戦国小町苦労譚ショートショート詰め合わせ   作:0003

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戦国小町苦労譚ショートショート詰め合わせ(三本)

『面頬』

 

日本の鎧兜には面頬という物がある。

戦場で顔が剥き出しのままというのは、視認できていないところからの弓矢による攻撃などけっこう危ないのである。

もちろん、面頬で全てを完全に防ぐことができるものでもないし、顔を覆うということから頑丈さを追求してあまり重くしすぎて動きに制限がかかってしまう。

結局のところ、強度面との釣り合いの按排と相談ということになる。

 

森長可という歩く織田家の「妖怪首おいてけ」もしくは「血濡れの赤鬼」は、彼の同僚でもある足滿から奇妙な面頬を贈られた。

普通面頬の色合いは鎧兜に準じた色となる。

最も利用される色は黒が多く、それ以外では漆塗の褐色などがあるていどあることからも、この贈られた面頬はかなり異様であった。

 

その色は純白。

 

しかも、目元以外に穴がいっさいない無機質さをも感じさせる奇怪なものであった。

確かに異様な白い面が鎧兜にはめ込まれている様は不気味な威圧感を周囲に振りまく。

 

 

「あの~、あれって」

長可が新たに手に入れた面頬を兜に合わせている姿を見ながら静子が足滿に小声で話しかけた。

 

「……ホッケーマスクですよね…………」

現代で過ごした日々の中で静子の家に保護された当初、足滿は自分に抜け落ちている生活の常識を得るために図書館詰めすることと様々な映画を見まくっていた。

以前、彼女の姉が見たい番組があった直前に、彼に絵の動く物の怪の類と怯えてテレビを壊されれしまった腹いせに、彼の見る映画の中に某血糊・残虐表現たっぷり映画を混ぜられていたことから彼の目にアノ映画が目にする機会があった。

当時、画面上で現れる疑問に答えるべく同席した静子も、もちろん、残酷描写が好きではないにも関わらず見させられたげんなりさせられたのであった。

 

「そうじゃ、あれだけ立派な鉈を得物にもしている勝蔵にはお似合いじゃろう」

大真面目な顔で自信満々の足滿の返答に静子は顔をしかめる。

 

血をかぶって朱に染められた白い仮面…しかも彼の過去の所業を鑑みてみると似合い過ぎである。

コレ、イケナイヤツじゃ!?と容易に彼女の頭に浮かんだ。

 

「大丈夫、今はまだ米国がないからどこからも訴えられることない」

足滿はニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。

 

 

 

 

『紅伝説』

 

昔むか~しあるところに、とても悪いと評判の鬼がおったそうな。

この鬼、とにもかくにも乱暴者で、時が戦国の世であることを鑑みてもあまりにも傍若無人であった。

そりゃあ「鬼」なのだから、人の所業から逸脱しているのは当たり前とも言えよう。

しかしながら、あるとき巨大な狼に乗った近衛静子様が大いなる神の御使いとして調伏し善導したのである。

そして、この「鬼」は人の名前を与えられ、森勝蔵長可となった。

 

しかし、いくら人の形をしていても、元が「悪鬼」の類である。

いざ、戦に赴くと周囲の血の匂いに昔の己を思い出すのか、愛用の槍「人間無骨」(にんげんむこつ)で目の前にいる相対するものたちを名前の通りあたかも骨もないかのように文字通り叩き潰した。

 

その姿は常に被害者の血や臓物によって朱に染められ、血臭を辺り一面に彼が近づいてくるだけでまき散らした。

 

この悪鬼が、戦にその身を投じるときに叫んだ言葉が「紅(くれない)だ~っ!」と言っていたかどうかは、当時の時を共にしたものたちしか知らない。

 

 

 

『蝶の止まり木』

 

織田氏は源平交代を意識していたが故に平家の末裔を名乗っていた言われている。

元々、越前の織田氏は神職の末裔であり、簡単に言うと越前織田の荘の剣神社で代々神主をしていたということである。

斯波氏の領土に尾張、遠江が加えられて尾張に織田氏はついていったとされている。

 

家紋は木瓜紋が有名であるが、あまり知られていないかもしれないが、これを含めて信長は七つの家紋を持っていた。

その中でも奇妙な家紋が一つある。

 

揚羽蝶紋である。

 

揚羽蝶紋は平家のものであるが、一般的に横向きの蝶の図版である。

しかし、唯一、信長が使ったとされている陣羽織の揚羽蝶紋に形状が違うものであった。

普通、平家の揚羽蝶紋とは、横向きの蝶が羽を立てている(揚げている)。

陣羽織に描かれている信長の蝶紋は、蝶がとまっている正面から見た象徴的な印象を与える図像であった。

 

ある日、静子は何となく尾張一番の自由奔放番付横綱の濃姫に聞いてみた。

あれやこれやと濃姫に遊ばれていることが多いという自覚がある静子である。

たまには自分が聞きたいことを聞くのも構わないかも、と、昔(時間転移前)から疑問に思っていたことを聞ける機会があるのに今まで必死に生きていくことばかりだったので、ふと思い出したついでで疑問が口から出たのであった。

 

「御屋形様の陣羽織の蝶紋って平氏の揚羽蝶紋と形が違いますよね。あれって何か特別な意味があるのですか?」

 

彼女の言葉に信長の正室は、うふふ、と笑みを浮かべてから袖で口元を隠した。

 

「そんな恥ずかしいことを妾に言わせるのかえ。あれはアレじゃ。妾の諱にかけて陣羽織に背負っているのに決まっておるのじゃ」恥ずかしや、と袖で顔を隠すようにお惚気を口にする。

 

江戸時代の創作という説もある濃御前の諱「帰蝶」のことを言っているのだと静子も気づく。

「えっと、それって…」

濃姫の歴史好きにっての衝撃発言であった。

冗談めかした物言いではあるが、何とはなしに暴走族やヤの字の商売の方たちが「~命」とか恋人の名前を刺繍したり、刺青をいれたりするのと同じ感覚なのかしらん!?と納得してしまった静子であった。




戦国時代にあちこちに存在したらしい妖怪「首置いてけ」はネタとしてのお約束。
鬼武蔵こと森長可はネタの総合デパートですし(苦笑)
あと、この原作上での濃姫様は御屋形様(信長)との陰険漫才は楽しすぎ。
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