二次創作、一次創作どちらにもチャレンジしていこうと思っています!
一作目は僕が大好きなゲームシリーズの「モンスターハンター」を題材に作中で活躍する「ハンター」の誕生を描いていきます。
桜の季節が終わり、風の匂いが変わる頃。俺は照りつける陽光に目を細めながら、どこまでも広がる大空を見渡していた。ぐるぐる見回しすぎて、いつの間にか屋根に寝そべっていると下から控え目な男の声がした。
「やあアンタ。今日は見つけられたかい。」
起き上がって屋根の下を覗くと、一人の少年が眩しそうにこちらを見上げていた。
「サディじゃないか。いいや、今日も竜みたいな雲ばっかりだよ。」
そういうと彼は適当な相槌を打って、見せたいものがあるんだと言ってきた。彼はそこそこな厚さの一冊の本を抱えていた。普段はこういうとき彼を屋根上に引っ張って一緒に空を見上げるのだが、今日は俺の方から屋根を降りることになった。
見せたいものはいったいなんだとサディに訊ねると、彼はあーだこーだと焦らしながらある場所に案内した。着いたのは小さな小屋の前だった。
「おーいアーミカ。見せたいものがあるんだ。出ておいでよ。」
サディは木の扉を人差し指でコンコンと叩いて言った。
「……」
返事が無い。もう一度呼びかけてノックしてみるが、これも反応がない。早くサディの持っている本が早く見たくて仕方なかった俺は、扉をドンドンと何度も叩いた。かなりうるさめに叩いたつもりだったが、なんとそれでも無反応だった。するとサディが俺を止め、扉に向かって囁き始めた。
「新しい料理を思いついたんだ。甘いデザートだよ。美味しいよぅ。」
すると中からトボトボと足音が響き、扉がゆっくりと開いた。出てきたのは黒髪で真っ白な肌の少女だった。まだ 日の光に慣れていないのか、目を窄めすぎてほぼ開いていない。
「うるさいんだけど静かにしろよ。」
まったく色気のない声で言った。メラルーの奴等が喋ったらこんな感じなんだろうな、という声である。
「ごめんねアーミカ。すこし見せたいものがあって。」
アーミカと呼ばれた彼女はサディの持つ本を人目見るなり、短い吐息を漏らしてドアを閉めようとした。すぐに俺が引き止めると「ちげーし着替えるだけだし行くし。」とめんどくさそうに言って中へ戻ってしまった。疑いを隠しきれなかった俺とサディはそのまま扉の前につったっていた。
「着替えてんだからどっかいけよ気持ちわりー!行くっつってんだろ。」
気配をすぐに察知したのか、アーミカが扉の向こうから声高に言ってきた。
「いや、嘘ついてバックレると困るからよ。」
「嘘ついてんのはどっちだ!」
アーミカの斬れ味最大のツッコミが返ってきたところで、俺たちは大笑いしながら集合場所を伝えて彼女の家を後にした。
「ごめんねアーミカ。デザートは約束する。」
サディは俺の友達で、料理がめちゃくちゃ上手な気の優しいやつだ。よく彼の家に行って料理を食わせてもらってる。アーミカもああみえて彼の料理の虜だ。
俺とサディは、お互いに同じ“夢”を持っていたことがキッカケで友達になった。その“夢”は、モンスターになることだ。昔見かけた、大空を自由に舞う飛竜。俺はあの飛竜に強い憧れを抱いたのだ。あんな大きな翼があったなら、どんなに楽しいだろう。世界のどこにでも行けるじゃないか。飛竜たちは、俺たちが一生かけても見られないような景色を、ずっと見ているに違いない。俺も大自然を闊歩する“モンスター”になりたい!そんな夢である。サディは俺の言っていることに何度も頷いてくれた。そんなやつは出会った数多くの人の中でこいつだけだ。
「なぁサディ。いったいなんなんだその本。」
期待でウズウズしてしょうがなかった俺は無駄だとわかっていながらも、何度もサディに急かした。しかし次の瞬間。いきなり頭に鋭い痛みが走った。何事かと振り替えると、真っ黒なローブを羽織ったアーミカがいつのまにか追いついてきていた。手には彼女お手製のスリングショットを持っている。
「どーせモンスターのなんかでしょ。あとそれ、忘れ物。」
と言ってアーミカは指をさした。足元を見ると、手のひらぐらいの大きさの赤い物体が落ちていた。これは俺がはじめて森に入った時、偶然拾ったものだ。大空を舞う火竜リオレウスの鱗だと信じている。
「あぁ、悪りぃ悪りぃっておい!これ俺の宝物なんだぞ。パチンコの弾にするな。」
俺は痛みの残る後頭部を摩りながら宝物を拾って土を払い、ポケットの中にしまい込んだ。
「どーせなんて言わないでくれよアーミカ。今日はただの御伽じゃないんだ。」
サディは微笑みながら言った。やはり俺の期待した通り、本の中身はモンスターのことについてらしい。ますますテンションが上がってきた。早く見たくなった俺は、サディを無理やり引っ張って集合場所へと向かった。
たどり着いたのは、青空の下でやっているチンケな食事場だ。野性味溢れるキッチンで、この村の名物ということになっている。
「いらっしゃいませ!」
威勢のいい挨拶が飛んできた。彼女の名前はイア。村長の孫娘で、数年前から広場の隅に勝手にキッチンを作って食事場を始めた、村一番の美人で料理自慢を自負している。ぶっちゃけ村の名物を謳っているのも彼女だけである。
「なににする?ゆっくり考えて頂戴。」
ちなみにメニューは二種類である。
「じゃあ、アプトノス丼で。」
「僕もアプトノス丼お願いします。」
「あたしモス○ーガーにする。」
二種類しかないけど意外と究極の選択だったりする。迷う人は半日ぐらい迷うとかなんとか。
「かしこまりましたぁ。アプトノス丼二つと、モス○ーガーね!」と言ってイアがキッチンに戻って料理を始めると、サディはいよいよ本をテーブルの上に広げた。よく見ると、すごく色あせた本だった。厚く硬い紙でできた表紙の文字もまったく判別がつかない。かなり古いものであることは間違いないだろう。この本は彼の家にある書庫の奥底から発見したものらしい。これでもかなり手入れを施したのだという。
「サディ、読めるのか。」
「いや、全然わかんない。」
この本に書いてある文字はまったくもって謎だそうだ。昔サディの家に住んでいた家の持ち主ならなにかを知ってるかもしれないが、もう何年も前に家を離れているらしい。
「ただの紙切れじゃん。」
アーミカがだるそうに突っ伏して呟いた。正直、彼女の言う通りである。たしかに読めない本は紙切れも同然だ。ちょっと興醒めしかけていると、サディは本を開いて中身を見せた。そこにはびっしりと並んだ文字のほかに、大きくはっきりと描かれた絵もあった。繊細なスケッチというよりは、記号っぽい。それが、何ページも続いているのだった。
「僕、これモンスター図鑑だと思うんだ。」
サディは目を小さな子供みたいにキラキラさせて言った。
「モンスター図鑑だって?」
俺は思わず本を回転させて自分の方へ向けた。隣に座っていたアーミカが突っ伏しながら視線を本に落とした。たしかに、本のレイアウトは図鑑にすごく似ている。絵の横に名前らしきものが書かれているが、読めない。
「あんまり乱暴に扱わないでくれよ。」
サディの忠告に聞く耳は持てなかった俺はひたすらページをめくっていった。非常に簡略化された絵だが、モンスターの特徴が詳しく表現されている。大きな角、翼、丸かったり角ばっていたり、無数のモンスターの絵が掲載されていた。
「これとか可愛いじゃん。」
アーミカが指を指した絵には翼があり、長い尻尾、大きな耳を持ったモンスターが描かれていた。
「それきっと、イャンクックじゃないかな。」
絵に目を凝らしたサディはそう言った。アーミカはいまいちピンときていない様子である。
「イャンクック?変な名前。」
アーミカは小馬鹿にしているが、こいつは行商人や旅人が恐れる飛竜の一角として名高いモンスターだ。人を見つけると奇声を上げながら追いかけて来て、大きな嘴でちょっかいを出してくるらしい。実物はかなり大きいだろう。侮ってもらっては困る。
「お前さっきからずいぶん知った口聞くけど、見たことあんの?」
アーミカの問いに俺は少し間を置いて言った。
「ないけど?」
彼女の目線が一気に冷たくなった。俺たちがモンスターについて教えると、アーミカはそう言って目を冷たくする。別にそんなのは当たり前で、大型のモンスターが襲いにくるなんてのはほとんどない。しかしもっと奥に行ければ、あの森と丘を越えれば、いろんなモンスターと出会えるに違いないだろう。
「へー、つまり死にたいわけね。」
アーミカにはもう少し聞き上手になってほしいところである。
「またアーミカちゃんに変な話聞かせてるの?」
イアが出来上がった料理を運んできて言った。サディが慌てて本を閉じた。使い込まれた器に入った肉が、ムンムンと湯気を立てている。米粒一つも見えなくなるほど、イアはいつも俺たちには肉を増量してくれていた。
「いただきます。」
声を揃えて一斉に食べ始めた。イアは空いていたサディの隣に座り、俺たちの食べっぷりを見守りながら例の本に目をやった。
「なぁに?この本。」
イアは本を手にとって膝の上で開いた。
「昨日、昔の家主さんが使っていた書斎を漁っていたら出てきたんですよ。僕は昔のモンスター図鑑だと推測しているんです。」
難しげな顔で矯めつ眇めつするイアにサディが説明した。
「美味しい食材になるモンスターも載ってる?」
俺とサディは少しまごつきながら相槌を打った。食えるモンスターもいないことはないはずだ。この本が読めれば、この店のメニューも増える...かもしれない。
「絶対あるさ。」
自信を持って言い切った。イアはメニューが増えると大喜びしていたが、なぜだか他の二人の表情は芳しくない。サディは本の内容がまだわかっていないことを打ち明けた。
「じゃあ、おじいちゃんに相談したらいいんじゃないかしら。なにか知ってるかも。」
彼女の祖父はこの村一番の長老だ。古い時代からこの村を知る彼なら、なにか知っている可能性は高い。早々に食事を済ませ、お代をおいて村長のところへ向かった。
イアの自宅前まで来ると、中から男の話し声が聞こえた。俺は扉をドシドシと叩く。扉の上に括り付けられた鈴が乱暴に鳴った。そのまま返事も貰わないまま中に入ると、まずサシミウオの丸焼きの香ばしい香りが鼻をくすぐった。
「アンタとサディ、それにアーミカまで。今日はお客さんが多いの。どうしたんじゃ。」
長老がほっほっほと笑うと、対面していた一人の大男がアンタに向かって軽く手をあげた。
「どうしたんだ三人お揃いで。」
「フレント。お前こそなんでじぃさんの家にいるんだ。」
長老と話をしていたのは、お互いにマブダチと認め合っている仲のフレントだった。大柄で陽気なやつだが、意外にもアーミカの実の兄である。
「そうだ。お前、よく外に出るだろ。ちょっと聞いてほしいことがあんだ。なぁ長老。」
長老も頷いた。なにやら村の外のことで話していたようだ。俺たちはフレントの隣に並んで座り、まず二人の話を聞いてみることにした。
「最近、ランゴスタの様子がおかしいんだ。」
フレントの一言に俺はすぐに反応した。たしかにここ数日、村の付近で多くのランゴスタを見かけるようになった。夜も村の近くを飛び回ってうるさい時が増え、ストレスを感じてしまうことも相応にあった。
「日頃村民が使う森にもよく侵入してくるようになっておる。」
少数のランゴスタの対処は昔から行ってきたので慣れてはいるものの、ここまで村を取り巻くように発生した例はない。
村長は頭を悩ませているようだが、俺は多量のランゴスタが村付近に押し寄せている原因は必ず森にあることを知っている。明日にでも森に出向いて原因を突き止めることに決めた。
「森の奥は危険じゃ。あまり深追いに急ぐな。」
「わかってる。でも村に閉じこもって耐えてばかりじゃ、なにも変わらないだろ。」
サディも乗り気だった。自然が見せる変化は、新しい発見につながる大きなチャンス。こういう時にこそ、森に繰り出すべきなのだ。フレントも大きく頷いた。戸惑う長老を差し置いて、ここに森の調査隊が発足したのだった。
「とりあえず今晩も、村の明かりを消して様子を見るとするかの。」
長老はそう呟いてスープを啜った。しゃがれた吐息を漏らしながら、ふとサディの手もとに目を向けた。
「サディ、その本は。」
長老から尋ねられた彼は思い出したように立ち上がり、長老の横に座って本を見せた。長老は顔から本を離してじっくりと本を眺めた。すると普段はほぼ開いていないように見える萎んだ目がカッと開き、記憶を掘り起こしたのか当時のことを徐に喋り出した。
「大昔、ワシがまだ子供のころこの村を訪れた竜人がこれと同じような絵が描かれた本を持っていた。よく似ているぞ。」
「本当ですか。ならこれは彼がこの村に残していったものなのでしょうか。」
サディの推測に長老は唸り声を発した。彼自身が幼い頃の記憶、はっきりしないところが多そうである。
「竜人が用いる文字で書かれておる故、内容はワシにもさっぱりじゃ。アンタ、お前さんにはわからぬのか。」
長老に尋ねられた俺は、すぐに首を横に振った。竜人と一口に言っても、いろんな種族がいる。俺が知らない種族だって山のようにいるだろう。当然、使う文字が異なることもあるだろう。きっとこの本は、知らない竜人族のものだ。
「竜人族が使う文字で間違いないんだな。」
俺は長老に確認すると、長老は頷いた。だんだんと記憶が蘇ってきているのだろうか。そのまま無言でじっくりと本をめくっていく。
「そうじゃな。間違いはない。ただ、ワシにはそれ以上のことはわからない。」
長老はそう言って静かに本を閉じ、サディに渡した。
「いえ、とても貴重な手がかりです。ありがとうございます。」
「うむ。」
長老はまたスープを一口啜り、何も言わずに天井を仰いだ。
大昔この地を訪れた竜人。一体何者だろう。まったく知らない言語を使う竜人なんて、存在こそすれど今まで見たことがない。どこからやってきたのだろうか。俺は彼に想いを馳せながら、炉でゆらゆらと焼かれるサシミウオを眺めていた。
「それ、食っていいぞ。」