四宮総司は変えたい   作:もう何も辛くない

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今回は初の石上回です。短いですが…。


石上優は相談したい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総司先輩、少し良いですか」

 

 そう声を掛けられたのは、授業が終わり帰ろうと廊下を歩いていた時だった。振り返ると、そこには長い髪で片目を隠した男子生徒が立っていた。

 

「石上?どうかしたのか?」

 

「えぇ。実は、総司先輩に相談したい事があって」

 

 石上優。生徒会の四人目のメンバーにして、会計を務めている。彼は一年ながら白銀のスカウトにより生徒会に加入した優秀な人材。

 普段は仕事を持ち帰り、打ち合わせ程度でしか生徒会に顔を出さないがれっきとした生徒会のメンバーである。先日のフランス校との交流会の準備でも奮闘していたという。

 

「相談?俺に?白銀じゃなく?」

 

「会長にも後で相談しようと思ってます。でも、まずは総司先輩から話を聞こうと思って」

 

「…わかった。じゃあ屋上にでも行くか」

 

 よく解らないが、表情を見る限り真剣に何か悩みがあるようだ。一度今日の予定を思い返し、少しくらいなら時間をとっても大丈夫だろうと判断した総司は承諾する。

 

 どんな悩みかはまだ解らないが、あまり他人に聞かれたくないだろうと、この時間は人が来る事が少ない屋上で話を聞く事を提案すると石上は素直に従い、二人で屋上へと向かう。

 

 秀知院学園ではすでに衣替えが始まっていた。生徒会長の証である純金の飾緒を身に付けている白銀以外は全員夏服へと衣替えしている。

 外に出れば、つい少し前まではまだ寒いと思っていたのにと驚く程に夏の暑さが肌を包む。白銀はこの暑さの中で、あの制服を着たまま毎日自転車登校しているのか。そしてこれからもっと暑くなっていく。

 …考えるだけで暑苦しい。

 

「それで?話って何だ」

 

 屋上へと出た総司は、早速単刀直入に石上に問いかける。

 石上は数瞬言い淀んでから、意を決したように口を開いた。

 

「僕、生徒会を辞めようと思うんです」

 

「へぇ、生徒会を辞めるね」

 

 フムフム、と石上の台詞を思い返す。

 そうか、生徒会を辞めるか。生徒会を、辞める。

 

 生徒会を──────

 

「思い止まってやれ。お前が辞めたら白銀が過労死するぞ」

 

 ハッキリ言おう。今の生徒会は石上が成り立たせているといっても過言ではない。

 石上が入学するまで、会計の仕事は白銀かかぐやがローテーションを組んで行っていたのだが、正直見ていられない程に忙しそうだった。総司が生徒会を手伝うようになったのは実を言うと、それが切っ掛けだったりする。

 

 今、生徒会はあの頃以上に忙しくなっている。もうすぐ部活の予算案のまとめも行わなくてはならない。そんなタイミングで石上が生徒会を辞めれば、多分白銀が死ぬ。

 

「というより、理由は何だ。お前は今の生徒会を気に入ってるとばかり思ってたんだがな」

 

「…はい。僕はあの場所が好きです。僕を生徒会に入れてくれた会長には感謝してますし、藤原先輩も何だかんだ話してて楽しいですし」

 

 石上が生徒会を辞めたいと言い出した理由を問う質問の直後の総司の台詞に、石上は同意する。だが直後、石上はでも、と続けた。

 

「四宮先輩が…。僕、四宮先輩に殺されると思うんです…」

 

「はぁ?」

 

 素っ頓狂な声が漏れた。何をふざけた事を、とも思った。しかし、石上の表情と震えぶりを見て、笑い飛ばす事は出来なかった。

 

「何でそう思う?」

 

「…脅されているので、言えません」

 

「…」

 

 かぐやに殺されると思う理由を問いかけるも、石上は口を割らない。

 

(よく解らんな…。解らんけど、うん)

 

 一つだけ解るのは、石上がかぐやの地雷を踏み、口止めされている事。そしてきっと石上が口外しないか、かぐやは監視しているのではないだろうか。

 その時に漏れた殺気を石上は感じ、恐れているのではと総司は予想を立てた。

 

「とにかく、かぐやには俺から注意しとくよ。石上が悩んでるって」

 

「ほ、本当ですか…」

 

「あぁ。だから辞めるなんて言うな」

 

 微笑み、石上を元気付ける。総司に話しかけてからこれまで、一度も固い表情を崩さなかった石上だったが、ほんの少しその表情が緩んだ。

 

「…ありがとうございます」

 

「でも、それでもかぐやの態度が直る保証はないから、白銀にも話しとけよ。…もしかしたらそっちの方が効果があるかもしれん」

 

「え?何か言いました?」

 

「いや、何も」

 

 一応、白銀にも相談しておく事を勧めておく。むしろそっちの方が効果がありそうだから。口が裂けても言えないが。

 もし石上に言ったら、本当にかぐやに殺される事になりかねない。石上が。

 

 相談も終わり、石上もとりあえず生徒会を辞める事を思い止まった。

 その後、石上は生徒会室へと向かい、総司は校門前に待たせている車へと向かう。

 

 石上がこの後、再びかぐやへの恐怖を再燃させた事は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「かぐやー、入るぞー」

 

 その日の夜。一段落つく所まで仕事を終わらせてから、総司はかぐやの部屋へと来ていた。理由は勿論、石上から受けた相談の件である。

 

 総司は一度ノックした後、扉を開けてかぐやの部屋へと入る。

 部屋の中ではいつもの二人が話していたようだ。会話を中断し、部屋に入ってきた総司を見ている。

 

「珍しいわね。総司から私の部屋に来るなんて」

 

「まあ今日は少しかぐやと話したい事があってな」

 

 話したい事?と首を傾げるかぐや。早坂も頭の上に疑問符を浮かべている。

 

「かぐや、最近石上を虐めてるらしいじゃないか」

 

「…は?」

 

 呆けた声を漏らすかぐや。目を丸くしてかぐやの方を見る早坂。

 

「俺に相談しに来てたぞ?お前に殺される~って」

 

「…そうですか。石上君、総司にも相談していたのですね」

 

 かぐやの瞳からハイライトが消える。何故?

 

「それで?石上君は何と言っていたのです?」

 

「え?いやだから、お前に殺されるかもしれないって」

 

「それだけですか?他にも何か言ってませんでしたか?」

 

「いや?あぁ、そういえば脅されてるから理由は言えませんとは言ってたな」

 

「…」

 

 かぐやのハイライトが戻っていく。いやだから、何故──────

 

(あぁ~…。石上が口止めを破ったんじゃないかって思ったのね)

 

 かぐやは石上に勘違いをしていたらしい。それに気付いたかぐやの表情が元に戻っていく。

 

「そう、ですか。そうでしたか。それならよかっ…いえ、良くありません!本当にあの子は…!会長にも私に殺されるとか言ってたんですよ!?」

 

「いや、石上にそう思わせる様な事をかぐやがしたんだろ?」

 

「そんな事はありません!ちょっと強目に口止めをしただけです!もうっ、失礼ね全く」

 

 かぐやのちょっとはちょっとじゃないから仕方ないんじゃないか、とは言えなかった。総司は苦笑いするだけに留めた。

 

「かぐや様は会計君を虐めているんですか?」

 

「聞いての通りだ。当人に自覚がないのが厄介だ」

 

「だから虐めてませんっ!」

 

 かぐやにはそのつもりはなくとも、相手がそう思えばそれは虐めになるのである。勿論程度はあるが、今回のケースは完全に虐めになるだろう。

 かぐやの方にも事情があるとはいえ、飽くまでそれは個人的なものである以上、かぐやに過失はある。

 

「酷いですね」

 

「全くだ」

 

「二人して私を虐める!」

 

 総司は早坂と一瞬のアイコンタクトの後、息のあったコンボでかぐやを口撃する。かぐやは目の端に涙を浮かべながら言い返すも、二人に全く効いた様子はない。

 

「早坂!貴方は私の近侍でしょう!?どうして総司側にいるの!」

 

「まあ、主人の間違いを正すのも使用人の役目だと思いますし」

 

「…こっちに来ないと総司に言うわよ」

 

「総司様。あまりかぐや様を虐めないであげてください」

 

「掌返し速すぎねぇか!?早坂お前かぐやに何を握られてんだ!?」

 

 あまりに突然すぎる早坂の裏切りに驚愕する総司。先程の意思疏通はどこへいってしまったのか。

 

 四宮別邸の夜はこうして慌ただしく過ぎていった。

 ちなみに、かぐやの石上に対する態度だが、ほんの少し柔らかくなったという。

 

 石上本人には全く伝わっていないのだが──────。




もう何も辛くないは知りたい(ポン酢レシピを持ってる方は是非ラジオにお便りを送りましょう)
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