藤原あああああああああああああ
早坂あああああああああああああ
うおおおおおおおおおおおおおお(思考停止)
総司と藤原の勉強会が始まってから二日目。藤原が生徒会での仕事を終えるまではどこかで時間を潰そうか、と考えていたのだが、先に帰りのホームルームが終わっていた藤原が教室の前で待っていた。
早速行きましょうと言い出す藤原に、仕事は大丈夫なのかと聞いてみると、今日は無いです、との答えが返ってきた。
いや、無いって何だ。
そうツッコミたかった総司だったが、思い返してみると、藤原が生徒会で働いている所をあまり見た事がない。特に藤原は書記の筈なのだが、書記として働いている所は全く見た事がない。
でも、藤原は生徒会の一員である。総司のようにたまに手伝いにいく臨時生徒会役員のような立場ではないのである。
ないったら、ない。
そんな二人は校門から少し歩いた所に待たせていた四宮家のリムジンに乗り込み、別邸へと向かう。
いつもは校門の前で待たせているのだが、昨日図書室であんな騒ぎになった次の日に、二人で一緒の車に乗り込む所を目撃されたらどうなってしまうか解らない。
そのため、総司は念のために校門から少し離れた人目のつかないところにリムジンを待機させていたのだ。
リムジンが四宮邸に到着し、総司と藤原は屋敷の中へ入る。
「それで総司君。勉強はどこでするんですか?」
「ん?俺の部屋だけど?」
「…」
藤原がそう質問してきたのは廊下を歩いていた時だった。藤原の問い掛けに簡潔に自分の部屋だと答えると、藤原の足が止まった。
「どうした?」
「…そ、総司君の部屋で、ですか?」
「そうだけど…。あぁ…」
何をそんなに戸惑っている、と思ったが当然かもしれない。男の部屋で二人きり、勉強会のためとはいえ、女子からすれば抵抗はあるだろう。
この屋敷には他にも部屋はあるし、何なら来客用の部屋を使うと使用人に伝えておけばそこで勉強する事も可能だ。
「嫌なら他の部屋d「いえっ!総司君の部屋が良いです!行きましょう!」…」
先程までは戸惑っていた様子だったのに、突然意気込み始める藤原。更には場所も解らないのに先導し始める。
迷い、涙目で振り返ったのはこのすぐ後だった。
「お、お邪魔します…」
「どうぞ」
部屋の前に着き、総司は扉を開けて中に入るよう促す。
藤原はおずおずと総司が開けた扉を潜り、部屋の中へと入っていく。
藤原が部屋に入ってから、総司も部屋に入って扉を閉める。
「荷物はその辺に置いといて良いぞ。ちょっとテーブル持ってくるから」
総司の部屋には作業用の机とベッド、衣服を入れるタンス、そして部屋の壁に立て掛けてある折り畳み式のテーブルしか家具はない。
昔、子供の頃はこのテーブルでかぐやと早坂と一緒に勉強したものだ。今ではすっかりそんな機会はなくなり、それぞれの部屋に別れる様になったが。
ほんの少し懐かしさを覚えながら、総司は部屋の中央で四本の足を立てたテーブルを置く。
「うし。それじゃあ藤原。単刀直入に聞くが、テスト範囲はどこまで勉強した?」
「…」
「…おーけー、把握した」
どうやら全く勉強していないらしい。ただ、それは飽くまでテスト対策という意味であり、普段の予習復習はしているはずだ。何だかんだ、藤原もレベルの高い秀知院学園で中間の成績を維持しているのだから。
「それじゃあ、藤原の苦手な教科を重点的にやるか。藤原は…、国語とか英語の点数が低めだったな」
「はい…」
「うん。じゃあテストまでその二教科を中心に勉強していくか。他の教科は、自分で勉強して解らない所があったらここでも良いし、メールでも聞いてくれ」
「はい。…でも私、今思ったんですけど、総司君の連絡先知らないんですよね」
「あー、そういえばそうか。なら忘れないように今交換しておくか」
総司が机横に立てていた鞄からスマホを取り出す。それを見て、藤原も何故か慌てたように鞄からスマホを取り出す。
二人がスマホを操作し、メッセージアプリのIDを交換し、連絡先の交換を終える。
「総司君の…、こんな簡単に手に入っちゃいました…」
「よーし、それじゃあ始めるか。教科書出せー」
何やらぶつぶつ呟く藤原と、その呟きに気付きもしない総司。
二人の総司の部屋での勉強会が始まった。
かぐやが学園から帰り、屋敷へと入ったのは夜の六時になる直前の事だった。
「あ、かぐやさん!お帰りなさい!」
「え…、ふ、藤原さん!?」
扉を開け、玄関へと入ったその時、突然藤原の姿が現れた。あまりに突然の登場に驚きを隠せないかぐや。
「ど、どうしてここに?」
「えへへー。実は、総司君に勉強を見てもらってたんですー」
「総司に?」
そういえば、と一昨日に総司が藤原の勉強を見ると言っていたのを思い出した。しかし、何故この家で勉強をする事になっているのか。
かぐやがそう聞いてみると、藤原は素直にその経緯を説明してくれた。そしてその経緯を聞いて、かぐやは納得する。
確かに総司も藤原も有名人だし、二人一緒に勉強している所を目撃されれば根も葉もない噂が立つだろう。
現に、かぐやも今は石上の勉強を見ているのだが、かぐやや藤原とは別の意味で有名な石上と一緒にいる所を見られ、いらぬ事を言われた。
総司はそういう事を避けるために藤原を家に招いたのだろう。
「…」
しかし複雑ではある。藤原とは友達と思ってはいるが、かぐやにとってはもう一人、掛け替えのない存在がいる。
その人物の事を考えると、どうしても複雑な気持ちになってしまう。
「かぐやさん?」
「っ…、何でもありません。今日はもうお帰りですか?」
「はいっ!門限もあるので、ここまでにしようと総司君が…」
少し残念そうに言う藤原の心境を察するのはかぐやには容易かった。自身の気持ちには鈍感でも、他者の気持ちには敏感なのである。
「そうですか。それじゃあ藤原さん、また明日」
「はい!かぐやさん、また明日!」
挨拶を交わすと、藤原は手を振りながらかぐやの横を通り抜け、玄関から外へと出ていく。と、同時に外から微かに車が走る音、直後に止まる音がした。きっと、藤原を迎えに来た車だろう。
「…」
何事もなく藤原が乗ったであろう車の走り去る音を聞いてから、かぐやは早足で歩き出した。今頃、彼女はかぐやの部屋で自身の帰りを待っているはずだ。
部屋の前まで辿り着いたかぐやは、勢いのままに扉を開けて自室へと入り込む。
「お帰りなさいませ、かぐや様」
かぐやの予想通り彼女は、早坂愛はかぐやの部屋で主の帰りを待っていた。かぐやは鞄も置かずに握ったまま、早坂にずかずかと歩み寄る。
「かぐや様?どうか「藤原さんが家に勉強しに来たそうね」…」
かぐやのどこか苛立ってる様子に首を傾げる早坂の台詞を遮り、かぐやは問いかける。
「その間、あなたはどうしていたの?今日は貴女は私より早く帰ったはずよね?」
「…別に、何も。仕事をしていましたが」
かぐやの問い掛けに、普段の無表情のまま答える早坂。かぐやはそんな早坂をキッ、と睨み付ける。
「貴女、本当にそれで良いの?」
「…何がでしょう?」
「惚けても無駄よ。何年貴女と一緒にいると思ってるの?貴女の気持ちなんてお見通しよ。そして、貴女もそれは解っているのでしょう?」
「…」
かぐやはとっくに早坂の気持ちに気付いていた。早坂が総司を憎からず想っている事を。そして、その気持ちに蓋をして、我慢している事も。
早坂もとっくに気付いていた。自分の気持ちがバレている事を。かぐやが然り気無く自分と総司を接近させようと画策している事も。
「…何の事でしょう」
「言ったはずよ早坂。惚けても無駄。いい加減白状しなさい」
尚も、かぐやの言葉を否定する早坂を容赦なく追い詰める。
「…」
早坂は何も言わない。かぐやは自分ではないどこかに向けられる早坂の目から視線を離さない。
「…私は」
どれだけ時間が経っただろうか。不意に、早坂が口を開いた。観念したように、諦めたように。
「私は使用人です。四宮に仕える者です」
「だから何よ。だから、諦めるっていうの?何もせず?」
「はい。この気持ちは、許されないものですから」
早坂はかぐやの言葉を認めた。それと同時に、これから総司に何らかの行動をするつもりはないと告げた。
早坂は四宮に仕える使用人。四宮直系の、それも次期当主に想いを寄せるなどあってはならない事。
「臆病ね」
「会長に告白できないでいるかぐや様には言われたくないです」
「わ、私は会長なんて何とも思ってないから!」
早坂を追い詰め続けるかぐやだが、思わぬ所でカウンターを貰う。
そう、違う。自分は早坂とは違う。会長の事なんて好きじゃない。しっかり自分に言い聞かせてから、かぐやは仕切り直す。
「おほん。私の事よりも貴女の事よ。とにかく、このまま何もせず諦めるなんて許しません」
「…それは、受け入れられません」
「早坂。さっきも聞いたけど本当にそれで良いの?何もしないまま、もしかしたら藤原さんに総司がとられちゃうのよ?」
「四宮家の次期当主と藤原家の娘。これ以上ない組み合わせと思いますが」
「私が聞きたいのはそんな事じゃない!客観的な事じゃなく、貴女の本心が聞きたいの!」
まるで、必死に目を逸らそうとしているようだった。
かぐやが苛立ち、声を荒げる。早坂は一向に、かぐやと視線を合わそうとしない。
「…早坂」
「…私だって、嫌ですよ。何もしないまま、総司様が他の誰かと一緒になるなんて。でも、駄目なんです」
「早坂」
「私は…、
俯いて黙り込んでしまう早坂。かぐやはそんな早坂を少しの間見つめてから、早坂の頬に手を添えて、その顔を自分の方へと向けさせる。
「ごめんなさい、早坂。私はどうして貴女がそこまで意固地になるか解らない」
「…」
「でもね早坂。私は、恋をする事が許されないなんて、絶対にあり得ないって思う」
「…かぐや様」
「貴女だけは違う、なんて事もあり得ないわ。私が保証します」
かぐやはそれだけ言い残し、早坂から離れて机の上に鞄を置く。
「着替えます。早坂、手伝って」
「…解りました」
自分の言いたい事は言い切った。それでこれからどうするかは早坂次第だ。
早坂が何に苦しんでいるのかは、正直解らない。
それでももし、早坂が自分の気持ちに素直になれたなら、かぐやはきっととても嬉しがるだろう。
翌日の放課後。早坂はこの日の朝、テストが始まるまでは一人で帰るとかぐやに言われた。そのため今、早坂はこれからどうするべきか悩んでいる。このまま帰るか、それともかぐやと石上の勉強が終わるまで、周囲で見守るべきか。
いや、自分が何をしたいかなんて今の早坂には解っていた。もう、どうしようもなく、自分に嘘を吐けなくなってしまっていた。
「昨日、かぐや様があんな事を言ったから…」
足を止め、俯きながら呟く。
昨日、かぐやに言われた言葉の数々が蘇る。よくもまあ自分の事を棚に上げてあそこまで言えるものだ。
そこら辺の事情は置いておけば、言ってた事自体は全部的を射ていたのだが。
「…総司様」
再び歩き出した早坂の目に映ったのは、総司の姿。その隣には、笑顔で歩く藤原も。この後、二人は総司の部屋に行って、二人で勉強するのだろう。
「…」
嫌だ。
心の中が一色になる。
昨日までは我慢できたのに。蓋をできたのに。溢れ出す感情が蓋を押し上げ、どこかに落としてしまう。
「っ」
気付いた時には早坂は駆け出していた。
「四宮君!」
「っ!!!?」
背後から聞こえてきた声に総司は目を剥いた。ピタリと足を止め、慌てて振り返る。
「は、早坂?」
振り返った先に立っていたのは、予想通り早坂だった。
何で?何故?どうして?
総司の頭の中が疑問符で一杯になる。
「早坂さん!どうかしたんですか?」
「うん!その…、ちょっと噂を聞いちゃってさー。四宮君が書記ちゃんに勉強を教えてるって」
「…」
笑顔で会話する早坂と藤原。ギャルモードの早坂と藤原は知り合いだし、何ならどちらかというと友人に近い関係でもある。
だが、何故だろう。笑顔で話しているはずなのに、二人に恐怖を覚えるのは。
「四宮君、お願い!ウチにも勉強教えて?」
両手を合わせて、上目遣いで聞いてくる早坂。
いや、本当に何がどうなってるんだ。早坂、学校で、それもこんな人目のつく所で話し掛けてくるとかどうしたんだ。
色々とツッコミたい事が多すぎるのだが、とにもかくにもまずはここから離れなくてはならない。
「いいぞ。藤原も、別に良いよな?」
「…はい」
思考は一瞬、すぐに了承を告げる総司。藤原からも少し間が空いたのは気になるが、許可は貰った。ならば善は急げ。二人を連れて校舎の外へと急ぐ。
(いや、マジで何で!?本当にどうした早坂!)
内心の混乱を必死に抑えながら、総司は両手に花の状態で生徒用玄関へと向かうのだった。
「四宮先輩。どうかしました?」
「いえ、何でもありませんよ。…ふふっ」
勃・発!