四宮総司は変えたい   作:もう何も辛くない

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え?何でもう評価に色付いてるの?まだ一話しか投稿してないのに…。(・・;)))

と、ともかくありがとうございます…。いや、こんな事初めてで戦慄しております…。


四宮かぐやは選びたい

 

 

 

 

 

 四宮総司。

 言わずとも知れた四宮の麒麟児。勉学、芸事、武芸、音楽と全ての分野に於いてトップクラスの功績を残した、四宮最高傑作とも呼び声高い鬼才。

 弱冠15才で四宮家当主であり父、雁庵から次期後継者と指名され、いずれ来る当主受け継ぎの日に備えて日々修行中である。

 

 そんな彼だが、一つ、自分ではどうしようもない欠点というべきか、弱点というべきか、そういった要素を抱えていた。

 

「…懲りもせずにまぁ」

 

「如何なさいますか」

 

「いつも通りで。誰にも知られず、犯人一味には寂しくご退場願おう」

 

 光が届かないその瞳に映るのは、一枚の白い紙。そこには新聞紙を切り取って作った文が書かれていた。

 

──────今すぐに次期後継者を辞退しろ でなければ貴様も大切な妹も命の保証はしない

 

 典型的な脅迫文である。四宮の次期後継者に向かって、何と命知らずな輩だろうか。

 だが、こんなのは別段珍しい事ではない。総司が後継者に指名されてから、こんな事は日常茶飯事である。

 

 先程の総司の欠点の話に戻るが、総司とかぐやは正妻の子ではない。所謂妾の子なのだ。

 総司が生まれ成長するまで、四宮の後継者は長男の黄光だと言われていた。長男であり、正妻の子であり、そして四宮の教育を受けて能力も申し分ない。

 次期後継者は、黄光で間違いないと言われていたのだ。

 

 だが、四宮総司は生まれた。

 

 四宮の教育を受けながら、それ以上の能力を自力で身に付け、15才の時、中等部卒業と同時に当主から次期後継者の指名を受けた。

 

 当主雁庵の判断は間違っていない。より優秀な方が当主として相応しい、それは至極当然の事と言えるだろう。

 それでも、人間というものは理屈だけでは納得できない生き物だ。

 

 総司は雁庵がある日突然見つけてきた妾の子供。ただでさえ、雁庵が総司とかぐやの母を妾にしようとした時も騒ぎになったというのに、その子供を次期当主に指名するなど、その時の比ではない騒ぎが起こった。

 

 決して総司を支持する者がいない訳ではない。基本、雁庵の近くにいる使用人達は総司派の上、四宮傘下の企業の殆どが雁庵の決断を支持している。

 しかしそうは思っていない者も多くいるのも事実。現に、黄光が総司の傍にスパイを送り込んでいる。まだ全面戦争をする気はないためある程度放っておいているが、やがて総司派と敵対体制をとっている派閥とのいざこざは避けられないだろう。

 

 いずれ来るだろう大きな騒動に憂鬱になりながら、総司は脅迫状を背後に立つ壮年の男に手渡す。

 先日、総司が帝と話す最中に見張りを任せていた男だ。

 

 初めは総司自身が犯人を突き止め、犯行の証拠とついでに犯人の家系が抱える黒い事情を突きつけて四宮の奴隷にするか海外に島流しにするかしていたのだが、今ではそういった制裁はこの男に任せている。

 無論、制裁を加える際は総司にこの方法で良いか確かめるのだが。

 

「はてさて、今回は誰の息が掛かってるのやら…」

 

 溜め息と共に吐き出される言葉。大体の予想はついているが相手もさるもの。犯人との繋がりの証拠などないだろうし、何よりいようがいまいが影響が少ない相手を選んで送り出している。

 犯人はすぐに突き止められるだろうが、黒幕までは手が届かない。相手からすれば、どれだけ攻撃を加えても総司が揺るがない。

 そうした鼬ごっこがずっと続いていた。

 

「…で?また雲鷹兄上がハッキング仕掛けてきたって?」

 

 不意に総司が先程とはまた違った話を切り出した。

 

「正確には、雲鷹様の部下が、ですが」

 

「んなのはどっちでも良いんだよ。それよりも」

 

「はい。()()()ダミーに引っ掛かったようです」

 

「…マジちょっろ」

 

 かなり物騒な会話の内容だが、総司に困った様子や焦った様子はまるでない。それどころか、どこか面白気に笑みさえ浮かべている。

 

「如何なさいますか?今回も放置なさるので?」

 

「うん。あれが俺の傍にいるものに手出しさえしなきゃ基本好きにさせてやるさ」

 

 背もたれに寄りかかり、足を組んで、僅かな空白の後、総司は呟く。

 

「俺は身内には優しいから」

 

「…」

 

 総司は知らない。総司の背後に立つ男が、小さく身震いした事など。

 

「ん?」

 

「何事だ」

 

 直後、総司の部屋の扉をノックする音が室内に響いた。

 総司は一旦机の上に置いてあった報告書やデータを引き出しへと仕舞ってから振り替える。

 

「早坂です。総司様、かぐや様が御呼びでございます」

 

「そうか。少し待っててくれ、すぐに行く」

 

 ノックをしたのは早坂だった。何やらかぐやが呼んでいるらしい。

 早坂を扉の向こうで待機させ、総司は立ち上がる。

 

「一時間後くらい、もっと早いかもしれんがそれまでには戻る。ここで待っていろ」

 

「承知致しました」

 

 男の返事を背に、総司は部屋の扉を開ける。

 

「待たせたな」

 

「いえ」

 

 そして部屋の前で待っていた早坂と簡潔に言葉を交わしてから、二人は歩き出す。

 

「それで、かぐやはどうした?今日は確か白銀と映画に行く日じゃなかったか?」

 

 自分の一歩後ろを歩く早坂に問いかける総司。

 思い出すのは三日前、ちょっとしたハプニングはあったが策が成功し、白銀に映画のチケットを渡せたとご機嫌に語るかぐやの笑顔。

 

 マジで何で告白しないの?怖いの?実はフラれるのが怖いの?という本音を心の中に留めたのは言うまでもない。

 

「総司様、間違えてはなりません。会長と映画館で偶然出会す日、です」

 

「…そうだった。今日は白銀と映画館で偶然出会す日だったはずだが、どうしたんだ?」

 

 めんどくせ、と口から出そうになったのは秘密。

 

「それが、かぐや様が着ていく服に悩んでしまって」

 

「は?」

 

「男性側の意見を聞きたいと、総司様を呼んでこい、と」

 

「…戻っていい?」

 

「ダメです。後で私が文句を言われてしまいます」

 

 想像以上にどうでもいい相談内容だった。いや、かぐやにとってはとても重要な事なのだろうが。

 

「あー、ほら、あれだ。かぐやなら何着ても似合うし、白銀もそう思うと思うぞって伝えてくれれば」

 

「シスコン発言乙です。ですが、それを総司様御自身から聞かなければかぐや様は納得しないでしょう」

 

「…俺、結構忙しいんだぞ?」

 

「御愁傷様です」

 

 表情一つ変えない早坂と、沈んだ様子で溜め息を吐く総司。やがてかぐやの部屋の前まで辿り着き、早坂が総司の前に出て扉をノックする。

 

「かぐや様。総司様をお連れ致しました」

 

「入って」

 

 中から聞こえてきたかぐやの声は微妙に震えていた。どうやら相当テンパっているらしい。

 早坂が扉を開け、先に総司が中へと入る。背後からする扉が閉まる音を聞きながら、総司はかぐやの部屋の惨状を目にした。

 

「汚なっ」

 

 床中服だらけだった。どんだけ迷ってたんだ。

 

「彼氏との初デートを控える彼女か」

 

「だ、誰が彼女ですか!それにデートではありません!今日は…」

 

「あー解ってる。今日は白銀と偶然映画館で出会す日なんだろ?知ってる知ってる」

 

 顔を真っ赤にして言い返そうとしたかぐやを宥め、改めて部屋を見渡す。

 私物が少なくいつも片付いていたあの部屋はどこへやら。散らかった服の中心にいるかぐやは、何も知らない者が見れば完全に片付けられない女である。

 

「着てく服に悩んでるって?にしたって散らかし過ぎだろ」

 

「し、しょうがないじゃない!会長と会うのに、変な格好をしていく訳にはいかないんだから…!」

 

「…」

 

 白銀と会うのは偶然の上の結果論で、別に予定にある訳ではないのでは?という突っ込みを総司は飲み込んだ。

 

「これは?」

 

「これ?…少しスカートが短くないかしら」

 

 総司が手に取ったのは近くにあった白いワンピースだった。手に取ったワンピースを広げて持ち上げ、見せながら訝しげに総司が持つワンピースを見るかぐやに総司は言う。

 

「かぐや。男はな、短いスカートが好きな生き物なんだ。それはきっと、白銀も例外じゃない」

 

「なん、ですって…」

 

 心の中で白銀に謝る。

 勝手に短いスカート大好きな変態認定してすまん白銀。そしてかぐやがそれを信じちゃってすまん白銀。

 

「かぐやがこれを着ていけばきっと白銀もメロメロだ」

 

「めろめろ…」

 

「そう、メロメロだ」

 

 顔を赤くして、目をぐるぐるさせて、かぐやは一体何を想像しているのだろうか。

 いけない、少しやり過ぎたかもしれない。でも嘘は言ってない。男は短いスカートが好きだ。このワンピースがかぐやに似合ってると本気で思ってる。

 だから早坂さん、そんな目でこっち睨まないでください。

 

「…解りました、これを着ていきます。早坂」

 

「…かしこまりました」

 

 決心はついたらしい。かぐやはワンピースを総司から受け取り、早坂を近くに呼ぶ。

 総司はすぐにその場から離れ、何も言わずに部屋を出る。これから行われるのは、男子禁制の儀式なのだから。

 

「あら、待っていたの?」

 

「まあな。俺が選んだ服なんだし」

 

 総司が部屋を出てから約十分。かぐやが早坂を伴って部屋から出てきた。総司が選んだ白いワンピースを着て。

 

「うん。やっぱ悪くないじゃん」

 

「そう?なら良いのだけれど」

 

 本心である。ザ・大和撫子なかぐやにはこうした白い服が良く似合う。

 かぐや自身もそう思った様で、このワンピースを不満に思っている風は見られない。後は、白銀の反応だが──────

 

(ま、こればかりは個人の好みだからな)

 

 好き放題言っていた癖に、心の中で逃げ道を作る。まさにゲスの極みである。

 

「それじゃあ行ってくるわ。そろそろ行かないと最初の上映に間に合わないわ」

 

「え?最初の…あぁ、なるほど…」

 

 何故そんな早くから?という疑問はすぐに氷解する。

 つまり、白銀を待ち伏せるつもりなのだろう。かぐや本人は否定するだろうが。

 

「いってらっしゃい」

 

「えぇ。行ってきます」

 

 いざ、出陣するかぐや。見送る総司。

 

「──────」

 

「──────」

 

 一瞬交わる二つの視線。総司と早坂はその僅かな間にアイコンタクトを交わす。

 

──────解っているな?

 

──────はい。報告をお待ちください。

 

 かぐやと早坂の姿が見えなくなる。それから、総司もその場から立ち去り、自室へと戻るのだった。

 

 後に来るだろう、早坂の報告を楽しみに思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

『会長とは無事に合流できたのですが、何故か前後の椅子に座ってました。本当に不思議で堪りませんでした』

 

 早坂からこんな報告が来たのが総司が部屋に戻ってから五時間後。そしてその理由を知ってお腹が引き攣る程に大笑いしたのがそれから更に二時間後の事だった。

 いや、本当にこんな調子で白銀を告らせる事が出来るのだろうか。

 

 前途多難だと思いながらも、笑いが止まらない総司なのだった。




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