四宮総司は変えたい   作:もう何も辛くない

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デート回with藤原はこれにておしまいです。
少しでも藤原の魅力が伝わってくれれば嬉しいです。


藤原千花はまた行きたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 道中とは比べ物にならない人の多さ。時折二人を見失いそうになりつつも、かぐや達の尾行は続いていた。

 昼食を終えた総司と藤原は、約束の買い物とは違う物の店へと入っていった。何故、と疑問が浮かぶが恐らく、藤原の誘いを総司が受けたのだろう。その光景が容易く頭に浮かぶ。

 

 どうやら藤原が総司の服をコーディネートしているようで、何着か服を選んだ藤原が総司の体に合わせつつ、どれが良いかと悩んでいる。

 一方の総司は、藤原にされるがままだ。あっちへそっちへ引っ張られ、試着を頼まれたら試着室で試着する。

 

 だが、総司は楽しそうだった。そして、かぐやもそんな総司が羨ましかった。

 自分も、あんな風に友達と一緒に服を選んでみたい。友達と遊びに行きたい。

 夏休みに入れば、かぐやも今目の前にいる藤原やその妹、そして何より圭と一緒にショッピングに行けるのだ。その日がかぐやの中で更に楽しみになる。

 

(…そうだわ。藤原さんは早坂の事を知っている。それなら早坂も一緒に連れていけないかしら?)

 

 ふと、かぐやの頭の中でショッピングに早坂も連れていけないかという考えが浮かんだ。

 早坂が四宮に仕えている事は漏らしてはならない秘密だが、すでに藤原には知られている。そして、藤原はその秘密を他者に漏らしていない事は確認されている。今のところ、という言葉が頭に付いてしまうが。

 

 かぐやと藤原の共通の友人という事にして、早坂も連れていきたい。これは中々に良い考えではないだろうか。家に帰ったら早速早坂を誘おう。

 そう思いながら、かぐやはチラリと横目で早坂の横顔を見遣った。

 

「ひっ」

 

 かぐやは思わず小さな悲鳴を漏らした。それと同時に、かぐやの頭からこれまで考えていた事が吹っ飛んでいった。

 

「は、早坂、早坂…。落ち着きなさい、気配を消しなさい」

 

「何を言っているのですかかぐや様。私は落ち着いています」

 

「いいえこれっぽっちも!」

 

 小声で叫ぶという器用な事をするかぐや。そしてかぐやの隣にいる早坂からはどす黒い怒気が溢れ出していた。

 ここに来る道中は帰りたいとかそこまで気にしてないとか言ってた癖に、いざ二人の仲良さげなデートシーンを見るとこれである。

 

「かぐや様。本当に私は怒ってる訳じゃないんです」

 

「そ、そうなの?」

 

「はい。ただ、今総司様と藤原さんがしてる事を全部覚えておいて、いつか必ず私とそれ以上のデートをしてもらおうと思ってるだけです」

 

「…」

 

 かぐやは初めて、自身の従者が嫉妬深かった事を知る。

 つい最近まで自分は使用人だから何もしないとうじうじしていたというのに。まあ開き直らせたのはかぐや自身なのだが。

 

「決まったようね」

 

 そんな事を話している内に二人は買う服を決めたようで、レジ前の列に並んでいた。そして自分達の番が来たのだが、買う商品を台に載せてから二人が揉め始めた。

 

 二人が財布を持っている事から、恐らくどちらが代金を払うかを揉めているんだろう。

 二人の声が、特に藤原の良く響く声がかぐや達にも届く。

 

「…?何を言われたんでしょう?」

 

 突然の事だった。二人のやり取りを微笑ましそうに見ていた店員が何かを言うと、二人は黙り込んだ。すぐに総司が手を横に振りながら何かを否定するが、藤原は両手を体の前で組んでモジモジしている。

 

「多分、仲が良いカップルですねとか言われたんでしょう」

 

「…は、早坂」

 

 怒気、再び。顔を引き攣らせるかぐや。

 

「…」

 

 かぐやはこの時ふと気付く。ここ十数分の間、かぐやと早坂しか喋ってない事に。これまでは何だかんだ口数は少なくとも会話に参加はしていた男。

 かぐやは早坂がいる位置とは逆、赤木の方へと視線を向けた。

 

「…?」

 

 赤木は真剣な眼差しで総司と藤原を、いや、かぐやには二人の向こう側に目を向けている様に見えた。かぐやも目を凝らして赤木が見ているだろう方を注視してみるが、かぐやには何もおかしい所や怪しい所は見受けられなかった。

 

「…」

 

「え、あ、赤木っ?」

 

 赤木が動き出したのはその時だった。そして同時に早坂もまた、赤木を追って動き出していた。

 

「かぐや様、早く二人を追いかけますよ」

 

「…早坂」

 

 早歩きしながら振り返って早坂が言う。かぐやは赤木が突然歩き出した理由を悟ると同時に、本当にノリノリで尾行を続ける早坂に苦笑を浮かべる。

 

 本当に道中は、あんなに渋っていたのに。

 

 早坂はかぐやに歩くよう促すとそのまま振り返る事なく歩いて行ってしまう。かぐやは一度ため息を吐いてから、早坂達を見失わない内にかぐやも追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ショッピングモールに来てから約四時間。初めは昼食を摂った。モール内のラーメン店にて、総司は初めてのラーメンというものを経験した。美味かった。また行きたいと思った。(小並感)

 

 それからは総司の服を買いに行ったり、女性の小物を見に行ったりとモール内の様々な場所を回った。

 その中で、総司の服を買いに入った店で、店員にカップルと勘違いされた時は藤原を正気に戻すのが大変だった。他人の恋ばなに目がない藤原だが、自分の事になると免疫がないらしい。まあカップルじゃないのだが。

 

 そして遂に、今回ここに来た目的である物を買いに、総司と藤原はある場所へやって来た。

 そう、知っての通り、水着コーナーである。

 

「…遂に来てしまったか」

 

 ポツリと呟く総司。

 目の前には女性物の水着がズラリと並んでいる。

 

 店内には女性しかいない。男性は総司一人しかいない。そのため、総司は非常に目立っていた。他の客が水着を選びながら、横目で総司の方をチラチラと見てくる。そして、総司を見てから隣の藤原を見て微笑むのだ。

 これは、また何か勘違いされてる気がしてきた総司だった。

 

「うーん、これ可愛いなぁ~。でも私に合うサイズは…ないですね…」

 

「…」

 

 藤原の後ろについて店の奥へと入った総司。総司の居たたまれない気分に気付かず藤原は自分の水着を選ぶ事に集中している。

 

(サイズって…)

 

 藤原が口にしたとある一言。確かに、藤原の体型だとデザインよりもまずサイズを気にするのは当然の事かもしれない。

 しかし、藤原の水着姿、か。

 

「っ…!」

 

「?総司君、どうかしましたか?」

 

「いやなんでもない」

 

 良からぬ絵が頭に浮かぶ寸前、ブンブンと頭を振って振り払う。その様子を目にした藤原が首を傾げながらどうしたか問い掛けてくる。

 総司は即座にどうもしないと否定した。

 

 危ない。更に深く想像に潜り込んでいたら戻ってこれなくなる所だった。

 とにかく深呼吸だ。心を落ち着かせろ。無だ。無の境地に至るのだ。

 

「総司君!こっちとこっち、どっちが私に似合うと思いますか?」

 

「はぇ?」

 

 無の境地に至れなかった。

 今まで出した事のない声が漏れた。

 

 視線を藤原の方へと向ける。藤原の両手にはそれぞれ違う水着。

 一つは白の生地にたくさんの花柄が描かれたビキニ。もう一つは緑の生地のビキニで、下の水着にはフリルが着いている。

 

(え?選ぶの?俺が?水着を?どっちかを?)

 

 思考がグルグル混乱する。

 どうしてこうなった。まさかこんな選択を委ねられるとは思わなかった。

 

「…どっちがと言われてもな」

 

 ぶっちゃけると、選べない。何故なら、どちらかを総司が選ぶという事は、その二つの水着をそれぞれ身に着ける藤原を思い浮かべなければならないという事。

 つい先程、危険と判断してシャットアウトした思考を行わなければならないという事。

 

「…」

 

「決められませんか?」

 

「…申し訳ないが」

 

 悩む総司に気を悪くした様子はなさそうだ。藤原は問い掛けに頷いて答えた総司に藤原は微笑むと、突然歩き出した。

 

「総司君、ついてきてくださいっ」

 

「ん、あぁ」

 

 藤原に従い後を追う。

 藤原が立ち止まったのは、試着室の前だった。総司の目が点になる。そして、とある可能性が脳裏を過る。

 

 まさか──────

 

「私がこの二つの水着を着ますから、実際に見て選んでください!」

 

(やっぱりかああああああああああああ!!!)

 

 藤原はそう言うと、靴を脱いで意気揚々と試着室へと入っていく。

 カーテンで遮られ、藤原の姿が見えなくなる。直後、カーテンの向こうから布の擦れる音が僅かに聞こえてくる。

 

(聞くな、考えるな、感じるな)

 

 総司も一人の思春期男子である。あの一枚の布の向こう側で同年代の、それも容姿端麗スタイル抜群の美少女が着替えているというこの状況で心が乱れない筈がない。

 それでも総司は意識的に耳を周囲の音や客の声に傾け、目を瞑り、必死に前方から伝わってくる情報を遮断する。

 

 だが否応にも音が大きければ総司の耳に入る。

 カーテンが開かれ、その音はしっかり総司に届き、つられて開いた総司の目には水着姿の藤原。

 

「その…、どう、ですか?」

 

「…」

 

 まず藤原が着たのは緑の生地の方の水着だった。

 ビキニ型の水着は藤原の抜群のスタイルをこれでもかと総司に見せつけている。透き通った白い肌、引き締まったウエスト、そしてたわわに実った──────

 

「うぇっほんゴッホンゲホオオオオオッ!!!」

 

「そ、総司君!?どうしました!?」

 

 シャットアウトシャットアウトシャットアウトシャットアウトシャットアウトシャットアウトシャットアウトシャットアウトシャットアウトシャットアウトシャットアウト

 

 止めろ、それ以上は駄目なんだ。藤原は純粋にどの水着が似合っているかを聞いてきてるんだ。こちらも真剣に考え、どちらが似合っているかを決めるのだ。

 

「…うん、似合ってるぞ。それじゃあ…」

 

「は、はい。次を着てきますね」

 

 藤原が再び試着室へ戻り、着替えを始める。総司も再び情報の検閲を始める。

 カーテンが開かれる音がしたのは先程よりも早かった。総司は目を開け、藤原の姿を目にする。

 

「──────」

 

 思考が停止する。今度の水着も先程と同じビキニタイプの水着だ。

 白い生地にたくさんの花柄が描かれた水着。少し俯き気味に、恥ずかしげに総司に水着を見せる藤原との組み合わせは総司に多大なダメージを与えた。

 

 奇跡的相性(マリアージュ)。総司にとって、最高の組み合わせなのである。

 

「総司君?」

 

「…俺は、その、うん。…こっちの方が良い、と、思う」

 

「っ…、そ、そうですか」

 

 只でさえ赤く染まっていた藤原の頬が更に赤くなる。総司もまた、僅かに頬を羞恥に染めていた。

 

「…それなら、これにします」

 

「は?」

 

 短い沈黙の後、藤原は自分が身に着ける水着を眺めてからそう口にした。

 

「いや、そんな簡単に決めちゃって良いのか?もっと慎重に選んでも良いんじゃ…」

 

「良いんです」

 

「…でもそれ、俺が決めた奴だぞ?本当にそんなんで良いのか?」

 

「はいっ!それが良いんです!」

 

 藤原は水着の柄と同じ、花の咲いたような笑顔を浮かべて総司に返事を返してから、試着室へ戻っていった。

 総司はポカンと口を半開きにさせながら閉まったカーテンを眺めていた。

 

「な、何だったんだ…」

 

 呟く総司。しかし、その呟きに返事をする者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 水着選びも終わり、今日はお開きとなった。外はまだ明るかったが、藤原家の門限を考えるとそろそろ帰らなければならない。

 名残惜しそうな藤原には悪いが、さすがに藤原の親御さんに心配は掛けられない。

 

 モールを出て、昼前に通った道を逆に進む。モールに行く時はあんなに会話が弾んでいたのに、帰る時の二人は静かだった。

 何故だろう。別にこれでもう二度と会えない訳じゃあるまいに、この空しさは何だ。

 

 駅が近付く。駅に着けば、それで今日は藤原とお別れである。また次の日になれば会えるのだが。

 

「今日は楽しかったです」

 

 駅の手前の信号が青になるのを待っていた時だった。藤原がそう言った。

 

「俺も、楽しかったよ」

 

「ホントですか?」

 

「あぁ」

 

「初めて買い物に行ったからじゃなく?」

 

「…まあそれもない訳じゃない」

 

「むっ。そこは藤原と一緒に行ったからだよって言ってくださいよー」

 

「それもある」

 

 頬をぷくっ、と膨らませる藤原に笑みを溢す総司。

 

 信号が青になる。二人は同時に足を踏み出して横断歩道を渡る。

 二人は駅の南口から入り、それぞれの乗る電車の切符を買うと、改札を抜けて一旦立ち止まった。

 

「それじゃあここで」

 

「はいっ!…総司君、また明日」

 

「あぁ、また明日」

 

 挨拶を交わし、それぞれ別の方向へと歩き出す。

 

 今日一日、本当に楽しかった。藤原に言った事は素直な総司の気持ちである。

 だからなのだろう。今日という日が終わっていくのが、寂しいと感じるのは。

 

「総司くーん!」

 

 寂寥が総司の心に滲み始めた時だった。総司の背後から大声で自分を呼ぶ声が聞こえたのは。

 立ち止まり、振り返る。振り返った十メートル程先に、藤原が総司の方へと向いて立っていた。

 

「藤原…?」

 

「総司君!また、誘って良いですか~!!?」

 

 周囲の視線を気にせず、藤原が大声で総司に問い掛けた。

 

 視線が交わる。どこか、緊張している様に唇を引き締めている藤原。

 

「…あぁ!勿論!」

 

 総司は体を藤原の方に向けてから、遠く離れた藤原に届く様に声を張り上げて答えた。

 総司の誘いを受ける返答を聞いた藤原はゆっくりと笑みを浮かべると、再び口を開いた。

 

「総司君、ありがとうございます!また明日ぁ~!!」

 

「おう!また明日!」

 

 今度こそ、二人は別々の方向に歩き出した。

 

 今度は総司の中に滲んでいた寂寥感は無かった。

 

 総司の足取りは、とても軽かった。




もう何も辛くないは見たい(藤原の水着姿を)
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