藤原とのデート話は前半後半の二つに分けて投稿したいと思います。今回は前半です。
「よし。それじゃあ行くとするか」
念のために姿見でおかしな所はないか、シワになってる所はないかチェックする。
珍しく、総司は今私服である。部屋着でもなく、制服でもなく、当然来客用のスーツでもなく、私服姿である。
トップスには薄いベージュのTシャツと白のリネンシャツを羽織り、ボトムスには黒のスキニー。
正直、外に私服で出るのはかなり久し振りだし、何より私服で友人、それも女子の友人と会うなんて総司は初めてだ。
今なら、少し前のかぐやの気持ちが解る。本当にこれで大丈夫なのだろうか。実はこれが普通に見えるのは自分だけで、藤原や他の人から見たらかなりおかしく見えてたりするのだろうか。
そんな不安が総司の胸の中でぐるぐると巡る。
「…ま、なるようになるだろ」
だが総司はかぐや程に優柔不断ではなかった。もしこの格好がおかしかったら周囲や藤原の反応で解る。そして、この格好がおかしければ藤原に頼んで自分に合うコーディネートを選んでもらおう。少し時間を貰う事になってしまうが。
現在の時刻は十時。藤原との約束の時間は十一時。日曜日は基本毎週仕事は休みのため、時間はたっぷりあると藤原に伝えたところ、それなら一緒にお昼ご飯も食べましょうと誘われた。
…これは俗にいうデートなのではないか?と総司の脳裏を過ったが、飽くまでこれは藤原へのお詫びであり、それ以上でもそれ以下でもない。勘違いしてはならない。
総司は左手首に腕時計を付け、リネンシャツの左右のポケットにそれぞれ二つ折りの財布とスマホを入れて、総司は自室を出る。
廊下を歩き、玄関を抜け、歩いて門へと向かい、敷地から外へと出る。そういえば、一人で歩いてこの門を潜るのは初めてだ。
…正確には、一人ではないが。
総司はまず最寄りの駅へ行き、電車に乗る。一度乗り換えをしてから、目的の駅で降りた総司はその駅の南口にてある人物を探す。
「まだ来てない、か」
日曜日、休日という事もあり、駅ではかなりの人数の往来が流れている。その中で、その場に立ち止まった人の中から藤原を探すも見つからない。まだ来ていないようだ。
総司は近くにあるオブジェの前で藤原が来るのを待つ事にした。
現在、十時五十二分。待ち合わせの約束の時刻まで残り八分となった時だった。
「総司く~ん!」
総司を呼ぶ声がして振り向く。慌てた様子で走ってくる藤原の姿があった。
藤原は総司の前で立ち止まると両手を膝に着き、乱れた息を整える。
「ごめんなさい…。待たせちゃいましたか…?」
「いや、そんな事はない。俺もついさっき来たばかりだ」
ついさっき、という程さっき来た訳ではないが、実際そこまで待った訳でもない。総司は藤原の息が整うまで何も言わずに待つ。
「はぁ…はぁ…ふぅっ。総司君、来てくれてありがとうございます」
「いや、約束だったからな。そりゃ来る」
「約束じゃなかったら来てくれなかったんですか?」
「…そんな聞き方は狡いだろ」
「あははっ、ごめんなさーい」
藤原の息も整い、総司は腕時計を見る。丁度十一時になった所だった。
「それじゃ行くか」
「はいっ」
総司がそう言うと、藤原は花の咲いた様な笑顔を浮かべて頷いた。そして二人は並んで歩き出す。
そんな二人を、物陰から覗く人影があった。
「…行ったわね。それじゃあ追うわよ、二人共」
「…どうして私までここに」
「いや、私からすれば何故お二人がここにいるのかがまず疑問なのですが」
まず一人目。並んで歩く総司と藤原を真剣な眼差しで見据えて追いかけるかぐや。
二人目はそんなかぐやに無理やりこの場に引っ張って来られた早坂。
そして最後、三人目は総司に命じられ、総司と藤原の護衛として陰から見守るべく参上した赤木。
二人を陰から覗いていたのはこの三人だった。
かぐやはノリノリで、早坂はげんなりと、赤木はいつもと変わらぬ毅然とした様子で総司と藤原を追いかける。
「早坂。貴方は気にならないの?もうこれはデートよ?総司と藤原さんのデートなのよ?危機感を覚えないの?」
「…確かに全く気にならないと言えば嘘になりますが、別に尾行したくなるほど気にはなりませんよ」
「…なるほど。お二人がここにいるのはそういう理由でしたか」
かぐやと早坂のやり取りを聞いて、赤木は二人がこの場に来た訳を悟る。だが、それだけではまだ不完全であった。
「大体どうしてかぐや様がここにいるのですか。かぐや様も総司様と藤原さんのデートが気になるのですか?」
「…それもあるわ。でも、ちょっと今後の参考にしたいと思って…」
「あぁ、会長とのデートのですか」
「別に会長とじゃないわよ!でも私だっていずれ男の人とデートをする日が来るかもしれない!そのときの参考にしたいだけよ!相手が誰かは知らないけどね!?」
早坂に図星を突かれて慌てるかぐや。無表情だが内心面白がってる早坂。会話に入れない赤木。
三人は騒ぎもそこそこに、移動を続ける二人を気配を殺し、追うのだった。
視点は戻り、総司と藤原の二人である。並んで歩く二人の会話は弾…んでる訳ではなかった。この休日に何をしていたか、藤原は怒濤の如く喋り続ける。一方の総司は完全に聞き役だった。
しかし別に総司は楽しくない訳ではなかった。楽しそうに話す藤原に釣られて、総司の顔には笑顔が浮かんでいる。
「そうだ!聞くのを忘れていました!」
二人が渡ろうとした横断歩道の信号が赤になり、立ち止まった所で藤原はそう言うと、体を総司の方に向けて両手を広げた。
「どうですか!?総司君!」
「…?」
首を傾げる総司。どうですか、と聞かれても。正直何の事かさっぱり解らない。
だが、藤原の期待に満ちた瞳を前にすると、何の事か聞くのも戸惑われる。
総司は頭をフル回転させる事コンマ三秒、とある可能性に至る。
「…似合ってるぞ」
「…在り来たりですが、シンプルかつ真っ直ぐに言ってくれたので良しとしましょうっ」
「それは有難い事で」
どうやら正解だったらしい。
総司の言った似合ってる、とは藤原の服装についてである。
当然、藤原も総司と同じく学園の制服ではなく私服だ。
藤原のトレードマークである頭のリボンはそのままに、白のワンピースの上にピンクの薄いカーディガン、シンプルではあるが藤原の柔らかい雰囲気にマッチしている。先程の総司の台詞は心の底からの本心である。
「総司君も、似合ってますよ?かっこいいです!」
「…それは有難い事で」
藤原は真っ直ぐに総司を見上げてそう言った。
何というか、照れ臭い。決してそうではないだろうが、朝に着替えてた時の不安が藤原に見透かされている様に感じてしまった。
信号が青に変わり、同時に歩き出す。
それからも会話は途切れなかった。というより、藤原が途切れさせなかった。次々と藤原の口から出てくる話題の数々に、総司は何故そこまで多く話のネタがあるのかと不思議に思うが、すぐに藤原だからという理由で納得する事が出来た。
そうして二人がやって来たのは大きなショッピングモール。総司はここに来るのは初めてだが藤原はそうではない様子。ただ、来るのは久し振りな様で、入るとすぐにモール内の地図が載ったパンフレットを貰っていた。
「うーん…。前に来た時とそこまでお店の場所は変わってませんね。これならパンフレット貰わなくても大丈夫だったかもしれません」
なんて呟く藤原。一方の総司は初めて来る大型ショッピングモールの中を見回していた。
人の多さ、店の多さ、客達の賑わい。どれも総司にとって初体験である。
「総司君?どうかしましたか?」
「…いや、何でも」
「?」
首を傾げる藤原。周りを見続ける総司。
「…もしかして総司君、ショッピングモールに来るの初めてですか?」
「…恥ずかしながら、こういう店に来るのも初めてだ」
総司はこれまで四宮の教育を徹底的に叩き込まれてきた。その教育が終わっても自分で努力は欠かさず、高校に入学してからは家の仕事もする様になり、こういった場所に遊びに行く時間などなかったのだ。
服などは使用人達が厳選して買ってきてくれる。この服も総司が選んで買ってきた訳ではない。
「それなら、今日は目一杯楽しみましょう!」
「藤原?」
「私の水着だけじゃなく、色んな所を回って遊んじゃいましょう!ね?総司君!」
藤原が総司の前に回り込んでそう言った。
初めは呆気にとられて口を半開きにさせていた総司だったが、藤原らしい心遣いが籠った言葉に次第に笑みが零れる。
「…そうだな。付き合ってくれるか?藤原」
「勿論です!」
総司が問いかければ、藤原は両手を腰に当てて胸を張りながらハッキリと一言で答える。
「それじゃあ早速行きましょう!まずは総司君の服を買いに!」
「ん?藤原の用事を先に済ませなくても良いのか?」
「今、私は総司君の服を選びたい気分なんです!」
「なんだそりゃ」
藤原が総司の手を掴んで引っ張っていく。総司は抵抗する事なく藤原に引っ張られる。
二人の初めてのデートは、こうして始まったのであった。
ファッションにはこれっぽっちも詳しくありません。総司のも藤原のも調べて載ってた服やズボンの名前を丸写ししました。何かおかしかったら教えてください。
もう何も辛くないもデートしたい