四宮総司は変えたい   作:もう何も辛くない

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久しぶりの早坂回だぞおおおおおおお!


四宮総司は男である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、これは…」

 

 かぐやがそれを見つけたのは、自室で明日の授業の準備をすべく鞄を開けた時だった。教科書とノートの上にポツンと載っかったそれ。

 それを見た瞬間、今日生徒会室で起きた出来事を、ある人のある光景を思い出し、にやけそうになってしま──────

 

 パシィィィィイン

 

 張り手の音が鳴り響いた。かぐやの右の頬には綺麗な赤い手形が刻まれている。

 

「っ、そうだわ!」

 

 そしてその瞬間、かぐやの頭の中でとある考えが浮かんできた。直後、時計を見る。平均的に見れば、まだ総司の仕事が終わっていない時間帯。

 だがかぐやにとってはそれどころではない。

 

「早坂!早坂来て!」

 

 早速考えを実行に移すべく早坂を呼び出す。

 

 これがどの様な結果を生み出すか、かぐやは楽しみで仕方なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで?何だ、それは」

 

 仕事の途中、今日は遅くなりそうだなんて考えが過った時かぐやに呼び出された総司は断る事なくかぐやの部屋に行った。

 かぐやの部屋にはいつもの様にかぐやと早坂が。そして何故かかぐやの手にはある物が。

 

「猫耳です。お二人に着けてもらおうと思って」

 

「は?」

 

 呆けた声が漏れる。何を言っているのかこいつは。

 

「というか、何故かぐや様は猫耳を持っているのです?」

 

 そう、まずはそこだ。早坂の言う通り、何故かぐやは猫耳なんて持っているのか。そういった俗的物からは遠ざけられている筈なのだが。

 

「…実は」

 

 かぐやは説明を始めた。

 三日後に行われる、フランスパリにある姉妹校との交流会準備を生徒会で進めていたらしいのだがその際、藤原からコスプレをしてはどうかという案が出たらしい。

 藤原は裁縫部から衣装を借りて持ってきたのだが、その中にかぐやが持っていた猫耳が入っていたという。どうやら間違って持ってきてしまったらしい。

 

 さて、これで総司と早坂が知りたかった経緯の説明は終わった。終わった筈なのだが、かぐやの口は止まらない。

 会長が猫耳を着けただのおかわわわだの思い出すだけで口元が緩むだの、暴走が始まった。

 

「かぐや、どうどうどう」

 

「落ち着いてください、かぐや様」

 

「…そうね。とにかく、二人には猫耳を着けてもらうわ」

 

 いや、それが解らない。かぐやが猫耳を持っていた理由は解ったが、それが何故総司達が猫耳を着けさせられる事になるのかが。

 まあ、かぐやの表情を見る限り只の悪戯なのだろう。総司と早坂の猫耳姿を見て面白がりたいだけなのだろう。

 

「ほら総司、着けなさい」

 

「はぁ…。解ったよ」

 

 溜め息を吐く。多分、ここで断ったら面倒臭い事になる。総司は素直に従い、かぐやから受け取った猫耳を頭に着ける。

 

「あらあら…、お似合いですよ総司?お可愛いこと」

 

「それ馬鹿にしてんだろ」

 

 かぐやの言い方はあれだが、実際かなり似合っているのは秘密。

 かぐやと双子の総司は男ながらどちらかというと女顔である。体つきも男にしては華奢な方で、背も平均的ではあるが高くはない。

 

「いえいえ。本心からの言葉ですよ?」

 

「はいはい。ありがとうございやしたー」

 

 だがかぐやのニヤニヤ顔のせいで全くその言葉を信じられない総司。というより、男が猫耳を着けても似合う筈がないという先入観がその言葉を受け付けない。

 

「全く…。早坂もそう思うわよね?総司似合うでしょ?」

 

「はい。猫耳がかぐや様の頃に総司様は私ですね」

 

「そうよね…え?」

 

 早坂に同意を求めるかぐや。しかし、その選択は間違いだったのかもしれない。

 早坂から返ってきたのは、言葉の法則から逸れた暗号。意味を捉えかねたかぐやは早坂の方へと振り向く。

 

「つまりですね。かぐや様の持ってきた時間は元々総司様と猫耳だけという事です」

 

「こ、怖い…。怖いわよ早坂…。どうしたの…?」

 

 何の色を灯さない瞳で猫耳総司を見つめながら早坂は訳の解らない事を口走っていた。実際に見られていないかぐやでさえ怖がっているのだ。視線の先にいる総司は──────

 

(え、何でガンつけられてんの?)

 

 と、考えてしまうのは当然の事。だがそれは勘違いである。早坂は総司に悪意など持っていない。むしろその逆。

 

(え、何これ、可愛すぎる、え、総司様何でこんなにかわかわかわかわわわわわわわ)

 

 相利共生。この世には組み合わせるべくして生まれてきたと言っても過言ではない関係が存在する。それぞれのポテンシャルを最大限に引き出す組み合わせ、それが相利共生である。

 

 早坂は動物が好きである。夜寝る前は動物の…まあ少し変わった動画を見ているが、勿論可愛い系の動画も好きである。

 そして、早坂の目の前にはかぐやとよく似た整った顔立ちをした総司。猫耳と組合わさった彼が、早坂にはどう映ったか。

 

 奇跡的相性(マリアージュ)

 

 他者にはともかく、早坂にとってこれは最高の組み合わせなのだ。結果、キまる。

 

「は、早坂?震えてるけど、大丈夫?」

 

「大丈夫ではありません、問題です」

 

「問題なの!?」

 

 何とか平静を保とうとする早坂だが、上手くはいかない。本音が声に出てしまう。

 

(これは駄目だ…。よし、かぐや様を見て落ち着こう)

 

 早坂はこれ以上見てはいけないと総司から視線を外し、かぐやを見る。物凄い形相で。

 

「早坂…、早坂…?何で私をそんなに睨んでいるの…?」

 

「本当に申し訳ございません。ですが、私のためにもう少しだけ睨ませてください」

 

「え、えぇ~…」

 

「…」

 

 そして一方の総司はというと、どうも面白くない。着けたくない猫耳を着けさせられ、かぐやにはからかわれ、早坂には何か微妙な反応をされ、これなら可愛いと大騒ぎされた方がまだマシだったかもしれないと思えてしまう。

 

「…っ」

 

 だがここで総司は良い事を思い付いた。総司は猫耳を外し、未だにかぐやにメンチ切ってる早坂の背後に回り、彼女のカチューシャと猫耳を取り替えた。

 

「えっ!?」

 

「あっはっはっはっは!猫耳メイドのかんせ──────」

 

 突然の事に振り返る早坂。それを見て笑う総司。

 だが、その笑い声が途切れる。

 

「な、何をするんですか総司様…」

 

「あら、早坂も似合うじゃない。お可愛いわよ?」

 

「やめてください。そんな筈ないじゃありませんか…」

 

「──────」

 

 にっこり笑いながら早坂を誉めるかぐやと、どこかげんなりとしながら返事を返す早坂。そして、二人のやり取りを眺める総司は─────

 

(え、かわいすぎない?)

 

 早坂の猫耳メイド姿に衝撃を受けていた。

 

 そう、あれこそが総司にとっての奇跡的相性(マリアージュ)

 表情を固めたままキまっていた。

 

 ぱしゃり

 

「え?あの、総司様?」

 

 不意に鳴り響くシャッター音。何故か早坂とかぐやが総司の方に振り向いている。

 

「何故私を撮ったのですか?」

 

「…あ」

 

 早坂に指摘され、初めて気付いた。いつの間にか、スマホを片手に、カメラモードにして早坂を写していた。

 

「ちょっ、何故保存したんですか!?」

 

「いや、何となく…」

 

「何となくって…!止めてください!すぐに消してください!」

 

 そしてまた、総司は無意識に今撮った画像を保存していた。その画像を消すべく、総司からスマホを奪おうと早坂が駆け寄ってきた。

 

 猫耳メイド姿の早坂がだ。

 

「んっ…!総司様、お願いですから…っ!」

 

「あ、いや、あの…、ちょっ…」

 

 スマホを持った方の手を上げる総司。その手を追いかけ、総司の眼前で背伸びをする早坂。

 猫耳メイド早坂が至近距離まで来た事により、更に総司の中で混乱が大きくなる。

 

「「あっ」」

 

 このままではまずい、と一歩右足を下げようとした瞬間、早坂の左足と絡まった。

 二人はバランスを崩し、下がろうとした総司の方へと倒れていく。

 

「総司!早坂!だいじょう…ぶ…」

 

 転倒した二人。その体勢はまるで、早坂が総司を押し倒したかのようになっていた。それを見たたかぐやの声が途切れていく。

 

「…」

 

「…」

 

 先程よりも至近距離で見つめ合う二人。早坂は顔を真っ赤にして。総司は瞳をぐるぐるさせて。

 

 まるで縛られたかのように身動きがとれない。言葉を発する事も出来ない。次第に、奇跡的相性(マリアージュ)に対して耐性ができ始めた総司が正気を取り戻していく。

 

(…何でこうなった?)

 

 その結果、呆然となる。勿論、こうなった経緯は覚えている。だが、何故自分はあそこまで混乱していたのか、早坂に対して興奮を覚えていたのか。

 いや、興奮は今も収まっている訳ではない。ただ、先程よりはまだマシになった分、思考できるようになっただけである。

 

「いつまでそうしてるつもり?」

 

「「っ!?」」

 

 早坂が勢いよく離れ、乱れた服装を整える。総司も即座に立ち上がり、同じく服装を整える。

 そして、僅かに頬を染めたかぐやが溜め息を吐いた。

 

「別に私は二人がどうなろうと構いません、というよりむしろ…ですが、そういう事は二人っきりの時だけにしてください」

 

「かぐや様っ!!」

 

 途中、声が小さく聞き取れない部分があったが、とにかくかぐやは勘違いしているらしい。だがその件に関しては早坂が正してくれるようだ。

 

 しかし、何とも奇妙な体験だった。まるで何かに取り憑かれているようだった。正直、もう二度と御免である。

 

「…」

 

 そのはずなのだが、何故だろう。猫耳メイド早坂を見ているとこう、不思議な気分になるというか。先程の感覚が戻ってくるというか。そして、つい先程までもう御免だと思っていたのに、その感覚が心地好く感じてしまう。

 

(…かわええ)

 

 内心で呟く総司。

 

 総司も、どれだけ天才だ鬼才だと騒がれていても、結局は一人の思春期男子なのである。




もう何も辛くないはアオハルしたい
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