四宮総司は変えたい   作:もう何も辛くない

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今回は色々ぶっ飛んだ回かもしれません。(笑)


四宮総司は甘えられたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 窓の方で一瞬、光が迸る。その数秒後、ゴロゴロという低い音が耳朶をうつ。

 総司は一旦キーボードを叩く手を止めて、視線を窓の方へと向ける。どうやら予報通り、台風が直撃しているようだ。そろそろかぐやと早坂が帰ってくる頃のはずなのだが、大丈夫だろうか。

 

 ちなみに総司は雨が強くなり始める前に帰宅したため、特に台風の影響は受けなかった。だがかぐやは生徒会の仕事で夕方まで残るため、台風の影響を強く受ける時間帯と帰宅する時間が重なってしまった。

 

 その後、総司が作業を進めている間に帰ってきたらしいかぐやは時間通りに夕食の席にいた。その場で、色々とかぐやの話…愚痴を聞く羽目にもなった。

 

 曰く、せっかく会長を車に乗せてあげようと思っていたのに自転車で帰ってしまった。

 曰く、早坂にはちゃんとタクシーを用意していたのに傘が壊れてびしょ濡れになった。

 

 一つ目はまあ解るが、二つ目は文脈がよく読み取れなかった。白銀を車に乗せると早坂が車に乗れなくなるため、タクシーを呼んだのは解るがそれが傘が壊れた事と何の関係があるのか。

 疑問に思うがかぐやが怒濤の勢いで喋り続けていたため、質問を挟む事ができなかった。

 

 結局かぐやの愚痴を聞くだけで終わった夕食の時間。それぞれ部屋に戻り、総司は残った仕事を片付け、日を跨いで丁度の頃に就寝した。

 

 そして、翌日──────

 

「おにいちゃぁん…。いっちゃやだぁ…」

 

 ベッドの上に寝転がるかぐやが総司の制服の袖を掴んで行かせないようにしている。

 総司はその手を強く振り払う事ができず、ただただその手を撫でる事しかできない。

 

 かぐやが風邪を引いたと知ったのは朝食の直前の事だった。何やら昨日、雨に濡れたまま帰ってきたようで、風邪の原因はそれだろうとの事。

 雨に濡れたとは、一体かぐやは何をしていたのだろうか?

 

「…俺も休もうかな」

 

「シスコンを発動しないでください。かぐや様は私に任せて、総司様は早く学校に行ってください」

 

「…」

 

 最近、早坂が総司に対して遠慮がなくなってきている。正確に言うなら、テストが始まった日の辺りからだ。

 別に気分を害した訳ではない。むしろ、早坂と遠慮なしのやり取りが出来ているかぐやを羨ましく思ってたくらいだ。この早坂の変化は素直に嬉しい。

 嬉しいのだが、少し当たりが強いと感じるのは気のせいだろうか。

 

「おにいちゃん…、いっちゃうの…?」

 

「…早坂、やっぱり「行ってらっしゃいませ総司様。かぐや様も、総司様を困らせてはなりません」…」

 

 やっぱり学校を休むと言おうとしたその時、早坂に背中を押される。早坂は総司の背中を押しながら、かぐやを嗜めている。

 しかし効果はなく、かぐやはやぁ~、と言いながら首を振っている。

 

「総司様、構わず学校に行ってください。しばらくすればかぐや様も諦めるでしょう」

 

「いや、俺は…」

 

「それでは、行ってらっしゃいませ」

 

「…」

 

 お構い無しである。部屋の扉の前まで総司を押し出した早坂はお辞儀をして外に出るよう総司を促す。

 

「行ってきます」

 

「おにいちゃああああああああん!!!」

 

 背後から聞こえるかぐやの泣き叫ぶ声に胸を痛めながら、総司はかぐやの部屋を去る。

 

「…久しぶりの甘えんぼかぐやだったのにな。よし、今日は授業終わったらすぐ帰ろう。そんで仕事の前にかぐやの顔を見ていこう」

 

 かぐやは風邪を引くと、かくかくしかじかな理由で甘えんぼになる。普段は総司と呼び捨てにしていたのが、風邪を引くと昔の呼び方に戻り、お兄ちゃんと呼んでくる。

 何ともお可愛い事だろうか。なお、治るとその時の記憶が綺麗さっぱり消えているらしいのだが。

 

 総司は早く治れば良いというかぐやを案ずる気持ちと、帰ってくるまでは甘えんぼでいてほしいという我欲と半分ずつ持って、学校へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、授業が終わって総司はすぐに教室を出て生徒玄関に向かう。そして靴を履き替え、校門前で待たせていた車に乗り込んで急いで家へと帰ってきた。

 屋敷の前で止まった車をすぐに降り、走りはせず、されど早歩きで家の中へと入っていった総司の向かう先は勿論かぐやの部屋である。

 

「早坂、入るぞ」

 

 部屋の扉の前に着くと総司は一言かけ、返事を待たずに扉を開けた。もう、総司の頭の中には甘えんぼかぐやに癒しと力を貰う事しかなかった。

 

「総司様。せめて返事を待ってから入ってきてください」

 

「んー…?あ、おにいちゃんだぁ~、おかえりぃ~」

 

 ため息を吐きながら総司に注意する早坂と、朝と同じ、布団の中からとろんと力のない目で総司を見るかぐや。

 どうやらまだ風邪は頑張っているらしい。かぐやには本当に、大変申し訳ないのだが、総司は心の中で風邪にお礼を言った。それと同時に、心の中でのかぐやへの謝罪も忘れなかった。

 

「早坂に本を読んでもらってたのか?」

 

「うん。おにいちゃんもいっしょにきこ?」

 

「良いのか?なら、一回だけ俺も聞こうかな」

 

「…総司様」

 

「いいだろ早坂。一回だけだからさ」

 

 再びため息を吐く早坂。仕方ない、と言いたげに頷いてから、手に持っている絵本を読み始める。

 

 かぐやが目を輝かせている。早坂がたまに、横目でそんなかぐやの様子を見守っている。総司はかぐやの髪を撫でながら、早坂の声に耳を傾ける。

 三人はベッドの上にいる。かぐやは寝転がって布団の中に。総司と早坂は、かぐやの傍らに二人並んで。傍で第三者がこの光景を見ていたらこう思うだろう。

 

 家族か、と。

 

「そうして姫は王子様のキスで目を覚まし、なんやかんやで幸せになりました。めでたしめでたし」

 

 早坂が本を閉じる。総司が両手を叩いて拍手をする。

 

「かぐや様、楽しかったですか?」

 

「たのしかった。もっかいよんで」

 

「勘弁してください。もう四回目ですので」

 

「三回も読んでたのか」

 

 何か絵本を読むだけなのに微妙な顔をしているなとは思っていたが、まさかすでに三回も読んでいたとは。そりゃ早坂も渋るはずである。

 

「さて…。俺も仕事あるし、部屋に戻るわ」

 

「そうですか。それでは、後はお任せください」

 

 ベッドから立ち上がり、足下に置いていた鞄を持って扉へと歩き出そうとする総司。

 しかし、それを良しとしない人物が約一名いる。

 

「やぁ~!おにいちゃんもいっしょがいい!」

 

「かぐや…」

 

 当然、かぐやである。朝と同じだ。総司の制服の袖を掴んで行かせないようにしている。

 

「かぐや様。ワガママを言っては行けません。総司様はこれからお仕事なのですから」

 

「やぁ~~~っ!」

 

 この光景を第三者が見ていたらこう思うだろう。家族か、と。

 

「かぐや。悪いな、早坂の言う通り仕事がある」

 

「う~…」

 

「だから、次に会うのは風邪が治ってからだ」

 

「…なおってから?なおったら、またきてくれる?」

 

「勿論。約束だ」

 

 総司はかぐやに小指を差し出した。それを見て、かぐやもゆっくりと布団から手を出し、小指を立てる。

 二本の小指は絡まり結ばれ、小さく二つの手が上下する。

 

「よし。じゃあまたな、かぐや」

 

「うん…。またね、おにいちゃん」

 

 手を離し今度こそかぐやに背を向けて歩き出す総司。

 最後にもう一度、こちらにお辞儀をする早坂と、じっと総司を見つめるかぐやの顔を目に映してから総司は部屋を出た。

 

 そして、総司の部屋までもう少しといった所だった。屋敷のチャイムが鳴り響いたのは。

 

「来客か」

 

 まあ早坂に任せておいて大丈夫だろう。今日は重要な来客の予定はない。もし総司の対応が必要な場合はすぐに早坂が呼びに来るはずだ。

 

 総司は来客を気にする事なく部屋へと入り、鞄をデスク横に掛けてから制服から部屋着に着替える。

 そしてすぐにデスクの席に着くとパソコンを立ち上げ、今日入った仕事と報告に目を通すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてどれほど時間が経っただろう。一人での夕食も食べ終え、部屋に戻って仕事を再開。今日はかなり良心的な仕事量で、お陰でまだ九時前なのだが今日の分は終わりそうだ。

 

 しかし、毎日毎日仕事の分量に差がありすぎる。もう少し平均的にならないのだろうか。

 さすがにそれは求めすぎだとは解っているのだが、少々愚痴りたくなる総司の気持ちも汲める。ある日は今日のように九時。ある日は日を跨ぎ、二時を過ぎる事も。学生の身には少々酷である。

 

『きゃあああああああああああああ!!!』

 

 さて、これにて今日の分の仕事は終わり。余った時間は勉強か、それとも読書に使うか、と頭を悩ませようとした時だった。

 

「かぐや!?」

 

 かぐやの尋常ではない悲鳴が総司の部屋まで届いた。総司は慌てて立ち上がり、勢いよく部屋から飛び出す。

 

 部屋から飛び出た総司の耳には二人の声がする。一人は女、もう一人は男。女の方は先程の悲鳴から予想はつくし、その声を聞き間違うはずもない。かぐやである。

 だが、もう一人は──────

 

(白銀か?)

 

 その声から記憶を呼び出す。恐らく、この声は白銀のものだろう。だが、何故白銀がこんな時間までこの家にいる。

 この家に来た理由は簡単に想像がつく。かぐやのお見舞いだろう。そして、これも予想だが白銀の対応に早坂が総司を呼ばなかったのは、総司の仕事を考えての事だろう。

 だがそれは良い。

 問題は、こんな時間まで白銀がこの家で何をしていたか、だ。

 

「早坂!」

 

「総司様?そんなに慌ててどうしたのですか?」

 

「どうしたじゃない!かぐやの悲鳴が聞こえたから急いで来たんだよ!白銀の声もするし、何があったんだ!」

 

「あー…、それはですねー…」

 

 首を傾げる早坂を問い詰める。だが早坂は少し言い淀む。

 再び総司が早坂を問い詰めようとした、その時だった。

 

「それでベッドに潜り込む男がいますか!!信じられない!!!」

 

「…ベッドニ、モグリコム?」

 

「あー…」

 

「…ハヤサカ、イマヘヤニシロガネガイルヨナ。アイツハコンナジカンマデ、カグヤノヘヤデ、ナニヲシテイタンダ?」

 

「総司様、誤解をなさらぬよう。かぐや様がお風邪を召した時の状態はご存知のはずです」

 

「ウン、シッテルヨ、シッテル。…シロガネ、コロス」

 

「ご存知じゃないっ!」

 

 もう総司は普通の状態じゃなかった。頭の中にあるのは可愛い妹の純潔を弱った所に付け込んで奪った糞野郎への殺意。

 それは全くもって誤解甚だしいのだが。

 

「だから総司様!勘違いしてます!会長はかぐや様に何もしてません!」

 

「ハヤサカハナセ、アイツコロセナイ」

 

「話を聞いて!」

 

 形振り構っていられなかった。早坂は総司の背後から腰に両腕を回し、抱きつく形で総司の進行を止める。

 シロガネ殺害マシーンと化したはずの総司だが、早坂を力任せに振り払おうとはしなかった。案外、理性が残ってたりするのだろうか。

 

「最低!!今すぐ出てってください!!」

 

「う…あ…うわあああああああああん!!」

 

 そうこうしている内に、かぐやの怒鳴り声と共に部屋から叩き出された白銀。そして白銀は泣き叫びながらこの場から走り去っていった。

 

「シロガネ、オイカケル。シロガネ、コロス」

 

「待ってください総司様!…そうです!まずはかぐや様の無事を確認してからです!」

 

「…そうだった!かぐや!」

 

 総司が正気に戻り、それを察した早坂が解放したと同時にかぐやの部屋へと飛び込む。

 

「大丈夫かかぐや!無事か!?」

 

「そ、総司…。わ、解らないわ…。私、会長とどこまで…」

 

 黙り込む兄妹。二人が早坂の方へと振り向いたのは全くの同じタイミングだった。

 

「「早坂!」」

 

「はいはい、今すぐ確認しますよ」

 

 二人に呼ばれた早坂はどこからか取り出した虫眼鏡でベッドのシーツのチェックを始める。

 結果、何もなかった事が判明した。更に、早坂から白銀がかぐやのベッドで眠る事になった経緯を聞いた総司。

 しっかりと反省するようにと早坂から説教を受けたのだった。




もう何も辛くないは説教されたい(早坂に)
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