は手伝えないけどね

 早く見つけてちょうだい、ここ来たくないのよ」

 

『私も数日で見つかるとは思ってないわ

 クロナはよくやってくれているわ

 そうね……保管庫調査と並行して別な任務を与えましょうか

 今……シュタイン博士はどうしているの?』

 

 エルカの体内にいるヘビからメデューサさまの声が聞こえる。

 

「……シュタイン博士とはあまり会わないからわからないけど

 今はマリー先生をパートナーにして一緒に住んでるみたいだよ」

 

『マリー……どんな先生なの?』

 

「凄く優しくて、いつも僕の事気に掛けてくれる、暖かい人だよ」

 

 本当に。

 僕とは違って。

 

『へぇ、そうなの

 ……良いわ。その優しさにつけ込みましょう

 エルカ、例の物をクロナに渡して頂戴』

 

「ゲロッ」

 

 エルカは、一つのサインペンを吐き出した。

 

『そのペンの中には盗聴器が入っているわ

 それをマリーに仕掛なさい』

 

【KILLコーンカーンコーン♪】

 

「ゲコ、放課のチャイムね

 私は人通りが多くなる前に退散するわ

 頑張りなさいよ」

 

 エルカが去った後の窓の縁は、矢印がワンポイントのサインペンが横たわっているだけだ。

 僕は何も考えずサインペンをひったくってお泊り室を出た。

 

「……別に俺はよォどっちの()()()()になっても良いんだがよぉ?

 どっちつかずってのが一番詰まんねぇぜ

 どうすんだよ、クロナ」

 

 ラグナロクを無視して昇降口を出る。

 

「無視すんじゃねー

 それ持ってきたってことはメデューサに付くのか?

 ……メシ少ねぇんだよなァ、せめてお前が作れるように教えて――」

「うるせェ!! テメェ()が基を売ったんだよ!」

「あぁ!?」

「もう戻れないんだよ!」

「ンなもん黙ってれば分かんねーよ!」

「判るさ! 基は!」

「判ってもこっちに教えたのはアイツじゃねーか!

 秘密にしとけなんて一言も言ってねーぞアイツは!」

「黙ってろよ……!」

「意気地なしかよ、道にへばりついたガムが」

 

 それきり二人で黙りこくって正面階段で立ち尽くす

 

「あれ!? クロナ?

 気分はもう良いの?」

 

「はい……

 実は、聞いてもらいたい――」

「先生バイバーイ」

 

「オウ

 さようなら~

 

 ……ここじゃなんだし、うちくる?

 お茶でも飲みながらゆっくり話しましょう」

 

「……うん」

 

 

 僕はペンを握りしめてマリー先生の後を追った。

 

 

 マリー先生は研究所のカギを開けて明かりをつけていく。

 シュタイン博士はまだ帰って来ていないみたいだ。

 

「はい、茶葉無かったからコーヒーだけど」

「ありがとう……」

 

「ホントこの家研究道具しか無くてねェ~

 このカップとか私が全部そろえたのよ」

 

 かわいらしいカップとソーサーだ。

 しかしチクリチクリと胸を刺す痛みが感想を言うのに邪魔をする。

 

「確かに至る所に女がちりばめられてんな」

 

「あんまりやり過ぎるとシュタインに怒られちゃうの

 それが最近の先生の悩み

 クロナも何か悩んでるの?」

 

「……」

 

 マリー先生は黙っている僕をせかすことなくコーヒーを少し飲み、柔らかい笑みを携えて僕の答えを待っていてくれている。

 

「僕は――

 僕は、どうして許されたんですか?

 ……変われるわけがない。どこまで行っても、僕は変われないんだ」

 

「……」

 

「ずっと……ずっとメデューサさまに言われて……

 いくら死武専の教えを今から守っても、やったことは変わらない」

 

「クロナ、そう思える時点で変わってるのよ」

 

「……」

 

「私たちが狩ってきた本当の悪人ってね

 大なり小なり自分の事しか考えてないのよ

 もちろん規律があるからそれ以外にリストに載ることもあるけど……

 自分の事しか考えない悪人は更生の余地はない」

 

「僕も……」

 

「クロナは違う

 変わりたい、って思えるなら変われるわ

 自分の事しか考えないなら悩んだりしないわ」

 

「でも、僕は……!」

「おい、なんで俺の分のコーヒーがねェんだよ

 くれよ」

 

「え、ラグナロクって口無いのに飲めるの?」

 

「あるぞ

 飲めるぞ」

 

 マリー先生の言葉に口を開き舌を突き出して見せる。

 

「うわッ!

 びっくりした~……

 じゃあ、入れてくるわね

 ちょっと待ってて、クロナ」

 

 マリー先生が台所に消えたのを確認してラグナロクが小声で話しかけてくる。

 

「おい、どうすんだ?

 やるなら今のうちにやれよ」

 

 このペンには盗聴器が付いている。

 壊したり捨てたりしても全部わかるだろう。

 これを渡された時点で選択肢は無いんだ。

 

 ……いや、選択肢は二つある。メデューサさまの元へ戻るか、裏切って死武専に居るか。

 決めなきゃならない。今、ここで。

 

「あ、砂糖いる?」

 

 マリー先生が戻ってきてひょこりと部屋に顔をのぞかせた。

 ラグナロクの体が跳ねるが僕は何も感じなかった。バレたらもうそれでよかった。

 

「お……おう、砂糖でもミルクでもなんでも入れてくれ

 たっぷりとな……」

 

「ん、分かった」

 

 マリー先生がまた台所に引っ込む。

 僕はペンのキャップを取り、マリー先生のコーヒーに盗聴機能を持つヘビを仕込んだ。

 

「お、やったな」

 

 とりあえず抜け殻になったペンをソファの下へ転がして入れる。

 手持ち無沙汰になったのでカップを持ち、コーヒーを口に入れる。

 パサパサになった口にコーヒーが広がる。角砂糖を三つ入れたのに酷く苦かった。

 

 

 

「お待たせ」

 

 マリー先生がラグナロクに淹れたコーヒーを置き、向かいに座り直してヘビの入ったコーヒーを口にする。

 メデューサさまのヘビが好機を逃すとは思えないが一応カップすべて飲ませるべきだろう。

 

「それでね、クロナ

 自分がしたことで苦しいって思えたり

 変われないって悩んだりできるならあなたはもう変わりかけてるのよ」

 

「僕が……?」

 

「そう、クロナはすっごく真面目だから、これ! っていう決まりが無いと悪い方に考えちゃうのよ

 リストに載っていない者の魂を狩るのは悪い事、じゃあ没収されたらそれでおしまいなの?

 って感じで」

 

「……言われたことしかできない、いや……言われたこともできない僕は……」

 

「はいぐるぐる考えない!

 何が正しいかなんて私も……いえ、誰にも分らないのよ

 とりあえずいつも通り過ごして知ってそうな人が居たら聞いてみましょう、おー!」

 

「……」

 

「…………考えないことは悪いことだけれどね

 考え過ぎて動けなくなっちゃうのもいけないわ

 だから! 私がクロナの味方になるわ!」

 

「え……?」

 

「何があってもクロナを信じるし、クロナの味方でいるわ」

 

「……っ!」

 

 声が出そうになった。もう僕はマリー先生を裏切っているのに。

 動揺をごまかすためにカップに口を付ける。つられてマリー先生もカップに手を伸ばす。

 盗聴器が入ったカップに。

 

 僕がヘビを入れたカップに。

 

「あの!」

 

 僕が切り出すとマリー先生の動きが止まる。

 

「……そこまでしてもらうのは、その」

 

「いいのよ、初めて請け負った私の生徒だもの

 それに、教師と生徒以前に友達でしょ?」

 

 カップがテーブルに戻される。

 気のせいか、カップの中で何か蠢いた気がした。

 

「……ごめんなさい」

 

「謝ることじゃないわ

 むしろ大したことできなくてごめんなさい」

 

「……そんなこと……ないです

 マリー先生と話せて……すごく、楽になりましたから……」

 

 もう、ここに居たくない。

 会話を切り上げて、席を立つ。

 

「本当?

 私もクロナの力になれたら嬉しいわ」

 

「もう遅いし……帰るね」

 

「いつでも来なさい」

 

 目を合わせていられなくなって、逃げるように部屋を出る。

 

「あ、まってクロナ」

 

 玄関のドアを掴んだまま、首だけ振り返る。

 そこには、ヘビが入っていたペンを持ったマリー先生が居た。

 

「これ、クロナのじゃない?」

 

 どうやら勢いよく投げすぎたせいでソファの下を通り過ぎてしまったみたいだ。

 

「……うん、ありがと」

 

「気を付けて帰るのよ~!」

 

 

 ◆

 

 

 ツギハギ研究所を後にしてデスシティに戻り死武専を目指す。

 途中、裏通りによく知った気配を感じた。

 

 何も考えず裏路地に入る。

 

「ゲコ

 どう? うまくやれた?」

 

 カエルに変身しているエルカが聞きながらラジオのような魔道具をいじる。

 しばらくするとノイズの中から聞き覚えのある声が聞こえ始めた。

 

『ただいま』

『おかえりシュタイン』

 

「ゲココ

 聞こえる聞こえる♪」

 

 マリー先生とシュタイン博士の声だ。

 あの後全部コーヒーを飲んだのか、それとも最初の一口で忍び込んでいたのか

 考えても、知っても無駄なことだ。

 

「けど……どうやってあの女に飲み込ませたの?

 近くに仕掛けたら夜中に動き出して入り込む予定だったけど……」

 

「楽勝だったぜ、マリーのコーヒーにポタリと忍ばせてやった」

 

「へぇ、あのヘビには盗聴機能とメデューサの魔力が込められている……

 これであの女と共鳴すればシュタインの狂気も加速する」

 

「もう、遅いし

 疑われないように戻るよ」

 

「あっ、クロナ

 ヘビの操作性は良くないからバレる危険性があった

 それを解消したのだからメデューサもきっと誉めてくれるわ」

 

 

 僕は何も言わず振り返らないで死武専に戻った。

 今日も、部屋の隅でクッションを抱いて寝た。

 

 

 黒い、海に、沈む夢を見た。

 

 

 ◆

 

 

 朝が来た。

 まるで寝た気がしない。

 

 今日も休みたくなった。

 抱いていたクッションをさらに強く抱きしめる。

 

 そうして何かから逃避しているとお泊り室のドアがノックされた。

 

「クロナ?

 昨日休んだみたいだけど……

 放課後ここ来ても居ないからどうしたのかな、って」

 

 基だ。

 いつも嬉しい出迎えが、今日は煩わしく感じる。

 

「知ってるんじゃないの?」

 

「え?」

 

「何してたかなんて、どうしたのかなんて」

 

「クロナ?」

 

「どうせばれるだろうから言うとマリー先生と話してたよ

 ツギハギ研究所で」

 

「マリー先生? ――ッ」

 

「気づいた?

 そうだよね、ソウルプロテクトを見抜けるんだからわかるよね」

 

「クロナ」

 

「そうだよ、基が言っていたようにメデューサさまは生きていたよ」

 

「クロナ」

 

「基は何を考えて僕に教えたんだい?」

 

「クロナ」

 

「……なに?」

 

「部屋に、入っても良いかい?」

 

「……好きにすれば」

 

「うん、好きにする」

 

 ドアが開かれて基が入ってくる。

 まだ授業開始にも早い時間だから周りに誰も居ない。

 

「それで? 僕はメデューサさまを裏切ればよかったのかい?」

 

 クッションに顔をうずめたまま話す。隣に座った基を見れない。

 

「でも残念だったね、メデューサさまには基が気付いてるって話しちゃった後だよ」

 

 肩に手を置かれて体が強張るがそれ以上何もされなかった。

 

「僕は結局変わることなんてできないんだ」

 

 自分に言い聞かせるように言葉を口に出す。

 

「クロナ」

 

 隣に聞こえる声に心臓が早鐘を鳴らす。

 

「すまない」

 

 体に掛かる圧に強張るが数瞬置いて抱きしめられているのだとわかった。

 

「すまない」

 

 繰り返される基の謝罪の言葉に何故か涙が出る。

 

「どぅ……じでっ! 僕は……っ!

 マリー先生に……っ! 基に……っ! っぐぅ……!」

 

「大丈夫」

 

「な……にがっ!」

 

「大丈夫だから」

 

「うぐ……あああぁ……!」

 

 

 僕は意味のない言葉を発しながら泣いた。

 

 僕が落ち着いたのはもう昼になろうかと言う時間だった。

 

 その間基はずっと励ましの言葉をかけながら抱きしめて背中をさすってくれた。

 

 

「大丈夫、何とかなるさ

 ……ずっと、ここに居ればいい」

 

 その言葉は、何の保証も無いのに、僕の心にすとんと落ちて。

 

「クロナ、死武専の皆と一緒に居てくれ」

 

 僕を、縛り付けて。

 

「それに、世界中どこに居たとしても見つけ出せるさ」

 

 皆と居たいと思ってしまう。

 

 

「ごめん……ごめんなさい……」

 

「大丈夫だから……

 何とかなるし、するさ」

 

「基……」

 

 僕も、何も考えずに流されないようにしたい。

 まずは、自分でどうしたいか、主体性を持てるようになりたい。

 

 僕は、どうしたい?

 

 僕は、皆と一緒に居たい。

 

 皆と一緒に居るためには……

 

「あ……そうだ

 …………あの、これ……」

 

「これは……?」

 

「この中に……その」

 

「……あぁ、なるほど」

 

「僕が持ってるより基が持ってる方が役立てられそうだから……」

 

「うん、有り難う」

 

 まだ、メデューサさまを裏切る心が決まったわけでは無い。

 ラグナロクの言う通りまだどっちつかずのクズだ。

 

 それでも、間違っていても、自分で選んで進みたい。

 

 僕がしたいことを……あ。

 

「基」

 

「うん? どうかした?」

 

「……ありがとう!」

 

「……どういたしまして!」

 

 

 なんにも状況は良くなっていないけれど、僕達は笑いあった。

 何とかなってしまいそうな気がした。何とかならなくても後悔しないような気がした。

 何が面白いのかわからないけれど、笑いがこみあげてきて、笑った。

 

 本当に、ありがとう、基。

 

 

『――回は――ま――りがと―――い――た』

 

「……?

 基、何か言った?」

 

「いや? 何も?

 ……さて、それより……」

 

「なに?」

 

「サボったことなんて言い訳しようか?」

 

 時刻はもう昼休みになるかどうかだ。午前の授業を丸々サボってしまった。

 

「……どうしようか」

 

 肩をすくめた基と見つめ合い、吹き出して僕達はまた笑った。

 

 

 




今回このような出来の話になってしまって誠に申し訳ございません。

作者の腕不足でBREWを死武専が所持する、と言うよりメデューサが所持していないルートをどうしても書くことが出来なかったのでRTA走者のミスと言う形で整合性を取ってしましました。

安直な整合性の取り方で気分をそがれてしまった方もいらっしゃると思いますので、
これからはこのようなことが出来る限り無いように気を付けて書いていきたいと思います。


大変申し訳ありませんでした。
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